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著者:梶永正史



郷間班のメンバーを主人公とした連作短編集。全5編を収録。
物語として、5編目のエピソードを除いて、それぞれの主人公が、郷間彩香と出会い、目の前の事件に関わっていく、というエピソードになっている。とは言え、正直なところ、秋山以外の班員についてはあまり印象に残っていなかったり、という部分があったりして。
そんなわけで、まず印象に残ったのは秋山の2編目かな? 丸暴刑事として、職務に励んでいる……はずだが、周囲からは素行が良くないと噂が付きまとう秋山。そんな態度のせいか、暴力団と通じている、と疑われ、上司を殴りつけてしまう。そんなとき、悪質な出会い系サイトに関する捜査をしている郷間と出会い……
どちらかというと、郷間視点で、ひたすらにセクハラなどをしてくるけど、でも、意外と使える部下という印象だった秋山。そんな彼がしかし、丸暴刑事としてしっかりと目的をもって動いている様。ちゃんと、そこを抜けた存在の将来も考えていること。そういう、「真面目な」側面と言うのがしっかりと強調されていて新鮮だった。まぁ、郷間とは、出会いが出会い、ってこともあって、丁々発止のやりとりに、っていうのもわかったし。
話の意外性、という意味では3編目『三浦』かな? 都議選が行われている中、その候補者について匿名の告発が届いた。口下手で、周囲に何も言えない三浦は、その真偽を調べるよう命じられる。その候補者・筒井は、父から地盤を引き継いだ二世議員。若いころは傲慢だったという彼だが、現在は非常に低姿勢で周囲からの評価も高い。しかし、告発者は……。かつて、低姿勢だった議員が、当選を重ねるにつれ……というならわかるが、しかし、逆。では、その時にあったのは……。結構、巨悪とか、そういうのもあるシリーズだけど、人情モノという雰囲気のエピソードが来るとは……
で、全体を通して思うのは、郷間の人を見る目、という部分が印象的だろうか? 上に書いた口下手な三浦を見るや、一目で「何で何も言わないの?」と問う姿。はたまた、周囲に合わせるのが得意な佐藤を見ての、「自分にはそういうことをしなくて良い」という姿とか、一目で相手の本質を見抜く、っていう部分が印象に残る。それが、長編シリーズでの活躍にも繋がっているのかな?
しかし……実際にそんなものなのだろうけど……鈴木、佐藤、三浦……と、郷間班の面々って、名前自体も地味だよな(笑)

No.5240

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著者:清水晴木



晴れて体育会系探偵部へと入部した白石。しかし、美浜高校の部活動は、大学スポーツリーグのような昇格制。体育会系探偵部は、そんな中で下の方の第4部。優遇制度を得るための昇格を目指し、推理力0のタイタンは、事件に挑むが……
ということでシリーズ第2作。
単純に好き嫌いでいえば、1作目よりも好きかも。
物語は、夏場のプールに現れる幽霊騒動。同じくマイナー部活であるカバディ部の部員に届いたラブレターの差出人は誰か? そして、メジャーな部活に独占されていた生徒会長の座を、マイナー部活で奪取しよう! という3つのエピソードで綴られる。相変わらず、体力自慢のタイタンの面々が、ドタバタやりながら、というのは素直に楽しい。
1編目なんか、特にそうで、プールで起こる幽霊騒動。その謎を解くために……ということなのだけど、裏を取るとか、そういうのをせず、手当たり次第に動き、そして、却ってトラブルを起こして、とか、いかにも「らしい」。流石に、その間違った推理を披露する前に、裏取りとかをしようよ……とか、そういうのもあるし……
で、そんな物語は、第2章、第3章と進む中で、学校における「部活」そのものへ……
第2章のラブレター騒動で、手紙をもらったのは中学時代にバレー部に所属していた生徒。しかし、高校ではマイナーなカバディ部に。しかも、部員が足りず、試合に出ることすら出来ない。カバディじゃなくて、元のバレーに! という周囲の声。でも、自分がしたいのは……。適正とか、そういうものも大事だけど……そんなことを感じる。そして、生徒会役員選挙に絡む第3章。
笑いとか、そういうのも含めているんだけど、実際問題として、学校と部活って、単純にその競技とか、そういうものとは別に、学校にとっての利害関係とかあるんだよね。それこそ、野球やサッカーが全国大会に出ると、全国放送がされて、学校の宣伝になるし、そういう部活の顧問とかは、学校の中で天皇のように振る舞っていたりする。自分の通っていた自称・文武両道を称する公立高校(生徒からは、文武共倒れ、と言われていた)でも、当時、柔道部・剣道部がインターハイとかの常連だったけど、顧問とか何かえらそーだったからなぁ(試合とかのせいで、授業は全く進まなかったのに) この作品では、部活を巡っての陰謀とか、そういうところまで行っていたけど、そこまで行かずとも、なんか、こういうことあったな、という感覚は誰にでもあるんじゃないだろうか? そんなことを思った。
伏部長の部活引退? とか、そういうのも含めて、どんな部活であっても、その部員にとってはかけがえのないもの。だからこそ……
前作同様のノリで、基本は楽しく。でも、部活動の嫌な部分、爽やかな部分。両者がしっかりと描かれている。

No.5239

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ルパンの帰還

著者:横関大



警視庁捜査一課で活躍する刑事・桜庭。彼の部下に、一人の新人刑事が配属された。その新人刑事は京都で代々続く名探偵一家の娘・北条美雲。天才的な推理力を持ちながら、集中すると周りが見えなくなり、様々なドジをやらかしてしまうという一面も持つ才媛。そんな彼女は、殺人事件の現場に残された「L」の文字に着目するそれは、彼女の祖父が対決した「Lの一族」との関連性も疑われるため。しかし、その桜庭の内縁の妻・三雲華こそ、その一族の娘だった。そして、そんな華と娘の杏がバスジャック事件に巻き込まれ……
『ルパンの娘』の続編にあたる作品。
正直なところ、前作については、キャラクターの強さとかに惹かれたものの、作品のノリ自体がイマイチ、肌に合わないな、と感じたところがあったのだけど、作品のノリに慣れたこと。さらに言えば、ある意味ではご都合主義だと感じた華の家族とかの出番が少ないため。
そんな中で、華が巻き込まれたバスジャック事件。犯人は乗り込んでおらず、爆弾を仕掛けた、という脅しと共に身代金の要求が。どこから犯人が見ているであろうことは予測できる。しかし、どこから? さらにどうやって身代金の受け渡しを? やがて、それは、美雲、華の活躍によって失敗に終わるが、何かモヤモヤとした印象が残り……
バスジャック事件の失敗から、その裏で行われていたこと。そして、その事件と、本来、担当していたはずの事件のつながりへ……。この辺り、良い意味で軽いキャラクターたちのやりとりと、テンポの良い展開が上手く組み合わさって素直に楽しめた。そして、そんな事件の中で明らかになってくる事件の黒幕とも言うべき存在が出て……
って、そこで終わりなの!?
黒幕の姿が見え隠れして、その下で糸を引いている存在を捕えることが出来て、そして、その黒幕の正体が明らかになって……で、なんか、有耶無耶になってしまった感じ。なんか、中途半端感を感じてしまう。
全体的には面白かっただけに、なんか、物語の締めに不満を覚えてしまった。

No.5238

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ノースライト

著者:横山秀夫



一級建築士の青瀬は、信濃追分へと車を走らせていた。「あなたの住みたい家を作ってくれ」 そんな依頼に応えて作った渾身の家。施主一家も、とても喜んでいた……はずだった。しかし、その家は無人だった。電話だけが設置され、人が暮らした形跡はなし。ただ一つ、浅間山を望むように置かれた「タウトの椅子」を除いて……
著者、6年ぶりの新刊。
著者の作品と言うと、どうしても「警察小説」という印象があるのだけど、本作の主人公・青瀬は建築士。そして、そんな彼が、望まれて、そして、情熱をかけて作った家に住むはずだった一家が失踪している、という謎を追う形で展開していく。
とは言え、ただ、その失踪した一家を追う、というだけでなく、様々な物語が複合的に進展していく。そもそもの青瀬が、バブル時代に、その景気を謳歌し、しかし、その後の不景気によりすべてを失った青瀬。妻と離婚をし、ただ既定のものをそのまま設計する、というだけの日々。そんなとき、大学時代の旧友・岡嶋に拾われ、そんなときに来た依頼が、件のものだった。さらに、その岡嶋は、記念館建設を巡って動いていたが、ある疑惑が浮上して……
純粋に物語を進めるための「謎」として考えるなら、失踪した一家について、が一番と言えるだろう。タウトの椅子、とか、そういうものを含めて。そのため、しばしば含まれる青瀬の回想とか、そういうのが序盤は長いな、なんて思うところもあった。でも、物語が進んでいくうちに、その意味がどんどん作中になくてはならないものだ、というのがわかっていく。
バブル後、完全にそれを失った青瀬。そんな彼を立ち直らせるために仕組まれていたこと。そんな周囲によって、青瀬は甦ることが出来た。そして、そんな「代表作」を未だに持っていない岡嶋が目指したもの……。建築を芸術と言って良いのかどうかはわからない。規格品を企画通りに作って、というのも大事なことではある。でも、間違いなく、芸術としての側面がある。そんなものを作るのに必要なものは情熱。そんな情熱を復活させようと動いた人々。そして、その情熱に負けじと動き出そうとした岡嶋……。
物凄く遠大な、そして、見方によってはちっぽけな計画かも知れない。でも、そんなことにかけた人々の、これまた情熱が感じられた。

No.5237

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月とライカと吸血姫5

著者:牧野圭祐



宇宙開発が停滞し、上層部の人命軽視と隠蔽体質が現場に重くのしかかる共和国。宇宙開発競争は資金力と組織力を武器にする連合王国の優勢になりつつあった。そんな情勢の中、レフの同期であるミハイルとローザが結婚する、という知らせが飛び込む。しかし、この結婚もまた、共和国よって仕組まれた強制結婚で……
物語そのものの雰囲気が一気に変わってきたな、という印象の巻。
これまでの巻というのは、冷戦時代の米ソを彷彿とさせる世界観はありつつも、各巻の焦点となる部分は宇宙開発であったり、国内の差別問題であったり、というものを劇的に変える(契機となる)事件という部分であった。しかし、今回は、というと、とにかく、ソ連がモデルとなった共和国の体質、その中でのアレコレという部分へ。
二大超大国という立場で、開発の成功などをアピールせねばならない共和国。しかし、そのアピールの陰にあるのは隠蔽と虚飾にまみれた実態。人名などは軽視され、現場では、ただただ予定が優先されてしまう。そんなところに降って湧いたミハイルとローザの結婚。しかし、これすらも。しかも、結婚し、幸せの中に、と思われた矢先での悲劇……
私自身、ソ連のアレコレとかには、それほど詳しいとは言えないのだけど、共産圏やら、当時の開発独裁国家でのアレコレというのは、間違いなくあったはずだし、その影では……きっと、こういうこともあったのだろう。そして、そこへと反発を覚えながらも、何も出来ないレフやイリナの無力感。また、そのことが、何も知らない人々を騙している、という罪悪感。その中で、一つの行動へと、レフ自身も動き出していくのだが……
完全にこの終わり方は政争へ……ということなんだよね。しかし、その話を持ち掛けた存在も、決して一筋縄ではいかない存在。それだけに、そこへ巻き込まれたレフ、そして、イリナが、というのが気になるところ。

No.5236

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著者:斜線堂有紀



片田舎に暮らす中学生・江都日向。劣悪な家庭環境もあり、将来に全く希望を見出すことが出来ない彼は、サナトリウムに入院する大学生・都村弥子と出会う。金塊病。不治の病にして、身体が金塊になってしまう、という病を患った弥子は死後、自らの相続を日向に持ち掛ける……
物事の「価値」と、それを前にした人の感情、と言ったあたりがテーマと言えるのかな?
過疎化が進む村を発展させようと、様々な事業を試みて失敗し、現在は引きこもり状態となってしまった義父。その義父の失敗と正比例するように、金塊病のサナトリウムに反対する母。家庭を顧みず、全てを活動に注ぎ込む母に問題があるのは分かっているが、しかし、村を出ることも許されず、中学生であるがゆえに何も出来ないでいる江都。そんな彼の前に現れた金塊病を患った女性・弥子。なぜか、自分を相続させると言い出した弥子。ただし、その条件はチェッカーというゲームで彼女を倒すこと。
現実問題として、弥子がやがてなる、という金塊を手にすれば、その境遇から抜け出すことは可能。しかし、なぜ、自分を相続人に? という疑問は尽きない。それでも、チェッカーに付き合うのだが、だんだんと、金塊などよりも弥子自身に惹かれていき……
江都にとって、想い人である弥子。それだけに、だんだんと身体が弱っていく様、その中で自らの感情に揺れ動く弥子を見るのは辛いものがある。だが、その一方で、全く将来に希望を見いだせない、という状況で金塊は大きな魅力にもなる。さらに、その相続のうわさが広まる中で、押し寄せるマスコミ。そんな状況の中で、それまでとは違った顔をのぞかせる養父、さらには母……。そのような中で……
江都にとって最も大事なものは何なのか? 弥子にとって?
金が人を変える、じゃないけど、でも、金がなければ生活が出来ない。何かを始めるにも、それは必要。その中でのエゴ。でも、思うこと。最適解が存在する、というチェッカーというゲーム。では、二人の出した答えは? この結末は、賛否がありそうだけど、この結末は、そんな金の魔力を超えた想いがあったから……なのではないかと感じた。

No.5235

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著者:柾木政宗



女子高生探偵のアイと、助手のユウはひょんなことから遺産相続でもめる一族の住む館へ。一方、アイの兄・レイジは、婚約者を探しているという望に出会う。そして、望を伴って婚約者の館へ向かうことになるのだが……
著者のデビュー作『NO推理、NO探偵?』のアイ&ユウが再登板。まぁ、それだけに作風もその延長線上。
物語としては、館で不可能殺人が発生し、アイとレイジの兄弟が再会し、また次の事件が発生し……という形の上では館モノのような形で進展していく……わけだけど、ひたすらに続くメタ視点での語り口。タイトルで描かれているように、ネタバレしちゃうと……っていうものがある、しかも、それは読者にはバレバレな形で進んでいく。そうして、いよいよ……となって……
これ……どうしたもんかなぁ……
と思わず苦笑をしてしまう作品。散々引っ張った(バレバレの)伏線が判明して、でも、殺人の方の謎は解けない。そこは、やっぱり論理的な、本格モノとして……と思ったら……
なんじゃこりゃ!?
メタネタとか、そういうレベルじゃない、ただのツッコミどころの塊みたいな解決編になっちゃったよ!! こういうと何だけど、トンデモミステリとしての新機軸を狙っているんだろうか? と思えてしまうほど。ただ、例えば横並びで首を切ったら、隣の身体と脳が繋がった、とかより、ある意味ではさらにぶっ飛んでいるしなぁ……
トンデモミステリ、バカミス、なんて呼ばれるようなものの愛好家が大笑いするための作品。もしくは、「ゴミ!」と叩きつけるような作品。間違いなく、そういう系統に入るはず。

No.5234

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罪と祈り

著者:貫井徳郎



隅田川で発見された遺体。それは、元警察官であった辰司。事故死と思われたが、遺体には何者かに殴打された痕跡が……。実直な父が殺されたことに納得がいかない辰司の息子・亮輔は、父がどういう人物であったのかについて調べ始める。その調査はやがて、幼馴染にして親友の刑事・賢剛の父の自殺へと結びついていって……
久々に読んだ著者の新作。
物語は亮輔、賢剛の視点で綴られる現代パートと、二人の父の視点で綴られる過去パートを繰り返す形で綴られていく。
出世とは無縁だったものの、真面目な交番のお巡りさんとして、周囲からの信頼を集めていた父。逆恨みなどの可能性がないとは言えない。けれども、果たして殺されるようなことがあるだろうか? 現代パートの二人は、父の人が変わってしまった、という30年前のことが気になってくる。何よりも、亮輔が思うのは、自分は父のことを知らなかった、ということ。
そして、その過去パート。まさしく、昭和から平成へと時代が移り変わりつつある時期。後のバブルと言われる好景気。しかし、その好景気は、不動産会社と暴力団の癒着となって地上げなどの形として現れ、地域社会を破壊しつつある。そして、その結果としての悲劇も……。そんな中、警察官でありながら何もできない辰司は、賢剛の父・智士らと共に誘拐事件を起こすことを計画していく……
著者の作品というと、デビュー作の『慟哭』のような仕掛けの印象がある。その意味で、本作も一つ、仕掛けそのものは存在している。けれども、そこは主眼でも何でもないかな? という風に思う。むしろ、30年前の事件。時代の変化、というものが生み出したチャンス。犯罪ではある。けれども、決して人を傷つけることがないはずの作戦。でも、それが思わぬ形で失敗し……
軽い気持ちだった、とは思いたくない。けれども、結果を見れば、という結末。それがもたらしたもの。そして、現代で、父たちの過去を知った二人が下すことになる決断……。過去を知らない。では、知ってしまった後は? どちらの決断が正しく、間違っている、というわけではない。単純に考え方の問題。だからこそ、譲れなくなってしまう……
意外性の物語ではない。けれども、作中での誘拐事件のアイデア。そして、知られざる過去を知ったときの思いの交錯。そういう人の心情について掘り下げられた物語であるといえよう。

No.5233

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ファミリーランド

著者:澤村伊智



SFマガジンに掲載された作品を中心に収録された短編集。
著者の作風は、現代的なテーマを題材に、ホラー的な味付けをしている、という感じになると思うのだけど、本作は収録された雑誌などの関係もあるんだけど、近未来的な設定のエピソードが多い。
例えば1編目『コンピュータお義母さん』。結婚をし、夫と息子との三人暮らし。しかし、そんな妻の元へ、常に届く義母からのメッセージ。老人ホームに入っているはずなのに、家の中のあらゆるネットワークを駆使して、まるで一家を監視しているかのように……。あと少しの辛抱。パート先の先輩はそう言ってくれるが……。ネットワークによって繋がること。それがちょっと方向を変えたら……。オチの部分はともかくとして、テーマとしては現在でも、十分に通用するものがあると思う。
婚活の為、マッチングアプリに登録した主人公。だが、そこに登録するためには、大量の写真を登録する必要があるという。それは……。これも、1編目と近いような印象。SNSなどに登録した写真などから、その人がどこに住んでいて、どういう生活をしているのか? とか、そういうのがバレてしまう、なんていうことがあるけど、それを利用した形での婚活というのもまた……。そして、その結婚生活もまた……
収録された話を見ると、近未来。そして、ネットワークとか、そういうものが発達した社会、ということで、その中での「怖さ」が強調された物語が多い、という印象。ただ、そういう世界になったらまず、注目されるのは間違いなく、そういう部分だよね。そういう意味でのリアリティがあり、それ故に、題材としても多く使われたのかな? という気がする。
何と言うか、心霊現象が起こって、とか、そういうタイプの作品ではない。しかし、だからこその、テクノロジーの発達の中でこういうことが起こるんじゃあるまいか? という気持ち悪さ、怖さ、そういうものを感じさせる作品集だと思う。

No.5232

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著者:大森藤ノ



文字通り、舞台を「ひっくり返す」ような派閥連合による人造迷宮探索の失敗。大きな打撃を受けたロキ・ファミリアらは、沈みに沈んでいた。だが、そんな中、神々は、この事件の裏を探り出す。そして、そこで浮かび上がったのは、オラリアそのものを崩壊させかねない大いなる陰謀が隠されていて……
見事な完結編でした……って違うの?
いや、少なくとも、これまでの、外伝シリーズの中で描かれていた数々の異変。その背後にあった陰謀。そういうものが全て解き明かされ、なおかつ、その最終決戦まで……。文庫で580頁あまりと、かなり分量のある巻ではあるのだけど、その分量でしっかりと回収したな、という感じ。
人造迷宮の探索の失敗。その失意の中で発覚した、オラリオ破壊計画。そこにあるのは、伝説の竜・ニーズホッグを倒した、という術の発動。失意を抱えつつも、ロキ・ファミリアはオラリオの危機を救うために再び人造迷宮へ。そのような中、主神・ロキは事件の裏で糸を引く存在へと導かれていく。そして……
発覚する真の黒幕。その中に宿っている狂気。さらに、レフィーヤの前に現れるあの存在。それはまさしく、彼女に取っての最大の試練。そして、その存在の抱えた悲しき事情……。なんか、キャラクターたちの実力が軒並みインフレ気味な気はするが、それは気にしちゃいけないかな?
終盤に参戦するフレイヤファミリア。はたまた、ヘスティアファミリア。その中でも、リリの頑張りなどは凄く印象的。本編とは違った形だけど、でも、これまでの異端児との邂逅とか、そういうのを経て、それぞれが、それぞれの形で成長した、というのがこの形へつながる道筋を作っているわけだし、こまでのアレコレがしっかりと回収されている。で……最終的には……
この結末、明らかに最終巻のそれっぽいんだよなぁ……

No.5231

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