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人形島の殺人 呪殺島秘録

著者:萩原麻里



民俗学オタクの幼馴染・古陶里が突如、姿を消した。手がかりを求めた真白は、古陶里が自らの生家がある呪殺島・壱六八島の領主の血縁で、そこへ向かったことを知る。古陶里を追い、壱六八島へ渡った真白だが、その矢先、領主・壱六八家の長女・万姫が殺されている場面に遭遇してしまう。壱六八家の屋敷へと案内された真白だが、その家にはある「呪い」がかかっていると言われ……
シリーズ第3作。
ここまでの2作は、クローズドサークル。事件のトリック、というようなところが強かったのだけど、今回は真白、古陶里の掘り下げとかが強調されたような印象。
壱六八家にかけられた「呪い」とされるもの。それは、その家で生まれた子供は基本的に双子として生まれる。その子供は、何らかの病を抱えている。そして、もし、双子で生まれず、病を持たない者が生まれたとき、その子供は一族の者を殺めるという事件を起こす存在となる……とされている。そして、古陶里は、壱六八家の先代当主が浮気の末に産ませた子供で、病を持たず、一人で生まれた存在だった……
そんな伝承もあり、万姫の殺害は古陶里の仕業であると信じて疑わない壱六八家の人々。古陶里がそんなことをするはずがない、と思う真白だったが、その古陶里は島でも失踪。ますます疑いが濃くなってしまう。そんな中で、何かを企んでる壱六八家の子供たち。だが、そんな壱六八家の中でも事件が起こり、なぜか古陶里は神出鬼没に屋敷内に現れ、真白に対して、「ここを去るべき」と告げる。さらに真白は、その島での中で、色々な違和感を感じて……
島で起きる殺人。その犯人は誰なのか? というのが物語を引っ張る要素なのは間違いない。間違いないのだけど、物語の本題はそこではなかったり。言い方は悪いのだけど、この部分はあくまでも本題へとつなげるための素材とでもいうか……。呪いの伝承の中で濃くなっていく古陶里に対する疑い。しかし、その当の古陶里は、なぜか自分のことをさておいての行動に出る。そんな状況の中で浮かび上がってくるものは……
自分自身がそうだったので、多分、読んでいる中で、物語の構図は予想できるんじゃないかと思う。そういう意味でのサプライズは薄かったと思う。ただ、その辺りも含めて、このシリーズの真相へ至る物語と言えるのだと思う。
ただ、この事件、これで終わってよいのか? という部分はあったり……。あと、ここまでくると、シリーズ完結になるのかな? という気もするのだけど……続編はあるの?

No.6563

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Tag:小説感想新潮文庫nex萩原麻里

斜陽の国のルスダン

著者:並木陽



ヨーロッパの東の果て、ジョージア王国。勢力を拡大させ、全盛期を作り上げた母・タマル。その跡を継いだ兄・ギオルギの元、王女ルスダンは幸せな時を過ごしていた。だが、そんな時代は終わりに向かっていた……。突如として起きたモンゴル軍の襲来。兄の急死を受け、ルスダンは女王となるのだが……
元々は自費出版として刊行され、その後、宝塚歌劇団の題材となるなどし、書籍化されたという経緯を持つ本書。
物語としては、冒頭に書いたように13世紀のジョージア(グルジア)の女王・ルスダンを主人公にした歴史小説ということになるのかな? ただ、ジョージア王国の歴史、もっと言うなら女王ルスダンという存在自身についての知識が全くなかったため、どこが通史通りで、どこからが脚色なのか、というのはよくわからないのだけど。
ただ、あとがきによれば、無能な女王とか、そういう評価が多いスルダンに対して、そうではなかったのでは? というところから描き始めた、というのがよくわかる。母である女王により、大きな勢力を作り上げ、そんな母のあとは兄がしっかりと継いでいる。ごくごく順調に国が動いている時代。だからこそ、母も、兄も政治の思惑に流されぬよう彼女を育ててきた。だが、まったく思わぬ方向からやってきたモンゴル軍の襲撃によってそんな平和は終わってしまう……
政治経験もないままに女王となったルスダン。彼女を支える夫は、キリスト教に改宗したとはいえ、イスラム強国の王子。夫に対する信頼はあるが、重臣たちはそんな夫に対し、不信感を抱く。それでも……そう思いつつ、夫が「敵の敵は味方」と祖国へ連絡をしていることを知り……。互いに互いのことを愛しつつ、しかし、わずかな心の隙によって生じてしまったすれ違い。そして、その両者の運命。この辺りは宝塚で舞台化された作品らしいな、というのを感じた。
その上で、著者が「そうではなかったのでは?」と思うのもよくわかる。自分の場合、時々、日本の歴史小説とかを読んでいるけど、戦国時代を舞台にした作品とかでも、一つのことをきっかけにして、本人の才能とか、そういうものではどうしようもないほどに状況が悪化してしまって……ということは数多くある。それでも、戦国時代とかなら、ある程度は、価値観とかは共通したものがある。けれども、そもそもがキリスト教とイスラム教という十字軍があるように、宗教上の対立なども多かった時代。国そのものの利害関係。その国の中の権力争い。さらに、宗教という価値観そのものを巡る対立なども存在している。その状況で……というのは日本の戦国時代とか以上に難しいことは間違いないはず。そんな時代に翻弄されたルスダンが無能だったのか? というと、反発してみたくなる気持ちはよくわかる。
本書の物語は、愛する者をすべて失ったルスダンが、国を守るために自死しようとする序章から始まり、本編はルスダンがまだ王女であった時代から、夫との運命に、という部分で完結する。物語としては、一区切りではある。でも、その夫とのことがあってから、その最期までに色々とあったはず。歴史小説という形で描くならば、その出来事とかも少しあれば、序章の彼女の決断がよりドラマチックに感じられたのではないか、という気もする。

No.6562

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Tag:小説感想並木陽

著者:心音ゆるり



誰も声を聴いたことがないと噂されるほどに無口な美少女・小日向さん。自販機の前で困っている彼女を助けたのだけど、それ以来、何か距離が近い気がする。相変わらず無口だけれども、そんな彼女に俺、杉野智樹も何か癒されて……
……と書いてみたんだけど、文字通り、そんな話なんだよな……。いや、悪い評価とか、そういう意味ではなくて。
実のところ、ちょっと設定としては重めだったりはする。小学校時代、クラスの女子たちと対立し、ありもしない悪評を立てられ、苦労をしたという過去を持つ智樹。そのトラウマもあり、女子と話をするのが苦手となってしまった。だからこそ、小日向さんを助けたのも、苦手だけど仕方がない、というような感じ。ところが、なぜか小日向さんに懐かれてしまった。そんなとき、過去の悪評もあってクラスメイトの冴島さんに詰められたりもしたものの、誤解が解け、親友の景一も加わって、4人で一緒に行動をすることに。
帯に『阿波連さんははかれない』の阿波連さんが描かれているのだけど、そちらのアニメを見た後に読むと、余計に似ている印象は受ける。どちらも基本的に無口キャラ。でも、じゃあクールなのか、と言えばそんなことはなく、態度やら何やらで感情は読み取れる。しかも、まるで懐かれているかのように接してくるし、しかも時には強引に甘えてきたりもする。相変わらず女子は苦手。けれども小日向さん相手ならば、気負わずに済む。一方で、そんな小日向さんも現在のような無表情になったのには理由があって……
互いに色々とつらい過去などを抱えている二人が、不器用だけれども交流を続ける中で少しずつ変わっていく、という様は素直にかわいらしかった。二人を見守る冴島さん、景一もまたすごい良い奴ら、だしね。
ただ、この巻の段階だと、まだ智樹は保護者的な目で小日向さんを見ている状態なんだよな。小日向さんの方は……と感じられるだけに、そこから更なる進展があるのかな、というところに期待。

No.6561

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Tag:小説感想角川スニーカー文庫心音ゆるり

守護霊刑事

著者:藤崎翔



弱冠24歳にて、U県警独鯉署の刑事課強行犯係に抜擢された大磯拓真。祖父の信夫は、数々の難事件を解決に導いてきた名刑事であり、拓真自身も同様に事件を解決した推理の天才だと考えている。……が、実は信夫の手柄は妻の八重子の推理のたまもの。そして、幽霊となった八重子は、守護霊として拓真の手助けをしていた。そんな八重子は、刑事課に抜擢された孫を導くべく、警察署前のコンビニでバイトをする美久に協力を求めて……
という連作短編集。全5編を収録。
まず最初に書いておくと、物語は基本的にワンパターン。事件が発生し、拓真たちが現場へと駆けつける。その中で容疑者が判明し、現場状況などのヒントを入手する。だが、拓真たちの推理は別の方向へ行ってしまう。そんな状況に苛立った八重子は、コンビニ店員の美久に、ヒントとなる言動をするよう依頼し、それを見た拓真が、自分の見落としに気づいて解決へ導く……という形。
読んでいて思うのだけど、八重子が非常に優秀である、というのは間違いない。けれども、八重子が言うほど拓真も間が抜けている、というわけじゃないと思う、ということ。少なくとも、八重子が美久を通して与えるヒントを見て、「こうだったのか!」と気づくくらいには推理力とか、観察力とはあるわけだし。
てなことで1編目『愛憎のもつれ』。芸大に通う女子大生が殺害された。同じアパートの住人に対する聞き込みから、この女子大生は教授と交際しており、教授に対して奥さんと別れるよう迫っていた。そんな中、容疑者として教授をマークすることになるのだが……。ヒントとなるのは、被害者が教授に送ったプレゼントの荷物。現場にあったメモから真犯人が送った、ということになるのだけど……まぁ、メモだけ見れば確かにそう思う人はいるだろうな……。ただ、世代だけで判断するのはちょっと無理があるような気はする。
個人的に一番、その辺りが上手かったな、と感じたのは4編目『誘拐』。市内でも有数の資産家の娘が失踪した。散歩中の犬を残して。資産家に恨みを抱く人間をピックアップし、容疑者としてマークするものの、しばらくの後、その娘は無事に保護された。自分でもどこに連れ去られたのかわからない、という娘は、犯人の車が途中で立ち寄ったコンビニを語るのだが……
いや、これ計画としては完璧だと思うんだ(その後はともかくとして) たまたま、その事件が起きた日が、思わぬタイミングだった、というだけで……。そこに気づいた八重子の観察眼の冴えも見事。完璧な計画と、そのわずかな落とし穴を見逃さなかった八重子、というところの組み合わせが素直に見事だと感じた。
まあ、でも、この作品……。どう考えても一番の苦労人は、八重子に振り回される美久だよな……間違いなく。

No.6560

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Tag:小説感想藤崎翔

著者:竹町



死亡率9割を超える「不可能任務」に挑むチーム灯。フェンド連邦で経験した盟友の死、仲間の裏切りは彼女たちに大きな傷跡を残した。各々の心が揺れる中、もう一人、その心に傷を負った者が……。それは仲間を失ってしまったチーム鳳のラン。灯に寄生する存在となったランを追い出すため、メンバー全員で彼女の再就職先を探すことになり……
やっぱりこのシリーズにおいて、「鳳」という存在は大きいのだな、というのを感じる短編集4巻。
上に書いた粗筋では、鳳の生き残り・ランの再就職先を、という風に書いたのだけど、まずは、鳳から課せられた「課題」をこなす、という話。
1編目『case 養成学校』。鳳からの課題により、養成学校へと戻ることになったリリィとサラ。養成学校では落ちこぼれ、と言われていた二人。養成学校の学生たちは、当時とほぼ同じ。落ちこぼれ、と言われた彼女は成績上位者からのイジメの対象となり……。1巻の段階で、灯の面々は落ちこぼれ、ということは言われていたのだけど、そんなリリィたちの立場というのが改めて描かれた形。学校という狭い空間での成績上位者と落ちこぼれ。しかし、そんな学校内でのことなど現実の戦いを知っている者としては「甘い」ということを知っていて……。その辺りの、スッキリ感は流石。
一方の2編目『case 他スパイチーム』。チーム鳳・ファルマの兄が率いるチームに行くことになったグレーテ。そのファルマの兄ダグウィンは、そんなグレーテに対し、「自分の妹になれ」と要求するが……。過剰なまでのシスコンのダグウィン。ある意味、そんなダグウィンに媚びるような態度で接するグレーテだが、突如、「お前は妹じゃない」と言い出し……。まぁ、実際に妹じゃないしなぁ……。というのはあるのだけど、最初は滅茶苦茶に喜んでいた彼がなぜ、態度を急変させたのか? それは……
ある意味では、1編目と同じようなテーマが根底に流れている。スパイは常に死と隣り合わせ。だからこそ、自分にとって大事な存在には……。この作品はスパイという特殊な設定だけど、例えば、現実の世界でも危険を伴う仕事をしている人が……っていうのはよく聞くだけに、切実な話ではあるんだろうな。
『case スパイには縁遠い世界』 フェンド連邦での戦いを終え、療養中の灯。中でも重症なのは、裏切り者となったモニカ。用意された部屋に閉じこもり、アネットが攻撃を仕掛ける以外は誰も触れることができない。そんな中、ジビアは……
この作品の「常識人」ポジションと言えるジビア。モニカの想いとか、その一方での裏切りをしたことに対する罪悪感も覚えている。その状況をどうにか打破したい。そう思う彼女のやったことは……。幼い兄弟が数多くおり、その世話などをしているからこそ、クラウスにも思いつかなかった方法を実行できた。この話は素直に、ジビアの人の好さみたいなものが十分に描かれた話だったように感じる。
そして、表題作。ランの再就職先も決まった中、2編目でも登場したフェルマの兄ダグウィンがクラウスに戦いを挑む……
ダグウィンが戦いを挑んだ理由。それは、自身が言うように完全な八つ当たり。もし、クラウスが鳳のボスになっていれば……。クラウスがいようがいまいが、スパイは死と隣り合わせ。一つのチームを率いることだって大変な仕事。そんなことはわかっている。けれども、妹を喪ったやるせなさをぶつける先が欲しい。そんなダグウィンの悲しみ、そして、守れなかったクラウスの罪悪感。クラウスが負傷中とはいえ、互角に渡り合うダグウィンの強さとかも格好良かったし、だからこその傷を感じる。でも、そんな戦いを見てランは……
あとがきによると、今回のダグウィン関連は、アニメのシリーズ構成さんから「フェルマの掘り下げはないかのか?」というようなことを言われたことからのことなのだけど、この巻は、普段、本編では意識しづらいスパイの過酷さを、しっかりと意識させてくれる話になっていると感じる。

No.6559

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Tag:小説感想富士見ファンタジア文庫竹町

亡者の囁き

著者:吉田恭教



「25年前、一度だけ会った女性に伝言を頼まれたが、それを無視してしまった。その時の女性と、伝言相手はどうしているのか知りたい」 探偵である槇野は、盲目のバイオリニストからそんな依頼を受ける。女性の名は深水弥生、その相手はサタケユウスケ。調査を開始する中、伝言を伝えるべき相手・サタケは、4年前に起きた平和島事件。会社社長と常務を社長の息子が殺害し、焼身自殺を遂げた事件の被害者であったことが判明し……
『視える』(文庫版は『凶眼の魔女』に改題)に続く、槇野シリーズ第2作。
一応、非現実的な要素はあるのだけど、基本的にはハウダニットとフーダニットをメインにしたミステリという印象。
先に書いたように、25年前に頼まれ、無視をしてしまった伝言。その際の二人はどうしているのか? というのを探ることにしたが、その一方は殺害されていた。その事件での最大の謎。それは、父と叔父(佐竹)を殺害した後、焼身自殺をした。しかも、その犯人は、事件の際に突如、大音量の音楽を流し、奇声を発しながら炎に包まれて自宅ごと焼死した、という不可解なもの。警視庁の刑事・東條有紀にも協力を求める中、依頼人が泊まった旅館の女将も同じような死を遂げていたことが判明し、さらに伝言を頼んだ深水は、保険金殺人の末、自殺していたことが判明し……
調査を進めれば進めるほど、出てくるのは関係者のうさん臭さ。その旅館の女将もまた、同様に問題のある人物。そして、その関係者たちは、それぞれ不可解な死を遂げていた。その奇妙さ。その中で、何よりもの謎は、奇声を発しながら炎に包まれた、という不可解な死の状況。さらに、その事件と依頼人が出会った時期にズレが生じているのは何か? というチグハグさ。なぜ、そんな不可解な状況が生じているのか? という謎が最大の問題として立ちはだかる。
まぁ、その奇声を発しながら……というトリックが見えてきたときのミスリードは流石に安直すぎるな、という感じはする。確かにその人物は、そういうのに詳しいだろうけど、それなりに知られた情報だろうし、そういう世界のマニアなら世間話とかで周辺に話をしていてもおかしくないよなぁ……と感じることも。それを言っちゃうと、2016年が舞台なら、ネットで検索をすれば、ある程度、事件とかも調べられたのでは? というのは野暮ってものか。
それでも、色々と謎を散りばめ、右往左往しながらも不可解な事件の真相へと向かっていく物語は楽しかった。

No.6558

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Tag:小説感想吉田恭教

黒いピラミッド

著者:福士俊哉



聖東大学エジプト研究室で起きた殺人事件。それは、若手講師の二宮が、犬の仮面を被って研究室へ乱入し、教授らを鉄パイプで殴打。そして、そのまま屋上から投身自殺する、というものだった。現場に居合わせた同期の講師・日下美羽は、その二宮が「黒いピラミッドが見える……あのアンクは呪われているんだ……」と口にするのを目撃していた。その「呪いのアンク」とは? それから、美羽の周りで奇妙な事件が起こり始め……
第25回、日本ホラー小説大賞・大賞受賞作。
最初に書くと……全4編構成の本作なのだけど、前半の2編が読みづらかった。
冒頭の粗筋では、事件が起こって美羽が、そのアンクのことを調べようとして……という風に書いたのだけど、実は序盤は色々な視点が次々と変わっていく。物語の最初は、春から大学院生になる予定で、講師の二宮と付き合っている女学生視点。その女学生視点が途中から事件を起こす二宮へ変わり、スキャンダル発覚から事件へ。そして、その最後の言葉を聞いた美羽へ……と繋がっていくのだが、すぐにやはり大学職員の矢野、さらに美羽の教え子である学生・花音視点へ。これが、章ごととかで視点の切り替わりがされているのだったらよかったんだけど、いきなり次の行で別の視点に切り替わったり……というのが多く、読みづらかった。ただ、そんな視点が美羽視点だけになる後半からは一気に読みやすくなった感じ。
ということで、まず感じた読みづらさ、というのを長々と書いてしまったのだけど、著者自身がエジプトの調査などに関わったことがある、というだけあって、そこで描かれている様々な蘊蓄とかは魅力的。エジプトの歴史とか、そういうことは言われているが、ヘロドトスとかも、ピラミッドが作られていた時代から数千年が経過した後のこと。歴史的に大きな影響をもたらしたナポレオンのものなど、さらにそこから二千年。つまり、歴史資料とはいえ、あくまでも古代遺跡を調べて「こうではないか?」というだけのこと。一体、本当はどういうことがあったのか? そんな歴史上の謎に取りつかれた、と言ってよい研究者たちの性ともいえるもの。そして、そういう謎だらけだからこそ、古代エジプトで信じられていた神話と、その神話から連なる呪いもまた実在するのではないか? というところへ飛躍という流れは面白かった。そんな中に、美羽だけでなく、調査中に死んだ美羽の父が作り出していた仮説なども絡んできて……
物語として、「呪い」という登場し、その「呪い」によって人々が狂気にまみれて死ぬ、なんていう部分はある。けれども、「呪い」を前提にして、美羽がエジプトへ向かい、そのアンクの正体を……という流れはむしろ冒険小説のような趣が強かったかな、という印象。一応、ホラー小説、として売り出されてはいるけれども、怖さとかよりも、冒険小説としてのワクワク感を楽しめた作品。ただ、序盤の部分は、もう少し改善してほしかったかも。

No. 6557

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Tag:小説感想福士俊哉

著者:早月やたか



「もしもし、こちら日比谷為明さんのお宅ですか?」 ある日、陰キャな俺のところに送られてきたのは、最新&最高性能を誇る最新型「美少女型」スマホのエクストラ。ドッキドキの唇紋認証で俺のスマホとして登録をして……
第35回ファンタジア大賞・羊太郎特別賞受賞作。
一言でいうと、このスマホ……ウザかわいい! と同時に……使えねぇ!
ってところだろうか?
エクストラはスマホ。なので、データなどをこれまでのスマホから引き継ぐ。……結果、スマホのデータとして入っていたエロゲーとか動画の存在がすべて知られて冷たい視線に晒される。スマホなので、いつも一緒にいる。……結果、色々と周囲から注目される。スマホなので眠るときにも枕元に。……それって一緒の布団で眠るってこと。……眠れない。
その一方で、スマホなので、連絡先が両親くらいしかいないことを知っている。だから、友達を作らせようと勝手に奮闘し始める。……結果、自分のボッチっぷりが周囲にバレる。さらに、メッセージを送ろうとすると誤爆しまくる。しかも、結構、為明のボッチっぷりをからかってくる割に、結構なポンコツ。文字通り、ウザかわいい部分と、色々と使えない部分をこれでもかと押し出してくる。その辺りの様子は素直に楽しかった。
ただ、そんなエクストラの暴走やら誤爆などもあって、同じくクラスで浮いていた茶子や、ヤンキーっぽい芹沢さんとも仲良くなっていく。そんな中、ずっと憧れを抱いていた千元さんとお近づきになりたいと思うのだが……
正直なところ、エクストラの暴走&ポンコツっぷりと、それに振り回される様という部分は楽しかったのだけど、物語としてのまとまりにはちょっと欠けたかな? という印象。新人賞受賞作なので、ある程度、まとまるのかな? と思っていただけにちょっと意外。まぁ、2巻が前提で、そこでまとめる、という形ならば良いのかな、と思う。

No.6556

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特殊清掃人

著者:中山七里



勤めていたメーカーが倒産し、元刑事の五百旗頭が経営する特殊清掃業者・エンドクリーナーに就職した香澄。そんなエンドクリーナーには、人が死亡した部屋の片づけの依頼が次々に入る。凄惨な現場を片付ける中、死亡した人々の事情が浮かび上がってきて……
という連作短編集。全4編を収録。
ミステリ作品という意味では、その通り、死亡した人の事情とか、そういうものの中でのひっくり返しのようなものはある。ただ、変に事件にしたりとか、そういうことがなくて、素直に楽しめた。
1編目『祈りと呪い』。アパートの一室で30代の女性が孤独死した。事件性はなく、女性は会社を退職した後、引きこもり状態になった末だった。ただ、その現場には「みんな、滅びろ」というメッセージが残されていて……。そんな中で、香澄の胸に浮かぶのは、なぜ女性は会社を辞めたのか? という疑問。遺品整理、という形で、生前を知る者に話を聞くのだが……
職場では、仕事の呑み込みが早く頼りにされていた女性。しかし、ある出来事が原因で会社を辞めざるを得なくなっていた。一方で、自慢の娘、と言いつつ、何か自分の価値観を絶対と思われるような女性の母親。そんな彼女が抱えていたものは……。丁度、昨今、話題になっていることの一つを題材にしつつも、アクセント程度でまとめるバランス感覚もよかった。
個人的に最も好きなのは3編目『絶望と希望』。香澄の先輩である白井。そんな白井が一人で担当することとなったのは、部屋で熱中症の末に死亡した男の部屋。そして、その男は、かつて白井と共にバンドを組んでいた男だった。バンドの解散後、別の道へ進んだ白井とは違い、曲作りのセンスのあった男は頑張っていると思っていたのだが……。そんな男の遺品に、彼の曲を発見する。だが、それは、やはりバンド仲間で、今なお、ボーカリストとして曲を発表している女の新曲そのもの。だが、その曲の作曲者は、彼女自身ということになっていて……
かつて行動を共にしつつ、しかし、道をたがえた仲間たち。そんな仲間の訃報と、その中で浮かび上がる疑惑。自分自身の後悔とか、そういう感傷とかがせりあがりつつも、なぜ、作曲者が変わったのか、という謎へ向き合うことに。その中で知った、男の最後の想い。バンド仲間の関係性もさることながら、作中、1編目、2編目ではほぼ語られんかあった白井の掘り下げにもなっていて印象深かった。
4編目『正の遺産と負の遺産』については、ちょっとカラーが異なる感じ。遺産整理、形見分け、というところの部分が強く出て……という話。亡くなった資産家の遺産を、その子供たちが争って……という話で、そこに策略とかもあるのだけど……。正直なところ、このオチは法的にどうなの? と思うところが……。相続権を失う人物がいて、確かにろくでもないのは確かだけど……この人ははっきりと被害者のような気がするのだけど……。このエピソードについては、ちょっとイマイチな気がした。

No.6555

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Tag:小説感想中山七里

占い師オリハシの嘘2 偽りの罪状

著者:なみあと



芸能人なども通うという凄腕占い師・オリハシ。しかし、しばしば、オカルトなどを全く信じていない妹の奏が、その類まれな推理力を使って代理を務めていることは知られていない。そんな奏が代理を務めているある日、ネット上に「占い師オリハシは犯罪者だ」という記事がアップされる。その記事が拡散される中でも、依頼人は現れて……
という感じの第2巻。
粗筋に書いた通り、ネット上に「オリハシは犯罪者」という記事がアップされ、それが拡散されている、という背景がある。そして、その中で、女子高生占い師が、その記事拡散を推し進めている、という状況もありつつ、物語は連作短編形式で進んでいく。
1編目『血まみれの友情』。オリハシに入った依頼。それは、東京の大学に進学した友人が吸血鬼の使い魔となってしまった、というもの。そもそも、それは占いなのか? という疑問はあるのだけど……。依頼人が吸血鬼の使い魔になった、とする根拠は……昼間に行動をしておらず、顔色が悪い。一緒に買った十字架のキーホルダーを持っていなかった。そして、血をすすったような状況の彼女を目撃した、というもの。
そもそも吸血鬼って何なのか? というような話をしながらも、奏たちがとるのは、そんな彼女の行動パターンの解析。依頼人が、友人に出会った場所。大学進学にあたってのトラブル。そういうものから導き出されるのは……。このエピソードは、占いというっよりも純粋な謎解き、という印象のエピソードだった。
2編目『失われた首飾り』。女子高生占い師からの挑戦状として依頼されたのは、恋人がなくしてしまったネックレスがどこに行ってしまったのか? というもの。そして、女子高生占い師は、依頼人を幸せにすることを条件としてきて……
ネックレスがどうなったのか? というのは比較的、あっさりと判明。しかし、問題は、「依頼人を幸せにすること」という部分。真実を告げることが常に良い、というわけではない。そこで必要となるのは「何が幸せ」に繋がるのか? という部分。相手の望むものは一体何か? というところをしっかりと見抜く奏は、そういう点で「占い師」としての才能があるんじゃないかな? と感じるエピソードだった。
そして、そんな中、渦中の女子高生占い師のアカウントが乗っ取られてしまい……という3編目。ここは、1巻との繋がりも。犯人に関しては、消去法である程度、わかるのだけど、カリスマとして持ち上げられる存在と、それを利用する者という構図。奏に持ち掛けられる誘惑。しかし……。2編目で「相手が望むもの」というのが出てくるのだけど、ここがしっかりと活きている流れは見事。そういう意味でも、相手は桜区は得意でも……ということだったのだろう。
帯で書かれているほどに、オリハシは詐欺師だ、とか、そういう部分が強調されたわけではなかったのだけど、占い師に求められるものとか、そういう部分が掘り下げられた話になっていたように感じる。

No.6554

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Tag:小説感想講談社タイガなみあと