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探偵は教室にいない

著者:川澄浩平



札幌の中学校に通う少女・海砂真史。バスケ部でも活躍する彼女の机にある日、ラブレターが入っていた。しかし、それはワープロ書きで、しかも、署名もなし。一体、この手紙をくれたのは誰なのか? そんなことに疑問を覚えた真史は、幼馴染であり、現在は中学に行っていない、という歩に相談することにする……(『Love letter from...』)
など、全4編を収録した連作短編集。
第28回鮎川哲也賞受賞作。
ここ数年の鮎川賞受賞作は、長編で、しかも独特の世界観だったり、という作品が多かったのだが、本作は日常の謎タイプの短編集。そういう意味で、小粒な作風である、という風には言える。
ただ、主人公が中学生、ということもあり、その身の丈にあった謎という意味ではバランスが保たれているのかな? と。某にも書いた1編目。ラブレターの差出人は誰なのか? ラブレターが置かれたのは、真史の机の中。タイミングは、体育の前の着替えの時。男子は教室で、女子は更衣室で。そして、文章の中身は……。この可能性そのものは、メタ的に見てあるんじゃないか、と思っていたのだけど、「多分、この人。でも……?」というちょっともやもやの残る結末が印象的。
中学生らしさ、というのが一番活きているのは3編目の『バースデイ』かな? 別の学校に彼女がいて、いつものろけている総士。今日も真史らといつもと変わらない日常を送っていたのだが、真史の前に現れたその「彼女」は、総士があってくれない、という。それは? これも、謎そのものはちょっとしたことではある。でも、大人であれば、簡単にできることが、中学生には……。そんな中学生という立場だからこその、真相というのが好き。
最終章はちょっと作品のカラーが異なり、主人公であるはずの真史が家出の末に行方不明に。そして、歩が、それを探すことに……、という変則的な形。そこまで出てきた真史の友人たちが、半ば、強引に歩を動かしたりすると辺りにはちょっと笑ってしまった。そして、その結末……。ここで何かあるのかな? と思ったら、え、それで終わり? という感じ。何というか、この人間関係って、先が色々とありそう。それだけに、続編とかにも期待して良いのかな? と思わせてくれるのだが……
全体的にライトな作風。それだけに、肩肘張らずに楽しめる、という風にも言えるのだろう。

No.5019

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介護士K

著者:久坂部羊



介護施設「アミカル蒲田」で入居者の転落死亡事故が発生。以前、介護士による虐待が発覚し、その事件について取材したことのあるジャーナリストの美和は、第一発見者がそのときに取材した小柳であることを知る。「長生きで苦しんでいる人は早く死なせてあげた方がいい」という想いを抱く小柳について調べる中、小柳について様々な噂があることを知り……
結局、小柳とはいったい、何者だったのか? そんな思いが読了後に出てくる。
物語は、美和、小柳の視点を中心に展開。テーマとしては、介護問題。長生きをしたい、とは言う。でも、年を取って、身体が動かなくなっていく。回復の見込みはなく、苦しみが続くのみ。それでも? 一方で、どんどん増えていく高齢者。その中で、介護をする側は人手不足になり、金にも限りがある中、報酬は安くならざるを得ない。まぁ、この部分については、著者の過去の作品でも散々出てきた話なので、その点についてはいつも通り、という感じ。
その中でクローズアップされるのは、先にも書いたように、小柳とはいったい、何だったのか? という部分。
高校を中退したものの、高卒認定を取得。現在は、介護施設で働きながら、大学の医学部を目指している真面目な青年。そんな印象で語られるが、その一方で、「死なせてあげるべき」という思想を持っていたり、はたまた、周囲に意味もない嘘をつく虚言壁の持ち主だ、とも言われる。さらに、高校時代にも色々と噂があって……。第一発見者で、と、怪しい部分はあるが、しかし、彼は本当に老人を殺害したのか? それとも? 次々と起こる高齢者の不審死。その中で、美和は、小柳に話を聞き、介護についての意識も変わっていき……
この小柳がどちらなのか? そして、怪しいとは思いつつも、しかし、考え方に一理あると美和が考えるようになっていく過程は読者の意識とリンクしていると思うし、その中で振り回される、というのも。小柳に騙されているのではないか? でも……。小柳の存在を巡って、揺れ動かされていくスリリングさというのが何よりも面白い。そして、一応の決着がついた、と思いきや……のオチ。
介護についての問題提起について、私自身は著者の過去の作品を読んだことがあるので、今回も、という感じではあるが、初めて読む方には「確かに」と思わせる部分はきっとある。その上で、小柳について、どちらに転がるかわからないモヤモヤ感に引きずられる。読み終わっても、モヤモヤ感は収まることがないのだけど、それは、介護の問題、という部分もまた、同じだからではないか、という気がする。

No.5018

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著者:桐刻



無気力な日々を送るフリーターの克樹は、「拾ってください」という札を掲げて佇んでいる少女・麻友を拾う。面倒と思いつつも、犯罪に巻き込まれることを危惧し、1週間限定で寝泊りを許可することに。家出の経緯などを一切語らない彼女だったが……
元々、電子書籍の官能小説レーベルであるオシリス文庫で発表されていた作品らしい。
なるほど、妙に行為のシーンが詳細に描写されているわけだ!
まぁ、もっとも、ジュブナイルポルノなどの作品のように、行為ありきで物語が進むのはなく、ちゃんと物語的に意味がある、という点ではストーリーメインであるのは確か。まぁ、露出プレイとかしているけどな!
ともかく、物語としては、前半が麻友についての物語。そして、後半が克樹について、ということだろうか。
冒頭に書いたように、自分がなぜ、家出をしたのか、という点については口をつぐむ麻友。しかし、家事などをしてくれる麻友と流されるように関係を結ぶことになる。そして、その日常の中で見え隠れする麻友の抱えているものが判明し……。そこからが、この物語のメインなのかな?
どうしようもない家庭環境にいた麻友。そして、思い出すのが自分自身のこと。受験のため。そんな言い訳をして、自分の家庭における危機的状況について、見て見ぬ振りをしてきた。そして……。それまで、身体を重ねていた麻友。再び、それをしてしまうのは、同じような状況にある者同士が傷をなめ合っているだけ。そう思い、距離を置いていくのだが……
この辺りの関係性。ある意味の潔癖性とでもいうか(その前は、どーなんだ、というツッコミは禁止)、そういうものは色々と考えさせるものがある。そして、そんな克樹が気づくもの……
純粋に一般向け、とするのであれば、性描写などを薄くして、その分、克樹、麻友と、その家庭環境などに分量を入れるなどした方が、という感じがないではない。そういう意味で、元々が……と思う部分があったのは確か。ただ、それでも、ストーリー性として読ませる部分が十分にあるのは確かだ。

No.5017

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照度の鷲 イエロー・イーグル

著者:五條瑛



太平洋戦争が終わり、GHQの統治下にはいった日本。日系アメリカ人であるリオンは、日本の共産化を防ぐための諜報活動をすべく、巣鴨プリズンに収監された者たちに接触していく。一方、歌舞伎役者である紀上辰三郎は、弟弟子・香也に連れられ、東京へと戻る。しかし、そこで目の当たりにしたのは、民間情報局CIEにより、歌舞伎が存続の危機にある、という現状だった……
著者の作品を読むのは、相当に久々。
著者の作品って、諜報活動とか、そういう題材をよく扱っており、本作も題材としてはその部分がある。あるんだけど……何か、カラーが違うような……
勿論、物語の根底にあるのは、GHQ占領下での、日本の方向性を巡っての東西両陣営の対立。ソ連が主導する社会主義化、共産主義化の動きと、それを防ごうとするリオンら、アメリカ側の動き。GHQと言っても一枚岩ではなく、東西両陣営が、それぞれに都合の良いように日本を変えたい、という想いを抱いている。その中で、日本の伝統文化とか、そういうものをどう扱うのか、という部分が前面に。
その中で浮かび上がってくるのは、辰三郎の存在感。出征していて、その時から彼の中にあったのは「芝居がしたい」という想い。しかし、帰国して知ったのは、その歌舞伎が危機にある、ということ。そのために、GHQに伝手を……とリオンに接触していく。
物語の中心にあるのは、リオンの動きであり、出征していた時代、辰三郎が秘かに追っていた任務は? というものではある。でも、それよりも、辰三郎の、芝居がしたい、という部分だろう。当初から、そんな雰囲気があるが、彼を慕う弟弟子・香也が抱えているもの。そして、そんな香也が、辰三郎に、というのが明らかになっていき、どんどんその部分が強く押し出されていく。香也があまりに健気で、っていうのも大きいのだけど、読んでいて応援してくる。リオンが、「自分が掌で転がしているつもりだけど、自分が転がされているようだ」というようなセリフを言う場面があるのだけど、まさにそんな感じ。
そういうこともあって、謀略小説……ではあるのだけど、辰三郎、香也の、歌舞伎をしたいという想い。それは、ある意味、戦時中の表現が規制された時代から、自由の時代へ、という中で、しかし、存在していた規制と戦って自分たちの自由を、という想いを綴った物語なのかな? と思う。

No.5016

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ひとつむぎの手

著者:知念実希人



大学病院で多忙な日々を送る平良祐介は、医局の教授・赤石から、3人の研修医の指導を命じられる。もし、3人中、2人を医局に入らせることが出来れば、心臓外科手術の多い病院へ、失敗すれば沖縄の関連病院へ、という天秤の上で……。希望が通れば、心臓外科医としての道が開ける、とそれに取り組むこととなるが……
一応、『祈りのカルテ』ともちょっと関係のある物語。とはいえ、そちらの主人公である諏訪野が物語に出てくる、というだけで、そちらを未読でも、全く問題はないのだが。
まず思ったのが、著者もこういう話を書くのか、ということ。というのは、一応、3人の研修医の指導をせよ、という命が下り、その中で……というエピソードなどを入れているのだが、その背景として病院内での権力闘争とか、そういうものの影が見え隠れするから。この手の話って、『白い巨塔』とかが代表するように多く描かれているわけだけど、著者は、天久鷹央シリーズとかのように、ちょっとそこから外れている話を書くイメージを持っており、そこをメインにした話、というのが意外だった。
冒頭の粗筋に書いたように、主人公の祐介は、一流の心臓外科医になるのだ、というのを目標にしている存在。そのために、多忙な医局での仕事にも懸命に取り組んでいる。そこで与えられたのが、研修医の指導をし、医局入りさせよ、というもの。当然、多忙ながらも、それに取り組むわけだが、しかし、今度は、教授の赤石の論文不正疑惑が出てきて、その調査まで命じられることに……
作中でも描かれているように、祐介って、凄く真面目な人間。心臓外科医を目指している。しかし、じゃあ、それ以外が関係ないのか、と言えば、そんなことはなく、普通の手術・診察などにも手を抜かないし、その予後にも……。だが、それが余計に多忙さを招き入れてもいる。さらに、赤石の親族で、出向を巡ってのライバルであり、後輩の針谷との微妙な関係であるとか、赤石の腰巾着ながら、赤石のスキャンダルで距離を取り始める医局長・肥後とのやりとり。中盤くらいまでは、研修医たちの指導。その中でのアレコレがあり、物語のメインとは言えないのだろうけど、真面目で誠実だけど、でも、いや、だからこそ、がんじがらめにされていく祐介の疲労感というのが強く印象に残る。
そして、その苦労の末の、出向先決定……これもまた……
こういう作品、例えば、久坂部羊氏の作品とかだと、ある意味ではシニカル、ユーモラスな形で終わるのだけど、ちゃんとそれまでの祐介の苦悩、そして、行動の端々に感じられる誠実さというのを回収していくのが、著者の魅力なのだと思う。先に書いたように、非常にまじめで誠実。そんな祐介に降りかかる医局の権力争い。祐介自身も、その中で、自分の希望へ、という欲があるし、下心もある。だが……。その中で、研修医たちが下した決断は……。
ちょっと祐介が聖人すぎないか? と思ったところはある。でも、元来の真面目さ、誠実さ。それが自分の力なのだ、と気付き、決断をする。その過程に説得力があり、読後感は凄くよい。そこに気づくまでの物語、ということになるのだろう。
祐介自身の設定とかで、ちょっと唐突と感じた部分とかもあった。でも、そのことと関係なしに、祐介の成長物語として楽しめた。

No.5015

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著者:梶永正史



警視庁捜査一課殺人犯に配属されて一週間。青山愛梨は、心療内科クリニック院長の殺害事件に臨場することに。捜査本部が置かれた目黒署で、コンビとして指名されたのは3年前に離婚した夫の父・吉澤。捜査が難航する中、精神科医・渋谷も捜査に加わることになって……
うーん……『×1捜査官』とあり、主人公の愛梨が、元義父とコンビを組んで捜査に当たる。物語として、その離婚した相手とのアレコレとか、そういうのはある。あるんだけど、あまり物語に絡んでこなかったかな? という印象。というのも、コンビを組む元義父である吉澤の存在感、どんどん薄くなるし……
で、物語の中心となるのは、タイトルのもう一つの部分である「アナザーマインド」。殺害された医師・武田。そして、自分が犯人だと出頭してきた男。両者は、生活圏の違いなどもあり、そもそも接点が見つからない。ところが、聞き込みの中で、唯一の接点となり得るのは、ある花屋の存在。そして、その従業員・あさみ。そして、彼女は、かつて父が殺害されたという被害者遺族であり、そのショックで解離性同一障害を患った過去があった。しかも、その治療にあたったのが渋谷で……
捜査関係者であるはずの渋谷。しかし、常に、何かを隠している印象がある。実は、渋谷が犯人なのか? 捜査関係者であり、ある意味では味方ともいえるはずの存在に対して、信頼して良いのか? という疑心暗鬼の思いが交錯していく辺りの引っ張り方は上手い。正直なところ、解離性同一性障害とかについて、そこまで詳しいわけではないので、ここで描かれていることが医学的にどうなのか? とか、そういう想いはある。あるのだけど、エンタメ作品としてそこを突いていくのは野暮ってものなのかな? とも。
最初にも述べたように、もうちょっと元義父とのやりとりとかを期待していただけに、ちょっと肩透かしの部分もあったのだけど、十分に楽しめた。

No.5014

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著者:安里アサト



ついに運命の再会を果たしたシンとレーナ。つかの間の休息の中、それぞれの関係性にも変化が訪れる。そして、その背後にある人々の意識についても……。そんな中、レーナ率いる部隊に新たな任務が……
確か、Twitterとかでは、「この巻はライトだよ」っていうような怪情報が駆け巡っていたような(笑) ……お、おう……
いや、確かにこれまでのエピソードと比べると「ライト」と言える要素はあると思うんだ。ある意味、レーナに対して朴念仁的な態度を取ってしまうシン。しかし、そのシンの言葉に色々と心を動かされる。そんなレーナにシンも……。そして、そんな二人の雰囲気に右往左往してしまうフレデリカとか、クレナと言った周囲の面々。そこだけを切り取るとラブコメそのもの。
ただ、そんな中で確実に存在する86に対する侮蔑の視線。「86は、我々の所有物だから返せ」とか、あのあたりのもの言いなんかは、やっぱりこの世界の現状を表していて……
そして、その中での作戦。それは、地下豪で、レギオンの動力炉を断つ、というもの。大型の機材が入ることが出来ない中での戦い。そして、レギオンの特殊兵器により、部隊が全滅する、などという苦境の中で……。
誰だ! ライト、とか言っていた奴!(笑)
文字通り、狭い迷宮の中での戦い。そこまで大規模な戦いになるとは思っていなかった中での激戦。そして、そんな戦いの中で語られるシンとアネットの因縁。実は幼馴染。しかし、アネットの発したちょっとした一言で、シンは……。だが、シンはそのことを覚えていない。いや、というよりも、覚えている余裕すらない日々だった、というべきなのか。レーナとシンとのシーンでの温度差に共通する部分はあるんだけど、ある意味での義憤に燃えるレーナと、実際に行ったことへの後悔を抱えたアネットの違い、というのは大きいはずなのだけど。
そして、そんなシンを見ての、レーナの決断。本当、帯じゃないけど、「戦争は続く。ただひたすらに」なんだよな。

No.5013

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そこにいるのに

著者:似鳥鶏



ホラー風味の13編を収録した短編集。数ページ程度のショートショートから、50頁くらいの短編作品まで分量は色々。そして……注釈も後書きもない!
1編目『六年前の日記』。六年前、娘を強盗に殺害された母親の元へ取材に訪れた「わたし」。事件は犯人が捕まらないままに迷宮入りし、母親はいまだにその傷から回復出来ていない。そんな母親に話を聞き、亡き娘の日記を拝見するのだが……。ほんとうにごく普通の小学生の日々が綴られた日記。その最後に……。ちょっとした違和感から、そこを暴いたとき……。「なぜ?」とか、そういう部分は残る。十数頁の分量なのだけど、そのショッキングな最後が印象的。
同じくショートショート形式で印象的なのが『陸橋のあたりから』。母親と祖父の家に遊びに行ったぼく。しかし、その帰り道の新幹線で、「こわいひと」に出会った。でも、周囲の大人たちは、その人に気づいていない。そして……。何か、不気味なものが……というパターンの話が多いのだけど、ショーショート形式だからこそのシンプルさ故のインパクトが見事。
そんな中で異色なのは、『帰り道の子供』。長年、蕎麦屋でパートをしている私。何が、っていうことはあるが、どんなに忙しくても、明るい笑顔で声掛けをすることだけは心掛けている。そんなある日、ひどく疲れた顔をした人が訪れた。その帰り道、暗い道で出会った不思議な子供は、「七人目」と言ってきて……。七人目、とは? そして、その後も増えていく人数……。作品集のカラーからして、ネガティヴなこと? と思わせて……。このエピソードの構成もあってのものだろう。
先にも書いた通り、結構、何だかよくわからないが、とんでもないものがいて、それが迫って……というパターンの話が多くて、ちょっと「また?」と思ったりした部分も無きにしも非ず。その点はちょっとマイナスかも知れない。でも、テンポの良さとか、そういうもので読ませる力がある、というのは確か。
というか、最後のエピソード『視えないのにそこにいる』は、それをある意味、徹底的にやりすぎて、どちらかというとファンタジーみたいになっている、とも感じた。

No.5012

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ダービーパラドックス

著者:島田明宏



実業家・堂林の所有馬が次々と故障。期待の2歳馬ジェメノも、デビュー戦で大敗を喫してしまった上に、レース後に競走馬として致命的な欠陥と言われるボーンシストを抱えていることが判明してしまう。何かあるのでは? 競馬記者の小林は疑惑を調べるのだが、そんな矢先、先輩記者の沢村が不可解な死を遂げ、小林自身も何者かにつけ狙われるようになる……
著者は、文字通り、競馬ライターとして活躍をし、JRA馬事文化賞を受賞した『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』などを記した人物。そんな著者の綴った競馬ミステリー。
引っ張る力があるのは間違いない。実業家・堂林の持つ馬の度重なる故障。先輩記者・沢村の死。その中で、渦中のジェメロは、生産者に買い戻され、しかも、手術を経ての復帰を狙うという。堂林による保険金詐欺? 馬主と生産者の関係は? 沢村は何をしていたのか? WEB上に現れる小林を騙る存在。さらに、復帰したジェメロの思わぬ活躍。そこで湧き上がる替え玉疑惑。
様々な謎が次々と出てくる。さらに、小林を狙う存在はいったい誰なのか? 誰が味方で誰が敵なのか? 誰も信じられない、という緊張感に溢れる物語の流れは見事の一言。
その中のメイントリックについて。競馬ミステリ……というか、競馬そのものに纏わるエピソードなどの中でも定番中の定番のものなのだけど、古典的なそれとは異なり、現在の技術とか、そういうものがあるからこそ可能になるもの。そして、人間側の、一種のエゴというようなものについて共感できるものがあった。
……ただ、それ以外の部分は何とも不完全燃焼というか……
悪役たる堂林が、何とも間抜けな感じで、いかにも小者というような扱いになってしまったし、結局、その中で行われたことも、ある意味では……という感じだし……。これを単純に「良い話」としてまとめて良いものだろうか? という想いがどうしても残る。その辺りが、ちょっと引っかかった。

No.5011

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魍魎桜 よろず建物因縁帳

著者:内藤了



長野県北部の猿沢という地域で、ミイラ化した遺体が発見された。地滑りが多い土地、と言われる猿沢地区を支えていた人柱と思われるのだが、直後から周辺で老婆の死霊が住人を憑き殺す、という事件が続発する。曳家・仙龍と共に調査にのりだした春菜だったが……
シリーズ第5作。
なんか、春菜がサニワとして本格的に覚醒してきた感じ。そして、その中で、今回の事件であるミイラの発見、その直後に起こる死霊によるアレコレよりも、春菜の仙龍に対する想い、みたいなものの印象が強く残る。何しろ、春菜がミイラについて関わる前のエピソードとして描かれる事件から、仙龍に黒い影が憑いているのが見えて……と来るから。
仙龍が該当する当主が42歳という年齢で死亡してしまう。その背景には、その黒い影によるものではないか? 逆に言えば、それをどうにかすれば、死の運命から逃れることが出来るのではないか? そんな思いを抱き、そして、そのためには何をすれば良いのか? という部分に多くの分量が割かれているから。しかし、今のところ、その方法は全く見えず……
そんな中で、自分の寿命を削るような形で仙龍が関わっていく死霊について……
人柱として死んだと思われる遺体。その遺体については、色々な逸話が存在していた。恐らくは、その地域を訪れた僧が……。しかし、当然のことながら、その僧は男性。となると、その老婆の死霊は何なのか? そういうところでもしっかりと物語を引っ張るのは流石。
老婆の正体とか、その辺り、ちょっとアッサリとした感じもあったのだけど、その分、仙龍自身について、の部分が充実していてシリーズとしての読みごたえに繋がっていたかな? という感じ。この部分は確実に、今後の春菜の行動として根幹になっていくと思われるだけに。

No.5010

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