著者:鈴木大輔



あまたの被験者のうち、非人道的実験に成功し、生き延びることができたのは少女Aだけだった。世界を救う英雄たる使命を背負った少女A。周囲にあるのは、無数の書物が並ぶ図書館のみ。時間も空間もない心象世界を生きる少女A。そんな彼女の前に、突如、異物たる少年Bが現れて……
一応、完結編? で、良いのかな? タイトルもちょっと変わっているし。
と書いたところで、これまで以上に感想が書きづれぇ!!!!
これまでの巻でも、基本的に設定とか、そういうものを入れ替えつつも、最終的には同じ結末になる、というある種の終わりの決まった物語。そのため、いつぞやの巻では、テレビアニメ版の『エンドレスエイト』っぽいとかいう感想を書いたりしたこともあった。
それに対して、この巻では基本的に3つのパートで終了。1つが、冒頭に書いたように、少女Aの前に、少年Bが突如として現れ、果てしなく長い時間に変化が現れ……という話。1つが、クルミ、ハルコ、おチヨという「裁定者」の3人が反省会と称して、この世界は一体何なのか? について議論するパート。そして、それらを俯瞰するような形での語り。
こういうと何だけど、ある意味では、何となく、こんなことではないか? と読んでいて想像していた部分もある。なので、斬新な展開か? と言われるとそれは違うような気がする。でも、その設定とか、そういうものがはっきりと示されたことで「こういうことだったのね」と納得できる部分もあったり。
「愛は勝つんだよ。文句あっか?」
最後の一言は非常に強力な一言として出てきている。
ただ、その一方で、結局、神鳴沢セカイが戦ってきたものは? とか、九十九機関とは? とか、そういうのがよくわからないままでスッキリとしない部分もなくはない。
……そもそも、これで完結というのも「なのかな?」くらいだし……さてさて、どうなる?

No.4312


にほんブログ村


スポンサーサイト
「これが最後なら」

火蓋を切った革命軍とアリアンロッド艦隊の戦い。しかし、練度に劣る革命軍は早々に分断されてしまう。そのような中、鉄華団は……

子供と大人の戦い。
何というか……戦い方そのものが大きく異なる、というか……

分断作戦を仕掛け、しかも、その最強の敵ともいうべきバルバトスにはジュリエッタをぶつけて時間稼ぎ。そこで行うは、革命軍に紛れ込ませた斥候に禁止兵器を使わせること。
禁止兵器を使う逆賊。それを迎え撃つには……という大義名分を手に入れること。そして、その通りに、ラインスレイヴを使う……

革命軍に甚大なる被害をもたらし、そして、鉄華団も撤退すべきか、というほどの被害が……
もはや帰る場所はない。しかし、このままでは、というそんなとき、負傷したシノが提案したのは……

「す、スーパーギャラクシーキャノン!?」

最初から死亡フラグを立てまくっていて、しかも、ずっとシリアスな中、この名前を聞いた時のオルガ、ユージンたちの顔。ここだけ即席のギャグシーンになるのはどうしたものか(笑)

ただ、作戦としてはシンプル。
ヤマキの作った兵器を持ち、敵の指揮官であるラスタルの船へと接近し、そして、その首を取る。
自ら言うように、命をとしたやり方ではある。しかし、そういうやり方こそ「鉄華団」らしい戦いかた……


この辺り、やっぱり対照的な戦い方だよな。
あくまでも作戦、根回しで優位に戦いをしていくラスタルと、一か八かの鉄華団。
しかも、ラスタルはあくまでもマクギリスとの関係で参加せざるを得なくなった部隊は残存させることで戦後も考える、というのと、「これが最後」と言いながら、それでどうするのかよく見えない鉄華団という意味でも対照的。
ついでに言うと、その辺りをイオクに教えるラスタル、ってシーンがあったけど、その意味では、これまでのイオクの暴走とかって、彼を「教育を受けていない子供」から、「大人に教育される子供」へという立場への変化っていうのも表しているのかも。

ともかく、スーパーギャラクシーキャノンでの逆転を狙ったシノ。
最後の悪あがきも終わり、というラスタルの眼前まで迫ることはできたが……

しっかりとフラグを回収してもうた……




にほんブログ村



(書評)組織犯罪対策課 白鷹雨音

著者:梶永正史



井の頭公園のベンチで、ピエロ姿の男性の遺体が発見された。死因は、テトロドキシンによる中毒死であり、発見される直前まで息が合ったものと考えられる。そして、その「1/TTX」という記号が……。独特の発想で事件を見る刑事・白鷹雨音はかつての恋人である刑事・草野とのコンビで事件を追うことになるが……
「このミス」大賞を受賞した『特命指揮官』から始まる郷間彩香シリーズとは違う、初の作品。
こういうと何だけど、もうちょっとボリュームがあってもよかったかも、というのをまず思った。というのも、36文字×16行で、230頁ほどとかなり分量が少ないため。後に書くが、それ故の欠点を感じた。そもそも、「組織犯罪対策課」、つまり、「〇暴」班ってことになっているけど、冒頭、違法薬物の売人を逮捕するシーンがあるほかは、組織犯罪とか関係なく、普通の殺人事件の捜査だし。
ただ、その事件自体はかなり魅力的。
テトロドキシン、つまりフグ毒による殺人。犯人は、被害者を改造スタンガンを使って拉致し、そこで服毒させ、まだ生きている状態で放置したらしい。ピエロ姿の男の場合、白昼堂々、同じくピエロの姿で、ピエロのパフォーマンスに見えるように装って。そして、第2の事件では、瀕死の状態の被害者を車いすに乗せ、堂々とゲートをくぐって動物園に運んで……。一見、ゲーム、愉快犯のように思える犯人の狙いは何なのか? そして、一見、つながりがなさそうな被害者の関係性は? この辺りの謎の提示が非常に魅力的であった。正直、事件の背景のテーマみたいなものは、大昔から言われている「現代社会の闇」みたいなものなのだけど、それを魅力的に演出してみせたのは見事の一言だろう。
ただ、先に書いたように、もうちょっとボリュームがあってもよかった。
というのは、230頁という分量の中で連続殺人の捜査、だけでなく、元恋人である草野との関係性、はたまた、現在、やたらと雨音を慕ってくる部下・兎束とのやりとりなどを入れているため。主人公の雨音は、独自視点で、普通とは違った思考で事件の真相に迫る、つまり柔軟な思考と直観力に優れた人物とは説明されえている。でも、これだけ詰め込んでいるため、ほとんど、神がかり的なものになってしまっていると感じられる。もうちょっとボリュームを増やして、試行錯誤とか、そういうのを入れてくれた方が楽しめたかな? と思えてならない。まぁ、これは当初の企画とか、そういうものがあるんだろうけど。
一応いうと、面白かったのは確か。だからこそ、を求めたくなってくる、というわけ。

No.4311


にほんブログ村


(書評)黒涙

著者:月村了衛



黒社会とつながる黒色分子である捜査4課の刑事・沢渡は、堪能な中国語を見込まれ、公安の対中防諜特別チームへ抜擢される。沢渡と義兄弟の契りを結ぶ、黒社会「義水盟」の幹部・沈は、インドネシア人実業家のラウタンを巻き込んで、沢渡のチームに協力をすることになるが……
『黒警』の続編となる作品。
確か、前作は、前半が沢渡の倦んだ日々で、公判が波多野の復讐のために動く話、で2パートというような印象だった。で、実は、本作も前後半というか、7割くらいまでと、そこからの3割くらいの印象がガラッと変わった。
冒頭に書いたように、沢渡が対中防諜特別チームへと抜擢される。そして、沢渡と沈は、インドネシア人実業家のラウタンをまきこんで作戦を決行することにする。そのラウタン。若く、そして、格好良く、男から見ても惚れ惚れするような好青年。しかも、沢渡達にも非常に協力的。ラウタンと波多野は全く違うのだが、しかし、沢渡、沈、ラウタンとのやりとりは、波多野が元気であったころが思い出されてならない。だが、ラウタンは、大物スパイと言われる美女・シンシアと出会い関係を重ねていって……
本当、物語が始まって7割くらいまでは主人公はラウタンのように思える。沢渡と同じく、精力的なラウタンの行動は非常に魅力的。しかし、シンシアと関係を持ち、沢渡達の要請を受け、より危険なところへと入り込んでいこうとする姿に危なっかしさも覚えて……そして……
特捜チームの中にいた裏切り者。その結果として起きた二つの悲劇……ここから一気に動き出す物語。自らが巻き込んだことによって起きてしまった最悪の結末に沢渡はどうケジメをつけるのか。その答えは……。どちらかというと、明るい雰囲気出来たからこそ、ラウタンが魅力的であったからこお、の、終盤の落とし方がキツい。途中まで、ほとんど沢渡の活躍はないのだけど、それも計算のうちなのだろう。
もっとも……他方に目を向けると、ラウタンの前に現れたシンシア。シンシアと繋がっている敵の幹部である莫。こういった面々については引っ張った割になんか中途半端に退場してしまうなど、何か引っ張った割に肩透かしなところもある。そういう意味での不満があったのも確か。
ただ、それでもラウタンの魅力。その喪失感で落とす、という話に吸引されたのは間違いない。

No.4310

にほんブログ村



(書評)おにぎりスタッバー

著者:大澤めぐみ



中萱梓。通称アズ。見た目も成績も地味ながら、「援交だか、売春だかをやっているらしい」という噂によって、クラスメイトから避けられている。自称魔法少女のサワメグだけが、話し相手だ。そんなある日、男をあさっていたアズは、パンクスの人に絡まれてしまう。そこを助けてくれたのが、学校の女子から絶大な人気を誇る穂高先輩で……
内容以上にまず、その文体で色々と話題をさらった本作。舞城王太郎氏の作品っぽい、っていう意見があったのだけど、確かに、主人公・アズの語りかけの形で延々と文章がつづられ、1ページが全て文字で埋まっている、とかはそれっぽい。同じ女子高生が語り部、ってこともあるんだろうけど、個人的には『阿修羅ガール』辺りに近い印象かな? と。まあ、あくまでも文章が延々と続く辺りが似ているだけ、ということであまり比較する必要はないと思うが。
ともかく、物語そのものも結構、ぶっ飛んでいる。
主人公のアズは文字通りに「男を食う」鬼だったりする。なので結構、あっけらかんと人を食べてしまったりはする。そして、基本的に周囲のこととかに興味がなく、人の顔とかそういうのを全く覚えない。そんな彼女が唯一、話し相手にしているサワメグは、自称魔法少女。ある意味、痛いキャラではあるんだけど、それが一周回って不思議ちゃん的な立ち位置をキープ。そして、本当に彼女は魔法が使え、世界の歪みを正しているらしい。最後に穂高先輩は、素直に良い人。それだけに女子が放っておかないので、穂高先輩と近くなるアズに敵愾心を持つ存在も出てくる。でも、別に穂高先輩とは恋人同士とか、そういうわけでもない。
そんな、結構、ぶっとんだキャラクター、設定での、会話劇などがメインになりつつ物語が進行していく。
私自身は、物語の構成とか、そういう構造的なものを中心に作品を評価するクセのようなものがあるんだけど、その意味でいうと、一番、語りづらい。だって、唐突にキャラクターが登場したり、設定が登場したりとある意味、カオスの極致のようなものなんだもの。でも、連作短編形式で、不思議とそれぞれのエピソードがしっかりとまとまり、キャラクター同士の関係性が少しずつ変化していく。計算の結果なのか、偶然の産物なのかもよくわからないけど、読んでいてだんだんとアズの気持ちに共感し、読み終わるとなんかいい青春モノだったな、という気分になる。理屈をこねくり回すタイプの私としては、何だこりゃ、って感じ(笑)
よくわからんがいい感じ。
感想を一言で言うと、こんな意味不明なものになる(苦笑)

No.4309


にほんブログ村


(書評)アニメを3Dに!

著者:松浦裕暁



近年、日本のアニメの中で大きな成長を続けている3DCG。使いどころ次第では、クオリティを向上させながらも予算を低減することも可能。そんな3DCGを用いて、『蒼き鋼のアルペジオ』や『ブブキ・ブランキ』などを送り出しているサンジゲン社の代表取締役である著者が、社の方針、どのようなことをしているのかを綴った書。
ということで、タイトルの「3D」は「サンジゲン」と読む。
こういうと何だけど、自分、アニメについての評論(?)みたいな文章を同人誌に書いたりしているけど、アニメ制作とかにはあまり詳しくない。また、プログラミングとかにも全く詳しくない(HTMLをかじったとかくらいの悲惨なレベルだ(笑)) なので、こういう風に変わっています、とかそういうのを語る部分で完全に理解できた、とは言い難いと思う。ただ、それでも、アニメの本数だけは多分、世の中のアニメファンの中でも多く見ている方だと思う自分にとって、色々と感じる部分が多かった。
例えば、これまでの作画アニメとCGを併用した作品だと両者が何かうまくかみ合っていなくて、CGが浮いている、と感じる作品がしばしばある。最近は大分、その辺りが解消された感はあるけど、それでも。で、そんな中で著者がかつてかかわったGONZOでの制作体制、すなわち、CGはCG、作画は作画で全く連携なくバラバラにつくっている、とかそういう状況があった、なんていうのを聞くと「なるほど」と感じるわけである。他の素材を使うこと、それ自体はあるだろうけど、一緒にする、という前提で考えれば、連携がなければそりゃ浮いてしまうよなぁ……とね。
また、これまでのアニメは一つ一つの絵を描いて、それを動画に、という流れしかなかったけど、CGであれば逆が可能になる。とか、はたまた、しっかりとしたモデリングを完成させることで、いわゆる「作画崩壊」というのがCGでは発生しなくなる、という指摘もなるほど、と感じる。また、その一方で、CG故に動きをつけることは可能だけど、いざ、作品を作るにあたって、その動きをどこまですべきなのかの調整とかは経験が必要なんて辺りは、やはり普通のアニメと変わらないのだなぁ、とも。
本書の中でもいくつか出てきたのだけど、『アルペジオ』と『ブブキ・ブランキ』。両者を比べても、『アルペジオ』のときはまだCGCGって感じだったのだけど、『ブブキ・ブランキ』では大分、作画アニメのそれに近づいたように思う。作画アニメを題材にして、その方向へ近づける努力っていうのが実ってるのは感じる。
サンジゲン社の作品ではないけど、『亜人』とか、『けものフレンズ』とか、フルCGアニメ作品自他は次々と登場している。そういうのを考えても、サンジゲン社のような存在がメインストリームになるかどうかはともかくとしても、重要度が高くなっていくことは間違いないだろう。もっとも、作画とかの部分だけでアニメの出来が決まるわけではないのが難しいところなんだろうけど……

No.4308


にほんブログ村


(書評)告白の余白

著者:下村敦史



「生前贈与をしてほしい」 数年ぶりに戻った双子の兄は、そう切り出した。そして、生前分与を受け取った直後に自殺した。「2月末までに清水京子という女性が来たら土地を譲渡してほしい」という遺書を残して。清水京子とは何者なのか? そもそも、なぜ兄は死を選んだのか? 英二はその理由を知るため、その女性の住む京都へ向かうのだが……
デビュー以来、堅実に作品を発表し続けており、佳作も多くある著者。しかし、今回の作品は……という感じ。
物語の舞台は京都。「ぶぶ漬け」とか「一見さんお断り」で例えられるように、独特の言い回し、風習、伝統……そういうものがある京都。その京都の風習とか、そういうものを題材にした作品。正直、私は京都は高校の修学旅行で1度行ったきりで、ほとんどその辺りを実感することはなかったし、葵祭とかそういうのもいつやっているのかもよくわかっていない私。なので、そういうものについての蘊蓄とか、そういうものは楽しんで読むことができた。というか、毎週、一緒にWEBラジオをやっている仲間である873(京都育ち)が、「京都の奴って、本当嫌な奴だぞ」とかよく言っているんだけど、確かにこの遠回しな物言いとかを日常的にやっていたら、っていうのはわかる気がする。
でもって、その本音をオブラート(っていうか、分厚い衣くらいありそう)で包んだ会話などに翻弄され、二転三転されていくっていう話の流れは確かに上手いと思う。文字通り、何が本音なのか? 何が正しいのかわからない迷路の中に放り込まれたも同じなのだから。
……ただ……
物語として、無理がありすぎる。ここまで、敢えて書かなかったのだけど、主人公の英二は京都へと乗り込む。そして、京都に乗り込んだ英二は、兄の英一と勘違いされたので、兄に成りすまして情報を引き出して真相を知ろうとする。……いや、無理だろ! ってなるでしょ?(笑) まぁ、一卵性双生児ってことで、容姿はそっくりかもしれない(ただ、英二は農家なので、そうではなかった兄と比べて日焼けしているとか、そういう違いがありそうな気がするが) でも、前提もわからない会話にてきとーに回答しているのにバレないとかはさすがに無理矢理すぎ。一応、終盤にフォローがあるとはいえ。
また、そのうえで、英二は何をしているの? というのもあったりはする。高知から単身乗り込んで、そうしたら、その独特の言い回しなどに戸惑った。それは良い。でも、作中の時間って、数日どころか、数か月単位に及んでいる。仮にも現代を舞台にした作品なのだから、ネットとか、もっと言うなら図書館などを使ってでも、そういう風習とかを調べるチャンスはいくらでもあるはず。でも、それすらしていない。それで、後にビックリって……
こういうと何だけど、時代背景を変えて、例えば、戦前とか、江戸時代とか、そういうのならばこの設定でも無理はなかったと思う。でも、現代でこの展開は無理矢理すぎる。著者のテクニックはわかるが、それでも埋めきれなかった。そう思わざるを得ない。

No.4307


にほんブログ村


(書評)86 エイティシックス

著者:安里アサト



隣接する「帝国」の無人兵器による進行を受けるサンマグノリア共和国。共和国もまた、無人兵器の開発に成功し、人的被害のない戦いを繰り広げてきた。……表向きには……。「エイティシックス」。共和国85区から外れた、「存在しない86区」の人々は、「人間ではない」とし、だからこそ、彼らの犠牲は「戦死者」と数えられることがなかった……。弱冠16歳にして少佐にまで上り詰めた才媛レーナは、アンダーテイカーと呼ばれる少年・シン率いる精鋭部隊・スピアヘッド隊を後方から指揮するハンドラーに就任するのだが……
第23回電撃小説大賞・大賞受賞作。
最初に告白しておくと、もともと、この作品、あまり読む気はなかったのだけど、Twitter等、周囲の評価が高くてじゃあ読んでみよう、というかなり消極的な理由で手に取った次第。結論から言えば、面白かったんだけどね。ただ、冒頭からルビを多く振った専門用語(?)があって入り込みづらいな、と感じた部分があったのは確か。ただ、ある程度、読み進めたところからは気にせず一気に、という感じ。
物語とすると、冒頭に書いたように若きエリート軍人のレーナが、後方からスピアヘッド隊のハンドラーに就任。彼女は、共和国の人々から「人間」扱いされていないエイティシックスの面々に人間として接しようとする。しかし……
こういうと何だけど、この作品の上手さは、その緩急のつけ方だと思う。スピアヘッド隊を「人間」扱いしようとするレーナ。しかし、その中にはある種、上から目線の驕りが存在している。それが、序盤でまず噴出する。そして、その反省から一度は雪解けをしたかと思うが、しかし、今度はシンの特殊能力というか、彼が抱える呪いというか、そういうものを目の当たりにする。それすらをも乗り越えたと思いきや、今度は共和国そのものの腐りきった現実が……
よく理想主義とか、そういう言い方がされるのだけど、その意味でいうとレーナはこの上ない理想主義者だ、ということは可能だと思う。それこそ、軍人としてこれで良いの? と思うくらいに。でも、その辺りについて、レーナの母親の戦時中なのに戦争なんて知らない、というような描写など、人々が全く外部を知らない状況が明らかにされているため、「これでも見えている」というバランスになっているなど、設定をしっかりと練りこんでいるのがよくわかる。その上でのレーナの成長と、しかし、どんどん破滅的な状況へと突き進んでいくスピアヘッド隊。普通は主人公が成長することで状況が改善されるのだけど、そうではない真逆の方向へ、という流れでどんどん物語に吸い込まれていった。
スピアヘッド隊の置かれた状況というのは、進めば地獄、退いても地獄、という状況なわけだけどその中で彼らが選んだ道。それは、人間としていきたい、ということそのもの。そして、それは立場は違えどもレーナもまた……。それがエピローグの話へとつながるのだろう。物語としての完成度は非常に高く、読んで納得の受賞作だった。
ただこれ、続編はなくていいと思う。これで完結しているだけに、下手に続編を作るとただの蛇足になりそうなので……

No.4306


にほんブログ村


著者:似鳥鶏



世界経済を左右する力を持つホームズ遺伝子群。在野に潜む遺伝子保有者を選別・拉致するため、不可能犯罪を創作する「機関」。彼らの暗躍を阻止するために、妹の七海と共に、天野直人は彼らと対峙する! 強酸性の湖に建てられた十字架。密室灯台の中で転落死した男。500Mの距離を一瞬でゼロにした謎。「機関」の創作した謎の正体は?
ということでシリーズ第2作。今回も連作短編形式で3編収録。
前作は、事件に巻き込まれた直人と七海が、それを解決するのだけど、その事件の背景に……というのが明らかになり、その中で、直人がどうふるまうべきなのか葛藤する……といういうな話だったのだけど、今回はその世界観を前提に、対機関として直人たちが戦う形での物語。勿論、その中で本当にいいのか? とか、そういう悩みはあるのだけど……ただ、基本的にどうふるまうのか、という覚悟ができたうえでの話となっている。
そんな直人の様子をまず感じさせるのが1編目の『強酸性湖で泳ぐ』。流行したパズルアプリの成績優秀者を集めたテレビ企画で、温泉地に集まった人々。ところが、深夜、そのスタッフの一人が殺害され、湖にたてられた十字架に貼り付けに。陸から十字架までは20M近い距離があり、その湖は火山活動によってできた強酸性のため、入ればその場で皮膚が焼け爛れてしまう。一体、誰がどのようにして……?
と書いたところで、「あれ?」と思うように、実はこのエピソードの語り部は直人ではなく、企画にした大学院生。目の前で事件が起きて、どうしよう。そんなときに、直人たちが現れて……となる。なんというか、終盤にさっと現れて謎を解いていく直人たち。ある意味、ヒーローのようであり、このエピソードで作品の世界観、そして、直人の決意がすでにはっきりと理解できる、という構成をしっかり作り出しているのだな、というのを強く感じた。
一方で、そんな直人が、自分の立ち位置を理解しつつも悩むのが3編目の『象になる罪』。3分という短時間しかないのに、500M離れた場所に遺体を置いてみなと合流していたと思われる犯人。どう、その状況を作り出したのか? というのが謎になるのだけど、それと並行して直人のもとへ伝えられたのは直人らが暮らしていた施設の子供が誘拐され、「手を引け」というメッセージ。自分のせいで、無関係のはずの子供が危機に。そちらも気になる。しかし、機関の暗躍を阻止せねばならない、というのもわかる。そんな悩みを抱えることに……。さらに、その後にも1つ……
でも、こうやって話を読み終えると、直人の雇い主である御子柴さんって、すっげー優秀で良い人だな、ってことだったり(笑) 言葉はキツいのだけど、常に直人たちに注意を払っていて、そして、直人すら気づかないようにサポートを入れている。本当、すごくいい人に拾われたのだな、としか思えない。
……と、作品の世界観を中心にここまで書いてきたのだけど、トリックの方にも言及しておくと……
かつてメフィスト賞が牽引していたころの、新本格ミステリの匂い、もっと言うなら、デビューからしばらくの間の北山猛邦氏の作品が浮かんだ。まぁ、端的に言えば、見事な物理トリック。そして、ある意味、そのためだけにそんなことをするのか! というような。そんなことをするための手間の方とか、その間に見つかったら一巻の終わり、っていうリスクを無視しての。ただ、ここまでやってくれると逆に楽しい、というのは、そういう作品に沢山触れてきたからだろうか? ついでに言うと、作品冒頭にパズル問題とかを入れた、というのもこの雰囲気に読者が入り込みやすくするためのテクニックだったのかな? というのを後になって思った。

No.4305


にほんブログ村


著者:大森藤ノ



竜の少女を救った代償として、人々からの信頼を失ったベル。周囲からの白眼視の中、それでもベルを信じる者たちもまたいる。そのような中、とどまる異端者たちにも限界が……。異端者たちをダンジョンへと戻すための行動が始まる。そんなベルたちの前に立ちふさがるのはロキファミリア……
一応、前巻でも一段落ついていたと思ったものの、やっぱり、この巻でまとめ、という形のエピソード。
とにかく、この巻は、ロキファミリア、ひいてはアイズとの対決。
ウィーネら、異端者は人間の言葉が通じるし、決して敵対するような存在ではない。しかし、そのことは決して人々に知られていることではない。当然、異端者=怪物であり、人類の敵ということになる。そのような形で信頼を失ったベル。ひいてはヘスティアファミリア。それでも、という行為は、本当に正しいことなのか? そんな迷いから、そんなベルを後押しするファミリアがいて、ウィーネらを救う決意を固めるが……敵対するはロキファミリア……
シリーズ開始当初から、ベルはヘスティアファミリア。対して、アイズはロキファミリア。ここまででいうと、どちらかというとヘスティアとかをはじめとしたベルを好きな女性陣に立ちふさがる壁的な存在としてアイズがいたわけだけど、今回は文字通りに敵対する最強の敵として君臨。さらに、以前の短編にあったエピソードで、ロキファミリアの団長・フィンは自分の一族を復興することを目的としている存在というのがうまく聞いてくる。団長として、フィン自身はウィーネらの存在に違和感を覚え、異端者という存在にも気づいている。しかし、それを救うのは現在のベルのように人々の信頼を失う結果につながりかねない。だからこそ、気付いていても非常になりきる存在もいる。そんな絶望的な状況での戦い。しかし、良くも悪くも行動を共にしたことが多い両者、互いの考え方も知っている。そんな裏を突く行動で計画を遂行するヘスティアファミリアの面々……。頭脳戦の部分と、そしてその中でのベルVSアイズなどが非常に読み応えがあった。
そして、戦いの中で、アイズもある程度、ベルの意思を尊重したかと思われたところで……
この部分で340頁ほど。普通に考えれば、「え?」というところで続巻へ、というのでも良いと思う。でも、本作は450頁あまりある話。そこから、もう一展開。異端者を陥れた存在。それが示すのは、ベルの名誉回復の方法。それは非情な方法……
色々な部分を端折って考えれば、ベルの名誉回復もできたし、異端者たちも助かった……ということでハッピーエンドと言える形である。しかし、ベル自身が悩み、行動をしたのとは別次元で、フレイヤやヘルメスといった神々の側の思惑が全てを翻弄している。その状況の気持ち悪さが印象に残る。
まぁ、それでも、エピローグの話は……ベルくん、天然ジゴロやわ……

No.4304


にほんブログ村