(書評)賭博師は祈らない

著者:周藤蓮



18世紀末、ロンドン。負けないこと、勝ち過ぎないこと、をモットーとする若き賭博師ラザエルは、誤って手に余る大金を手にしてしまう。そこで仕方なく購入したもの。それは、奴隷の少女だった。喉を焼かれて声を失い、決して逆らうことがないように調教された少女リーラ。放り出すわけにもいかず、ラザエルは彼女に教育を施しながら、メイドとして雇うことにしたのだったが……
第23回電撃小説大賞金賞受賞作。
あ、自分、この作品好きだわ! 読みながら、まず思ったのがそんなことだったりする。
粗筋ではロンドンと舞台が明記されていて、ロンドン塔だの何だのと言った場所も登場する。ただ、物語としては、あくまでも産業革命などが進み、その中でギャンブルというものが庶民の間にも広まりつつあった時代……くらいのイメージで十分だと思う。そんな時代に、冒頭に書いたような形で、リーラを引き受けることとなって、という物語。
そんな中で、当初は、リーネをどうしたものかと戸惑うラザエル。その中で、イカサマを暴く仕事だとか、はたまた、筋肉バカの拳闘士・ジョンや、女性にすぐに手を出す賭博仲間のキースといった面々とのやり取りという者がつづられていく。無口キャラというか、文字通りしゃべることができないリーラ。当初は、自分の意志すら見えなかったそれが、上に書いたような日常の中で少しずつ感情を手にしていく。そして、何に対しても「どうでもいい」が口癖のラザエル自身も、少しずつ彼女のことを意識するようになっていく。そんな過程がすごく丁寧に描かれていて、ラザエルと同じように読んでいる自分自身も、だんだんとリーラが可愛いという風に思えていくのがすごい。
それと、自分自身、競馬とかやっている人間として、ギャンブルの話がしっかりと描かれているのが良いなぁ、と感じた。ルールとか駆け引き、っていうのもさることながら、運任せに見えて、実のところ、ギャンブルの仕組みとか、イカサマの方法とか、合理性が要求される部分って実はかなり存在している。そういうのをしっかりと描いており、それがタイトルにも繋がっているあたりは、本当に見事。
ストーリーの流れは、決して目新しいものじゃないと思う。でも、登場するキャラクターたちの魅力、そして、その心情の変化をしっかりと描き切る。そういうところがしっかりとした作品と言えるだろう。

No.4336


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(書評)傷だらけのカミーユ

著者:ピエール・ルメートル
翻訳:橘明美



朝のパサージュ・モニエで起きた宝石店強盗。偶然、その出撃準備を目撃してしまった女性・アンヌは、重傷を負い、さらに強盗は執拗に彼女を追う。そして、そのアンヌは、カミーユ警部の恋人であった。2度と愛するものを失いたくない。カミーユは、アンヌとの関係を隠し、その強盗犯と戦うことを決意するが……
悲しみのイレーヌ』、『その女アレックス』に続く、カミーユ三部作最終章。日本では『その女アレックス』が先に刊行されたわけだけど、物語的に、最低限『悲しみのイレーヌ』は読んでおいた方が良い。完全にその物語が前提として描かれているため。
物語は、カミーユ、アンヌ、襲撃者という3人の視点を主軸に展開する。
「刑事として」の仕事を優先した結果、妻・イレーヌを喪ったカミーユ。それと同じ想いは二度としたくない。故に、自らとアンヌの関係を隠し、襲撃者を追う。元々、上からの命令無視も辞さないカミーユ。その行動は、その想いによってさらに暴走していく。そして、それ故に、警察内部でも孤立していく……
一方の襲撃者。冷静で、しかし、暴力的。なぜ、アンヌを執拗に追うのか? 当初は、目撃者であるアンヌを消せば……。しかし、早い段階で、彼と思しき人物は判明する。しかし、一度は引退したはずなのに、なぜ彼は再び事件を起こしたのか? しかも、当初は目撃者を消すため、だったのに、バレてしまったはずなのに、それでも執拗にアンヌを追うのは何なのか? そして、そんな襲撃者の存在に怯えるアンヌ……
追う者と追われる者。かなりえげつない暴力をふるって迫ってくる襲撃者の恐ろしさと、強引な方法で襲撃者を追い、自らも追い詰められていくカミーユという構図でかなりサスペンスフルに物語が進行していく。というか、物語冒頭、アンヌがどのように事件に巻き込まれたのか? 事件後に、防犯ビデオか何かの映像で追っていくカミーユという形で始まるのだけど、この時点でぐんぐん引き入れられた。暴力描写はかなりえげつないけど。
そして、その事件を追う中でこの著者らしく、ひっくり返しがあるのだけど……その結末があまりに無常。
妻を失い、傷を抱えていたカミーユ。だからこそ、アンヌとの関係が始まった。しかし、それは……
今作の事件で刑事としての立場、将来も危うくなり、しかも、新たな傷がもう一つついてしまったカミーユ。文字通りそれは「傷だらけ」。
この後、彼がどうなったのか? それが気になって仕方がないけど、でも、ここで終わるからこその余韻ということも言えるのだろう。

No.4335


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(書評)パイルドライバー

著者:長崎尚志



神奈川県金沢区の閑静な住宅街で発生した一家惨殺事件。その事件は、15年前に発生し、未解決のままに終わった事件に酷似していた。しかし、細かなところには差異も……。同じ犯人なのか、それとも模倣犯か? 刑事としての自分に自信が持てない中戸川俊一は、15年前の事件の捜査を担当した元刑事・久井と組んで、15年前の事件を追うことになるのだが……
結構、大ぶろしきを広げてきたな、というのが読みながら何よりも思ったこと。
物語は、俊一と久井がコンビを組んで15年前の事件関係者にあたるところから始まる。一家惨殺事件の被害者である少女の同級生たち。当時、中学生だった彼らは、現在は三十路を手前にした存在。その中で、久井が見るのは当時、自分が感じていたことは本当なのか? 中学生だったころではなく、現在になって話を聞くことで見えてくるものがある。そんな手堅い方向で捜査を進める中、15年前にも「自分がやった」と出頭してきた男が再び出頭してきて……
この辺りから物語が思わぬ方向へ。薬物中毒で、ただの妄想と思われる男の言葉はどこまで信じられるのか? しかも、その男が警察署の前で殺害されてしまう。そして、その男は、ある人物から脅迫され、殺人を強要されていた。その脅迫者は……
著者の作品は初読みなのだけど、浦沢直樹氏と組んで漫画の原作などをしていた方、ということでその予測のつかない方向へ物語が舵を切っていく様にこちらも完全に振り回された。15年前と現在。そんな時間軸の違いがテーマかと思えば、ISISなどと難民という問題にも近づき、さらに司法と政治というところへも動いていく。正直なところ、これで話がまとまるのだろうか? と途中、心配になったくらいだし。
なので、何がテーマなのか? というと、「これだ」と言い切れないところがあるのだけど、私は周囲の人間が騒ぐことによって肥大化してしまう、という部分に怖さを感じた。ネタバレと言えば、ネタバレになってしまうのだけど、大本の事件は、素直に言っていればすぐに解決したはずのもの。ところが、その周辺の人物を巡って政治的な駆け引きが始まり、ひっこめることができなくなり、それが時間を経て新たな事件への火種となる。終盤、事件をかき回した存在を久井が叱り飛ばすシーンは、そのことを強く感じさせる。
かなりぶん回されるので読んでいて疲れるけど、でも、読み終わって面白かったと思える。そんな作品じゃないかと思う。

No.4334


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著者:清野静



「わたし、木佐谷樹軍乃は、あなたのことが好きです」 ドルチェ開店の日、ぼくは軍乃に告白された。ぼくを慕ってくれるロンドと、軍乃、いきなりリア充生活がはじまった。そんなとき、朱音儀チヅル、蒔田ヒルガオとも知り合い……
一応、話としては完結編。なんつーか……すっげぇ勿体ない。今さら感想を書いている奴が言うな、とツッコミ食らうかもしれないけど。
結構、物語としては前後半で攻守交替が行われているような感じ。
前半は軍乃のターン。積極的にログへとアプローチをかけてくる軍乃。しかし、そんなとき、突如、ドルチェをやめると言い始めた。なぜならば、自分が超能力を使うところをチヅルに見られたから、という。そして、二人でチヅルを尾行するのだがなぜかいつもまかれてしまう。一方、後半は、ロンドが正式な魔女の後継者となるべく、長老会議へと出席を目指す、という話。
前巻の感想で、軍乃を『物語』シリーズの戦場ヶ原さんっぽい、ということを書いたのだけど、今回、ますますその思いを強くしたり。基本的に、ログに対してちょっと攻撃的な発言をしながら自らの好意を表明していくのだけど、結構、打たれ弱い。そして、ピンチになったり、はたまた、ストレートに迫られると弱い。チヅルとのやりとりとか、そういうのも含めて、実際に付き合うとなると面倒くさそうだけど傍から見ている分にはかわいい。そんな感じがより強く思えた。
そして、そのような中でポイントとなるのは、「恋をすると、超能力が消える」というもの。
軍乃からの積極的なアプローチを受け、もちろん、軍乃のことは嫌いじゃないログ。しかし、自らの超能力は……。一方、そんなログは長老会議へ出るロンドに協力する。こちらもロンドの力は落ちる気配がない。超能力者と魔女は似て非なるもの、とは言え……
ちょっと駆け足気味ではあるけど、ある意味、三すくみ的な関係で、「落ちる」はずの超能力が健在、という中で、自分の気持ちを考え、結論へ。概して爽やかな雰囲気の中で、ちゃんとタイトルの部分についてまでしっかりと描き切ったのはよかった。ただ、三角関係というのもあっただけに、軍乃とロンド、仲良しながらも、ちょっとしたところでログを取り合うとか、そういうシーンとかも見てみたかったな、とも同時に思う。
しっかりとまとまっていると思う。でも、キャラクターが良いだけに、もうちょっと見てみたかった。

No.4333


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(書評)希望荘

著者:宮部みゆき



家族、そして、仕事を失った杉村三郎は、東京都北区に探偵事務所を創立する。そんな事務所へ舞い込んだ事件4編を描く作品集。
一応、連作短編ってことで良いのかな? 各編ともに100頁くらいあるわけだけど。一つ言えることは、これまで3作のシリーズは長編なのだけど、その長さゆえに冗長と感じられる部分が多かった分、このくらいの分量になった方がテンポが良くて読みやすい、ということだろうか。ただ、本作の場合、過去3編の物語の中身がそれぞれ関わってきているのも確かだが。
老人ホームで亡くなった父が、死を目前にしたときに言ったという「人を殺したことがある」という言葉。それは本当なのか? という表題作。
その時代に、その人が住んでいたエリアで未解決の事件があったのか? そのようなオーソドックスなアプローチで調査を進めていくわけだが、むしろ主眼は、三郎と調査対象たる人物の類似点。若き日に、金持ちのお嬢さんと婿入での結婚し、長男を儲けたものの妻の浮気であえなく離婚。家を出たのち、依頼主と男は30年間にわたって音信不通。事件はその間……
依頼主から見て、決して粗野とか、そういうことはなく、尊敬できる父親だった男。しかし、過去が過去。浮気をされ、家を追い出された傷跡はあったはず。それが爆発していてもおかしくはない。そして、同じような状況にある三郎にとっても……。真相自体はほっとできるものなのだけど、現在進行形で当時の男に近い状況にある三郎の心情がなかなかに痛い。
作中の時系列が2010年くらいと、初出が2014年~15年の割に古い時代だな、という感想を持っていたのだけど、その理由が明らかになる4編目『二重身』。2011年3月11日に起きた東日本大震災、三郎の事務所も被災した中、やってきたのは母の付き合っていた男性が行方不明になった、という少女。
ある意味、金持ちの道楽としてやっていた雑貨店。残ったバイトの証言によれば、東北の方へ買い付けに行くというのが最後だという。東北と言っても広く、もちろん、まだ生きている可能性だってある。しかし……
個人的に感じた2点。
まず、未曽有の災害があったからこそ見えなくなってしまう真実。覆い隠されてしまうこと。思い込み。この辺りのテーマの持ってき方の上手さ。おそらく犯人にとってもこんなことになるとは思っていなかったのだろう。でも、チャンスがあったらやってしまう。そんな人間の弱さというか、ずる賢さというか、そういうのを感じる、ということ。
そして、その犯人と被害者の意識の食い違い。比較的近い距離にいた両者。しかし、片方はそもそも歴然とした違いがあるとみていて、片方は自分でも、と思っていた。この辺り、三郎の事情と近い……とは言えないものの、しかし、今多家と三郎という立場の違いのようなところにもかかっていたんじゃないかな、と思う。
先に書いたように、短編集になったことでテンポが良くなりシリーズの中では一番、読みやすく感じた。ただ、過去作のエピソードが特に三郎の心情として関わってくるだけに、これ単独でお勧めしづらい、というのも確かなんだよな……

No.4332


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「生け贄」

火星へと何とか逃れてきたマクギリスと鉄華団。しかし、マクギリスはギャラルホルンからの資格をすべて剥奪。鉄華団もまた、マクギリスと共に犯罪者としてマークされる存在へと落ちぶれた……

前回の逃亡劇から、今回はオルガの誤算といったところか。
犯罪者というレッテルを貼られたことにより、それまで受けていた各種の支援はことごとく打ち切り状態。しかも、口座などにあった資金もすべて凍結。さらには、先の戦いによって戦力そのものも枯渇。もはや、万事休すという中でオルガが考えたのは……

前回、オルガが覚悟を決めたと思ったのに、結局、それも独りよがりだった、というのは何とも皮肉。
オルガの下した決断。それは、鉄華団の解散。マクギリス、バリスはギャラルホルンへと引き渡す。勿論、オルガ自身もその首を差し出す。
しかし、ラスタルの回答はNo。
一度は地に落ちたギャラルホルンの名声。それを回復するには、犯罪者集団たる鉄華団そのものが生け贄となることで、治安維持をアピールせねばならない、という。オルガ一人の首では、すでに間に合わない状態になっている。
意気消沈するオルガ、そんな独りよがりなオルガに対する団員の反発。

今回の話、個人的にはイオクとザックという二人の印象が強く残った。

イオクは、これまでハッキリ言って滅茶苦茶な指揮とかをとっていたわけだけど、その数々の失敗。そして、そんな彼を導く「大人」としてのラスタルの存在。それがあってか、立場に甘えるのではなくて、一兵卒としてでも、自らの役割を果たしたい、というセリフが出てきたのは、彼の成長、というのを一つ描いた話。そして、それって導く存在がなく(ついでに言えば失った)独りよがりな存在になったオルガと対照的、というのを感じる。

一方のザック。今の状況で、出ていきたい奴は出て行った方がいいと宣言するオルガに「ついていく」という団員が大多数の中、ただ一人、その決断を愚かと言い放ったのがザック。
デインが指摘したように、そもそも、戻る場所がない人間ばかり、ということに気づかないなど、まだまだ視野の狭さはある。でも、今、このままついていっても犬死っていうのは決して間違った指摘ではないはず。そして、以前、おやっさんが言っていたように、彼のような視点を持った存在って絶対に必要なはず。最近、ようやくユージンとかがオルガに反対意見とかを言えるようになったけど、どちらかというとイケイケ系ばかり。一歩引いた視点を持っている存在がいないんだよね。ザックはそういう視点の持ち主。
こう見ると、やっぱりビスケットを喪った損失って大きかったと思える。

一筋の光明としては、地球へと戻り、アーブラウの協力を得て、団員の戸籍を書き換えること。
……なんか、これはこれでショボい解決方法だな、と思ってしまったのは秘密。




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(書評)君は月夜に光り輝く

著者:佐野徹夜



「発光病」、月の光を浴びると体が淡く発光するという不治の病。しかも、その光は死期が近づくにつれ強さが増すという。そんな病で入院しているクラスメイト・渡良瀬まみずのもとへ、クラスを代表して見舞いへ赴くことになった岡田卓也。ひょんなことから、卓也は、彼女が「死ぬまでにしたいこと」を代行することになって……
第23回電撃小説大賞・大賞受賞作。
え~っと、まず、益体もないことから書き始めると、非常に典型的なボーイ・ミーツ・ガール。それも、ハッピーエンドではなく、切ない結末を迎える、という系統での。そういう意味では、最近、自分がお世話になっているWEBラジオ「ラノベハスラー」様が提唱するところの「一夏のボーイ・ミーツ・ガール」モノの路線と言えるだろう(本作の舞台は夏だけじゃないけど)
ただ、ライトノベルなどの作品の場合は、主人公、ヒロインが出会って惹かれ合っていくのだけど、どちらかに決して相手に言えない秘密があり、その秘密が明らかになることによって切ない別れへと向かうというのがお約束。しかし、本作の場合、その秘密の部分がない、というのが特徴と言えると思う。あくまでも、主人公の卓也、ヒロインであるまみずの心境という部分だけで勝負をした作品になっている。
何しろ、冒頭、卓也とまみずが出会った時点でまみずは不治の病に侵されている、というのは明らか。卓也自身、それを知りつつ、まみずの「やりたいこと」を実行していく。まぁ、その「やりたいこと」は色々。離婚した両親の真意を探る、なんていうヘビーなものもあるにはあるが、どちらかと言えば、「本当にやりたいのか?」と思うようなもの、「その場で思いついただろ!」と思えるようなものが大半。カップルだらけの遊園地に行って、一人で絶叫マシーンに乗り、カップル用のパフェを食うとか、どんな嫌がらせだよ!(笑) でも、そんな感想を大笑いで聞くまみずに、少しずつ惹かれていく。
そして、そんな卓也の心にある思い枷。それが不可解な死を遂げた姉・鳴子の存在。姉の死から、母は病的に自分へと干渉し、卓也自身、姉の死の影響が一つの行動原理へと繋がっていた。そんなときに出会ったまみずの存在。一方、まみずにとっては不治の病というのが、全ての諦観となっていた。それが……
惹かれ合う二人、ではあった。しかし、終盤のまみずの言葉によって、出発点が真逆であったこと。それでも惹かれ合っていたことが明らかになったあたりで、完全に心を持っていかれた。冒頭に書いたように、作品の一種のファンタジー的設定で、という作品が多い中(もちろん、それを活かしきることは素晴らしいことだが)、心情描写という一点でここまで読ませるのは見事の一言。
「発光病」という存在はラストシーンのある部分以外では、それほど重要な要素ではない(現実に存在する別の病でも良い) でも、それがあるからラストシーンが映像的に思い浮かぶのだろうし、また、主人公の気持ちの切り替えにもつながったのかな? そんな風に思う。

No.4331


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(書評)いま、n回目のカノジョ

著者:小林がる



え~っと、最近、自分の小説感想の書き方である、最初に粗筋を書く、というパターンから外れた書き方をするケースが増えている気がする。本作も、その形にすることとする。だって、粗筋を書きづらいんだもの。
タイトルからもある程度、予想できるように本作はループもの。ただし、基本的に何もない、日常の中の一部がループするだけ。そんなループの事例(?)を描く形でつづられる。
登場人物は基本的に3人。ループの原因である少女・詩音。そんな詩音に付き合って、ループに巻き込まれる主人公・和人。そして、そんな二人と出会い、ループ現象に興味津々な、ぼっちキャラ流留。その3人のやりとりがメイン……ってところかな?
この作品の特徴は、基本的に「何もない」というところだろうか。同じ日を何度も、とか、そういうのは多い。けれども、本作の場合は、ループする時間は数分間程度。そして、そのループは何もせずとも解決してしまうことが多い。でも、先に書いた流留が加わったことで、積極的に解決をしようという方向へと動いて……でも、基本、ギャグ。
ある意味、この話って、選択肢を選んでいくゲームをやっているプレイヤーの心の声を描いている気がする。ループするのは、ある出来事が開始された瞬間からその結果までの時間。まず、その結果が何なのか? というのを予測し、そして、それをどう回避するのかと試行錯誤する。ゲームのプレイヤーは、もちろん、前の失敗はわかっているから、そうならない方法を考える。すると……。例えば、第2章、ループをするのは喫茶店で客が限定パフェを食べたとき。じゃあ、それを自分たちが食べれば……となる。すると、喫茶店のマスターに働きかけたり、その客に働きかけたり、はたまた、強引に奪い取ろうとして……。ノベルゲームだとあらかじめおかれた選択肢を選ぶだけだけど、実際に何でもできるとなると……こんな感じになるのかな? と感じた。
その中で、一番笑ったのは、ジェットコースターに乗ったときにループする第4章。そもそも、ジェットコースターが苦手な存在が、何度も何度もループする。しかも、当初、見立てた原因は間違い。そして、理由はわかったが、今度はそれを達成する条件がシビアすぎる。繰り返すうちに会話自体が成立していかなくなる流留とか、最終的に解決したときの解決方法のしょーもなさとか大笑いだった。
そういう中で、最後のエピソードだけはちょっと真面目で浮いている気がしたけど、これはこれで仕方がないかな? なんかギャグアニメの最終回が、意外と真面目みたいな感じで読み終えた。
まぁ、ギャグメインなだけに、ツボにはまる、はまらないは大きいと思う。私は好きだけど、イマイチという人も当然にいるんじゃないかな? とは思う。

No.4330


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(書評)恋のゴンドラ

著者:東野圭吾



里沢温泉、そのスキー場を舞台に男女8人の恋模様を描いた連作短編集。
本作を出版している実業之日本社で出している『白銀ジャック』『疾風ロンド』『雪煙チェイス』と同じスキー場が舞台であり、一応、時系列的には『雪煙チェイス』の前ということになる。
正直、うーん……という感じ。著者の作品というと、やっぱり魅力的な謎、ひっくり返しと言った謎解きメインのミステリ作品というイメージ。先に書いた同じスキー場を舞台にした作品でも、事件が起きて、テンポの良い展開によって読ませる部分が大きかった。しかし、本作はあくまでも人間関係が主軸。イマイチ、あっさりとした印象だけが残った。
正直、個人的な評価は高くないのだけど、その中で面白かったエピソードを。
同棲中の恋人に嘘をつき、合コンで知り合った女性とスキー旅行へやってきた広太。ところが、ゴンドラで乗り合わせた女性グループのその恋人が……(『ゴンドラ』) 勿論、広太の状況は自業自得そのもの。同棲しているだけでなく、事実上の婚約をしている女性を裏切って、だもの。しかし、そのグループで話題になっているのは、「恋人が浮気をしたらどうするか?」というもの。もしかして、バレている? そんな嫌な緊張感と、そして、さらにどうしようもない状態に陥る結末は……ある意味、圧巻。ある種のギャグ小説的な形で面白かった。
同僚の麻穂と結婚をした月村。麻穂の実家で、今度、機会があったらスキーを教えてほしいと言ったことから、スキー旅行に一緒に行くことに。しかし、その麻穂の父は徹底的なスノーボード嫌い。スノーボーダーである月村は、それを隠して旅行に同行するが……(『スキー一家』) この作品はどっちかというと、奥田英朗氏の作品とかみたいな印象。実家との関係とかって、いかにも奥田氏の作品にありそう。正直、スキーもスノボもやっていない私には、その対立みたいなものはよくわからないんだけど……多分、あるんだろうな、こういうの。まぁ、そんな中での策略は、著者らしい気はするけれども。
サクサク読み進められる作品であるのは確か。多分、著者に対する期待値のボーダーが高い、っていうのもあると思う。ただ、それを差し引いても、本作の出来はイマイチかな、と思えてしまう。

No.4329


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(書評)レプリカたちの夜

著者:一條次郎



動物のレプリカを作る工場で働く往本は、残業中の深夜、動くシロクマを目撃する。野生のシロクマはとっくの昔に絶滅したはず。工場長からの命で、シロクマについて調査をすることになるのだが……
第2回新潮ミステリー大賞受賞作。
うん、よくわからん! そもそも、これってミステリーか?
選考で伊坂幸太郎氏が絶賛した、ということらしいのだけどなんか納得できる。やりとりそのものは、伊坂氏の作品のそれを彷彿とさせる。主な登場人物としては、往本、同僚である粒山、うみみずと言った面々。往本と同い年というけれども髪が薄く、しかし、何か多くの女性と付き合っているなどという粒本。動物の話になると、途端に人が変わるうみみず。例えば、うみみずが動物を語るとき、ある意味、理屈が通っているような、しかし、屁理屈にすぎないような動物愛護の主張というのは、『陽気なギャング』シリーズの響野の話術とかが頭に浮かぶし、いきなり突拍子もない状況が出てくるあたりも何かそう感じさせる。
ただ、伊坂氏の作品、特に初期の作品って、その中でも物語がどこへ向かっているのか? というのは明らかだった。しかし、本作の場合は……
そもそも舞台設定がどうなっているのか、それ自体がよくわからない。深夜の工場にシロクマが現れた。それ事態は異常なことだって皆が思うだろう。しかし、この作品世界ではすでにシロクマ(というか、多くの野生動物)が滅んでいるという設定が明かされるのはある程度、ページを読み進めた後。しかも、それが当たり前のようにつづられる。そして、工場でレプリカが作られている理由なんていうものも何となく「こうじゃないか」レベルでつづられるのみ。
また、物語として、どうにも?み合わない部分とか、そういうものが出ているのだけど、それは何故なのか? この謎自体は、タイトルなどもあって何となく想像することができる。しかし、それは当初からこの結末へもっていくものだったのか? という疑問も浮かぶ。だって、そのすれ違いとか、そういうものが先に書いた変てこなやりとりの源泉になっているのだから。それをとりあえず、物語としてまとめるためのオチじゃないかな? とすら思えてしまうのだ。そのオチもカタルシスがあるとか、そういう感じではないし。
もっとも、じゃあ、つまらないのか? と聞かれるともそうとは言い切れない。逆に、面白かったか、と言われても……って感じである。とにかく、色々な状況に振り回されての困惑と、その中のよくわからない酩酊感というのが何よりも印象に残る。
多分、この作品は、読んでみないとわからないだろう。自分で書いていて、作品がこうだ、と書ききれた気がしないもの。

No.4328


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