(書評)ライオン・ブルー

著者:呉勝浩



関西の田舎町・獅子追の交番へと異動した澤登。澤登の故郷でもあるこの町の交番で、彼の同期・長原は失踪した。先輩警官である晃光に振り回されながらも、長原失踪について探る澤登だったが、そんなある日、街のトラブルメーカーでもある男・毛利の家が火事となり、彼の遺体が発見される。毛利は、失踪前に長原と接触していたことを掴むが……
なんというか……エラく暗い……
とにかく、物語とつつむのは、常にドロッとした澱んだ空気感とでもいうべきもの。主人公の澤登は、かつて、高校野球のエースとして甲子園にも出場した過去がある。しかし、そこで1ストライクも取れずにノックアウトされ、そのことですべてを失い、地元の恥であるかのような扱いを受けた過去がある。それは今なお、周囲からの嘲笑として残っている。また、そういう過去が、澤登と家族の間の溝としても残り、父の病をきっかけに兄との間にも冷たい風が吹いている。
そして、獅子追という街の特徴。田舎町。街の中には、独立系の弱小だが、歴史はある暴力団が仕切り、その影響力は獅子追交番にまで及んでいる。警察と暴力団はなれ合い、そして、町の開発計画について、合併についても思惑が飛び交っている。田舎を舞台にした作品っていうと、人情味がどうのこうの、みたいな話も多いけど、世界が狭いうえに利権やらも常に人間関係に付きまとう。こういう面がある、っていうのも事実で、その部分は上手く切り取っていると思う。
そんな雰囲気の中で、起きた毛利の死。さらに、暴力団組長が殺害され、そこからは失踪した長原の持っていた拳銃と思しきものが……と連続事件が発生する。
……のだけど……その後がなぁ……
(ネタバレ反転)
実は連続殺人の犯人は語り部たる澤登だったと後半に入ったあたりで判明する。その動機は、失踪する前、長原が被害者を殺そうとしていたから、という。ただし、なぜ殺そうとしていたかはわからない。
語り部が犯人、というケースがなしとは言わないけど、一人称視点で書かれているのに……というのでちょっと唐突感を感じる。しかも、警察学校時代、死すら考えていた自分を救ったのが長原だったから心酔した、とは言うだけであまり詳しく関係が掘り下げられておらず、どうにもその理由に納得しづらい。完全にサイコパスそのものになってしまっている。

(ここまで)
どんよりとした物語が悪いとは全く思わない。雰囲気づくり自体は良いと思う。
ただ、流石にこの終盤から流れは無理があるように思えてならなかった。

No.4452

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著者:横関大



大手製薬会社の工場が撤退し、経済的な苦境に立たされた兜市。就職活動がなかなか上手くいかない大学生の稜の前に現れたのは、顔を白く塗ったピエロ。願い事を尋ねられ、就職したい旨を語った彼は、なぜかピエロの助手に抜擢されてしまう。一方、市役所秘書課に勤務する比南子。「会いに行ける市長」のスローガンを掲げる市長のもとには次々と市民が訪れるが、そんなある日、後援会長が何者かに殺害される、という事件が発生して……
こういう言い方は何だけど、安心の横関ブランドの作品だな、という印象。
物語は、冒頭に書いたように、ピエロの助手になってしまった稜と市長の秘書として市長の身のまわりの世話をする比南子の視点で綴られる。
その中で、動きが大きいのは、稜のパート。ピエロの助手、という奇妙な仕事をすることになったのだが、その助手としての仕事は、町の中で起きる様々なトラブルを解決するトラブルシューター。飼い犬が迷子になってしまった子供のため、その犬を見つけて届ける。常勤の外科医がいなくなってしまい、困っている患者たちのために、外科医を探してくる。さらには、大雨で孤立してしまった子供たちの救助。そして、その行動がやがて殺人の疑惑を持たれた市長の無実の証明……。いつも通り、上手く行き過ぎとは言え、ピエロが口にする、自分と出会った「誰か」を幸せにしたい。
一方の比南子パートは一貫して「冷や冷や」という印象。そもそも、町の雇用を支えていた工場の撤退。そこに降ってわいた後援会長の殺人事件に、公費流用疑惑。当然、議会は大いに反発し、マスコミもどんどん疑惑を高めていく。そんな状況でも、泰然自若というか、冷静というか、何も語らずにいる市長。頭のいい人であるのは間違いないし、町のことを考えているのも事実。しかし、何も語らない。市長は一体、何を考えているのか? 勿論、市民からの突き上げ、とか、そういう事情もあるわけだけど、それ以上に、純粋に「どうするんだろう?」という想いを比南子と一緒に感じることとなった。
そして、その結末……
殺人の実行犯については、そこまでうまくいくか? と思うところはある。ただ、作中の仕掛け。プロローグとなる部分が意味していたもの。作中の仕掛け。それがしっかりとまとまり、ハッピーな結末へ。
上手く行き過ぎかもしれない。けれども、物語の人々がそれぞれ幸せになる。そして、そんな結末を読んで、読者も幸せな気分になれる。作中のピエロは、関わった人を幸せに、というけれども、それは物語を読んだ読者もまた、という風に言えるように思う。

No.4451

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著者;七烏未奏



異世界の温泉に転生、常連となってくれた女の子たちとともに立ちふさがるトラブルを乗り越え、人気温泉へと生長した草津熱美。レティシアの妹・リザや、ドラゴン娘のミィも加わり賑やかな日々。しかし、そんなある日、近くの町で熱美に似た温泉が湧いたという噂が。疑いつつも調査に向かうと、そこは温泉偽装をして客を集めていて……
前巻がどちらかというと、主人公が温泉に転生して、生理現象とか、そういうものを温泉での諸々に置き換えて……という一発ネタ的なネタ。それに対して、今回は、ライバル的な存在が現れ、どちらがより客に喜ばれるのか、というのを競う話に。
その中で、ライバルに勝つため、サウナを増設したり、はたまた、砂風呂を増設したり……というような感じで、施設を充実させていく。その辺りで、女性陣がその「お試し」として風呂に入ったりするっていうシーンはある。まぁ、女の子が砂に埋められていく、っていうのはそれはそれで一種、独特のエロスを感じるよね(マテ) イラストの裸率は相変わらず高いし。
ただ……ストーリー的には、あまりこれといった見どころがなかったかな? というのが正直な感想。
ライバルとなる温泉との対決。その中で、従業員であるリザや、クムといった面々には抱えている問題があり、それを解決する、というのも一つの問題となる。そして、そのライバル温泉を仕向けた黒幕の陰謀でピンチに陥ったとき、その問題も浮上。そして、それを主人公の説得、そして、その技能によって解決の糸口があることが判明して……と続いていく。良くも悪くも、「どこかで見た流れ」なんだよな。
先に書いたように、この作品の設定って、一発ネタ的な部分が強い作品。そして、その部分のインパクトが薄れたためにこう感じてしまったのかな? そんな風に思えてならない。

No.4450

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(書評)死と砂時計

著者:鳥飼否宇



世界的に死刑廃止が叫ばれる中、中東のジャリーミスタン首長国が作り出したのは、世界中の死刑囚を受け入れ、その執行を行う監獄。そんな場所で次々と起こる不可思議な犯罪。そんな事件を老囚シュルツと助手のアランが解き明かす連作短編集。全5編を収録。
第16回本格ミステリ大賞受賞作。
巻末の解説でも触れられているのだけど、著者の作品って結構、ギャグというか、トンデモというか、そういう作品のイメージが強く残っているのだけど本作はそれとは対照的。海外を舞台に、翻訳小説的な味わいを持たせながらも、しっかりと論理的に解決するミステリ集となっている。
例えば2編目。死刑囚を集め、当然のように脱獄などは不可能のはずの牢獄。しかし、過去、1人だけそこから脱出した者がいる。彼は、どうやって脱獄したのか? そして、現在は? 脱獄のためのトリックそのものは、普通の(というと何だが)物理トリック。ただ、その後の顛末が印象的。医者としての経験がある男。そして、逃げたところでそこは故郷とは異なった中東の国。そこで彼を持っていたのは……。刑務所の更生教育とはまたちょっと違うのだけど、脱獄不可能な場所からの脱獄という収監された存在からは英雄とされた存在の顛末は皮肉が効いている。
また、世界中から、という監獄の特徴を示しているのが4編目。ジャリーミスタンの言葉が喋れない墓守の男は、墓を暴いては遺体を食べている、という。その理由は? 多くは語らないつもりだけど、「こういう習慣もある」っていうのを思い出した。
そして、主人公たるアラン自身についての最終編。シングルマザーである母の下で育てられ、やがて母は再婚。そんなとき、謎の父親から届けられた手紙。そこに書かれていたのはあるウィルスについて……
父は一体誰なのか? そして、ウィルスの正体とは? さらに、アランが起こしたとされる事件の真相は?
結構、ぶっとんだ内容ではある。けれども、そもそもの作品世界観が構築されているため、過去の増田米尊シリーズとかのようなバカミス臭はほとんどなく、何か納得できてしまう。そして、最後の最後で、今後何が起きるのだろうか? という何とも言えない後味を残す。そこが売りなのだろう。
多少、とっつきにくいかもしれないけど、読み応え十分な作品集だった。

No.4449

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(書評)秋山善吉工務店

著者:中山七里



火災によって自宅と父を亡くした秋山家。残された妻の景子、息子の雅彦、太一の三人は、父の実家である「秋山善吉工務店」に厄介になることに。慣れない祖父母との同居に、四苦八苦する一家だったが……
読みながらまず頭に浮かんだのは、有川浩氏の『三匹のおっさん』シリーズ。著者の過去作で言うと、『要介護探偵の事件簿』あたり。
声がでかく、周囲を委縮させるような迫力を持つ秋山善吉。しかし、そのパワフルさ、まっすぐさで、秋山一家の面々が巻き込まれたトラブルを快刀乱麻に解決していく、という形で展開する。テンプレート中のテンプレートという感じだし、実際にこんな人がいたら、私は全く信頼しない相手になると思うけど(笑)、純粋にエンタメ作品としてスッキリする、っていうのは間違いない。転校先でイジメにあった太一にアドバイスをし、解決の糸口を与える1編目。先輩についていって、犯罪行為に加担させられた雅彦を救う2編目。この辺りは、まさにそのイメージ通りの展開。
個人的に好きなのは、景子がアルバイト先でトラブルに巻き込まれる3編目。にっちもさっちもいかなくなった景子を救ったのは善吉……ではなく、その妻である春江。ただ、まっすぐな善吉ではなくて、一見、ニコニコしているけど、目は全く笑っておらず、しっかりと相手を追い詰める春江の怖さが非常に印象的。この夫にして、この妻あり、かな?
と、ここまでは面白く読めたのだけど、4編目から話が一転。物語は秋山家を襲った火事の真相を、『セイレーンの懺悔』に登場した刑事・宮藤が追って……という形に。
なんか、この変化って、『闘う君の唄を』と似ている。そもそも、こういっちゃ何だけど、宮藤刑事の推理って動機面から攻めていく。結果、この人物が怪しい。ここまでは良いのだけど、そこから事件を成立させるのは、と積み重ねちゃうものだからどう考えても無理があるだろう、といトリックでせめてもそりゃ無理だよ、という感じ。
その一方で真相は、というと、これも何となく予想できる範囲内。それも、消去法で考えると……という感じで。
正直、序盤のエピソードの方向性で話を進めるだけで良かったんじゃなかろうか? きっかけになった事件の真相とかを無理に当てはめなくても良いんじゃないか、と思えてならないのだが……

No.4448

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著者:三田千恵



病に倒れた父の治療のため、兄からサルバドールからルーセントという薬を入手するよう命じられたジンドラン王国第2皇子のランス。ところが、そこに現れたのは白い肌に銀色の髪、青い瞳を持った少女トリア・ルーセント。自らを「薬」というトリア、そして、その護衛ロサと共に王都を目指すことになるのだが、ロサは「トリアに恋をさせてほしい」と言い出して……
前作の『リンドウにさよならを』もそうなのだけど、著者の作品に出てくる男性キャラって、どちらかというとリア充な奴が多いな、と思ったり。本作の主人公ランスにしても、チャラい、とか、そういうキャラではないにしても、城下などで女性と浮名を流している存在。しかも、ちょっとした勘違いから、とは言え、いきなりトリアに手を出そうとするし。ボーイ・ミーツ・ガール作品であり、だんだんとトリアのことが心の底から……という物語の主人公としてはちょっと珍しいタイプを持ってきたように感じる。
てなわけで、物語としては、ランスが、トリア、ロサと共に、父である国王を治すため、治療薬の材料を集めつつ王都を目指す物語。そして、ロサの言葉ではないけど、その中で、ランスが、そして、トリアがそれぞれ気持ちを通じ合わせていく。しかし、「ルーセント」であるトリアには過酷な宿命があって……
「自分は薬だから」と、自分の気持ちとか、そういうものを押し殺していたトリア。それが、旅を続け、「ルーセントとして」ではなく、「一人の人間」としてランスに扱われる中で徐々に感情などを表に出すようになっていく。王道な物語ではあるのだけど、それをしっかりと、丁寧に描いてくれるので感情移入できる、というのは長所だろう。
ただ……王位継承をめぐってのランス、兄、姉という兄妹の出生の秘密って物語上、必要ってあったかな? 王が病。その後継者を巡って、色々な思惑が巡るのは当然だと思うし、また、ランス自身は自分よりも兄か姉が王になるべきだと思っている、というのもわかる。しかし、終盤にいきなり「実は~」という暴露が挿入されても……。そもそも、そのことが物語の軸となる部分に寄与しているかというと、そうとは思えない。なんで、こんなのを入れたのだろう?
王道なボーイ・ミーツ・ガールものとして楽しめただけに、終盤に挿入された王位をめぐる秘密の意味不明さが気になってしまった。

No.4447

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(書評)錆びた太陽

著者:恩田陸



「最後の事故」により人間が立ち入ることが出来なくなった地域。そこは、人工知能によって制御されたロボ「ウルトラ・エイト」が保守点検を担っていた。そんなところへ、一人の女性が訪れる。国税庁から来た、というその女性・財護徳子は制限区域の実態調査を行う、というのだが……
前作の『失われた地図』もそうなのだけど、本作も……変な作品だなぁ!
著者は1970年代くらいのテレビネタとか、そういうのが好き、みたいなものを以前に読んだことがあったのだけど、本作は、そういうのがまず色々と出ている。ロボットたちの愛称「ウルトラ・エイト」は、『ウルトラセブン』のパロディみたいなものだし(しかも、著作権的に云々とかまで言っちゃってる)、その面々の名前は『太陽に吠えろ』に出てくる刑事たちのそれ。乗り込む車は「サンダーバード2号」。そして、そんな名前が付けられたロボットの一人・ボスが徳子らに振り回されながら地域を巡り、そして、思わぬ形に話が進んでいく様が描かれる。
突如やってきた徳子。彼女が実態調査としてやってきて、そこで回る中で目の当たりにするのは、ゾンビのような存在である「マルピー」。また、かつての飛行場後には、帯電していて、ちょっとした刺激で爆発する「青球」が大量に集められていて、何かをしようとしている形跡が見える。さらには、区域との境界に住んでいた一家の失踪事件に、政府の大いなる陰謀まで話が広がっていく……
こうかくと、名前はともかく、シリアスな話かな? と思われるかもしれないけど、基本的には徳子の思わぬ行動にボスたちが振り回され、しかも、思わぬ事実に驚く、という感じで、どちらかと言えば明るい雰囲気。だって、マルピーに意思があるっぽい、とわかったら「マルピーから税金を取れないだろうか?」と言い出したら「はい?」って感じになるでしょ?
逆に言うと、敢えてそうすることで、人間の弱さとかを表しているのかな? とも思う。ロボット三原則とか、そういうものが出てくるのだけど、その中で、人間というのは迷いやすく、間違える存在。現在の、この地域が出来たのも人間の前科。そんな話がしばしば出てくるため。ある意味、福島の原発事故の後遺症とか、そういうのをさらに大規模に描いた話のように感じる。それを発表したのが朝日新聞というのも含めて。
結局、著者の作品らしく壮大な風呂敷を広げて、畳み方はアッサリではある。ただ、最後の最後で思わぬ形で徳子が「仕事」を完了させるオチに大笑い。
変な作品ではあるけど、著者らしさをこれでもかと味わえる作品じゃないかと思う。

No.4446

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著者:蓮見恭子



生活を立て直すため、大阪・堺にある夫の実家「島市古道具商」へと引っ越した透子たち一家。十数年間、社会に出ていなかった透子。慣れない店での暮らしに四苦八苦しながらも、義父の市蔵や、道具に集う人々の想いに触れて……
なんか、ちょっと思っていたのと違った印象。
新潮文庫nex。普段の新潮文庫と比べても、どちらかというと若者向けレーベルとして刊行されており、店などを舞台とした作品でも、「温かさ」を前面に出した作品が多い感じ。しかし、この作品の場合、最終的に収まるべきところには収まっているものの、「しっとり」とした印象を強く抱かせる作品になっている。
というのも、物語の根本には、透子の劣等感とでもいうべきものが常に横たわっているため。早くして母が亡くなり、父ともあまり良好とは言い難い関係の中で死別。教師であった夫・壮市と結婚し、その家庭で暮らしてきたものの、夫は体調を崩して退職。社会経験がない自分では生活を支えることが出来ず、夫の実家へと転がり込んだことでより、それが強くなってしまう。しかも、当然のことながら、透子は古道具、骨董といったものについての知識はない。
こういうと何だけど、そんな状況なんで、透子のウジウジとした態度が続いていて、結構、疲れる(笑) そんな中で、茶会で使う香合、徳利、陶片……などを巡っての人々の行動を目の当たりにして……
こういうと何だけど、それぞれの家で、喧嘩などもあるし、その関係が綺麗に修復した、なんていうこともない。でも、ちょっとした変化などはあり、新たな人間関係が構築されることもある。綺麗さ、とは違う。でも、だからこそ、現実的な人間関係の移り変わりとでもいうべきものが描かれているのかな? と思う。
そして、そんな中で訪れた古道具商の危機。その中で透子が知った、理想化していた母の失態であり、両親の関係。それを乗り越えて……
先に書いたエピソードがあるからこそ、この透子の両親についての話がすんなりと受け入れられたのだろうし、一歩を踏み出せたのだろう。そういうステップをしっかりと踏んだ、派手さはないけどしっかりとした物語だと思う。

No.4445

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(書評)開化鐡道探偵

著者:山本巧次



明治12年の晩夏、鉄道局技手見習の小野寺は元八丁堀同心である草壁のもとを訪ねる。その目的は、現在、京都ー大津間で建設工事が進んでいる逢坂山トンネルで頻発する不可解な事件について調査してほしい、というもの。鉄道局長・井上の熱意もあり、調査に乗り出す草壁だったが、到着早々、仮開業中の鉄道から乗客が転落死する、という事件が発生。しかも、それは工事関係者で……
『大江戸科学捜査』シリーズでデビューした著者の、新作と言える作品。あとがきで、著者自身が鉄道会社に勤務していて、かつ、鉄道そのものが大好きだ、という風に書いているのだけど、その「好きなものを書く」という姿勢が強く感じられた。
物語そのものは、結構、シンプル。冒頭に書いたように、明治時代を舞台に鉄道工事をしているところで起きる事件。それは、図面の書き換えなどの様な緻密で計画的なものから、工事資材や工事器具への工作。さらには、殺人……。こうなってくると、それを目的は、鉄道工事の妨害。しかし、その妨害は一体だれが、何のために……
結論から書いてしまうと、謎解き、そのものも結構、シンプルだしビックリするようなトリックとかがあるわけでもない。多少、事件に関わる黒幕の手が広くて、なおかつ、強大な存在であった、というだけになってしまうので。……と、こういう風に考えるとなんかガッカリ感を覚えたように思われると思う。実際、もうちょっと黒幕に対して何かあっても良かったのではないか。そういう風に思うところはある。
ただ、その上での、明治時代だからこその諸々を感じられる、というのが本作の長所なのだろうと感じる。
こういうと何だが、私自身は中学時代までは鉄道を利用するのは年に1回か2回くらいしかなかった人間である。しかし、鉄道がどういうものであって、なんていうのはわかっている。一応、その工事のために用地買収とか、そういうものに纏わる話とかも(高速道路の用地買収とか、そういうのとごっちゃになっていたとしても)わかっているつもりである。一方で、ざっと学んだだけ、とは言え、日本史の知識も多少はあるつもり。ただ、この作品の舞台である明治時代というものに置き換えると、「これもあったな」というのを強く感じるのである。
そもそも、なぜ、八丁堀同心であった草壁が大阪・大津間の工事の調査をすることになったのか? この時点で「そうだった」というのを思い出す。つまり、明治、それも初期は維新を主導した薩長を中心とした藩閥政治がまかり通っていた時代。警察などの行政機構というものにも、その意思が反映され、両者の力関係から手心が出てしまう。さらに、明治の日本にとって、鉄道という技術は未知のもの。そこには偏見なども付きまとうし、当然、産業の盛衰という問題も引き起こす。さらに、当然のことながら、工事を行う人間についても組織とかそういうものが現在のそれとは全く違っている……。歴史の教科書を読んだりして、それぞれの単語はそれぞれ頭に入っているのだけど、それを具体的な物語に反映させている。それを読む面白さ、というを強く感じた。
あとがきで「ストーリーの都合上、史実と異なるように改変した部分がある」とあり、実際、当時の工事風景とは違う部分はあると思う。でも、時代の空気を十分に感じることが出来た。

No.4444

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著者:坂下谺



二足歩行兵器・機巧外骨格。その育成学校をテロリストが襲う。先の大戦における怒りを果たすため。生徒、教師が人質に取られる中、学内でもトップクラスの操縦技術を持つ少女・花枝連理と、過去を抱えた整備士・黒宮凛児にその命運は託される……
第11回小学館ライトノベル大賞優秀賞受賞作。
まぁ、ぶっちゃけ……この感想を書く前に、最近、毎週のように聴いているWEBラジオ『ラノベハスラー』様で取り上げられたため、却って感想が書きづらい(読了そのものは、ラジオよりも前だったのだけど) そこで思いきり『ダイ・ハード』&『ランボー』言われちゃって、その理由もしっかりと説明されちゃったので(笑)
まぁ、それらの映画作品に限らず、テロリストに占拠された閉鎖空間。その中で自由に動ける存在が、その状況打破をする、というシチュエーション作品の王道のような話だと思う。存在を知られないように、敷地の中を動き回り、一人、また一人と敵を倒していく。そして、その中で、連理と凛児、そして、テロリストの中心人物である防人の過去、関係、そして心情へと物語が移ろっていく。
折角だから『ラノベハスラー』様での評論に思いっきり乗って文章を書いてしまおうと思うのだけど、この敵方、防人の心情をどう評するのか、というのが結構、大きなポイントだと思う。ネタバレも含んで書いちゃうけど、凛児自身も実は防人と同じく、先の大戦で大きな戦果を挙げながらも、虐殺犯として戦後、蔑みの目で見られた情報軍の一員。自分たちを裏切った国、民衆に対する怒りは胸に秘めている。しかし、でも、防人のやったテロを許すわけにはいかない。一方の防人も無念を晴らすためのテロは起こしたものの、自分が正しいとは思っていない。だからこそ、同じ経験をした凛児がいる学校を襲い、彼が泊めてくれるのを待っている。先のラジオでは、これを防人側の「ブレ」とする見方もできる、とあったのだけど、その辺りも含めて防人という人間の不器用さを描いていると感じた。そして、そんな凛児に救われたことで、現在がある連理の存在。それが、最後に凛児を一押し、というのも、出来過ぎっちゃあそうなのだけど、「熱さ」に寄与していると思う。
まぁ、同時に、物語自体はかなり男臭い話ではあるんだけど、そんな中でのAI・逢瀬のセクハラと、連理の見た目に反した初心さ(表紙でもそうだけど、学内では腕はあるけど、周囲に反抗的な不良娘的な存在として扱われている)が良いアクセントになっている。正体を隠すためにもマスクを被れ、と言われて、でもそうしたら間接キスになる、と躊躇する辺りは、逢瀬じゃないけど「処女力高すぎ」でしょ(笑) この辺りも好きだな。
指摘をすれば、設定の甘さとか、そういうのも出てくるけど、王道な形で物語を綴り、しっかりと「熱量」を感じさせる。こういう作品、私は好き。

No.4443

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