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Vのガワの裏ガワ1

著者:黒鍵繭



「ママになってくれないかな?」 高校生でありながらも、プロのイラストレーターとして活躍する亜鳥千景は、ある日、クラスの中でも一番の美人と言われる海ヶ瀬果澪から、VTuberのキャラクターデザインを依頼される。彼女の熱意を受け入れた千景は同じく高校生イラストレーターの桐紗、自堕落な隣人で人気VTuberの仁愛を仲間に、「雫凪ミオ」プロジェクトを立ち上げるのだが……
第18回MF文庫J新人賞・佳作作品。
ということで、VTuberとして、果澪を売り出す、という物語。
個人的にはあまりVTuber……というか、YouTuber自体を見ている、という人間ではないものの流石に、こういう世界において芸能事務所というのが存在している……ということくらいは知っている。勿論、配信サイトに動画などをUPすること自体は誰でも自由にできる。しかし、事務所に頼ることなく、個人で人気の配信者になる、というのは非常に難しい。そんな中で、プロのイラストレーターである千景、桐紗らの知名度などを利用して……ということに。
覚悟を見せるために、学校の屋上でいきなりマイクロビキニになったり、はたまた、千景がデッサンのため……と女子に声をかけまくる。……なんていう辺りはラノベらしさを感じるのだけど、企画書から始まって、キャラクターデザイン。宣伝……そういう部分は現実的なところでの話が続き、そこを取れば、ライトノベルでなくとも十分に通用するタイプの話じゃないかと感じた。
そして、そういう過程を経ての雫凪ミオのデビュー。登録者10万人を目標にしていたが、それはあっさりと達成。さらに……といったところで、SNS上でミオの魂は……という噂が流れ始めて……
あとがきに、「センシティヴな題材を扱っている」という話があるのだけど、ある意味では、そうなのかも知れない。VTuberと、中の人というのは別物とか、そういう分け方、というのはあるわけだし。
けれども、一つの物語として考えた場合、こういう話というのも当然にアリだろう。VTuberに限らず、芸能人でも、作家でも、場合によってはセクシー女優であっても、それを「やろう」とする場合、そこには必ず本人の動機というものが存在するのだから。そして、それは常にポジティヴなものではなくて……なんていう場合も。果澪の置かれた状況。自分自身の存在に対する想い。そういうものが積み重なって……。
VTuberとしてどう人気者にしていくのか? そんなところから始まり、その背景にあるもの。それを受けての千景の行動。お仕事モノから始まって、最終的に青春モノへ、という流れと、それを上手くまとめ上げた点が素直に見事だな、と感じた。

No.6439

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Tag:小説感想MF文庫J黒鍵繭

英雄

著者:真保裕一



7年前に死んだ母が、何も告げることなく隠していた父。そんな植松英美の父は、大企業・山藤グループの総帥で、昨年の4月に何者かに射殺された南郷英雄である、ということを知らされる。今まで何も知らなかった父。突如として、遺産相続の権利を得てしまった英美は、父について調べることにするのだが……
物語は、英雄がどういう人物であったのか、というのを調べる英美を描く現代パートと、彼女が話を聞きに行った人物の目を通して描かれる過去パートという二つを中心に描かれていく。
運送業を皮切りにして、一代にして山藤グループを作り上げた南郷英雄。元々は吉藤という苗字で、婿養子となった英雄。女性関係は派手で、色々な女性と浮名を残し、一方で経営者としては冷徹で、時には付き合いの長い会社であっても切り捨てる。業績の拡大のために、時には違法ともいえるような行為すら……。そんな英雄と母の出会いから過去パートは始まっていって……時代は遡っていく……
時系列でいえば、冷酷な経営者として描かれてきた英雄の、その出発点は何だったのか?
一方で、現在パートの中では、不祥事などに揺れ、経営の危機にもある山藤グループ。経営者である南郷家の中でも、その遺産を巡ってそれぞれに立場の違いがある。そんな南郷家の思惑にもだんだんと巻き込まれていく。しかし、その中で浮かび上がっていくのは、英雄についての謎。そもそも、彼を殺したのは誰なのか? から始まって、なぜか嘘が書かれている社誌。さらに、「山藤」を英雄と共に起こした山波という人物の存在感のなさ……。それらは一体何なのか? へと繋がっていく。
戦後の混乱期、最底辺の生活をしていたところか始まり、会社を興し、時に違法な行為を行う。時に暴力団などとも関係性を持ち、時に政治家らとの間でうごめき……。そんな泥臭さとも繋がっていた時代。さらに、その中で働く者たちもまた、時代の空気の中で動く。現在のように監察制度などもなく、ある意味ではイケイケな時代の中で不正なども見逃されていた。そんな時代の空気を強く感じる。
ただ、そんな過去パートと比べると現代パートはやや平坦な印象なのと、遺産相続をめぐるアレコレがちょっとなぁなぁに終わってしまった感じがする。しかも、なんか、妙にきれいな形で終わったし。過去パートの迫力はあったのだけど、現代パートを含めた一つの物語としては、ちょっと物足りない感じがする。

No.6438

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Tag:小説感想真保裕一

怪盗フラヌールの巡回

著者:西尾維新



亡き父は、大怪盗だった! そのことを知った弟は失踪し、妹は精神に異常をきたした。傷ついた弟、妹のため、長男である道足は、「2代目・怪盗フラヌール」を襲名。父が盗んだものを返却することに。今度の返却物は、竜宮城から盗んだ玉手箱!? そこは海底に作られた学生のいない大学。そして、父の宿敵だったベテラン刑事と、新世代の名(ウルトラ)探偵が。しかも、不可解な事件まで起こってしまって……
これは、新シリーズ……なのか?
物語の筋は、冒頭に書いた通り。ただし、普段、道足は、ルポライターとして活動をしており、それは父の(表の)職を継ぐ、ということ。そして、ベテラン刑事の東尋坊は、父の友人でもあり、また、道足にとっても実の父のように慕っている相手。一方の名探偵・虎春花とも旧知の仲で、警察の不正などを何度も暴いているために、警察へは出入り禁止とされている状況。そんな面々が揃った海底の研究施設で事件が……
そもそも、父が盗んだ玉手箱は「開けてはならない」とされていて、その正体はよくわからない。そして、この施設そのものも……。施設の中にいるのは、6人の研究者たちと、東尋坊を含めた警察官3人、道足、虎春花の合計11人。玉手箱の正体を探るためにも、ライターとして研究者たちに取材をしながら、玉手箱を返却する機会を狙うが……
研究者たちには研究者たちなりの鬱屈した想いなどがあり、また、それは道足自身もそう。施設は、特殊な環境にはあるものの、どうやら医学を中心に研究している施設らしい。だが、何かを隠している様子が見受けられる。それが、事件によって明らかになり。
物語のテーマとすれば、善意と悪意の危うさ、みたいなものなのかな? と。父が盗んだものを返すために、2代目の怪盗となった道足。勿論、父がしたことへの罪悪感とかもあるし、(特に)精神に異常をきたした妹への想いもある。と同時に、父のしたことの贖罪という側面もある。しかし、手箱の正体が事件を招く、という皮肉な結果に繋がってしまう。さらに、父の正体が判明したことで、怪盗となった道足とは別に……
道足の行動が、様々な形で皮肉な結果になっていく様、というのが本作の見どころじゃないかと思う。ちょうど、覆水盆に返らず、という諺のように。
終盤の事件解決とかは、ある意味、著者らしく、何か「あれ?」というような部分もあるのだけど、物語の転がし方が印象に残った。

No.6436

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Tag:小説感想西尾維新

のくたーんたたんたんたんたたん

著者:ムラサキアマリ



父を殺した「亡霊」に復讐をすべく、暗殺者「死神」として活動をする緋野ユズリハ。彼が「死神」として活動をするのは、その「亡霊」の情報を手に入れるため……。そんなユズリハは、仕事として一人の少女を殺した……はずだった。だが、悪魔と契約した、というその少女・山田ハナコは何度殺しても立ち上がる。そして、そんな中で、「惚れてしまった」と言い出し……
第18回MF文庫J新人賞・最優秀賞受賞作。
ヒロインである山田ハナコさん、かなりけったいな奴だなぁ……。まずは、そんなことを思う。
物語の中心は、父の仇を討つために、「死神」として暗殺を続けるユズリハ。当然、自分が暗殺者であることがバレないように表の顔を繕い、そして、様々な依頼を受ける。そんな中に、彼に「惚れた」というハナコが加わる。不死の身体を持つ彼女だけれども、成り行き上、ユズリハの組織に加わることになり、ユズリハの相棒……というか、ユズリハの下での見習い的な立ち位置に。
「自分はユズリハの妻」というのを自称し、とにかくひたすらにグイグイと来る。さらに、普段から言動はエキセントリックで、周囲を引っ掻き回す。さらに、(文字通りの意味で)殺しても死なないので、例えば、行動を制限しようとして、縛り上げたとしても、舌を噛み切って死亡し、その離れた舌から再生して脱出してしまう。よく、ヤンデレとか、そういう言葉で言われるヒロインがいるのだけど、殺しても死なないって属性が付くと、こんなにも凄くなるのか、と笑ってしまった。
ただ、物語本編の部分は結構シリアス。ハナコに引っ掻き回されながらも、殺し屋などを追い、そして、「亡霊」の影を追う。そして、これまで、全くと言ってよいほど情報がなかった「亡霊」の足跡が見え始め、そして、対峙したのは……
ハナコの性格が、色々とアレなので、あまり強く考えなかったのだけど、作中のポイントとなる「悪魔との契約」。その契約がもたらす皮肉な結果。それは、「亡霊」の側にもあった。だからこそ、「亡霊」が取っていたもの……
ユズリハの想い。ずっと、エキセントリックなギャグキャラそのものだったハナコが、実はしっかりと彼の本質を見抜いていた、という部分。この辺りのカラーの変わり方は素直に上手い。そういう部分も含めて、ハナコのキャラクター性があってこそ、という風に思う。シリアスとギャグ。双方のバランスがしっかりとしているからこその本作じゃないかと思う。

No.6436

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Tag:小説感想MF文庫Jムラサキアマリ

著者:岡崎琢磨



珈琲店タレーランのバリスタ兼店長である美星と、恋人として付き合いを始めたアオヤマ。そんなタレーランに舞い込んだのは、カフェイベントへの出展依頼。しかし、そのイベントにタレーランを紹介したのは、かつてのバリスタ大会での因縁があるイシ・コーヒーの石井。何か信用しきれない思いを抱えながらも出店を決めるが、イベント初日から妨害事件が起こって……
本書の冒頭にも、「過去のエピソードの内容に言及する部分がある」と書かれているのだけど、厳密には3巻の内容がそれにあたる。そして、石井が、その事件にもかかわっている……
ともかく、そんな石井の紹介もあって、カフェイベントへの出店。6店のカフェが参加することになった2日間のイベント。しかし、初日から、その参加店が使うフィルターに切り込みが入れられる、という妨害が。しかも、その場には、「チャンピオンは我々がいただく」とのメッセージが……。もしかして、参加者の中にその妨害者が? しかし、やり方を考えれば、どの店にも工作を行うチャンスがあった。さらに、2日目にはタレーランのブースでも……
妨害工作をすることが出来たのはいったい誰なのか? 美星の助手として、調査をするアオヤマだったが、彼自身が妨害者とされ、ついにはクビを宣告されてしまい……
どうやって工作をすることが出来たのか? 位置関係やら何やらで……っていう流れは本格モノのそれ。けれども、その中で描かれるのは、物理というよりも心理トリック。そして、その背景にあったのは……。正直なところ、相変わらず「軽い奴」だなぁ、としか思えないアオヤマの行動があるんだけど、そこにもう一つのトリックが仕掛けられていたとは。これは完全に予想外だった。
その上での犯人の動機。犯人自身が言うように、完全に八つ当たり。嫉妬。そんなもの。けれども、そういう感情を止めることが出来ない、というのが人間。しかも、その相手が……となれば、まぁ、そのこと自体が傲慢と言えばそうだのだけど。
物語の中心は、アオヤマと美星の関係という印象ではあるのだけど、事件そのものは結構、ほろ苦いものがある話であった。

No.6435

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Tag:小説感想岡崎琢磨

著者:辻谷秋人



日本競馬、障害競走の最高峰・中山大障害。そのレースの四連覇を達成し、ヨーロッパ遠征を敢行。世界最高峰の障害レースと言われるイギリス・グランドナショナルに挑戦をした名馬・フジノオーと、その周辺について綴った書。
自分でいうのも何だけど、小説じゃない本を読んだのって、物凄く久々な気がする。
本書は、中山大障害の創設、フジノオーの馬主・藤井一雄の挑戦というところから始まり、フジノオーの競走馬デビュー、障害の王者への道。そして、海外遠征へ……というような流れでその当時のことが綴られていく。ただ、その中で、色々と解説だとかも綴られていくので、障害競馬についてあまり詳しくない人でも、基礎知識とかそういうのを含めて理解できるんじゃないかと思う。
で、自分自身としては、その中の断片的なエピソードとか、そういうものは知っていたのだけど、それらをまとめた形での流れ。そして、勿論、「そうだったのか!」という発見が多い読書だったな、というのがまず言える。
例えば、中山大障害の創設そのもの。中山競馬場のレースというと、有馬記念があるけど、有馬記念は中山競馬場にはマニアックな中山大障害はあるけど、目玉となるような大レースがないから作ってほしい、という要望に応える形で始まったのは有名な話。しかし、その中山大障害は、東京競馬場のダービーが平地の最後方なら、こちらは障害の最高峰を、として作られたレース。そのため、賞金はダービーと同額という破格の条件で、というのは知らなかった。この時点で既に新たな発見だった。
その次に印象に残ったのは、馬主・藤井一雄の挑戦と、当時の競馬社会の情勢。当時、競走馬の輸入というのは誰でも出来るものではなく、限られた資格を持つものしかできない事業。そこに20代の若造である藤井が入っていった。しかも、藤井は、競馬会の旧弊とした制度などにも噛みつくような性格。競走馬を輸入はしたものの、なぜか馬主申請が通らない。それは、藤井を煙たく思っていた関係者が多く、そのせいで邪魔をされていた。しかし、郷土の有力政治家・佐藤栄作が手を貸すとあっさりと……。一方で、藤井自身は、というと本来は部外者が入れないはずの競馬場で馬に乗っていたり何やら……。「昔の競馬界は緩かった」という言葉はあるんだけど、本当、現在では考えられないようなこともまかり通っていた、というのが印象的。
そして、いざ、フジノオーのデビュー。障害に転向し、やがて絶対的な王者へ。そんなときに出てきた、フジノオーを排除するような、負担重量ルールの変更。さらには、勝ち抜け制……。丁度、日本の競馬ではオジュウチョウサンという圧倒的王者がいよいよ引退へ……という話が出ているのだけど、当時、「毎度、フジノオーが勝ってつまらない」というような話が出ていたのは興味深い。オジュウチョウサンは、その絶対的な強さによって。障害レースの人気を押し上げたのだけど、当時は……。まだ、スポーツというよりも、賭け事、という面が強調された時代だったから、だろうか?(勿論、当時は高配当が狙える馬券が少なかった、なんて影響もありそう)
……なんか、滅茶苦茶長くなってきたので、海外遠征のアレコレなどは、読んで、的に短めにまとめようと思うのだけど、いざ海外遠征が決まったときに東京競馬場で出てしまった馬伝染性貧血の影響による物凄く迂遠な輸送。グランドナショナル出走はいいけど、そもそも、グランドナショナルって何? 的な当時のメディア、関係者の混乱を示唆する報道の数々。当時の時代背景とか、そういうものをリアルに感じられる。
フジノオーは、日本の競走馬の海外遠征の歴史、というのを語る際に絶対に欠かせない馬ではあるのだけど、出走履歴とか、そういうものではなく、当時の様々な事情などを交えての解説は、読んでいて非常に面白かった。

No.6434

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Tag:小説感想辻谷秋人

ちいさな君と、こえを遠くに

著者:ツカサ



「奇跡の声」を持ち、大人気バンドのボーカルを務めていた藤波奏太。しかし、その声を失い活動休止。地元を離れ、普通の高校生として暮らそうとする彼は、学校のボランティア委員会に誘われる。ボランティアとして参加した児童館での朗読。その朗読を聞いた小学生の少女・ソラから、「わたしに声優になるためのレッスンをしてほしい」と頼まれ……
「小学生ヒロイン企画」という言葉は何だし、何なら、主人公が大学生とかでヒロインが高校生とかでも成立する話だとは思う。
で、冒頭に書いたように「声優のレッスンをしてほしい」と頼まれ、そのレッスンをすることに。奏太が認めるように、彼はミュージシャンとして活躍をしたことはあるが、声優ではないし、演技のプロでもない。それでも、というソラの声に応えてボイストレーンイングなど、レッスンの面倒を見ることに……
ハッキリ言って、バンドのボーカリストが声優のレッスンをすることができるの? という気はする。するのだけど、その設定などがギリギリの線で破綻しない程度のラインを保っているのがまず上手い。演技の経験などはない。ただ、ボーカリストとしてボイストレーニングなどの経験はある。つまり、声を出す、という技術に関してはプロである。また、役に入り込む、ということに悩むソラに対しては、BGMを演奏する、ということでその役について入り込ませる。この辺りも、ミュージシャンだった、ということが上手く活かされている。現実として「できるのか?」はともかく、ちゃんと説得力を持たせる形になっているのは流石。そして、そんなソラのレッスンに、仲間も加わっていく。目指すは、気鋭の映像クリエイター・南エレナの新作のキャスト。だが、当のエレナがいうのは……
皆でレッスンをする中での、周囲に対するソラの劣等感。さらに、ソラたちが目指すエレナ作品への出演。しかし、当のエレナの口から出る、オーディションで決める役は、あくまでも端役という言葉。それでも、絶対にあきらめたくないソラたち。そんな姿は、自分の「声」を失い、自分の夢だったミュージシャン、ボーカリストという立場を失った奏太自身の在り方にも反映されていく……
小学生たちに囲まれて、慕われて……というようなところは、かなりあざとい設定にはなっているのだけど、物語そのものはすごくまっすぐな青春モノ。そして、先に書いたように、(実際に可能かどうかは別にして)ちゃんと説得力のあるもの。これらを250頁という分量の中で過不足なく描き切る。完成度の高い作品だと思う。

No.6433

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Tag:小説感想講談社ラノベ文庫ツカサ

ネメシス7

著者:藤石波矢



風真たちから出生の秘密を聞かされたアンナは、そのショックから事務所を飛び出してしまう。孤立したアンナに迫るのは、彼女の「遺伝子」を利用しようとする菅研の魔の手。菅研に囚われてしまったアンナを救出すべく、風真は仲間たちを招集し……
シリーズ完結編!
……なんだけど、正直なところ、明らかに旬を逸している気がする。
元々は、2021年4月~6月に放映されたドラマの監修をした作家陣による書下ろし、という形で6巻までがドラマ放映時期の2021年3月~6月にまとめて刊行。そして、なぜかそのシリーズ完結編(ドラマだと最終回)のエピソードに当たる本作が1年以上も経過した2022年10月刊行という変なスケジュール。ちょっと熱が冷めてしまった部分はあるかな? と。
ともかく、その内容について。
冒頭に書いたように、自分は遺伝子操作によって作られた存在であると知ったアンナ。しかも、そのことを風真、栗田らは知っていた。それにショックを受け、飛び出してしまったアンナ。親友である朋美が慰めてくれるが……実は彼女こそが菅研のリーダー。そして、アンナは朋美に拉致されてしまう。しかし、アンナの父の研究を解読するためのキーが足りず、菅研はアンナを人質にキーを持ってくるよう要求を出す。それに対し、風真は、アンナを助けるため仲間を集め、キーを探すことにするが……
これまでのエピソードで綴られた事件。どちらかというとドタバタとした謎解きモノという印象だった話なのだけど、その中のちょっとした描写が風真やアンナの父らの過去との繋がりがあった。さらに、アンナ救助のために動く面々。菅研側の要求するキーが何なのかはわからないが、しかし、タイムリミットが迫る。さらに、その「仲間」の中には裏切り者である朋美もいる。その緊迫感。その中で相変わらずのドタバタながらも、多くのキャラクターがそれぞれの持ち味を出して、という行動は楽しかった。
ただ、色々と凝った設定がある割には、ちょっとアッサリ目の決着だったかな? 最初に書いたように、もうちょっと早い時期に出ていれば、という部分も併せて……楽しかったんだけど、より楽しめそうな要素はあったような気がする、というのも思ったり。

No.6432

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Tag:小説感想講談社タイガ藤石波矢

アスクレピオスの断罪

著者:北里紗月



千葉市内の公園で発見された男性の遺体は、3年前、強姦事件の加害者として告発された医師だった。遺体には、拷問をされたような傷跡が遺されていた。かつて、自分の行動のせいで人を死なせてしまった、という過去を持つ刑事の承は、学生時代の友人で解剖医の衣春、先輩刑事の真壁と共に捜査を開始するが……
著者の作品で、初めての江戸川由紀シリーズ以外の作品。ただし、捜査に加わる解剖医の衣春のキャラクターは、江戸川由紀と通じるものがあるように感じたけれども。
冒頭に書いたように、千葉市内の公園で発見された遺体。それは、3年前に、強姦事件を起こした、とされる医師。だが、被害者はその事件に際して、ネット上での誹謗中傷を受け、事件は有耶無耶に……。そんな中での遺体発見。当然のように、疑いは、3年前の被害者と、その父親。特に父親はアリバイが曖昧で、疑いは濃い状態に……。一方、解剖医の衣春は、その傷跡は拷問としても奇妙であると主張。何かチグハグな状態。そんな中、やはり同じように奇妙な傷を負った医師の遺体が発見される。その医師は、最初の被害者がかつて勤めていた大学病院の教授で……
最初は、強姦事件の復讐と思われた事件。しかし、第2の事件によってそこが混迷してくる。第2の事件の被害者は、患者の話をよく聞き、穏やかな性格で慕われている人物。同じ大学病院の上司と部下だった、という共通点はあれど、評判は真逆。では、一体、何なのか? そう思われた中、最初の被害者が大学病院を辞めたきっかけ(強姦事件は、大学病院を辞めた後のもの)がクローズアップされてきて……
これまでの作品でも、著者は医療ミステリーを書いている人物なのだけど、過去3作は病気の理由とか、そういう部分をメインにした話。一方、本作は医療現場の問題点を指摘するような話と言える。
患者の言葉に耳を傾け、多くの手術などを行ってきた第2の被害者。しかし、そんな名声とは別の指摘をされる部分があった。だが、そのことを問題視し、訴訟に、と言ってもそれは極めて高いハードルが待っている。医療行為、治療行為というのは何なのか? 普通の人間が、誰かの身体に刃物を入れれば、それは傷害、場合によっては殺人になってしまう。医師という立場の人間は、それを許された例外的な資格を持つ人間。そのために、医師にはモラル、倫理観が求められる。でも、それをかなぐり捨てた存在がいたら……
しかも、それを取り巻く環境というのも大きく影響をする。病院だって、これは商売である、という部分がある。多くの患者を受け入れ、手術などをする医師というのは「稼ぎ手」として経営には欠かせない。また、人間が作る組織には派閥やらの人間関係が……。火の粉は被りたくない。面倒ごとは嫌。そんな環境からの見て見ぬふり……。この辺りは、学校におけるイジメの問題とか、そういうものとも共通するものがあるだろう。
正直、終盤、あまりにも人が殺され過ぎだ、と思うところはあるのだけど、医療という「聖域」と、しかし、そこにいるのも人間。そんな状況というのを意識させられる話だった。

No.6431

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Tag:小説感想北里紗月

著者:香坂マト



『リーティアン』。それは、誰もが憧れる夢のリゾート地。職員旅行の幹事となったアリナのサービス残業と努力の果てに、予算内ですべてを収め、見事、イフールカウンターの旅先に決定! 夢のリゾート地での一泊二日を楽しみ、1日目のベッドへとダイブだったが、アリナが目を覚ますと、再び1日目で……
読んでいて、まず思ったのって、「これ、完結編か?」っていうことだったり……。そんなことはなかったのだけど。
冒頭に書いた通り、有名リゾート地であるリーティアンへの職員旅行を勝ち取ったアリナたち。幹事として尽力したアリナは、護衛役であるジェイドらの協力もあって、楽しみながらその1日目を終えることが出来た……はずだった。しかし、目が覚めると再び1日目。どうやら、同じ時間軸をタイムリープしているらしい。もう一度、やり直したが、やはり同じ時間軸。何かを変えねば、そこから抜け出せないらしい。ならば、と、眠る寸前に始まったイベントで時計塔を破壊してみたりするが、やはり同じ……
という、タイムリープものとして物語が始まる。しかし、それを繰り返す中、ジェイドもまた、同じ時間をループしていることに気づき、さらに、ループに気づいた二人の前に「予言の巫女」が現れて、事情を説明し始めるが……
という前半はいつものノリかな? という感じ。本当に、ジェイドを使い潰すがごときアリナのアレコレ。さらに、皆が恐れ敬う「予言の巫女」に対して全く意に介さずに言いたいことを言うアリナといかにもこの作品らしいやりとり。けれども、予言の巫女が語る過去。さらに、魔神の存在。その魔人の中には……。そして、アリナが冒険者には絶対ならない、と決めたかつての知人の存在……と、過去のエピソードの中で示されてきたものが集結していく。アリナが気づいていないもの。アリナがこうなるきっかけとなったもの。そういうものがすべて混在して事件を解決に……という流れは読んでいて「あ、これで物語が完結するんだろうな」という風に思えてならなかった。
そうじゃなかったんだけど。
まぁ、言い換えれば、それだけの集大成的な話であった、ということ。
ある意味で、次巻では新展開が待っているのかな? という風にも感じる。

No.6430

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Tag:小説感想電撃文庫香坂マト