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竜と祭礼 魔法杖職人の見地から

著者:筑紫一明



師匠が死亡し、店をたたみ、旅に出ようとした半人前の杖職人・イクスの前に一人の少女が訪れる。その少女・ユーイは、師の作った魔法杖の修理を依頼するために訪れたという。師の遺言により、修理を請け負うことになるイクスだったが、伝説の職人と言われた師の作は見たこともない材料で作られていた。ユーイ、姉弟子・モルナらの手助けもあり、その材料を特定することは出来たが、その素材は、千年以上前に絶滅されたとされる竜の心臓で作られており……
第11回GA文庫大賞・奨励賞受賞作。
あ、これ、私の好きな奴だ! 読み始めて、まずそう思った。
物語はどちらかというと淡々と進む。冒頭に書いたように、師の遺言により、師の作った杖を修理することになったイクス。師の作った杖の材料は何なのか? その材料は「竜の心臓」というのだが、竜ははるかむかしに滅びたはず。そもそも、竜とは一体何なのか? 資料や伝承といったものを頼りに、一歩一歩、その正体へと迫っていく。地味な展開と言えばそう。でも、その地味に調査をする中で、作品の世界観とか、そういうものが少しずつ見えてくるのが心地よい。
そして、そんな中でちょっとした違和感が……と言う中での、杖がなぜ壊れたのか? なんていう部分でのひっくり返しがあったりとか、地味ながらも、ちゃんと物語の起伏があるのも好印象。その点で、ちゃんとユーイの成長物語としても機能している、っていうのも個人的には好きなところ。
あとがきで、「映し出す範囲」が少し狭くせ呈されている、とあるけど、確かに世界観などを後から、という点では多少「ズルい」と思う部分はある。ただ、あるんだけど、別に唐突に、後付けで、というわけではなく、物語の展開を考えるうえで、こちらの方が読者を引き込むことができるため、という計算なのはよくわかる。実際、「そりゃないだろ」とか、そういうのは全く感じなかったし。
最初にも書いたけど、私、この作品、大好き。続巻あるなら、それも期待したい。

No.5359

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僕と彼女の嘘つきなアルバム

著者:高木敦史



故郷の街に息苦しさを感じ、東京の大学に進学した可瀬理久。彼が敬愛する写真家・綿引クロエが立ち上げた創作サークルへに入会。しかし、既に廃部寸前で、活動もしていない。そんなところに現れたのは、クロエの娘・真白。彼女は、会ったことのない自分の父親を捜している、という。そして、彼女には「写真越しに目の合った相手と会話が出来る」という不思議な力を持っていて……
スニーカー文庫じゃなくて、角川文庫での刊行。レーベル的には一般文芸ということになるんだろうけど、真白が一種のサイコメトラーである、ということを考えても、設定的にはライトノベルレーベルっぽい感じがした。
物語は、本編たる4編と、その間に掌編を含めた形で綴られ、それぞれのエピソードで謎があり、それを解消して、という形になっている。ただ、それらは、真白の父を探す。真白と母の関係性を、というところで貫かれており、連作長編というのが正しいのかな? という気はする。
例えば1編目は、可瀬、そして、真白がサークルの部室へとたどり着いたところ。部室には、クロエが残した、という写真があったはずなのだが、なぜか、それが消失。その中で、クロエのファンである可瀬が盗んだのではないか? という疑惑が湧いてしまう。そんな中で、真白は、その部室にいた面々の、それぞれが嘘をついている、ということを指摘して……。それぞれの嘘。その中での破綻。そんなところを描きつつ、真白が、どういう存在なのか、というのを示すエピソードになるのだろう。
で、そんな感じなので、各エピソードの感想を、というよりも、全体を通しての印象が強くなのかな?
娘である真白からしても、厄介な存在、である母。幼いころから、自分に父親がいないことが疑問であったが、そのことについてまともに語ったことは一度もない。だからこそ……。そして、真白自身が、自分に正面から向き合ってもらっていない、ということを感じていた。故に、どうしても感じる距離。そんな中、可瀬や、サークルの仲間たちの協力によって父について調べていく中で……
ぶっきらぼうで、自分に対して正面から向き合ってくれない、と感じていた母の真意。それでも、真白が、ちゃんと幸せになってほしい、という思いが込められていた……という辺りは素直に良かった。サークルメンバーが良い人過ぎる、という気がしないでもないけど、それは気にしちゃいけないとして……。そこは確かに感じた。
ただ……正直、ちょっと読みづらい、っていうのを感じた部分もある。というのは、物語の視点が唐突に切り替わる部分が何度かあるため。基本は、可瀬視点なのだけど、突然、真白視点と思われる部分になったり、母親視点になったり……とか、そういうのがあった。読んでいれば、っていうのはあるんだけど、「いつの間に、こっち視点に?」と思われる部分があったのはちょっと気になった。

No.5358

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著者:赤松利市



大阪でニューハーフ店を営む桜。63歳になった彼女は、23歳で、同じくトランスジェンダーでもある沙希を娘のように可愛がりながら、慎ましい生活を送っていた。そんな桜の前に現れたのは昔の男・安藤。FXで大きな利益を上げている、という安藤は、自分に投資の運営をしないか、と持ち掛けて……
凄くひきこまれた。
冒頭の粗筋だけだと、どういう話なのかわかりづらいので、もう少し先まで書くと……
安藤は、桜にとっての昔の男。しかし、自分を捨てて、女性と結婚をした相手でもある。そんな安藤が自分の前に。何をいまさら……そうは思いつつも、しかし、安藤のことが気になって仕方がない。また、還暦を過ぎ、自分の健康などにも不安を抱く日々。その中での老後資金は心もとない。ならば……。しかし、そんな安藤の存在を快く思っていない沙希。安藤を巡って諍いになった挙句、桜が安藤に預けようと思った金をもって失踪してしまう。桜は、安藤と沙希を追うことに……ということになる。
SNSに、まるで自分を追ってこい、とでも言うかのように残される沙希の現在地。当然、桜は安藤とそこへ向かうわけだが、その中で見える安藤の暴力性、短気さ、そして、胡散臭さ。沙希が言っていた通り、この男は……。そういう思いを強くするが、しかし、離れることは出来ず、しかも、時折見せる安藤の弱みに、自分が支えてやれば良いのでは? なんていう甘い考えも浮かび上がる。虐待によるマインドコントロールとか、そういう部分もあるんだろうけど、桜の、しっかりしているのか、そうではないのか? そういう心情描写が凄く生々しい。
ただ、これだけなら、主人公がニューハーフである、という必要性はない。女性でもよいはず。しかし、その旅先、沙希の過去なども出てくる中で、しっかりと、ニューハーフである、という面も意味を持っているのが印象的。自分が、ということを家族などにも言えず、日陰者としての人生を過ごしてきた桜。そんな桜にとって、自分のことを家族に打ち明け、家族も認めてもらっている沙希は幸せじゃないか、という思いを抱いている。しかし、沙希にとっては……。「ちゃんと理解しているよ」 これは、確かに、幸せに見えるかもしれない。でも、女として生まれた人が、周囲の人に「君が女性だってのはわかっている」なんて言う風には言われない。当たり前のことだから。攻撃はされない。でも……という無言のプレッシャーの息苦しさ。そして、安藤との旅の中で桜自身もそれを自覚していく……。そして……
そんな中で沙希とも再会、和解をし、安藤の手を離れることもでき、今後のことへ……となっていって……での結末……
これが、うーん……
なぜ、桜はそういう動きをしてしまったのか? ある意味、分かっていても……と言うの部分が桜の弱さだった、ってことなのかもしれないけど……。なんか、最後がちょっと腑に落ちなかったな……とも感じた。

No.5357

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卒業タイムリミット

著者:辻堂ゆめ



『欅台高校、3年8組担任、水口里紗子を預かった』 ウェブ上にUPされた動画。その動画に、卒業式を間近に控えた新設私立高校は騒然となる。そんな中、不良として睨まれていた3年生・黒川の元へは「誘拐の謎を解け。真相は君たちにしか分からない」という挑戦状が。同じ挑戦状を受け取った元サッカー部のエース・荻生田、学年一の美少女・澪、黒川の幼馴染の優等生・あやねは、協力して、水口を探すことになるが……
結構、エグい話ではある。
「生徒、一人一人に居場所を」 そんな理念を掲げている高校。しかし、教員たちは、理事長の顔色を窺い、ただ生徒を抑圧するだけ。理事長の理念によってつくられた「告白カード」は、何も書かなければ呼び出し、真面目に書けばやっぱり呼び出し、という罰ゲーム。そんな学校にあって、奔放な言動で人気を集めていたのが、誘拐・監禁された水口だった。
若手教師の伊藤の協力も得て、その水口はどういう人物だったのか? を調べ始める四人。しかし、その実態は他の教師から言われるように自堕落なもの。そして、その中で浮かび上がってくる容疑者候補は、水口と対立していた、そして、四人からも嫌われている同僚教師。1日に3回、決まった時間に配信されることから、彼らのアリバイを調べ始める。そんな描写と、その中に挿入される深刻な「告白」。黒川自身の想い……
丁度、ちょっと前に、小学校でベテラン教員が、集団で同僚に嫌がらせなどをしていた、というのが話題になっていたけど、学校と言う空間の中での教員同士のイザコザ。さらに、新設校で、勉学、スポーツなどをについての実績を、と言うことの中での不正。さらに、教員の特定の生徒へ対する贔屓……。そういうものが露わになってくる。……正直、これ、自分の生徒時代とかに、自分自身も体験したことであり、物凄く身に覚えがある、っていう感覚になった。探偵役となる四人についても、秘密を抱えていて、それがどう結びつくのか、というのも興味を惹かれる形になったし、それらの伏線がしっかりとまとめ上げられる、という丁寧さは見事の一言。
ただ……読み終わると、何か気持ちが悪いんだよな(苦笑) 綺麗過ぎる、というか、独善的すぎる、というか……
犯人の想い、っていうのはわからないでもない。ないんだけど、そもそも、そんなギリギリになるまでなぜ犯人は何もしなかったのだろう? もっと他に打つ手があるんじゃないの? また、黒川自身についても、ちょっと唐突というか……。そこまで、学校内での結構、エグいやりとりとかがリアリティも伴っているだけに、結末に違和感を覚えてしまった。
話の構成とか、そういうのはしっかりと出来ている。だからこそ、かな?

No.5356

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著者:二丸修一



幼馴染の黒羽に告白し、見事に玉砕した末晴。あそこまで行っていてフられるのか? そんなモヤモヤした気持ちを抱える末晴だったが、その様子は、SNSで拡散。そんなとき、子役時代の後輩・真理愛が現れ、さらに末晴の芸能界復帰の話も持ち上がり……
あー……もう、面倒くさいな、こいつら!
新キャラである真理愛の登場っていうのはあるんだけど、何よりも、黒羽の存在が面倒くさい。
そもそもが、末晴のことが好きで、告白されたら……と思っていたのに、いざ告白されたら勢いで断ってしまった! そのことに悶々と……。さらに、白草やら真理愛やらが現れてのさや当て合戦が……。もう、この時点で面倒くさい、の一言。そんな中、黒羽が記憶喪失に? そして、末晴の芸能界復帰の話まで降って湧いて……
前半は、もう面倒くさいなこいつら! と言う感じだったのが、末晴の芸能界復帰を巡ってのアレコレが出てきて、熱い方向へ。
末晴の、そして、黒羽の意向を無視して芸能界入りを進めるプロダクション社長。明らかに、見下した物言いをしてくるその社長の言動に怒り、WEBCMの再生数対決をすることになって……。細かくルールを定め、違反が出来ないように、と言う中での対決。そのルールの隙をついての策略。前半のただ、ひたすらに悶々とした話、というところから一気にカラーがかわり、その中での末晴の真っすぐさとか、そういうのが明らかになってくる鮮やかさってうまいよな、と素直に思う。そして……
でも、それだけで終わらずに最後にやっぱりひっくり返す、っていうのがこの作品の凄さ、になるのかな? 何か仕組まれているんだろうな、とは思ったけど、こういうひっくり返し方があったか……。やっぱ、油断ならねえ…・・・

No.5355

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左遷捜査3 三つの殺人

著者:翔田寛



刑務作業中の事故で病院へと護送中の受刑者が逃亡した。逃亡した暴力団員・国生を追うことになった目崎と棟方だったが、その中で、棟方の捜査は明らかに暴走していく。そして、その事件には、目崎の父も関わっていて……
シリーズ最終作。
正直、ちょっと忙しかったかな? と言う感じが残る。
物語としては、冒頭に書いたような形で、6年前、殺人未遂で逮捕され、収監中の暴力団員・国生が逃亡。懲役8年という中、もう少しいれば、と言う中での逃亡は、国生が所属していた組の関係者にとっても思わぬこと。ところが、そんな中で、その組の幹部の一人が独自に、国生について調べ始めている、ということが判明する。そんな中、暴走しはじめる棟方。さらに、目崎の父が死亡した15年前の事件も関わっていることが判明していって……
現在、6年前、そして、5年前。3つの時代が錯綜して、という構成は、著者の得意とするところ。その通り、過去のパートなどを挿入しながら展開していく。
目崎の父が殺されながら、なぜか黙殺されてしまった15年前。優秀な捜査官であった棟方が日陰者になってしまったきっかけとなる6年前。そこに関わっているという国生ら、暴力団員達。そして、その中で見え隠れする、警察内部でのアレコレ……
かなり詰め込まれていて、それ自体の読みごたえは十分にある。単純な事件ではなくて、警察内での権力争いであるとか、そういうものまで関わってくるわけだし。ただ、その一方で、なんか、一気に表に表出しすぎかな? とも思える。目崎は殉職した刑事の息子。棟方は、優秀だったが、現在は……。そういう過去とかは、これまでのシリーズの中で出てきていたし。でも、具体的な話とかは、ここまでほとんど出ていない中で、文庫で300頁余りの中に、それをすべて詰め込んだために、どうしても……っていう感じがするんだよな。
いや、決して悪い作品ではないのだけど、シリーズを通しての掘り下げとか、そういうのを、と思ってしまうのだ。そこが引っかかった、というか……
いや、多分……
目崎、棟方コンビのアレコレを、もっと読みたかった、っていうのが大きいのかな? という部分によるのかも……

No.5354

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ノッキンオン・ロックドドア2

著者:青崎有吾



不可能な謎専門の倒理。不可解な謎専門の氷雨。そんな二人の探偵の元には奇妙な謎が舞い込んで……
タイトルの通りのシリーズ2作目。
前作を読んでから3年ぶり、ということもあって、読みながら「こういう設定もあったな~」なんていうのを思い出した。流石に、倒理と氷雨については覚えていたけど、腐れ縁の刑事・穿地。宿敵となる美影。その4人が、同じゼミに学んだ関係で……なんていう設定、読みながら思い出す形になってしまった。まぁ、終盤のエピソードでは、その辺も関わってくるんだけど、それは関係なしに読んでも良いのかな? とも思う。
例えば1編目。DIYを趣味とする男が、その作業小屋で殺害された。扉には鍵が掛かっており……と言うのを見ると密室殺人のようにも思われるが、その作業小屋にはDIY用の工具によって巨大な穴が開けられていて……
なぜ密室状態の小屋に、大きな穴をあけたのか? 壁に返り血がついた? そんなことを考察しながらの真相は……はっきり言ってバカミスっぽい(笑) でも、それが良い。
真面目な謎解きとして面白かったのは、3編目『穿地警部補、事件です』。フリーライターの男が自宅マンションから転落して死亡した。事件、事故、自殺? 色々と考えられる中、事件の目前に一人の老人が男が、女性とベランダにいた、という証言をして……。これも、密室殺人ということではあるのだけど、そのアレコレも論理的。さらに、男のやっている仕事と過去が交錯してのひっくり返しは素直に上手い。
そんな中で、「チープ・トリック」によって殺人をプロデュースする美影の存在などが出てくる中、美影が依頼人となり、5年前の事件について……となる。それは、ゼミ生たちの中で起きた事件で……
正直なところ……これ、ある意味で「最も気持ち悪い」関係と言えそう……。なんか、理解できなくもないような、いや、でも……。そんな感じの後味が残った。

No.5353

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さよならの儀式

著者:宮部みゆき



全8編を収録した短編集。一応、テイストとしては近未来、SF設定というものを用いた話である、ということになるだろうか。ただ、そのSF的な設定があっても、いや、設定があるからこそ、現代の社会問題などをより際立たせているのかな? と言う感じがする。
例えば、『戦闘員』。毎朝の散歩を日課にしている老人・達三。ある朝、彼は、防犯カメラを破壊しようとしている少年を発見する。その場は、少年を叱り飛ばして終わった話だったが、その事件をきっかけに、町中に防犯カメラがあることに気づく。そして、少年と話をする中で……。正直、「ここで終わり?」と言う感じの終わり方ではある。あるし、また、この作品の設定は突飛ともいえる。けれども、防犯などのために、というカメラが悪用されるリスクとか、そういうのを十分に考えさせられる。
物語として印象に残ったのは表題作かな? 家事や介護などをするロボットが一般的になった社会。老朽化したそれを処分する施設に勤める主人公の元に持ち込まれたのは……
ものに対する感情移入。こういうと何だけど、例えば、人形とか、ぬいぐるみとかに感情移入をする人、というのは多い。また、ペットを家族に、なんていう人も多い。そんな中、ロボットが出てきたら……。見た目は人間そっくり。AIなどでコミュニケーションも可能。実際、目の前で、人間と同じように動いている。けれども、老朽化の影響ははっきりとある。むしろ、動くからこそ、危険である。主人公は、その危険性を感じているが、しかし、持ち込んだ側は納得しない。そんなやりとりの末で、主人公が願うのは……。実際にこんなことが増えそうだ、というのを感じざるを得ない読後感だった。
ちょっと異色だったのは『聖痕』。調査員である主人公の元を訪れた一人の男。男が依頼したのは、息子のことについて。離婚した妻に引き取られ、劣悪な環境で育った息子。その結果、息子は、母とその夫を殺害し、当時、センセーショナルに報じられた。少年院での時を過ごし、現在は真面目に生きている息子だったが、自分の過去の事件についての情報を調べたところ……
これは、SF設定というよりも、今現在、現実に起こり得ることじゃないか、という気がする。WEB上に溢れる様々な情報。真偽怪しいものもあるが、しかし、そんなセンセーショナルな事件だからこそ、それを崇拝する人々まで現れて……。実際、こういう事件において……っていうのはこれまでにも起きたことだし……。これに関しては、SFじゃなくて、素直に社会問題を描いた話だと思う。
と、ここまで書いてきて、SFと現代ものの差って何だろう? なんて思えてきた……

No.5352

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天才少女Aと告白するノベルゲーム

著者:三田千恵



大好きなフリーゲーム製作者「A」に会うため、ゲームを製作した桜山学園ゲームに入部した水谷湊。しかし、ゲーム制作の中心を担っていた部長の菖蒲は不登校状態。そこで、菖蒲の幼馴染で、変わり者として知られる由井と共に菖蒲の復帰を促すことにするのだが、そんなとき、湊の元に一本のノベルゲームが送られてくる……
どんどん引き込まれた!
物語のスタート地点は上に書いた通り。湊の元へと届いた一本のノベルゲーム。そして、そのゲームの名は『バッドエンドを探せ』。その内容は、かつて、ゲーム部が制作した『鬼が島』というソフトを巡って、菖蒲、由井らの過去を綴った告発モノ……。
最初に整理しておくと、かつてゲーム制作部が発表した『鬼が島』。同人ゲームであるが、その内容は高く評価され大きな人気を集めた。しかし、その一方で、そのゲームに影響された、と報道される自殺事件が起きていた。そして、その自殺したのは菖蒲のかつてのクラスメイト。さらに、ゲーム制作を巡って、菖蒲が由井の作ったシナリオを盗用した、なんていう疑惑まで出てきて……
そもそも、湊の目的であったのはAという人物と会うこと。名前からして、菖蒲ではないかと当たりをつけるのだが……。そんなところに、生まれ育った田舎町を離れる、というときに湊が経験したことなども含めてそれぞれの想いが丁寧に綴られて行き、終盤はひっくり返しの連続へ。序盤の、ゲーム制作部の隠された人間関係から引き込まれたのだけど、後半に入って、ちょっとしたヒントから湊が隠されていた部分を明らかにして、物語が次々とひっくり返っていく様は文字通りに圧巻。
読後感も良くて、読み終わって、素直に思う。面白かった。

No.5351

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著者:木犀あこ



都心に建つ、老舗ホテル・ウィンチェスター。創業90年を超えるここには、人間だけでなく、様々なモノがやってくる。そんなウィンチェスターでコンシェルジュとして働く友納は、ありえないトラブルに振り回されながらも、最高のおもてなしのために奔走する……
そんなウィンチェスターでの事件を描く連作短編集。全4編を収録する。
著者の作品を読むのは、デビュー作以来。そのデビュー作について、心霊現象とかは起こるけれども、「怖さ」は殆ど感じなかった、という感想を書いた。そして、本作も作風としてはそれに似ている、ということは言える。
というのも、粗筋でも書いたように、物語として、このホテルには「人でないモノ」。つまりは、亡霊とか、そういうもおが数多く住み着いている、というのが前提。主人公である友納の周囲には、常に傍らにいてゴチャゴチャと話しかけてくる(勿論、友納にしか察知できない)「嗤い男」とか、ついつい色々なモノを盗んでしまう「スニファー」なんていうのがいて、そういう存在とやりとりをしながら不可解なトラブルの真相を探っていく、という形で綴られていく。
ということで、心霊現象そのものは、怖くない。ただ、それぞれの事件はかなり陰惨なものだし、現象そのものは解決したけれども……という後味の悪さが印象的。
例えば1編目は、客室で突如、血が滴ってきた、というところから始まる。なぜ、何もないところから? 調べるうちに、他にも突如、モノが現れる、という事象が起きていたことが判明。そこから、現象そのものが全く反対であることがわかり、そして、その上で……。現象そのものは判明したけれども……という余韻が印象的。
そんなのが最も強烈なのは3編目。54年前、ウィンチェスターで起きた霊能者の変死事件。火を起こすことが出来る、という霊能者が、ショーで失敗。しかし、その後、部屋で発火をし、足首を残して全て死亡してしまった。そんな事件の現場を、その事件の生き残りである女優がTV番組の撮影で訪れて……。女優の置かれた陰惨な子供時代。そして、こうだと思われていた事件そのもののあり方がひっくり返って……の鮮やかさと、その上での後味が印象的。
で、そんな上で4編目はちょっと美しい形で締められて、それまでの後味の悪い物語がちょっと浄化されるような……
キャラクター同士の掛け合いとかは明るく、でも、事件そのものは結構、陰惨で……。そして、1冊の本としての構成もまとまっている。すごく良かった。

No.5350

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