(書評)いつかの空、君との魔法

著者:藤宮カズキ



酸素と同じように、人々の生命活動に精霊が必要な世界。近代化された都市・アリステルは、その精霊の活動を妨げるダスト層雲によって覆われ、人々は空の青さを知らずにいた。そして、そんな都市の生活を支えるのは、箒に乗りダスト層雲を払う儀式・グラオベーゼンの使い手・ヘクセと呼ばれる少年少女たち。そんな中、天才的な箒さばきをしつつも、上空に上がることが出来ないため「3流」と呼ばれるカリムは、幼馴染で1流のヘクセ・揺月と再会するのだが……
第21回スニーカー大賞優秀賞受賞作。
まず、最初に書いておくと……正直なところ、序盤、作品世界に入り込むまでに時間が掛かった。この感想記事では、冒頭にこんな世界観なんですよ、という粗筋を書いてみたのだけど、私は基本、文庫本についてはブックカバーをかけ、しかも、粗筋とかを一切見ないで読みはじめたのでかなり手間取った。何の説明もないままに、作中の用語とかそういうのが色々と飛び出してくるので、途中までは置いてけぼり感を強く感じた。
ただ……、そんな置いてけぼりの中で、「こんな感じか?」と言った世界観が分かってからは一気に面白くなった。
冒頭に書いたように、人々が生活をする上で、精霊という存在は必要不可欠。それが足りないと酸欠のような状態になるし、逆に多すぎてもダメ。そして、カリムと揺月、幼馴染の二人の関係に影を落としているのは、十年前に起きたある事故……
かつて、暴走して事故を起こしてしまったカリム。そんな彼を助けようとして後遺症を負った揺月。カリムは、そのことが一つのトラウマとなり、「自分のせいで……」という思想となり、揺月に対して持つのは罪悪感。故に、どうしても距離を置こうとしてしまう。しかし、揺月にとっては、そうやってカリムが距離を置いてしまうことこそが……
「助けたいから助けた。後悔はしていない」
本当、凄くテーマはシンプルで、その中での二人の関係性の揺れ動きは凄く良い。「名誉の負傷」じゃないけど、多少、後遺症が残ったって、大切な人を守れた、というのは守った人間にとっては誇りでしかない。でも、助けられた側は……
こういうと何だけど、テーマ自体は、一般小説でも十分に出来る作品のように思う。ただ、その一方で、主人公が高校生くらいの年齢で、というのがポイントになっているようにも感じる。例えば、同じようなことが起こり得る職業。消防士とか、警察官とか、そういうのだったら後遺症はシャレにならないレベルだろうし、また、設定に対するツッコミとかも多くあるだろうから……。
良い作品である。その評価は固定。
ただ、欲を言えば、序盤の世界設定の説明とか、そういうのをもうちょっとわかりやすくして欲しかった、と思う。

No.4157

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(書評)スパイは楽園に戯れる

著者:五條瑛



「世の中のためになる人間になれ」 幼い頃に出会った男の言葉に触発された男は、やがて気鋭の政治家として活躍する。一方、「会社」の末端に位置する情報分析官・葉山は北の将軍の子とも言われる男・ヨハンについての調査を命じられる。胡散臭い情報から、葉山がたどり着いた先は……。
忘れた頃にひょっこりと刊行される葉山シリーズ。……一般には「鉱物シリーズ」と言われることの方が多いのだろうけど、1作目、2作目の『プラチナ・ビーズ』、『スリー・アゲーツ』はともかく、そこから先の『動物園で逢いましょう』、そして、本作と鉱物がタイトルにつかなくなったし……。と同時に出版社が集英社から、双葉社に変わって、ちょっとライトな感じになった印象。
物語は2つの視点で描かれる。1つ目は、このシリーズの主人公である葉山。冒頭に書いたように、北の将軍の子とも噂されるヨハンという男の調査から始まる。マカオのカジノで豪遊する放蕩息子。しかし、政治体制の変化の中で何年もその音沙汰は不明。そんな彼が亡命工作? 胡散臭く思いつつも、ヨハンについて調べ、その周辺へと手を伸ばしながら……
もう一方が、元高給官僚であり、やはり情報分析の末端にいる仲上。彼は、現在、気鋭の政治家と呼ばれて注目される涌井から、カンという男についての調査を依頼される。そして、その男は、涌井にとってのルーツとも繋がる……
二人の調査員。スタート地点が異なるため、当然、見えているものも異なる。そして、涌井の出生の秘密。風俗嬢の子であり、しかも、父親は外国の大物工作員。そんな男が、政治家として訴えるのはスパイ防止法の制定。ある意味では、自らの出生の秘密と言う爆弾ではあるが、しかし、彼はそんな出生の秘密すらをも「国のために」利用しようとする。
とにかく、この政治家・涌井が格好良い。仲上視点で、芯があり、しかも、純粋で真面目。そんな風に言われるのだけど、まさにそんな感じ。しかし、だからこそ、「心配」という仲上の想いは……
恐らく、工作員であった父の言葉と言うのは、ただの戯れ。しかし、大物であるが故に実行しようとする者がいた。それも、「工作員」としてのやり方で。そんな裏の存在を知り、「関係を絶つ」決意を固めた涌井が取ったのは……
先に書いたように、過去の長編2作と比べるとライトな展開。しかも、こういうと何だけど、中盤までは着地点が良くわからなくて、っていう部分もあった。しかし、終盤、涌井についてつながり始めたところからスピードアップし、ラストの手紙は……。仲上じゃないけど、その純粋さに泣きたくなった。

No.4156

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著者:井上真偽



聖女伝説が伝わる村の結婚式。その最中、大盃を使っての回し飲みをした8人のうち、3人(+1匹)だけが毒殺される、という不可解な事件が発生した。参列した中国人美女のフーリンと、少年探偵・八ツ星聯はその事件の捜査に乗り出して……
その可能性はすでに考えた』の続編。
前作は4つのエピソードの連作短編形式だったのが、今回は、途中で一気に状況が変わるとはいえ、1つの事件を巡って仮説とその崩壊を繰り返す形の物語になっている。
第1章は、冒頭に書いた事件の概要、そして、その事件の解明へ。毒物を持っていた、ということで容疑者として疑われたのは、花嫁。関係者がそれぞれ、推理を披露する中、少年探偵の聯は、犯人はわからない。しかし、それぞれの推理は間違っている、と指摘し、1章は幕を閉じる。実は犯人は……という本人の心の中での告白を持って……
前作では「奇蹟の証明」ということで、ありとあらゆる人為的なトリックなどを否定していく、というのに対し、今回の話はまずは、花嫁の容疑を否定する、というところなので入りやすいかも。そして、その上で、「実は私は……」という展開になっての攻防戦へ……
第1章も面白いのだけど、個人的には第2章になってからの展開が好き。
犯人は自分。しかし、当然、それがバレてしまっては困る。警察に捕まるのだって困るけど、それ以上に犯人捜しをしているのは非合法集団。しかも、厄介なのは、容疑者候補には一般人の協力者もいる。ある程度の道筋が見えれば、拷問による尋問も辞さない。推理が的外れでも、協力者が拷問にかけられれば、そこで……。そんなときに現れたのは、奇蹟を実証しようとする探偵・上苙。彼は敵か味方か……
終わってみると、「なぜ、その可能性を考えていないんだ!」ってツッコミを入れたくなる真相なのだけど……
比較的シンプルな事件を、多重解決と、非合法集団を納得させねば、という形でスリリングな物語に仕上げたのは見事。面白かった。

No.4155

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(書評)ずうのめ人形

著者:澤村伊智



オカルト雑誌の編集部で働く藤間は、締め切りを前に音信不通となったライターの家を訪れる。そこにあったのは、目をくりぬかれる形で死んだライターの遺体。そして、ところどころが失われた原稿。ホラー作品好きの少女が綴られたその原稿には、「ずうのめ人形」という怪異にまつわる話が綴られていて……
作中に鈴木光司氏の『リング』に関する話が出てきて、何かそれをある意味、オマージュしたような部分がある。
というのは、多少のネタバレになってしまうのだけど、本作の「ぼぎわん人形」もまた、感染するタイプの怪異であるから。原稿を残し、目玉を失った状態で発見されたライター。その遺された原稿を手にしたのは、藤間とともに死体を発見した青年・岩田。しかし、その岩田もまた、同じような形で遺体となって発見された。ということは、原稿を読んでしまった自分もまた、人形が見えるようになって……
『ぼぎわんが、来る』の野崎、真琴と共に、どうやったらその呪いを解くことが出来るのか? そもそも、この原稿の出所はどこなのか? そもそも、原稿に書かれていることをどこまで信じて良いのか? タイムリミットが迫る中で、その調査を行うことに……。このあたりの流れとかって、(私はTVドラマ版を見ただけ、だけど)『リング』の流れに似ている。
上手いな、と思うのは、そのミステリ的展開の藤間の章。そこに織り込まれる形で挿入される原稿の対照的な内容。ただ、「ずうのめ人形」についてだけでなく、独善的で周囲を支配したがる父親。そこから逃げたものの、敵味方のみで、なおかつ現実を見ようとしない母親。学校での境遇……。そんな環境に振り回される少女のドロドロとした感情が描かれる。何が原因なのだ? というミステリと、原稿内のドロドロとした物語。それが両輪となって、文字通り、2つの話を読んでいる気分。
前作と同様に、終盤のまとめ方は、色々と詰め込みすぎで忙しいと感じる部分はある。結局、野崎たちが、どの程度……っていう部分もあったし。ただ、そこをマイナスにしても面白かった、と断言できる。

No.4154

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(書評)ボーパルバニー2

著者:江波光則



傭兵部隊の隊長を務めるラスネイルは追い詰められていた。突如、奇襲をかけてきたバニーガール姿の女に部隊の大半を殺されてしまったため。中国の暗殺者稼業・呂商会の介入。ラスネイルは、部下のプリーストを使い、追い詰められる原因となったダイヤを現金化し、組織の建て直しをはかる。日本の裏社会の大物・灰人、呂商会への依頼人・グレイ、さらに巫女……。バニーガールに因縁のある者たちが揃い……
一応、前作の続き、ということで良いのかな? 前作の登場人物も登場するし……
ただ、多少、前作とは方向性が変わっているように思う。前作は、中国の裏組織から大金を横取りした悪ガキたちが、バニーガールに襲われ殺されていく、という話。その中で、享楽的で、破滅主義的な悪ガキたちの心情などが綴られる、というもの。
それに対し、今作は決して、将来を見据えて、というキャラクターばかりではない。しかし、目の前の状況を必死に打破しようとし、それなりに前を向いて進もうとする者たちの戦い。前作以上に、裏社会の人間同士の抗争という印象が強く描かれているように思う。
そして、話の流れとしても、前作と比べると大きく違っている。バニーガール、呂商会の存在は冒頭、ラスネイルが追い詰められて……というところで出るが。その後は、しばらく出番がなく、各勢力の動きが描かれるのみ。ラスネイルの支持により、呂商会に依頼したダイヤの持ち主・グレイの配下に接近したプリースト。しかし、そこでバニーガールに並ぶ戦闘力を持つ巫女に強襲される。一方で、ラスネイルのダイヤを現金化に手を挙げた灰人と、その下で飼われる疾鷹。さらに、バニーガールの小間使いでありながら、何かを考えている女・ティエン……
バニーガールと巫女。圧倒的な戦闘力を持つ二人の女との攻防戦を繰り返しながら、その背後関係を考える面々。ある程度の構図は見えているものの、何かしっくりと来ない。それはなぜなのか? そして、いざ、取引の日……
最終的にはそれぞれが死を迎えて……というのは前作のパターン。物語を裏から操っていた存在も、ある意味の衝動的な感情で……。刹那的な願いを持つ存在を操っていた者がそれで挫折するというのもまた皮肉が効いていて良かった。
もっとも、ある意味、物語の対立軸となっていた人物が、いつの間にかアッサリと死んでいてたり、とかサプライズというより、唐突に感じたところはあるけど……まぁ、良いか。

No.4153

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著者:友井羊



シェフ・麻野が日替わりで作るスープが自慢のスープ屋・しずく。早朝にひっそりと朝営業するそこには、近くのタウン誌のスタッフがよく訪れる。そして、そこには謎もついてきて……
前巻でシェフ、麻野の過去とかが明かされて……なので完結と思ったのに刊行されたシリーズ第2作。全4編を収録。
前半の3編については完全に「日常の謎」の形。
タウン誌の編集部で働く理恵。その上司である布美子は、マンションを購入。夫との仲も順調そのもののように見えるが、夫から布美子の様子がおかしいといわれる。さらに、布美子の周辺で泥棒騒ぎも起きていて……(『モーニングタイム』)
人事評価があり、もしかして異動? という理恵自身の複雑な心境。さらに泥棒騒ぎに、確かにおかしな上司の様子、と短編にしてはかなり詰め込んでくる。泥棒騒動の犯人とか、結構、小粒な感じだけど、それぞれが連鎖的に解明されていく様は非常に心地良かった。
理恵の初恋の相手。何かと普段、ボーっとし、トンチンカンな受け答えをすることも多いクラスメイトの西山。そして、そんな彼の思い出と言うと林間学校で起こった奇妙な出来事……(『シチューの人』)
真相は結構、重いものがある。ただ、林間学校での奇妙な出来事の謎という魅力。さらに、結構、重い過去の話が暖かい形で決着していくところが魅力的。一つだけ難があるとすれば……結局、このエピソードのあと、理恵と西山の関係がどうなったんだ? というところが気になることだったり、
そんな中で、麻野家の過去が垣間見える『レンチェの秘密』。
前巻もそうなんだけど、このエピソードだけ明らかにカラーが異なるんだよな……。引きこもり状態になった忠司。そんな忠司を何とかしたい梓は、彼が引きこもるきっかけを調査する。そして、その中で、静句という女性警官は自分のせいで死んだ、と言っていた。しかし、そんな情報を得た頃から、梓に対して脅迫が届くようになって……
と、書いただけでカラーが異なるのがわかるでしょ? 1編目で泥棒騒動はあったけど、こちらは「泥棒が?」という疑惑だけ。対して、本作の場合、脅迫やら何やらと明らかに犯罪。そして、そのように調査を仕様とする梓を明らかに毛嫌いする露。勿論、遺された者にとって、掘り返されたくないっていうのはあるだろうけど……。どうしても浮いている感がある。
話としてまとめるのに、っていうのはわからないではないのだけど、普通に日常の謎エピソードで終わってもいいんじゃないかな? と思えてならない。

No.4152

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(書評)治部の礎

著者:吉川永青



信長の死後、天下を目指す秀吉の下で数多くの将たちを差し置いて栄達した石田三成。多くの武将達から嫌われながらも、秀吉の下で動く彼の心にあったものは……。
丁度、今年の大河ドラマが真田信繁(幸村)を主人公にした『真田丸』であり、その中でも多く登場した石田三成。その石田三成を主人公に添えた作品。一般的には、堅物で、秀吉の威を借りて正論一本槍で……なんていわれる三成。それは……
物語は、本能寺の変の直前、秀吉の備中高松城攻めから始まる。戦の場で、矢面で戦う面々と明らかにものの見方が異なることを自覚しつつ、信長の臣下から天下人へと上り詰めていく秀吉の姿から、「信用は力を持った後についてくるもの」ということを学んでいく。そして、その中で、天下泰平という大義へのために自らがすべきことを自覚していく……
何と言うか、序盤の三成は、結構、従来のイメージどおり。しかし、中国大返しから天下人へ……という流れの中、そして、天下を前に少しずつ頑迷に、明らかに衰えていく秀吉を支える中で少しずつ自らのすべきことを為すようになっていく……。他の方の感想とかを読んでいると、三成の行動にブレを感じる、とかあったけど、それも含めて三成の成長なんじゃないかと思う。
天下泰平という大義のため、明らかに無茶な忍城水攻めにおいて、自らの戦下手のせいだ、ということにすれば秀吉の名を傷つけずに済む。明らかに衰えた秀吉の無茶苦茶な主張について、敢えて自らが強行に追随し、周囲が反論させることで秀吉を操作する。これはこれで、「虎の衣を借る狐」かも知れない。でも、一方で、泰平のためには時に主君すら欺くようになっていく様というのは、その表れじゃないかと思う。
ただ、作中で三成自身が言っていたけど、それを理解してくれる者が少なかったのがそのやり方の欠点なのだろう。義、そして、理と情。このラストシーンのようなやりとりは当然、なかったに決まっているのだけど、秀吉の下で動く三成の思惑と言うのは既に家康は見抜いていたわけだし、そこから学んで幕府の方針を決めた……なんていうことでも面白かったのではないか? と言う風に思う。

No.4151

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(書評)偶然屋

著者:七尾与史



司法試験に落ち、就職活動中の水氷里美は、「オフィス油炭」なる会社の求人広告を見つける。連絡をし、待ち合わせ場所として指定されたのはなぜかパチンコ屋。現れない待ち合わせ相手の替わりに、ひょんなことで知り合った店員・栄子と知り合い、彼女の相談に乗ることとなって……
なんか、イメージしていたものとは違ったなぁ……
「偶然屋」、それは普通の人が文字通り「偶然」と思ってしまうようなことを、実は演出によって仕上げる商売。例えば、気になる異性と「偶然」知り合う機会を得て……というような話があるけど、実は色々と仕込んでいて必然的に出会うように仕向ける……というようなことをする、というわけ。
粗筋を見る限り、そんな作品のように見えるし、事実、オフィス油炭の業務はそれ。ところが、読んでみると、この作品はその脇で起こっている凶悪事件、その黒幕との戦い、みたいなものに終始してしまって「あれ?」という感じ。
まぁ、いつもの著者の作品と同じくテンポがよく、キャラクターはしっかりと立っている。主人公の里美もさることながら、やたらと確率論で語りたがる油炭、子供だけど格闘技が抜群に強いクロエ。それぞれの掛け合い。そして、一種の連作短編的に、冒頭に書いた栄子が隣人から嫌がらせを受けているという相談。出会いを演出して欲しい、という男性の相手の秘密。それぞれちょっとブラックだけど、なるほど、とは思えた。
ただ、その背景に実は黒幕がいて、しかも、各章で挿入される過去の不穏なエピソードと繋がって……となったときに、結局、偶然屋の仕事と言うようなものの印象が薄れてしまったのだ。しかも、最終的に「続編を書きますよ」的な終わり方なのですっきりと解決って感じでもないし。
面白いのは確かなのだけど、このタイトルと、Amazonなどの粗筋だったので「なんか違う」感を覚えてしまったという何とも言えない読後感だった。

No.4150

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著者:支倉凍砂



ホロとロレンスが温泉地ニョッヒラに宿「狼と香辛料亭」を開いて十数年。ずっと働いていたコルが旅立ち、一人娘であるミューリまで彼についていってしまう、という人手不足の状況の中で……
という短編を集めたエピソード。
5年ぶり、か……。正直、綺麗に完結した作品を何年も経過した後、もう一度、新作出します! みたいなやり方は好きではない。好きではないのだけど……でも、買ってしまうファンの悔しさ。やっぱり、気になるのよ!
ということで、前作から十数年。行商人ではなく、宿の主人公となったロレンスと、その妻である賢狼ホロ。秘湯として多くの客が訪れる町での日常を切り取った形で描かれる。
閑散期を迎える時期に、何か客を呼べるイベントはないだろうか? そんなことを考える1編目『旅の余白』。どちらかと言うと、前巻からの中で、ホロとロレンスの関係がどうなっているのか? という近況報告みたいな印象が強いエピソード。なんていうか……娘がコルと一緒に出て行ってしまい、そんな娘から手紙を後生大事に繰り返して読むロレンス。しかも、決して「駆け落ち」とは認めようとしないロレンスに、いい加減にしろとツッコミを入れるホロ……。ある意味、父と娘ってこんな感じかも、と思いつつ、思い切りヘタレキャラになってない? という感じがする。……というか、最近のクースラ状態だよな(笑)
宿にやってきた男。金払いは良いが、湯を楽しむでもなく、何かを探している様子のその男の目的とは? という『黄金色の記憶』。歴史ある温泉街の持つもの。そして、その男が求めていたものの思わぬ正体。あとがきで、『マグダラで眠れ』より、こちら向きのネタがあったから、ということなのだけど、どちらでやっても良かった気がする。
そんなエピソードの中で語られた、山を挟んだ反対側に新たな温泉街が? というのが具体性を持って出てくる『狼と泥まみれの送り狼』。一番の分量を誇り、世界観とか、そういうのにも関わってくる。やりとりとか、そういうのは相変わらずなのだけど、山の向こう側に温泉街を作ろうとする理由。その権利などを巡っての思わぬ落とし穴。
結婚をし、子供を為したけど、でも、人間と神の間には……というのは避けて通れない問題でもある。本編の終盤で常に感じていた別れへの予感というのはやっぱり残っているわけだけど……それを知っていても、という関係性を改めて思い出した。もう1作、刊行予定があるらしいのだけど……その辺も描かれるのだろうか?
と言ったところで、最後のエピソードあるんだけど……、ミューリさん、恐ろしい子、としか思えない(笑) これは同時刊行の『新説』の方で実感することにしよう(笑)

No.4149

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著者:櫛木理宇



まもなく冬。晶水は、親友であるトシこと、美舟から悪い夢を見るという相談を受ける。蛇と老婆、というその夢のことを「ゆめみや」の千代に相談するのだが、いつもはしつこいくらいになれなれしい壱の様子が何かおかしい。そして、その夢は、学園の生徒たちに伝染していって……
シリーズ第3作で、初の長編。
物語の中心となるのは、冒頭に書いた「蛇と老婆」の夢。そもそも、その老婆に覚えがないし、蛇と言われても……。しかも、同じような夢を見る生徒が続出。夢って伝染するものか? はたまた、皆に共通点が? 確かに、学園の近くの「マムシ山」と呼ばれる山、そこでの遺体発見事件。その山に住む一家……それっぽいものはあるにはあるが……
過去2作は短編ということもあり、夢から依頼人の過去の出来事を、というあくまでも個人的な話だったものが、学園全体での問題。そして、ある意味、町の歴史にも話が及ぶなど、大分、スケールの大きな話になっている。そして、その中で晶水と美舟の友情が光る。
ただ、今回の物語の場合、むしろ大きいのは、スケールよりも晶水と壱の関係の方かも知れない。
紹介文で書いたように、いつもはしつこいくらいに迫る壱の様子がどうにもおかしい。何か晶水を避けているし、「夢見」は一緒に行うもののどうにもよそよそしい。そのために、ミスをしてしまうことすら……。そんな状態になったのは、壱が助っ人で参加したバスケ部の試合で、晶水と同じ中学だった男子生徒と会ったこと……
こっちは、「多分、この辺だろうな」というのが想像できるし、本当のその想像通りだった。でも、意外とそれが後を引くことに。晶水は晶水で壱の様子がおかしいのは、壱の心が自分から離れてしまったのでは? 以前に騒動があった神林とかに……などとうじうじと悩む。前回の感想の締めに、「全く関係性が進まない」とか書いたけど、その点で言えば、話が一気に進んだ感じ。だって、完全に意識しているわけだし。晶水が何だかんだと、自分の心を自覚し始めている、ってことは関係性の変化にも繋がっていくのかな? と……
そういう意味で、普段よりスケールの大きな話の中で、晶水とトシの友情。そして、晶水と壱の関係の進展。2つの関係性が楽しめた巻、と言えるんじゃないかと思う。
……で、これ、続編ありますよね?

No.4148

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