(書評)時限病棟

著者:知念実希人



目覚めると梓は、病院のベッドで点滴を受けていた。なぜ、自分はここのいるのか? しかも、同じ部屋には同じような状況の人々が……。廃病院に監禁された男女。そんな彼らの前には、クラウンを名乗る存在からミッションが。6時間というリミットの中でクリアできなければ、病院は炎の海に! 命がけのリアル脱出ゲームをクリアできるのか? そして、クラウンの目的は?
一応、『仮面病棟』の続編になる作品。ネタバレになってしまうが、『仮面病棟』の舞台となった田所病院が今回も舞台になっている。勿論、前作の事件後、病院自体は閉鎖されている、という設定であるが。
冒頭に書いたように、閉鎖された病院に監禁された男女。そして、そんな面々の前に現れるのは、クラウンからの指令。例えば、「襟をただし、真実をみつけるための、鍵を探せ」というメッセージ。それは何を意味しているのか? ある意味、なぞなぞの様なミッション。それを繰り返しながら、脱出へ向けて進んでいく。しかし……
正直なところ、一応、主人公的な立ち位置である梓が、アトラクションとしてのリアル脱出ゲームの愛好家である、ということもあって、謎が提示されてもあっという間に解かれてしまうので「あれっ!?」という感じはある。ただ、それがテンポの良さにつながっている、というのも間違いないだろう。読み始めたときと違い、中盤からはそこが主眼でないというのは明らかになるわけだし。
そもそもの自己紹介の時点で、医療関係者が多いというのが判明する監禁された面々。しかし、次々と出てくるクラウンのミッションの中で明らかになるのは、実はある騒動の中で死亡した医師の関係者である、という事実。医師としてだけでなく、脱出ゲームプロデューサーとしても知られたその医師は、田所病院の跡地を使った企画にもかかわっていた。しかし、そこで起きた映画監督の殺人犯という疑いを抱かれて……
クラウンのミッションの中で明らかになる関係性。その中で、映画監督の死は殺人なのか? そして、医師の死は? 脱出ゲームから、やがて、関係者同士のえげつない感情のぶつかり合いへと転じ、そして……
最後のひっくり返しについては、そもそも、医学の知識のない私には判断のすべがない。無理だろう、という気もする。
でも、場面転換の巧みさと、リーダビリティの高さ、そして、オチ。個々をとれば穴もあると思う。しかし、そういう部分を差し引いて一級品のエンタメ作品に仕上げている、という評価をしたい。

No.4265


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著者:和ケ原聡司



新大陸の発見、そこへの入植。新世界への動きに沸き立つ海洋王国スピネイア。そんな時代、密かに禁忌とされる陰陽術の研究に明け暮れる青年・ディエゴは、その研究の出所を疑う少女による襲撃、さらに彼の研究を教会に疑われ、やむなく悪友のアルバロと共に新大陸へ渡ることに。黄金の大樹がそびえ、巨神が入植者の行く手を阻むそこで、ディエゴは不思議な水に守れた一人の少女と出会い……
『はたらく魔王さま!』シリーズでおなじみの著者の別作品。『はたらく魔王さま!0』シリーズ(?)では、相手の裏をかいて……とか、戦略などを用いての戦いを描いているのだけど、本作は、そんな雰囲気をより強く出したファンタジー作品に仕上げた印象。
ただ、ファンタジー作品とはいえ、あとがきでも示唆されているような、歴史上の時代、大航海時代を題材をモチーフにしているのが強く感じられる。その意味では、支倉凍砂氏の『マグダラで眠れ』シリーズのような感じもする。
自らの手で守ることができなかった少女・ローズのことを悔い、彼女を取り戻したいという思いで陰陽術を研究していたディエゴ。彼の思いの裏にあるのは、入植者のリーダーとして、現地の人間を多く虐殺した父の存在がある。父の行動に対する反発、ローズのような存在を作りたくない、という思い。ゆえに、水に守られた少女を解放し、拷問してでも巨神を、という父らを裏切り、新大陸で反乱者となる。そんな思いを、原住民である(冒頭の襲撃者である)ローゼンに協力を申し出るが……
個人的にはファンタジー要素よりも、その中でのディエゴの思い。しかし、巨大な力を持つことの厄介さ。そういう部分に読みごたえを感じる。
巨神という圧倒的な力により、奴隷制度を廃止させてしまえばよい、というディエゴの純粋な思い。しかし、ローゼンらが言うように、力に対して理想は誰もが共感するわけではない。その力を使えば、さらなる略取への道が開けてしまうし、人々の安定を破壊することにもなりかねない。その一方で、現地の人々を虐殺してきたディエゴの父。しかし、本国が教会との対立により苦境に立つ中、自分たちが生き残るには新大陸から資源を得るしかない。また、そうしなければ今度は自分たちが、という部分もある。
こういう作品だと、主人公=正義、みたいな感じになりかねないのだけど、世界史における虐殺とか、そういうものも見方を変えると……というのはよくあるわけで、本作のテーマもそこにあるんじゃないか、と思う。
ファンタジー世界の設定とか、そういう部分について100%、自分が把握し、そちらを楽しめた、という実感はない。これは、もともと、あまりファンタジーものとかが得意とは言えない自分自身の趣向もある。でも、そこを差し引いても私は、この作品は面白かったと結論付ける。

No.4264


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「助言」

火星を離れるタービンズ。それぞれが、鉄華団との別れを惜しむそんな頃、地球ではイオクが、ジャスレイの口車に乗り、タービンズへの攻撃を試みようとする。そして、その中で、禁断の兵器を使用しようして……

ということで、年末年始の休みを挟んで久々のオルフェンズ。
なんていうか……

名瀬さんのひたすらに行われる死亡フラグ立てがすさまじかった。
ジャスレイがイオクに手をまわし、タービンズの事務所へと入るギャラルホルンのガサ入れ。そこには、条約で禁止されている兵器が……。その兵器は、鉄華団がモビスアーマーを倒す際に用いたもの。鉄華団のせいで……
ということになるんだけど、名瀬さんがタービンズを作るまでの話とかが延々と出ていただけに、こりゃ、危ないな、と思っていたら案の定だよ。

なんていうか、前回の話とかを見ていると、名瀬が、もし鉄華団とテイワズが対立することになったら……というのを言っていたから、タービンズが鉄華団とテイワズの板挟みになって対決へ……という流れだと思っていたのだけど、逆とは。
違法兵器が発見されたことにより、完全なる違法組織へと落ちてしまったタービンズ。そんなタービンズの救援をしたいオルガだったが、名瀬がいうのは、「まず大事にすべきものを考えろ」の一言。
これって、タービンズをテイワズが追う。その急先鋒に鉄華団が、ということにならざるを得ない流れだよなぁ。名瀬とオルガが兄弟分、となれば、まずテイワズが疑うのは鉄華団のテイワズに対する忠誠のはずだし。ただ、主導がジャスレイとなれば、タービンズがいなくなった後は、鉄華団が標的に、という流れも見えてくる。そういう意味では、最初から予測されていた組織の内部抗争という流れがいよいよ本格化した、といったところか。

それにしても、ダレリオさんとマクギリス、互いに気づいていながらの牽制のしあいってのもすごい状況だな。




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(書評)スクープのたまご

著者:大崎梢



思わぬ偶然か、大手出版社・千石社に入り、1年間、PR誌の編集部で働いていた日向子。ところが、えげつないスクープ狙いで悪名高い雑誌・週刊千石に配属された同期が病に倒れ、日向子は急遽、週刊千石編集部に異動することに。人の不幸を食い物にする週刊誌に抵抗を覚えつつも、そこで働くことになる日向子だったが……
書店員、出版社……書籍に関するお仕事を題材にする作品を多く手掛けている著者。今回は、週刊誌。
物語は、週刊誌編集部に配属された日向子が戸惑いを感じながらも、仕事をこなし、だんだんとその世界になじんでいく形で展開する。
これ、作中で日向子自身が言っていることなんだけど、週刊誌の取材とかって、出版社の社員が自分でやっていることなんだ……。いや、それこそフィクションの中の話である、というのはわかっているけど、小説とかだとフリーのライターがネタを持ち込んだり、はたまた、企画を外注したり……というのが多くて、社員はその編集とか、っていうイメージだった。いや、同じく作中で、フリーでも社員でも、信頼、相手の人間性を知っているから、といような部分はあるんだろうけど。でも、作中で指摘するように、スクープを抜く、抜かれる、の中で「同じ会社に属し、その利益を追求する社員」というものでなければ、というのはわかる気がする。
そんな部分がまず最初に思ったことなのだけど、週刊誌って、本当に独特なのだな、と感じる。それこそ、政治とか、社会とかを取材したいなら新聞社とかがあるだろうし、同じ雑誌でもファッション誌とか、文芸誌とかのような趣味の世界に特化しているわけでもない。それどころから、関係者からは恨みつらみを買う。日向子の偏見じゃないけど、どんなのが……っていう感じはする。
でも、そうは言いつつもチームプレイがあったり、はたまた、時にやりがいがあったり、応援してもらったりもする。そういう部分では、普通の会社と同じなのだな、というのもよくわかる。それに染まっていく日向子が怖いような、でもわかるような……そんな気分になれたのが何よりもの収穫かな?
まぁ、この作品では日向子はまだ新入り、ということもありそこまで「危ない」「えげつない」ところまで突っ込んだ部分はなし。先の染まったら、じゃないけど、続編ができたら……って気がしないでもない。

No.4263


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(書評)霊感少女は箱の中

著者:甲田学人



心霊事件で前の学校を退学処分となり、銀鈴学院高校に転校してきた少女・柳瞳佳。お人よしである彼女は、転校早々、クラスでも内向的なグループのおまじないに付き合うことに。人目につかない女子トイレで行うおまじない。人数と同じ数を数え、鏡に一緒に入って撮った写真。しかし、そこにはいないはずの女の姿が……。そして、おまじないに加わった少女の一人が失踪してしまう。少女の失踪と写真、問題を解決するために、クラスメイトであり、心霊現象を解決する専門家だという守屋真央に相談するのだが……
著者の作品を読むのはデビュー作である『Missing 神隠しの物語』以来、十数年ぶり。流石にどんな物語だったか、記憶はほとんど残っていなかったけど、なんか、暗い雰囲気の話だったな、というのは覚えている。で、本作もそんな印象を覆すことなかったな、という感じ。
冒頭に書いたように、おまじないをした結果、一人が行方不明になり、写真にはいないはずのもう一人が……。そんなところから始まるわけだけど、その背景にあるのはフレドメールなるチェーンメール。そして、「フレンド」とは正反対の悪意にまみれた人間関係……。
心霊現象を引き寄せる少女・瞳佳。呪われた道具を受け継ぎ、その道具に対する複雑な思いを抱えながらもそれを利用する真央。その中での、心霊現象などについての解説。それと上に書いた学校という閉鎖空間の中での、どうしようもなく残酷化するスクールカースト。双方がうまいことかみ合って、どうしようもない窮屈で、嫌な雰囲気を常に醸し出す、というあたりのが見事。ハッキリ言って、物語として円満解決とは程遠いもの。しかし、ある意味で爽快感を感じてしまうのが不思議。
まぁ、欠点を挙げるのならば、真央のスタッフ(?)の面々。いろいろと専門の部分を持っていて、考え方とか、そういうのもかなり個性的なのだけど、その割に出番が少なく、もうちょっと活躍できる場面が欲しかったこと。少なくとも、この巻での描写だけであれば、これだけの人数がいる必要性は感じないわけで。
何か、この巻で話そのものが終わってしまったような気がしないでもないのだけど、続巻があるなら、その辺りに期待、かな?

No.4262


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(書評)あしたの君へ

著者:柚月裕子



家庭裁判所調査官の仕事。それは、家庭裁判所に持ち込まれる事案……すなわち、少年事件や離婚調停といったものの背景を調査し、その解決に導くことである。見習い家庭裁判所調査官補の望月大地は、事件を起こした少年少女との面接、離婚調停を行うようになって……
すごく奇麗な話。裁判所、司法についての作品というと、著者はすでに傑作シリーズといってもいいだろう「佐方シリーズ」がある。勿論、その佐方シリーズでも、真相を見つけ出して、という中で佐方の人情味を感じる話は沢山ある。でも、どちらかというとひっくり返しの衝撃というのが強く感じられる。対して、本作は、何よりも人情味というのを前面に押し出した作品だなぁ、と感じる。
全5編の連作短編なのだけど、前半2編は少年事件について、主人公・大地が地元で、という1編を挟んで後半2編は離婚調停というのがテーマ。
まず1編目『背負う者』。主人公の大地にとって、初めての仕事となるのは、援助交際を持ち掛け、相手の男の財布を持ち去ったとして捕まった少女。「遊ぶ金が欲しかった」と言うのみで、何も語ろうとしない彼女の家庭環境を調べるのだが……。遊ぶ金が欲しかった、というけど、そもそも高校に通っておらず、まじめにコンビニで働くのみ。家庭というのも憚られる状況で望月が知った犯行に及んだ理由。それだけでも、十分に重い話なのだけど、そんな望月の報告を聞いたうえで、先輩がとった処置……
「彼女の将来にとってどちらが良いのか?」「彼女の現状をよくするには?」
元刑務所職員であった浜井浩一氏の書などで、「刑務所に入れることが却って、社会復帰を困難にさせることもある」という指摘があるのだけど、その逆。敢えて少年院などに入れ、現状から切り離す必要性がある、というケースもある。そんな判断の難しさを感じさせる結末が印象的。
離婚調停を題材にした5編目『責める者』。離婚調停を進める夫婦。双方ともに、小学生の息子の親権を巡り争う。離婚はするが、学区内で暮らすので転校はなく、仕事も融通が利くので問題がないという母親。一方、金銭的にも、祖父母もおり、環境としては自分が良いという父親。その中で、肝心の子供は……?
正直なところ、話の筋でいうと、ひっくり返しを狙いすぎたのが、出来過ぎ感を覚えた部分がないではない。ただ、作中で先輩が指摘するように、子供は、大人が思うほど、物事が見えていないわけではない。人間関係のネットワークだってあって、色々な情報だって入ってくる。まして、ある程度、年齢を重ねて周囲の気持ちをおもんばかることができるようになれば、ただ、自分の意思を言うだけでは通らないことも覚える。当たり前といえば、当たり前なのだけど、そんなことに気づかされる。
最初に「奇麗な話」と書いたように、正直、皆、いい話過ぎるっていう意見はあると思う。実際には、どうしようもない夫婦がどろどろの攻防を繰り広げるとか、そういうのだって絶対にあるはず。そういうのも見てみたい気もするけど……
そうなったら、読み終わってよかったな、という感想は浮かび上がらないだろうから、これで良いのだろう(笑)

No.4261


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著者:紺野アスタ



久佐薙卓馬は閉鎖されたデパートの屋上遊園地で、傷だらけのカメラを構える少女・尾木花詩希と出会う。卓馬は彼女、「心霊写真を撮っている変わった女」と噂される詩希に屋上遊園地に出るという「観覧車の花子さん」を撮ってほしい、と依頼するのだが、詩希は「幽霊なんていない」とすげなく……
滅茶苦茶に上から目線の評価になってしまうのだけど、すごくバランスの良い作品だなぁ、というのを読み終わってまず思った。
物語は、冒頭に書いたように廃墟となったデパートの屋上観覧車に出る幽霊を撮ってほしいと卓馬が依頼することから始まる。その幽霊というのは、その観覧車の事故で今なお意識不明になっている卓馬の姉だから。もし、意識不明なのが、そこに意識を残しているかだ、とすれば写真に撮り、解放することで……となるかもしれない。一方、詩希は過去の出来事もあって色彩、味覚などを失っている。そして、心霊(ゴースト)を撮る、というのは、それを取り戻すカギにもなる。けれども、周囲からは変わり者としてあつかわれ、本人もコミュニケーションなどの能力が低くて……
卓馬の姉は、なぜ、観覧車で事故にあったのか? 調べてみると自殺ではないか? そして、ヌード写真のモデルなどをしていたのではないか? というものが浮かんでくる。その一方、詩希が色彩などを失った原因となった事件。彼女のことを嫌う「写真部」の面々、嫌がらせ……。詩希が色彩などを失った、なんていうところからわかるように、基本的には「褪せた」雰囲気のなかで物語が進んでいく。実際、途中での卓馬と詩希の対立とか、卓馬の真相についてもとか、ビターな部分がある。
でも、じゃあ、ただ重く、苦しいだけの話なのか? というと、そうではない。
屋上で見かけた詩希に依頼に行くと、「あんなところを見られて、変な奴と吹聴されたら困る」と詩希が巨大なカメラで殴り掛かってくる、とか、詩希がフィルムカメラに拘るのは、写真がどうこうじゃなくて、単に金がなくて安く買えたカメラだったから、とかボケも結構優秀(笑) また、(書類上では所属となっている)園芸部の部室に引きこもっている古森先輩とかほっこりさせてくれるキャラクターがいるのも好印象。緩急がしっかりとついているのだ。
そして、そんな中での真相については……
すれ違い、ということになるんだろうか。卓馬の姉と事件の黒幕の関係。そして、その黒幕が、さらに動き出した理由。卓馬のいう「ゴースト」と、詩希のいう「ゴースト」の意味するものの違い。あらゆるところですれ違いが生じており、結果として、それが悲劇に……
苦く、苦しい作品だけど、でも、ほっこりさせる部分で重くなりすぎず、そして、少しずつ変化していく詩希の姿に光も見える。タイトルの通り、色褪せた雰囲気が、だんだんとカラフルになっていく。そんな雰囲気を感じさせる作品だ、と感じられた。

No.4260


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著者:三浦展



昨年末、夕刊タブロイド紙に本書の書評記事が載っていた。その中で書かれていたのは、「男性で年収200万円以下の人たちの住みたい街ナンバーワンは、秋葉原。2位以下は池袋、新宿などの副都心が続き、5位には千葉の幕張、9位に御茶ノ水・神保町がランクインしている」「ここから分かるのは、年収の低い男性は会社の近くか、あるいは漫画やアニメに近い街が好まれるということ。秋葉原はもちろん、コミックマーケットが開催される幕張、漫画やサブカル雑誌を探しやすい御茶ノ水・神保町が入っている点からもそれが見て取れる。年収が低いがゆえに、現実の女性よりも二次元に逃避したがるためではないかと本書。」というもの。このことについて、いろいろな意見はあったのだが、私の流儀は、その元ネタとなるものを読んで判断せねばならない、と思っている。なので、本書を読んだ次第である。
まず、私自身は、著者の書籍を結構、読み込んでいる人間だと思う。著者の代表作である『ファスト風土化する日本』『下流社会』などは勿論、その合間合間に刊行した書籍もかなり読んでいるつもりだ。そして、その多くについて、Amazonで1点評価をしている。まさに、私にとってデタラメ統計の権威である。本書もその評価についてはゆるぎない。
というか、この書のもととなった調査なのだが、そもそも、何を調べようとしたのだろうか? という疑問を抱く。
この元となった調査は、ネット調査であるという。この時点でサンプリングが適切であるかどうかは疑わしい。とは言え、とりあえず、そこは置いておこう。
この調査では、20代~40代の男女、合計1500名に、「住みたい街」を回答してもらった。そして、その回答者のプロフィールと住みたい街をクロス集計して、「このような人は、こういう場所に住みたがる」という内容である。しかし、読んでいると、いくつもの「?」が浮かぶのである。
まず、「住みたい街」がやたらと細かい上に、どうしてその組み合わせなのかよくわからない点。以前に読んだ著者の書、『東京は郊外から消えていく!』とやり方は似ているのだが、この時は、自治体単位を基本として首都圏(東京都と千葉、神奈川、埼玉)を29のブロックにわけて「この町は発展すると思うか?」「衰退すると思うか?」などとやる書だった(なのになぜか、いざ、著者の分析なるものになると「吉祥寺では」だの、「東急線沿線では」だのというそれを無視した話になっているという疑問はあったが)
そんな批判にこたえたのか、今回は首都圏を100以上にわけて質問。ズバリ言えば、駅単位である。けれども、細かすぎる上に、それをいくつか組み合わせるので「どこなの?」という感じになってくる。例えば、きっかけとして語った「秋葉原」であるが、実は「秋葉原」単独ではない。「秋葉原、水道橋、飯田橋、春日、白山」となる。かなり広いのである。JR線でいうと、総武線の秋葉原から飯田橋は4駅分である。一方で、荻窪と西荻窪は全く別扱いだったりする。
そして、この200万円未満の男性がここを選んだ理由について、「年収の低い男性は現実の女性をゲットする自信がなく、漫画、アニメに逃避し、漫画、アニメの豊富な街に住みたがるのです」という。そうなのかな? そもそもの問題として、この調査、理由については何も調べていない。こういうと何だけど、「どの街に住みたいですか?」と聞いたときに「その理由は何?」と聞けば、その理由は簡単に明らかになるのではないだろうか? 「通勤に便利」「趣味に便利」「子育てに向いている」……とか、選択肢を用意すれば簡単に調べられるはずなのに、なぜか理由については著者の偏見だけで語られてしまう。
もう一つ、疑問があるとすれば、回答者の属性を考えるときに、大事な部分を聞いていないのではないか? という点である。それは「職業」。本書の中で、回答者をその属性別でクロス集計すると書いたわけだが、その集計の際、男女別とか、年齢別、現在の住所などを聞いている。そして、後半の女性の好み云々になると、「コーヒーや紅茶を豆や葉からいれる人」とか、「ワインをよく飲む人」だの、やけにニッチな属性まで聞いている。ところが、「職業」という観点を聞いていない。これだって、職業を「公務員」「正規の会社員」「非正規の会社員」「自営業」「学生」などから選べ、とやれば比較的、簡単にカテゴライズできるのであるまいか? しかし、なぜか、その質問をしていない。もしくは、調べたけど、著者の結論に都合が悪かったので無視をしたのかもしれないが。
そして、その部分で考えたときに「年収200万円未満」が秋葉原~飯田橋、エリアを好むのって当然じゃない? と思えるのだ。だって、この地域って、都内でも有数の学生街だから。このエリア、明治大学、日本大学、専修大学、東洋大学、法政大学、中央大学、東京理科大学、二松学舎大学……とこれでもかと大学のキャンパスが並んでいる。厳密にはこの地域じゃないけどすぐ近く、を考えると東京大学とか、上智大学とかもある。学生で年収200万円以上ってなかなかないだろう、と考えると年収の低い男性が「秋葉原~飯田橋」エリアを選んだのは、そのカテゴリの回答者は学生が多いからではないか、ということも可能だと思う。まぁ、これも根拠がないのだが、「現実の女性をゲットできる自信がなくて、逃避している」などよりはマシな分析だと自分では思う。
と、これまで通り「なんだかなぁ」という分析ばかりであった。

そのうえで、私は著者についてこれまでは、分析も調査もめちゃくちゃだけど、ちゃんと結果をしっかりと示している、という点は評価をしていた。つまり、著者の結論にとって都合の悪いであろう部分も載っており、示された結果そのものに着目すると統計学的にはただの誤差だ、とかがわかる、なんていうことが多かった。都合の悪いことも示すというのは、これはこれで誠実だと思うのだ。
しかし、本書についてはその結果がほとんど示されていない。そのためそのような再分析ができないようになっているのだ。これは大きなマイナスとしたい。

最後に、上のデータについて公開されていないことが多い、とも関係するのだが、標本数1500というのは決して少ない数ではない。しかし、男性で、年収200万円未満というように細かくカテゴライズすると相当に人数が少なくなってくるのは間違いない。そのうえで、1%、2%の違いで「こうだ」というけど、単なる誤差ということも十分にあり得る、と指摘しておこう(冒頭の「秋葉原~飯田橋」は9.7%であり、2位の池袋は9.1%と、0.6%の違いしかない)

No.4259


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著者:市川憂人



真空気嚢という特殊な技術を用いて開発され、航空機の在り方を一変させた小型飛行船・ジェリーフィッシュ。試験運行中の新型ジェリーフィッシュが墜落し、開発者であるファイファー教授をはじめとした開発チームの面々が死亡した。しかし、そこに明らかな他殺体があったことから、事故ではなく、事件であると判断されるのだが……
第26回鮎川哲也賞受賞作。
「このミス」など、昨年末の各種ミステリランキングで上位に入っていた本作。当然、期待値を高く設定して読んだわけだけど……
正直、読み始めは「自分に合わないかも!」という感じ。というのは、登場人物は外国人ばかり、しかも、真空気嚢だの新型飛行船だの、さらには物理学だの化学だの……と出てきたものだから。最初の一章は結構、苦戦した。……が、読み進めていくうちに、その辺りについて知識がなくとも全く問題がないし、次々と舞い上がってくる謎にどんどん引き込まれた。なので、結論から言えば、面白かった。
物語は、事故が発生している当時、ジェリーフィッシュに乗り込んでいるウィリアムの視点。事故ののち、それを捜査することとなったレンたち。そして、模型屋でレベッカという少女に出会った私の視点。時系列を異にする3つの視点によって展開。
飛行中で、教授が死亡した。そして、内部での対立を含みつつ、雪の山中に不時着。早く救助が来なければ……そんなサバイバル状態になっているなかで、一人、また一人とスタッフは殺されていく。一方、事故を調査するレンたちは、明らかな他殺体の発見から調査を進めるが、そもそも、この試験運行は何のために行われたのか? すらわからない。当然、動機も……
この作品のすごいところって、謎の見せ方が抜群であるところだと思う。序盤は、3つの視点の中で、飛行船の中での事件が気になる。それはそうで、いきなり次々と人が殺されていく。しかも、別視点で全員が死ぬことも明らかなのだから。ところが、そうなっていく一方で、少しずつ刑事側の視点の「わからない」ところが明らかになっていく中で今度はそちらでの謎。犯人は誰なのか? どうやって? 何となく、動機はこうだろう、というのがわかるのだけど、じゃあ、その関係者は、というと犯人候補がわからない。そして、そういうものが脱出トリックの仕掛けに対する見事な目くらましに……
私が鮎川賞の受賞作を読むのは、大抵、年を越してからになってしまっているのだけど、昨年の鮎川賞は大当たりだったな、と思わずにはいられない。

No.4258


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(書評)妹さえいればいい。6

著者:平坂読



告白一つで人間関係がまるっきり変わってしまうことはない。けれども、その告白によって少しずつ関係は変化し始める。その一方で、伊月は、自らの作品のアニメ化というなかで多忙を極めていた。そして、そんな伊月の姿に那由他は……
てなわけで6巻目。前巻で告白の連鎖状態で終わったわけだけど、それを受けての人間関係の変化。一方で、伊月の作品のアニメ化に伴うお仕事部分。両方が庁といいバランスで盛り込まれている巻だと感じた。
まずお仕事方面でいうと、やはり伊月の作品のアニメ化に伴うアレコレ。アニメのキャストオーディションでのアレコレ。同じセリフをたくさん聞きながら、誰がキャストにふさわしいかを考える。でも、ただ「ふさわしい」だけで終わらない。アニメだけでなく、主題歌や挿入歌といった歌での展開。さらに、ラジオなどでの展開もある。キャストによっては歌NGとかがあるし、音楽会社との関係で権利関係が……ということも。それは、絶対にあるだろうし、また、そのうえで、スタッフと事務所の関係とか、そういうものまで……。先日、某アニメについての暴露話を目にしたばかりだけに、妙に生々しいものを感じた。
そして、そんな中で出てくる「フレッシュ」という言葉に気を付けろ! というもの。色のついていない声優を使えば。そこで成長してくれれば……。確かに、そういうと聞こえがいい。でも、結局、それって実績も演技力も足りない人を起用する、というだけ。作家の側からすれば、「なんで、俺の作品を新人の踏み台に提供しなきゃいけないの?」という思いは絶対にあるだろうな……
一方で、告白の連鎖の中で「振られた」面々。事後、だからこそ、それぞれの気持ちに周囲が気づいていたことなどを知り、その関係に変化の兆し。
その中で、那由他は……
というか、那由他って、伊月視点での話が多いから、社交的……というか、少なくとも人見知り的なイメージはなかった。でも、実は……。そして、伊月の作品のアニメ化での展開に触発され……。なんか、この流れでいうと、すでに人間関係の結末が出来上がっている気がするのだけど……それはいいのか? まぁ、千尋のことを伊月が知って、ってのは大きなポイントになりそうだけど……
ぷりけつ先生については……コメントを差し控えようと思う。彼こそが、千尋についてのポイントになりそうだとは思うが。

No.4257


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