著者:犬村小六



近衛連隊を追われたルカは、流浪の旅の末に旧友・ジェミニへ庇護を求める。ルカにとって、勉学の師であり、不義理をした相手でもあるジェミニの恩に報いることを約束するルカだったが、ジェミニの思惑はルカのそれを遥かに超えていて……
何と言うか……『とある飛空士への誓約』と同じく志、仲間意識は保ちつつも敵対することに、という予感を遺しているから。
これは、1巻の感想で自分が書いた言葉なのだけど、早速、ルカと王女ファニアが対立することに……
王女フィニアの志とは別に、その下で横暴を極める貴族たち。国へ対する民衆の怒りはすでに限界に達しつつある。そんな中、近衛連隊を率いて少数で外敵を打ち破ったルカという存在は民衆の希望となるものだった。ジェミニにより、「英雄」へと仕立て上げられていくルカ。渋々ではあるが、しかし、そもそも逃げ込んだ都市から出ることはできない状況では、英雄になるほかない。しかも、そもそも戯れとは言え、ジェミニに壮大な夢を抱かせたのは、ルカの言葉……
一方のファニア。王女、とは言え、彼女の人々の声に寄り添って……という思想は政府の中では異端のもの。そして、彼女自身は国を代表する存在。故に、ルカを首謀者とする反乱に対し、それを制圧せねばならない。国を変える、そのためにも……
相手を想いながら、しかし、敵対する。『恋歌』の場合、カルエルとクレアが惹かれ合いながらも、しかし、実は敵対する存在だ、というのを知らない状況が描かれているわけだけど、こちらは互いに敵対する存在になってしまったが、ルカとファニアが惹かれ合っている。『恋歌』の1巻の感想で、『ロミオとジュリエット』的な感じ、と書いたけど、こちらこそが、そんな関係と言えるのかもしれない。
しかも、この話の厄介なところは、ルカにしろ、ファニアにしろ、「祭り上げられた存在」である、というところだろう。戦闘の際、戦術を立てるとか、指揮をする、とかの権限はあるルカ。しかし、そもそも反乱軍を主導したかったわけではないし、ファニアと戦いたいわけでもない。そうする以外に選択肢がない。ファニアも、貴族とかをある程度、抑えることは可能。しかし、国を守る、という部分が動かせない以上、それ以上の選択肢が用意されていない。
……ヴィヴィ・レインとは何か? についてはほとんど進展しなかったけど、そのことも伏線?

No.4428

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(書評)双蛇密室

著者:早坂吝



幼いころから「二匹の蛇」の夢を見続けている刑事・藍川。幼い頃、蛇に咬まれたことがあり、それが原因であると思っていた彼だが、上木らいちの指摘により、これは殺人未遂であったことに気づく。両親に問い合わせた藍川が知ったのは、過去に起きた二つの密室事件だった……
なんつーか、「らしい」っちゃあらしい。この著者、このシリーズでなければ絶対に描けない作品だと思う。
作中で描かれる二つの密室事件。
一つは、藍川の両親が結婚する前に起きた事件。屋敷の敷地に建てられたプレハブ小屋。そこで起きたのは、妻に手を挙げる小説家と、その妻が蛇に咬まれ、小説家は死亡、妻は意識不明という事件。小説家は「咬まれた」という言葉を残して死亡。その隣の敷地では、各地の珍しい蛇を集める蛇愛好家がおり、その人物の飼っている蛇が逃げ出して……ということが考えられたが、事件の前には雨が降り、ぬかるんだ場所に蛇の這った痕跡はなかった。
もう一つが、藍川が過去、蛇に噛まれた事件。このとき、藍川がいたのはマンションの高層階。窓が開いていた、とは言え、偶然に蛇が入ることはない。しかし、ではどうやって? 藍川が住んでいた部屋の上下階から、というのも不可能というアリバイがあって……
この話、二つの密室が登場し、それぞれがどういう風に構築されていったのか? というのを考察する辺りは非常に真面目……というか、正統派な密室事件という感じで面白い。こんな言い方をすると何だけど、この作品が上木らいちシリーズである、ということを忘れてしまったくらい(笑) 作中に登場する人物の利害関係、人間関係からこうではないか、という動機面での推理、そして、らいちによって示された一応の解決は、(本格モノではありがちだけど)ちょっと無理かも知れないけど、「なるほど!」というもの。
ところが、そこにも矛盾点がある、と指摘されて明かされる本当の真相は……
すっげーバカミス!(笑)
こんなのあり得ない、とか、そういうことを語ることがバカバカしくなるようなすさまじいトリックで大笑い。そして、それで気づいたのが、「でも、これがこのシリーズだよな」ということでもあったりする。先に示されたような解決じゃ、このシリーズらしくない、ともいう。ぶっ飛んでいてこそ、というシリーズに相応しい真相と言えると思う。
そういう意味では、何気にこのシリーズに自分、毒されているなぁ、とも思う。

No.4427

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著者:下村敦史



難民申請をしているシリア人父娘の聞き取り調査を行っている東京入管の難民調査官・如月玲奈。しかし、シリアで迫害を受けている、という父に対し、娘は迫害などを受けていないと主張は食い違う。嘘をついているのは父か、娘か? さらに、差別問題を取材するジャーナリスト・山口は、シリア人殺害事件について興味を覚え……
難民調査官シリーズ第2作。
前作は、メインの謎が何なのかよくわからない中、暗中模索で物語が進展する形だったが、本作は冒頭から、食い違う父娘の証言というのが現れ、そこにシリア人殺害事件と、その妻の誘拐、という話が追加されていく形。
内戦、内乱、独裁国家とレジスタンス、そして、難民。そういうキーワードが出てくると、何かと正義と悪という二分論で語りがち。そして、その際、独裁者などはとかく、悪とされがち。しかし、実際に正義とは……?
独裁者とは言え、その中では平穏が保たれていたシリア。勿論、その中で、自由などには制限があったし、完全な自由国家とは言えなかった。そして、それに反発を覚える者がいたのも事実。しかし、いざ立ち上がった反独裁勢力は暴徒と化し、自らの主張に「賛同しない者」を「敵」とみなすように。さらに、その間隙を縫うように勢力を伸ばすテロ組織。「正義」とは何か? そういうものを、玲奈たちの視点だけでなく、実際、シリアに取材に行っている玲奈の元先輩であるジャーナリスト・長谷部の、現地でのやりとり、はたまた、「差別を許さない」という正義感で動く(ただし、それを強調するために、都合の良い形にストーリーを改変してしまう)ジャーナリスト・山口の視点が入るためによりクローズアップされていて、考えさせる。
そして、そのような中での、父娘の証言の食い違いと、殺人事件と誘拐事件が組み合わさったときの真相は……
真相についての部分は、それが明かされた時、「まさか!」というよりも、個人的には「そういえば、そうだった!」というのが強かった。日本という国にいて、日本の法律が身に染みているからこその見落とし。文字通り、盲点を突いたひっくり返し。
まぁ、ジャーナリストの山口がなんでそんなに都合よく色々と情報を知っているんだ? とか、途中で現れる人物がどこのスパイアクション映画のキャラか、と思うような活躍をするとか、ツッコミを入れたくなる部分がないわけではないけど、前作よりも物語の導入部で引きが強く、かつ、主題もハッキリ。そういう意味で、前作よりも読みやすい作品に仕上がっているのではないかと思う。

No.4426

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(書評)いつかの空、君との魔法2

著者:藤宮カズキ



グラオベーゼンの結果、空を覆っていたダスト層雲は取り払われた。「青空のヘクセ」として一躍、名が知れ渡ったカリム。急速に距離を縮めるカリムと揺月を前に、自らの想いを封印しようとするレイシャだったが……
正直なところ、前巻で物語が完結していたと思っていたら2巻が出て、それを購入したは良いがひたすら放置していた自分(笑) おかげで、前巻の話とかも大分記憶から薄れていた(苦笑)
前巻は、カリムが抱えている苦しみ、後悔。そういうものを描きつつ、彼と揺月の関係……みたいなところだったけど、今回は完全にレイシャのコイバナって感じ。
カリムに思いを寄せている。それは間違いのない事実。けれども、カリムにとって目に入っているのはあくまでも、自らのせいで「大喰らい」にしてしまった揺月ばかり。勿論、以前のようにただの罪悪感、ということはなくなったがゆえに、より「恋人」に近い関係となり、レイシャとしては入る余地すらない。だからこそ、その想いは封印しようと思うのだが……
こういうと何だけど、ある意味、負けヒロイン的な立場からの物語って珍しいんじゃないだろうか?
ラノベに限らず、様々な物語で、自分に入る余地はないな……と思いを封印しようとするキャラクターをみてキュンとする、とか、そういうことは多いのだけど、普通は、それって物語の一部でしかない。でも、本作の場合、徹頭徹尾、その描写だけで埋め尽くされている。揺月が悪いわけではない。カリムだって悪いわけではない。恨むべき相手ではないからこその苦しさ。そして……
逆説的なのだけど、この作品の場合、この終わり方をしたことで本当に「恋のバトル」へと入る形になるはず。でも、ずっとレイシャ視点で物語がつづられてきたからこそ、逆にそれが「良いこと」のように思える。勿論、自分の想いをぶつけて散るのと、ただ封印して終わるのでは違う、ということはわかるのだけど……
この形になったことが果たして、レイシャとにとっていいことなのか? それとも……
気になる終わり方なのは確か。

No.4425

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著者:櫛木理宇



こよみとのデートをしたものの、それ以来、彼女と会うと頭が真っ白になってしまうようになった森司。そんな中でも、オカルト研には次々と相談が舞い込んで……
シリーズ第11作。全3編を収録。
今回は、かなり人間関係の歪み、それも、家族という密室だからこその歪み、というようなものが強調されているような印象。
例えば1編目。エクソシストを題材にした映画などを見ると、不可解な感じになってしまう、という青年の相談を扱う『悪魔のいる風景』。折しも、その現象は、自分が好意を抱いている家庭教師の先生が兄と婚約をした、というあたりから……
こういうと何だけど、この流れで何となく、話の陰にあるのが何なのか、というのがわかる。でも、実はさらにもう一つの裏があって……という二段構成。当初の原因というのは、当然にその兄の存在。人間、誰しもがいろいろな顔を持っているのは間違いないのだけど、家庭というのが密室であるがゆえに、その裏の顔すら隠ぺいされてしまう。そして、その裏にあったのは、原因としては、やはり、人には隠しておきたい、という気持ちで……。それが巡り巡って、というのは皮肉そのものだけど。
3編目『白椿の咲く里』は、大学でもトップクラスの才媛と、彼女と常に比較されてきた従姉妹の関係性。学者一家の家で、優秀と言われた女性と、容姿に優れたが、頭は……という従姉妹。人魚伝説とか、村、一族に伝わる忌まわしき伝承とか、そういうものもあるのだけど、最終的には人間関係の物語へ。
このエピソードも、1編目と近いのだけど、表面的にはある人物の悪意。でも、その悪意が醸造されるまでには、当然、それだけの過程がある。そして、その環境によって育まれた言葉で……。色々と偶然(?)が続いた結果、ではあるのだけど、でも、それだけの歪みがあったから、というのを感じざるを得ない真相だった。
そんな中での森司とこよりの関係については……
うん……水前寺清子の代表曲が頭の中を駆け巡っている。
それだけで、どんな感じなのかはわかるはず(笑)

No.4424

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(書評)翼がなくても

著者:中山七里



陸上200M走でオリンピックを狙う沙良を襲った悲劇。交通事故に巻き込まれ、左足を喪うことに。しかも、事故の加害者は幼馴染の青年・泰輔。事故後、何の謝罪もない泰輔の一家。アスリート生命を失った沙良はやりきれなさを覚えるのだが、そんな泰輔が何者かに殺害されて……
という風に書くと、泰輔を殺したのが誰か? というようなミステリみたいに感じると思う。実際、そのような部分がないではないのだけど、主軸となるのは、片足を失って、それでも短距離走者として活きようとする沙良という部分のように思う。
高校を卒業し、実業団チームへと入社した沙良。仕事をしている、とは言え、それは午前だけ。午後からは、トレーニングに励み、成績も伸びてきた。このままいけば十分に五輪を狙える。そんな矢先の事故。走ることしかできない自分がそれを失った。運動部はやめざるを得ず、会社内での居場所もない。そんなとき、パラリンピックという世界を知って……
オリンピックの出場、活躍は日本でも多く取り上げられるけど、パラリンピックでは……という現状。一方で、パラリンピックもオリンピックと同じように厳しい基準タイムが定められており、それをクリアするにはオリンピック選手がするような、いや、それ以上に金銭的な負担がかかってしまう現実……
そのような中で、会社を辞め、競技用の義足を手にし、何が何でも、で食らいついていく沙良。その姿はなかなか印象的。
しかし、警察は動機、そして、会社を辞めて、という彼女の金遣いから沙良をマークするのだが……
正直なところ、事故の加害者である泰輔が事故担当の弁護士として雇ったのが御子柴、という時点で著者の作品を読んできた身としては何となくカラクリが読めてしまった。それに、なのだが、金の動きとかって明らかになるはずなのだから、そうするとこの事故のカラクリについて保険会社とか、警察は感づかないものなのかな? という気がしてしまう。実際、これまた別会社の作品に出ている刑事・犬養は真相に迫ったわけだし……
こういう言い方はなにだけど、変にミステリにしないで、ストレートに、足を失ったアスリートがパラリンピックを目指すスポーツもの、でもよかったような気がしないでもない。ミステリとしてのカラクリがわかりやすい上に、そう上手くいくかな? というのを強く感じてしまっただけに……

No.4423

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著者:花間燈



パンツと共に下駄箱に入れられていたラブレターの送り主を探すうちに知った、身近な存在の性癖。一変してしまった日々の中、送り主・シンデレラを探す俺。そんなときに、ロリっ子生徒会副会長も参戦してきて……
と書いたけど、この巻、物語の始点としては前回の最後に出てきた天文部員である先輩・鳳小春が主人公の親友である翔馬と付き合えるように手伝う、という中で物語が進んでいく(その中で、他の面々が現れ、さらに副会長・藤本彩乃とも出会う) そして……と……
とりあえず、新キャラである藤本副会長については……この作品ならどんなキャラなのか想像ができる!(笑) いや、他の作品なら、何かあるごとに自分に身体を寄せてきて、男の胸に顔をうずめて……っていうちっちゃな女の子。どれだけ自分に甘えてくるんだ! 的な想いを抱くんだけど、この作品の場合「そんな奇麗な理由の分けないやん」とうがった見方をするため、性癖が暴かれても「やっぱり!」って感じ。
前巻から、この感覚、どこかで……と思ったのだけど、考えてみると『えむえむっ!』(松野秋鳴著)シリーズを読んだときに似ているのかも。
というアレコレをやった中で、ラブレターと一緒にしまっておいたパンツがなぜか消え、その犯人も捜すことに。そんな中、今回、メインヒロイン的な行動になってきたのが、ドMの先輩・紗雪。なぜ、主人公・慧輝に「飼い主」になってほしいのか? それまでの過程がつづられての最後の一言……
性癖とか、そういうのを目の当たりにされるに確かにドン引きしてしまう部分がある。でも、そんな部分も含めてその本人。そして、変な性癖を持っていようが何だろうが、相手に対する想いというのは真摯。それを実感したときに……
基本的には前巻と同じように、変態さんが変な性癖を出してのドタバタコメディなのだけど、第2巻にして早くもタイトルに纏わる部分がクローズアップされてきていい感じ。
まぁ、シンデレラが誰なのか? という部分については、他のキャラとの扱いの違い故に彼女だろうな、というのが想像できてしまうのだけど、むしろ、タイトル部分がどう盛り上がるのか気になるところ。

No.4422

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著者:知念実希人



田舎から上京した青年が語るのは、人混みに入ると身体が腐ってきてしまうという。そのような病気はない、と言われた結果、統括診断部へとやってきたのだが……(『雑踏の腐敗』)
など、全3篇を収録した短編集。
今回は、「超常現象!?」と思われるような話を多く描いた印象。
1篇目は、冒頭に書いたような形なのだが、「診断」というものの難しさ、というものを描いた話なのかな? 田舎から上京したばかりの青年。そして、「腐る」という現象が起きるのは、渋谷の雑踏へとやってきたときばかり。そのことに驚いて帰宅するともとへと戻ってしまう。そのことから、身体の病ではなく、精神的なものでは? という見方が出るのだが……。ある条件で、ある症状が現れる。ならば……と因果関係を考えてしまう。心理学の書とかで、本来は関係のないものを因果関係として考えてしまうことがある、ということがある、と説明されているのだけど、そのようなところをどう解きほぐして、病を見出すのか? という難しさを描いた話と言えると思う。
70代になった母が、鍼灸師の「特別な治療」を受けたところ、異様な若返りをしている、という2編目『永遠に美しく』。確かに写真と、現在では別人のように若くなっている。そして、同じ治療を受けている女性たちも同じように……。この治療は本物なのか?
この手の胡散臭い治療を標榜する団体とか、健康食品とか、そういうのはよくあるけど、ここで描かれたことをやったら、本当にそんな効果があるのだろうか? とはいえ、何か効果があるもの、というのは別の効果もある、ということを知らずにやることの恐ろしさ。それを素直に喜んでしまう無知さの罪。それで解決、と思わせてからのもう一歩、という構成も凝っている。
そして、プロローグも含めて、本作の中心となる『神秘の刻印』。白血病の娘に、骨髄移植手術を受けさせない、という母親。彼女がそういう理由は、預言者がそれをせずとも治る、と言ったから。そして、その預言者は十字架の刻印を示し、さらに血の涙を流すという……
この話について、謎解きの部分はそれほど凝っているとは思えない。刻印に関しては、この作品のパターンとかを考えてみても、この辺りかな? くらいのことは想像できる部分があるし。
ただ、その中で、過去のエピソードで、医師であっても救うことが出来ないことあることを目の当たりにした鷹央、という過去のエピソードのおさらい。そして、それを踏まえた上での「治療の意思」というものを題材にした話と言えると思う。治療をすることは、同時に数々の苦痛を伴うことがある。しかも、再発、ということだってあり得る。その時、どう判断するのか? 勿論、大人であれば自分の意思が優先されるが、子供の場合は……
そうやって考えてみた場合、今回の話って、病を含めた謎が何か? ということよりも、その中での医療者の、周囲の人間の、「どう判断するのか?」というテーマで統一された作品集になっているのではないかと感じた。

No.4421

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(書評)ひとくいマンイーター

著者:大澤めぐみ



「あ、目が覚めたんだ」見知らぬ天井。咽せるような血の臭い。「こんな場所で何してたの?」思い出せない。ここはどこだ。なぜわたしは倒れている。「とにかく気を付けなよ、人食いマンに」巷で噂の美少女専門の連続殺人鬼? 魔法少女・サワメグを巡る物語。
以前に読んだ『おにぎりスタッバー』の続編、というか、前日譚となる物語。
という風には説明できるのだけど、正直、『おにぎりスタッバー』とは、全くカラーの異なる物語となっている。『おにぎり』の場合、アズ視点で、先輩との恋人まではいかないけど、ただの友人よりは親しい、というような微妙な関係性であったりとか何か、「のほほん」というような言葉が似あう物語だったのだけど、本作は結構、シリアス。
最初に書いておくと、序盤、主人公は誰なんだ? というところがあった。冒頭に書いたように、血まみれで意識を取り戻し、自分が何者かよくわからない少女が主人公。さらに、果てしなく「正しい」少女に自分がイジメにあっていた、ということを指摘され、それがきっかけで不登校になった、という少女。そういったエピソードが立て続けに出てくるために、「?」となってしまったことがある。
しかし、読み進めていくうちに、その不登校を経験した少女が、ただしき少女になろうとして魔法少女となり、それがサワメグとなったこと。そして、冒頭の記憶がない、ということの意味。そういうものが、しっかりと最終的に、結びついていくのは見事の一言。しかも『おにぎり』の終盤の話なども回収されるし。
というような構成的な部分での感想を書いてしまったのだけど、2作目で物語としてかなり攻めてきているな、というのを感じずにはいられない。
魔法少女とか、そういうものって、ある意味、「あこがれの対象」となる存在なわけだけど、サワメグの場合はまさにその状態。さらに、「魔法少女は不死身。でも死んだら……」、ある意味、矛盾しているように見えて、実は結構、繋がっているその意味。『おにぎり』のときとは対照的に血なまぐさい事件。色々と前作の話を想像していると裏切られることは間違いないのだから。
作品の持つ雰囲気の好き嫌い、っていうのは間違いなくあり、前作のような「のほほん」とした物語が好きだ、という人にとって、裏切られた感があるかもしれない。ただ、同じ舞台設定を使い、同じ人物を登場させ、時系列もある程度重なる中で、全く別のテイストの話を書いた。この時点でスゴイ、と言わざるをえまい。

No.4420

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(書評)失われた地図

著者:恩田陸



錦糸町、川崎、上野、大阪、呉、六本木……。日本各地の旧軍都に発生する「裂け目」。そこに生きた人々の記憶が形を成し、現代によみがえる。その「裂け目」を封じ、記憶の化身と戦う力を持った鮎観と遼平。愛し合い結婚し、そして、息子・俊平を生んだのだが……
直木賞受賞後第一作という宣伝文句がついているけど、良くも悪くも「いつもの恩田陸」という印象。
とにかく、まず面食らうのは、設定とかそういうものが全く説明されないままに物語が始まるところ。自分はどのような存在で、一緒にいる面々とはどういう関係性で、というような説明がなくいきなり、既に作品設定を知っていることが前提になっているかのように物語が開始される。勿論、そこで描かれるのは、いきなり「裂け目」から何者かが出てきて、それとの戦いが始まって……。そういう意味では置いてけぼり感を感じるところがある。しかも、話的にあまりまとまらずに最後のエピソードが終わってしまった、という感じも残るし。
でも、それが著者なんだよな、というのを感じる程度には、著者の作品を追いかけているつもり(笑)
その上でいうなら、他の作品と共通するテーマ性だろうか。比較的、最近読んだ著者の作品である『タマゴマジック』、『EPITAPF東京』。これらの作品では「街、土地の意思」というような題材が出てくるわけだが、この作品の裂け目、というのもそこと繋がるものを感じる。過去、その場所にあった施設、歴史。そういうものが、裂け目として現れる兆候となり、もちろん、そこから現れる記憶の化身「グンカ」もそれにまつわるモノ。歴史、過去の経験がその人間を作るのと同じように、土地の歴史が土地の、街の意思を形成する。そして、「グンカ」も……
そんなことを真面目に考えたのだけど、序盤はその設定に面食らったのだけど、逆に後半のエピソードに入ってから、ある意味、吹っ切れてギャグになったんじゃないか、というノリになってきて楽しくなってきた。4編目、呉を舞台にしたエピソードなんて、アレが出てきちゃうし(笑)
多分、『蜜蜂と遠雷』を読んで、そういう作品を期待すると「あれ?」って感じになると思う。ぶっちゃけ、Amazonとかのレビュー見ていると、そういうのを強く感じる。でも、著者って、こんな作家なんだよな……と(笑)

No.4419

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