(書評)ミステリークロック

著者:貴志祐介



弁護士の青砥純子と、防犯コンサルタント(?)の榎本が密室殺人に挑むシリーズ第4作。前4編を収録。
なんつーか、前作辺りから顕著になってきたんだけど、純子の残念っぷりが凄まじくなってきている気がするのは気のせいか? もはや、榎本は、純子がアイデアを出そうとしただけでため息をつくような状況になっているんだけど(笑)
とりあえずは、最も分量の少ない『ゆるやかな自殺』。暴力団事務所で死んだ男。部屋は密室状態で、その中で拳銃で自らを撃って……。倒述形式のプロローグで犯人は明らかなのだが、どうやってその状況を作ったのか? 被害者はアル中で、判断力などが低下していた、というところがキモとなる話なのだけど、結構、荒業ではある。ただ、それが成立するような設定をしっかりと用意しており、ちゃんと納得できるところに落とし込んでいるのが上手い。
最も分量の多い表題作。時計コレクターたちが集まった山荘で死亡した主催者の女性作家。毒物を飲んで死んだその時、山荘にいた面々にはアリバイが……。一応、ネタバレになっているのだけど、犯人はその中で、皆が集まった部屋の外にいた人物。しかし、時間というアリバイが……。タイトルの通りに多くの時計が終結した場所。その中で、空白の時間を作るためのトリックはかなり複雑で、かつ、緻密。作家たちが、「現在のミステリは奇術的」というシーンがあるのだけど、まさしく奇術のようなトリックと言える。
個人的に一番、楽しめたのは『コロッサスの鉤爪』。
夜の海でボートから転落し、溺死した男。容疑者となり得るのは、彼がリーダーを務める海底調査のチームメンバー。しかし、調査船から200M以上離れた船にいた者と、海底で作業をしていた男たち。果たして、これをどうひっくり返すのか?
冒頭、海底から何かが現れて被害者が海へと引きずり込まれるシーンから始まり、もしかして、巨大なイカの仕業? というプロローグで興味を引き、そして、専門用語などが連発されるので、ちょっと「?」と思うところもあるのだけど、深海で作業をするための道具を別の形で、という逆転の発想が見事といえよう。
全体を通して、理屈が多く、しかもトリックが複雑怪奇なものが多くてちょっと理解するのに時間がかかる部分があったのは確か。でも、それだけ緻密なトリックが構築されている、と言い換えることも出来よう。

No.4732

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著者:砂義出雲



必要なもの好きなものへの憧れのみ! 黒歴史を恐れるな! それを合言葉に同人誌や動画などを作成する「創造部」。部活紹介で、とんでもない動画を披露し、避難轟々。ところが、そんな動画を見たオタク知識皆無のお嬢様・比香里は、自称・ハイパークリエイトプロデューサーの湊介の才能に惚れ、入部して……
思ったよりも、まっすぐな青春モノだった。
冒頭の粗筋に書いたように、部長的な存在の湊介。そして、ネット声優の若葉、CGなどの専門家であるみとせ、イラスト担当の菜絵、男の娘ユーチューバーの千春といった面々が揃い、変人だらけと評判の創造部へ、お嬢様である比香里が入部。オタク知識などは皆無で、色々と話がかみ合わない部分はあるが、熱意だけは十分。とにかく、素直で熱意だけは十分な比香里の姿に、湊介は色々と劣等感を刺激されてしまい……
「顔をしかめつつも目を背けられない……」
帯に書かれた丸戸史明氏のコメントがあるんだけど、その部分はわかる気がする。初心者で技術とか、そういうものは全くないけれども、とにかく何かを作ってくる比香里。一方、その世界の先輩としてそのことについて色々という湊介。しかし、じゃあ、湊介は、というと……
自分の場合、そもそも、創作というものについて殆ど取り組んだことがない人間なので、湊介のような(小説新人賞1次選考突破レベルであったとしても)成功体験(?)はない。でも、そんな自分に素直に憧れ、ほめたたえてくれる比香里の言葉に浮かれ、逆に何であっても色々と形にして持ってくる比香里の姿に一種の嫉妬を覚えてしまう、というのはわかる気がする。いや、私も小説とか書いてみようと思ったことはあるのよ。でも、すぐに行き詰ってしまう、というのを考えると余計に、というのがあるのかもしれない。そして、そんな中で、次の同人イベントで何をするか、ということで、湊介チームと、比香里チームでの作品対決になって……
正直、湊介の姿はかなり痛々しいし、その湊介の実態というのは……。逆に、自身でそこまで色々とやるなら、それはそれで創作者というか、プロデューサーとして優秀なのかもしれない、と思ってしまう自分がいる。このエピソードでは、その湊介が、自身の現在を露わにされ、そこから一歩を、という形なので、本当に純粋な青春モノという感じになっている。読んでいて痛々しいのだけど、でも、それが……と思うわけだし。
もっとも、キャラクターの掘り下げとかはもうちょっと丁寧にやっても良かったんじゃないか、と思うところなどは色々とある。特に、湊介がしてきたことを暴露した菜絵の、湊介に対する想いとか、その辺りは本当にちょっとだけで流されてしまった感じだし。
あと、続編前提なのかもしれないけど、タイトルの「恋」要素はあまり感じられなかった。

No.4731

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(書評)ヒトごろし

著者:京極夏彦



幼き日、目の当たりにした人が殺される瞬間。その美しさに心ひかれた歳三は、人を殺したい、という黒い衝動に取り憑かれる。そして、それが彼の運命を大きく動かして……
わかってはいたのだけど、長かった~!! 流石にハードカバーの単行本で1000頁超という大ボリュームの作品を読むのは、物理的に大変だった(移動中に読むにしても重いし)
本作は、新選組の副長・土方歳三を主人公にした物語。新選組というと、武士になりたくて仕方がなかった近藤や土方が……というような形で始まり、幕府への忠誠を誓って戦いに明け暮れていき……という形で進むのが多いのだけど、本作の主人公・土方の場合はそうではない。彼にあるのは、ただ「人を殺したい」という思いだけ。しかし、社会の中でそれをすれば大罪人となってしまう。だがその一方で、場合によっては罪にならないものがある。例えば、武士という存在。そのようなことを学び、「合法的に」人を殺すことが出来るように裏で手を回し、突き進んでいく。
で、この物語、最初の300頁くらいは、歳三がそのようなことを学び、志していくまでが綴られ、ようやく幕府の動乱などの中、近藤勇を担ぎ上げ、京へと旅立ち……から新選組の物語のようになっていく(もっとも、私はそれほど、新選組について詳しいわけではないのだけど) そして、その中でも裏で色々と工作し、「人を殺す」ために暗躍していく。
この物語を貫いているのは、歳三が、自分は人外の化け物である、と自覚している点。いわゆる武家社会の風習とか、そういうものは当然に知らないし、また、だからこそニュートラルな視線で、合理的に物事を見ることが出来る。その中で彼が感じるのは、武家社会の矛盾とでも言うべきもの。
「死んでも」「死ぬつもりで」
武士たちはそのように言う。しかし、それは単なる無意味なもの。それこそバカバカしいもの。だが、それを貫く者が周囲には沢山。そして、幕府の旗色が悪くなっていく中、山南敬介、伊東甲子太郎、勝海舟、榎本武揚らの姿から、武家社会そのものの傲慢さ、古さ……そういう部分へと昇華されていく……
元々は「戦う者」「殺しあう者」であったはずの武士。しかし、それはせいぜい、数十程度の人間が刀や槍で殺しあっていた時代のもの。それは、大砲や銃を持った兵隊が何千、何万と入り乱れる場所では意味のないものと化した。しかも、武士が「偉い」とされた時代が長く、その結果、大将は死ぬ場所へ赴くこともなくなり、死ぬのは前線に投入される「武士ではない」者ばかりに……。それでも、武士の風習、武士の考えだけは生き残り、無意味に人を死なせる状況ばかりが続いていく。歳三の「人を殺したい」という欲望は常に一緒。だが、それは自分が生きているからこそ。それを前提として動くからこそ、歳三だけが負け戦の中善戦を続けて……
どちらかというと、歳三の心理描写、そして、歳三が出会う面々とのやりとりに分量が費やされており、新選組の動きとか、そういうものはこれだけを読んでもちょっと分かりづらい(章が変わると、いきなり大きく場面が動いていて、相手との会話の中で、こういうことをした、みたいなことも多い) そういう意味では、ある程度、新選組がどういう経緯で動いていたのか、というのを知っている人向けの部分はあると思う。
ただ、歳三を一種のサイコパスとでも言うべき存在にしたからこそ、終盤の、武家社会の矛盾、傲慢さ、そういうところの印象が強くなったのは間違いないだろう。

No.4730

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(書評)僕と君だけに聖夜は来ない

著者:藤宮カズキ



12月24日の夜。高校生である理一は、片思いの相手・なつみと結ばれた。……が、直後、目の前で彼女は命を落とす。そして、気づくと、2日前、22日に戻っていて……。告白が彼女の死のトリガーであることに気づく理一だったが、どのように回避しようとしてもなつみは告白してしまい……
なんか、滅茶苦茶に難易度の高いノベルゲーをやっている気分。しかも、これが正解って、トゥルーエンドじゃなくて、ノーマルエンドみたいな感じがするのだけど……
ということで、物語はループもの、という風に言えると思う。そして、物語は文字通りに冒頭に書いた粗筋の通り。
何しろ、物語が始まり、自分がループしているんだ、というのに気づく。そして、そのトリガーが告白されることだ、というのに気づくまで結構、時間がかかる。そこまでは、とにかく、ひたすらにクリスマスまでの2日間を過ごし、最後に……というのが繰り返される。で、しかも厄介なのが、「告白されなければいいんだ」と気づいて、振ったらどうなるか? なつみが自殺してしまって、やっぱりループ! 元々、なつみは学校でも孤立した存在で、しかも、その原因に、なつみが自分の特異体質によってイジメを受けていた過去があった……というものがあり、半ば、彼女が理一に依存している、という状況がある。なんか、スタート時点からかなり絶望的な状況と言える。
そして、何をしてもダメだ、という絶望に陥ったとき、理一の前に現れた未来から来た、という少女。
彼女によれば、なつみが死ぬのは、地球外の侵略者によるもの。そして、その侵略者を倒す兵器を開発する存在。だからこそ、その存在を消すために……
そこから明かされるクリア条件もなんか……滅茶苦茶ハード。この作品内では、12月24日だけど、それ以前でも、それ以降であっても……となる。なつみが好き。なつみを守りたい。でも、なつみを傷つけたくもない。その中で、どうやって未来を手に入れるのか……
もう、この条件だとこれ以外がないんだろうな……。納得は出来る。出来るんだけど、読み終わって「良かった」とか、そういう感じではないんだよな。それが持ち味だ、というのは確かなのだろうけど……。というか、そもそもが絶望しかなかった中、それでも光が見えた、ということを喜ぶべき結末、っていうことなのかも知れないな……

No.4729

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著者:青柳碧人



捨てられた玩具と、訳ありの人々が暮らす街バッバ・シティ。元敏腕弁護士であり現在はパン屋を営むベイカーと、父を探すミズキの元には次々と事件が舞い込んで……
というわけで、シリーズ第2作。
人間のように喋ったり、行動したりするが、そもそもの構造などが全く違う玩具というところが特徴の作品だけど、今回はその特殊性というよりも、近未来だから、という部分に重きが置かれているように思う。
例えば、密室で人間が殺害された1編目『倒すのは、ドミノだ』。監視カメラの映像で、部屋に入った者は限られている。その中で、部屋にはびっしりとドミノが。ドミノメーカーの玩具であるハンク・ザ・3rdはドミノを見ると、それを倒さないように行動が制限されるため、動けなくなってしまう、ということなのだが……。僅かな時間で大量のドミノをどうセットしたのか? というのがポイントになるのだけど、これは完全に近未来だからこそのトリック。ちゃんとヒントは出ているからフェアではあるんだけど。
2編目『アニマルカートの刺客』はより、その印象が強い。レース中、忽然と消えてしまった1台のカート。それは? 正直なところ、これって周囲にバレない? っていう気がしないでもない。ただ、意表を突いたものであるのは確か。
トリックのすごさ、っていう意味では、やはり4編目で、表題作ともいえるだろう『GOD-DOGの一族』。犬型玩具たちの玩具団のボスが死んだ。その後継者争いがおこる中、次々と事件が起きて……。これは犯人が誰なのか? というフーダニットの話ではあるんだけど、そのあとのトリックが何よりも印象的。ボスのメッセージが記録された時間。そして、その後、後継者に選ばれた者に訪れる不幸な事故の数々……。その意味するものは? どちらかというとこの巻は近未来的な部分が多く出ていて、玩具ならでは、という部分が少なかっただけに、最後のエピソードでそこもしっかりと前に出してきたのが印象に残るのだと思う。
一応、ミズキの父を巡る話にも進展が出て……なんだか、余計にわからなくなって……
シリーズ全体を通しての謎も進んでおり、3作目も楽しみ。

NO.4728

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著者:兎月竜之介



怪我で騎士団を退団したアレンが、第2王女であるエルフィリアに与えられた新たな仕事を与えられる。その仕事とは、表向きは彼女の護衛官だが、本当は、彼女を狙う刺客を捕え尋問する「高級尋問官」。アレンの「嘘を見抜く力」は、捕えた刺客の少女たちの弱点を次々と見抜いていって……
なんか、思ってたのと違って、むしろ優しい。
いや、タイトルが高級尋問官で、カラーイラストでは紅潮した顔で、下着姿などの少女たちが……とある。しかも、サブタイトルには「絶頂」なんて言う風にもある。なんか、無理矢理に性的快楽を与え、相手から自供させる、というような展開……まぁ、ぶっちゃけ、エロゲーとか、エロ小説とかであるような女性が捕まって、エロ堕ちして……みたいな話かな? と思っていた。ところが、そこまでハードな展開ではない。
まぁ、最初、エルフィリアが試験として「自分を堕としてみせよ」というところで、お尻叩きから……。猫系獣人の尻尾&耳責めとかはエロ方向の要素もあるかな? と思ったんだけど、物語が後半に行くにつれて、そのような要素は薄れていって、どちらかというと、その相手が何を求めていて、それをどう満たすのか? という方向にシフトしていく。そのため、イラストはアレだけど、内容としては、どう相手を懐柔するのか? というもので、尋問という感じではないように感じた。
……一番最後の尋問……自作のエロ小説を自分で朗読させる、ってのはある意味、究極の羞恥責めとは思うけどさ……
その中で印象に残るのは、王女であるエルフィリアかな? そもそもが、アレンを採用したわけだけど、幼いころから何でも自分の思うように何でも出来ていた彼女。そんな彼女を、真剣に叱ったことで、「叱られる」ことが快感になった、というなかなか歪んだ性癖の持ち主。そして、他の尋問においては、アレンの指示でそれを実行する。勿論、自ら服を脱ぎ、下着、時には全裸で……。明らかに、この人が一番、性癖がおかしいんですけど!(笑)
話そのものは決して悪いとは思わないんだけど、表紙、イラスト、帯などで散々、エロ方向のイメージをたきつけているため、ちょっと「あれ?」という感じが残ったのも確かだったりする。

No.4727

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(書評)逃亡刑事

著者:中山七里



千葉県船橋市で発見された警察官殺害事件。苛烈な取り調べで知られ、捜査一課でもトップの検挙率を誇るアマゾネスこと高頭冴子は、事件を目撃したという少年・猛から話を聞く。そして、そこで浮かび上がった犯人は、被害者の上司である玄葉。玄葉の不正を確信する冴子だったが、玄葉の罠により、殺人の被疑者に仕立て上げられてしまって……
話そのものは滅茶苦茶に荒唐無稽。でも、楽しかった。
物語は、冒頭に書いたような形で始まり、殺人犯に仕立て上げられた冴子が目撃者である猛を伴って逃亡しながら反抗のチャンスを狙う、という話。そのために、暴力団員である山崎の協力を得て、しかも、大阪のA地区(ぶっちゃけ、西成区とか出てくるおかげで、伏字にしていてもどこだかバレバレ)の簡易宿泊所に潜伏して……
正直なところ、ミステリとしては無茶苦茶と言わざるを得ない。逆転の目を狙う、というけど、単にご都合主義なだけだし、終盤、捕まりそうになって……の脱出劇とかはギャグのようにしか思えない。警察署に迫撃砲を打ち込むとか、流石に……という感じだし、そもそもの問題として、最初から犯人が明らかで、しかも、実は……というところでも最初からこの人だろうしな、というのも丸わかりだし。そういう点では……というのはある。
ただ、一方で、冴子と猛のやり取りは面白い。
福祉施設で虐待を受け、悪ガキと言われながらも、非常に頭が良い猛。そんな彼を守ろうと奮闘する冴子。さらに、A地区で暮らす中、そこで知り合う、ホームレスたちとの交流。この辺りも、荒唐無稽と言えばそれまでなのだろうけど、ほほえましく読むことが出来た。佐古ジイとか、センセイとか、本当に良いキャラしているもの。その辺りが物語のメインになるのかな? と思う。勿論、いつも通り、話のテンポが良い、というのも長所と言える。
個人的に、著者の作品って、社会問題などを取り扱ったものは著者の勉強不足を感じてしまい、「うーん」と冷めてしまう部分が多い。荒唐無稽とは言え、それならば、そういう社会問題にタッチせず、勢いで貫き通す本作のような作品の方が素直に楽しめていいな、という風に感じる。

No.4726

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(書評)インフルエンス

著者:近藤史恵



大阪郊外の巨大団地で育った友梨。彼女は、幼馴染の里子が無邪気に語っていたことの意味を知り、衝撃を受ける。何もできないまま、中学に上がった彼女は、憧れの同級生・真帆と友達になるが、暴漢に襲われたとき、その暴漢を刺してしまい……
友梨、里子、真帆という3人の女性の因縁の物語といったところなのだろうか?
物語は、小説家である語り部の元に、自分たちの話を小説にしてほしい、という手紙が届くところから始まり、その手紙の主が語る友梨視点の回想シーンを中心にして綴られる。時代的には、1960年代~70年代くらいの大阪郊外という感じかな?
巨大団地で学校の生徒も、その団地に住む子供たち、という世界。その中で、幼馴染の友梨と里子は仲の良い友達同士だった。しかし、「おじいちゃんと寝ている」という無邪気な一言が、その関係に罅を入れる。つまり、それは里子の家では……。少しずつ疎遠になっていく二人。中学に入ると、不良生徒と言われる側になった里子と、大人しい、どちらかというと学校の中では低い位置に見られるような立場になった友梨。そんな中、友梨は、東京から越してきて、孤高を貫く真帆と友達になる。しかし、そんな中、里子が付き合っている不良生徒が、その一人に暴行をし、死なせてしまい、その溝は決定的に。しかし、なぜか友梨が起こした殺人の犯人として里子が逮捕されて……
「頼んだわけではない」
「私の方が上手くやれる」
一つの事件、ある種の身代わり。そのことが互いに鎖となって、互いのことを縛り付けあう。友情、というわけではない。心の中のわだかまりもある。けれども、事件という楔があることによって赤の他人として縁を切ることも出来ない。何よりも、自分自身に対しても楔として事件があるために、断り切れず、周囲との関係にも一歩引いてしまう。そういうまさしく「因縁」という以外にない関係性を強く感じる。
一応、最後にひっくり返しはあるのだけど、それが主眼という感じではない。というか、それも含めて、この3人の因縁の物語と言えるのだろう。曇り空の巨大団地という表紙。それが、この作品の雰囲気を如実に示している。

No.4725

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原作:松智洋
著者:伊勢ネキセ、斧名田マニマニ、慶野由志



優勝すれば何でも願いが叶うという魔法少女たちの大会・ヘクセンナハト。国別対抗戦であるその大会に向け、各国の魔法少女たちは自らの魔法とチームワークを磨くための鍛錬の日々(?)を送っていて……
てな感じで、タイトルの通りの前日譚エピソード集。本編ではほとんど出てきていないインド、ドイツ、イギリスチームのエピソードを集めた形になっている。何というか……どこのチームも同じような感じなんだな……
インドチームを描いた1編目。大商人の父を持ち、魔法少女をするラヴェータ。インドチームのエースであるマハーカーリーは、チームメイトであり、同時に商売の上客という関係。そして……。インドの場合、カースト制とか、そういうのがあるわけだし、そういう中で、チームメイトと言ってもマハーカーリーに使えたい、という少女ばかり。そんな中で、唯一、彼女と対等に付き合う、という存在が……。作中ではあまり印象がなかったけど、お国事情とか、そういうものが感じられて良かった。
2編目はドイツ。素質のある存在をかき集める中、幼い日に両親に「売られた」も同然のヒルデガルド。本当の両親に会いたい、そんな願いを抱く彼女は、チームのエースであるアガーテが真面目に練習をしないことにいら立つ。そんなアガーテが「友達が欲しい」と言い出したことで……。格差社会というか、両親にうられた存在であるヒルデガルドと、裕福な家の育ちであるアガーテ。当然、反発もある。けれども、共に過ごす中で打ち解けていって……。スタート地点は違うけど、本編の葉月と静の関係にも近いものを感じるエピソードだと思う。
イギリスチームは……一言で言うと、天然ボケ、恐ろしや(笑) チームのエースたるアーサー。基本的に天然ボケというか、何も考えずにチームメイトのコンプレックスを容赦なくえぐり、それぞれと決闘、ということに。相手がなぜ怒っているのかもわからずに勝負が始まる中、アリスのサポート役であるマーリンも戦うことになって……。雰囲気とすれば、拳で友情を、という感じになるのだけど、そういう風にぶつかってこそわかりあえることもあるよね、というのは確かなのだろう。
というか、本編の日本チームも結構、ヘッポコなやり取りをしている印象だけど、今回、他の作家さんが書いたエピソードも、そんな雰囲気を踏襲していて、作品の世界観を上手く広げている、という風に言えるんじゃないかと思う。アメリカチームのリンくらいじゃね? ギスギスしてるのって(笑)
……とはいえ、やっぱり、由利百合しい世界であることは間違いないな、うん。

No.4724

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(書評)祝葬

著者:久坂部羊



長野の地で代々、医者をしている土岐一族。彼らは、医者の家系でありながら、なぜか短命に終わる者が多い。そんな一族の面々のエピソードを綴った連作短編集。全5編を収録。
毎回書いているけど、著者の作品って、医学の抱えている問題、その限界なんていうがテーマになっていることが多い。ただ、本作は、そうではない話も多かったな、というのがまず第一。
例えば、1編目である表題作。医師である手島は、学生時代の友人・土岐裕介が死んだ、という一報を受ける。つい数か月前、恋人を伴ってのスキー旅行に行き、元気な姿を見たばかりだったのに……。葬儀の場へと向かう中で思い出すのは、学生時代、「自分の家は短命なのだ」と運命論のように語っていた姿。確かに短命ではある。しかし、死因は事故だったり、病だったり、その病もバラバラでただの偶然としか思えなかったのに……
確かに、主人公の手島は医者である。しかし、そこで語られるのは医療の問題ではなく、祐介の諦観とでも言うべきものであり、それが祐介と恋人の出会いにもつながった。しかし……。死に取り憑かれて、そればかりを口にしていたからこそ……の結末が印象的。また、2編目も医療の話というよりも、女の友情、そして、ドロドロの人間関係という部分ばかりが印象残る。
そんなエピソードは、後半に入るとだんだん、著者のいつもの作風へと戻っていく。
3編目の『ミンナ死ヌノダ』。医師会の集まりで、祖父についての逸話を聞かされた覚馬。末期癌の夫を何とか、という夫婦の要望を無駄と知りつつも聞き入れながら、祖父についての記録を探っていくと……。短気で怖い人だった。しかし、同時に医療に熱心な人でもあった。医師会で言われたとんでもないエピソードの元となったようなことはありつつも、それは事実とは違うようだ、ということがわかり、しかし、問題がある治療などもしていたことも判明……。そんな祖父の残した「ミンナ死ヌノダ」という言葉が自分の治療の結果、祖父の足跡から何となく感じられる、という結末はなかなか印象的だった。
4編目の『希望の御旗』については、ある意味、これまでの著者のテーマをストレートに、シニカルに描いた話かな? という風に思う。
そして、5編目。時代が経過し、80代になった1編目の主人公・手島の感じること。医療が発達し、長生きをする、というよりも死ねなくなった時代。健康を意識する、というが、同時に「老い」に対する恐怖感を植え付けられた彼の診る相手たち。そんな中、祐介の兄の存在を思い出して……。天界そのものは予想できるものなのだけど、そのシニカルな部分というよりも、「これで良いのかな?」と思いつつも、しかし、現実がこうなのだから、その中で暮らしていくしかないんだ、という部分の方に比重があるように感じられた。
後半のエピソードは著者の過去作とも似た部分があるだけに、個人的には前半のエピソードが新鮮に感じられた、かな?

No.4723

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