著者:和ヶ原聡司



父に替わり「勇者」として異世界へ赴くことを決意した康雄。ところが、その矢先、一発目のテストで3つもの赤点を取ってしまう。原因は、勇者になるための指導のせい、と責任を感じるディアナは、自分が家を出ると主張。そんなとき、異世界からディアナの上司であるハリーヤが現れる。康雄の勇者修行に反対だという彼女は、学校にまで追いかけてくる。結果、ディアナとの関係を誤解した翔子との関係もギクシャクしはじめて……
正直なところ、1巻で話としては一段落ついたと感じているだけに、どう来るのかな? と思ったら、やっぱり準備段階をじっくりと描く形に。
勇者修行のため、学業が疎かになり、結果、赤点。追試を受けなければならなく……。この辺り、やっぱり地に足がついている、というか、学生生活の1ページという印象。この辺りを描いてくるっていうのは、著者の芸風だよなぁ……。
まぁ、今回、康雄の勇者修行に反対するハリーヤの言い分って、確かに、と思えるんだよね。
侵略者からの攻撃に対し、世界が一丸となっている時代であれば、まだ受け入れられたかもしれない。しかし、現在の世界はそこまでの脅威に晒されているとは言い難い。しかも、勇者の名前はとてつもなく脚色されている。その状況で、勇者、勇者の後継者という存在が現れたら国際問題の引き金になってしまう。しかも、その後継者が、実力不足である、となれば余計に……。ならば、それはやめておいた方がよい。
これは、確かにそうかもしれない、と思わせられる。この辺りは、著者らしい話の進め方だと思う。
とはいえ、すでにディアナたち以外にも異世界から何者かが現れているかもしれない。ということで、ディアナらが康雄たちの護衛につくが、今度は、それを勘違いした翔子の反応がおかしくなって……。そして、シィが現れて……
後半の流れは、翔子が生きたまま、シィに取り込まれて、という形で話が進んでいき、ハリーヤの事情も出てくる。まぁ、シィがどういう存在なのか、というようなヒントにもつながっていると思うのだけど……あまり、ハリーヤの事情とかが出てこない中で、実はこういう過去を背負っていて……となるだけに、ちょっと唐突な感じがしてどうにも感情移入しづらかった。しかも、あまり話そのものも進んでいないしなぁ……
『はたらく魔王さま!』シリーズもそうなのだけど、どうにもここのところの著者の作品って、丁寧さの代償に、テンポが悪いと感じられてしまうのが残念。

No.4564

にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

当記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。


スポンサーサイト
著者:山本巧次



大阪南部を走る路面電車・阪堺電車。その中でも、現役最古のモ161形177号は、戦前から85年もの時間を大阪の街と共に走ってきた。そんな阪堺電車の周辺での事件を描いていく連作短編集。
それぞれのエピソード。登場人物にリンクはあるものの、物語的は基本的にそれぞれ独立した物語となっている。そして、この作品の良さは、戦前から戦後に至るまで、それぞれの時代背景がしっかりと感じられるところじゃないかと思う。
例えば、177号がデビューした当時を描く1編目『二階の手拭い』。阪堺電車の車掌である辻原は、沿線の質屋に毎日のように手拭が掛かっているのを発見する。あれは、何かのメッセージか? そんなことを思っている中、事件が起こり……。手拭でメッセージを、なんて、作中でも言われているように映画や小説じゃないんだから……というようなもの。でも、まだ景気が悪化する中とはいえ、牧歌的な雰囲気があった時代なら、という感じ。そして、そこにもちゃんとひっくり返しを入れてきて、「こういう作品集なんだな」というのをしっかりと感じられる導入編。
一番、温かい雰囲気が漂うのは、3編目の『財布とコロッケ』。阪堺電車で通勤する章一は、いつも乗り合わせる女性に一目ぼれしながらも、声をかけられずにいた。そんなとき、彼女が財布を落とし、それを一人の少年が拾ったのを目撃する。しかし、その少年は、財布を返す素振りすらなく……。女性が落とした財布は、出ていった母が使っていたのと同じだから……という説明をされるが、実は……。ひっくり返しもさることながら、章一が少年に食わせたコロッケ。今では何てことない料理だけど、当時はごちそうだったんだ、という感覚の違い。そして、少年の、ある意味でちゃっかりとした、一方でしたたかさを感じさせる思惑が何とも心地よい。
逆に、バブル時代を舞台とした『宴の終わりは幽霊電車』。キャバクラ嬢であるアユミは、自分の店に、実家を破滅へと導いた地上げ屋・相澤がやってきて、今なお、同じことをしているのを知り、復讐を企てる。地上げのために色々な嫌がらせをする相澤と、それに対抗するアユミと、そのターゲットとされたたこ焼き屋の攻防というのもさることながら、その相澤の事情が印象的。いや、同情すべき点がある、とか、そういうことではなく、自らの破滅すら天秤にかけた金儲け。会社の資金をすべてつぎ込み、借金をしてでも土地を手に入れ、しかし、それを転がすことで莫大な利益を手にすることが出来る。最終的に相澤の野望は果てるわけだけど、そのやり方自体が時代を反映していて印象深い。
大阪って、本当に自分にとって縁もゆかりもない土地なのだけど、程よいユーモアの含まれた作風と言い、読んでいて温かい、懐かしい気分になることが出来た。

No.4563

にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

当記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。


(書評)忍物語

著者:西尾維新



大学生になった暦は、臥煙伊豆湖に呼び出され病院を訪れる。そこにいたのは、吸血鬼に血を吸われ、生ける木乃伊と化した直江津高校の後輩。縁もゆかりもない後輩の少女を助けるため、調査を開始する暦だったが、次々と被害者は増えていって……
正直、このシリーズは、『終物語』以降は、ただグダグダと続いているだけのように感じられて、イマイチな印象が強かったのだけど、今回はなかなか面白かった。
冒頭に書いたように、次々と発見されるミイラ化した少女たち。しかも、そこには奇妙な暗号。それが意味するものは? さらに、かかわってくるのは、忍を吸血にした張本人であるスーサイドマスター。しかし、そのスーサイドマスターもまた、ミイラ化した状態で発見され。
ということで、ある意味、『業物語』の続編的な立ち位置になる話なのだけど、次々とミイラ化した少女たちはなぜこうなったのか? 犯人は誰なのか? 一番、怪しいのはスーサイドマスター。実際問題として、被害者の少女たちはスーサイドマスターの眷属であることが判明している。でも、その肝心のスーサイドマスターはミイラ化している。となると……?
この辺りの仕掛けについて、本格ミステリとかであるある種の仕掛けが施されている。普通の殺人事件とは違う、吸血鬼によって、というところだからこそのやり方、っていうのは上手く設定を活かしていると思う。確かに、見分けつかないものなぁ……
そして、今回は、その中で、スーサイドマスターと忍の関係性がメインに。自分で狩った相手しか食わない、というスーサイドマスター。しかも、美食家。そんなスーサイドマスターが、忍を食べてしまったことで陥ってしまった状況。そして、一方で、今回の事件の黒幕となった人物の抱えていたもの。八九寺とか駿河とか、あのあたりも絡んできて、「人間らしさ」的なテーマにもつなげていくのは見事。
一応、本作から「モンスターシリーズ」ということになるらしいんだけど……このクオリティでやってくれるなら今後も期待できる……かな?

No.4562

にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

当記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。


(書評)死刑にいたる病

著者:櫛木理宇



鬱屈した日々を送る大学生・筧井雅也のもとに届いた手紙。それは、稀代の連続殺人鬼であり、子供時代、彼がよく通っていたパン屋の店長であった榛村大和からのものだった。20以上もの殺人の疑いをもたれ、起訴された9の殺人により、第1審で死刑判決が出た榛村。だが、その9つのうち、1つの殺人は自分がやったわけではない、という。かつて、自分のよき理解者であった榛村に頼まれ、事件の再調査を開始する雅也だったが……
『チェインドッグ』の改題作。
なかなか考えさせられる話だなぁ……。
物語の大半は、雅也が榛村の起こした事件の関係者に聞き込みをする、というシーンで占められる。榛村とは何者だったのか? その生い立ち。幼少期の彼の様子。あるものは、不幸な生い立ちである、と言い、あるものは、幼いころから不気味な存在であった、と言う。殺人で逮捕される前も、いくつかの事件で逮捕されたことがある。そんな中、犯罪加害者の更正に力を尽くしていた女性と出会うが……
榛村が連続殺人に走ったのは、その生い立ちのためなのか? しかし、生来のもの、と感じるような証言もチラホラ……
そして、その中で、榛村が言っていた「1つの冤罪」。確かに、榛村の犯行は秩序型と言われるもので、一定の法則性をもって行われていた。明らかに、その事件だけは、その法則性から外れている。警察は、被害者の容姿などから、あまり気にしていない、というが腑に落ちない。そして、その例外の被害者の周囲には、1人の男が……
どんどん掘り下げられていく榛村という人間。それを調べるうちに、どんどん事件、そして、榛村という人物に引き込まれていく雅也。調べ始めるまでの雅也を知っている知人たちは、雅也が生き生きとしてきたように思えるという。実際、何かに熱中している人間というのは、生き生きとしている、ということはあるはずで、すごく納得できるところ。何しろ、雅也と同じように、読んでいる自分もまた榛村に、そして、事件に引き込まれていたのだから。そして、そう考えれば考えるほど、榛村が言う「冤罪」だけが浮いているように見える。そして、そんな中で明らかになる雅也自身の出生の秘密。まさか、榛村は雅也の……? 影響は受けていない、と言いつつ、確実に影響を受けていく……。そして、その中での真実……
読み終わってみると、すごく怖い。
人間と人間の関係。何かやり取りをしていれば、良くも悪くも影響を受けることは当然。その中で、一見、良い意味での影響だと思っていても、実は……。そんなことを考えざるを得ない。そして、もし、その影響についてもまた、完璧な計算の上に成り立っていたら……。雅也自身は決別できても、しかし、同時進行的に……その結末の印象は凄い。
物語としては、それほど起伏があるわけではない。でも、その中で、雅也とともに榛村、事件に引き込まれ、強烈なインパクトを残す。読み応え十分な作品。

No.4561

にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村


当記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。

(書評)異世界Cマート繁盛記6

著者:新木伸



仲間も増えて、Cマートは賑々しく営業中。相変わらず、現代日本から持ってきたものが謎のヒットをしたり、エルフの魔法で大きくなったり、小さくなったりして……
言っちゃ悪いけど、いつも通りの作風のエピソード集。
現代世界から持ってきたものが、っていうものだと、砂時計、ホットケーキミックス、コピー用紙、お弁当、雨具(雨合羽)といったものがヒット。なんていうか……砂時計は、この世界ではすごく貴重なものだよね。電気とか、そういうもの関係なしに正確に時間を図ることが出来る道具。物語のオチともいえる部分で、職人の勘に頼っていた鍛冶の仕事が、皆に広がった、なんていうのは、効率化による技術革新とか、そういうものに通じるものがあるんじゃないかな? と思う。逆に、当初は大ヒットしたけど、作り方が広まったら……というホットケーキは……そんなもんだよね(笑) でも、カレーとか、各家庭の味とかがある料理が広がるきっかけ、みたいなものは思ったり。雨合羽に関しては……おい、挿絵、もっと頑張れ! せっかくエルフが一生懸命お色気(?)を頑張っているんだから!(あほ)
そんな中で、前巻くらいから、何だかんだで、主人公を巡る恋のさや当てが激化してきた印象。
ここまでエナと美津希の二人という感じだったんだけど、ドワーフの長が「結婚してくれ」と言い出したり、はたまた、エナが少女漫画に影響されたり、さらには、翔子も何かまんざらじゃないところが出てきたし……。ちょっとしたスパイス程度ならいいんだけど、あまりこちらを期待していないだけに、あまり掘り下げてほしくないかな? と思ったり。
そんな今回の物語は、異世界のカーニバル。お祭り、ではあるけど、村の民話を聞く、という地味なものだと聞いた主人公たちは、日本のそれのような出店などを企画して……。まぁ、好評だから良いんだろうけど、伝統とか、そういうものを考えると良いのかな? ともちょっと思ったり。
あと、著者の別作品であるGJ部の面々がしれっと参加してみたりとか、作品の枠を超えた出演が大分増えてきたな~、というのを思わずにはいられなかったりして。

No.4560

にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

当記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。

(書評)政治的に正しい警察小説

著者:葉真中顕



全6編を収録した短編集。
こういうと何だけど、このエピソードの組み合わせ方が何とも言えない味を出しているなぁ、というのを思わずにはいられない。序盤は、結構、真面目な話なのに、後半のエピソードに向かうにつれ、だんだんとぶっ壊れていく、とでもいうか……
例えば、2編目の『神を殺した男』。最年少でプロ棋士となり、圧倒的強さでタイトルを総なめにした紅藤。しかし、彼は、同じくプロ棋士であった黒縞によって殺害されてしまった。黒縞もまた、紅藤にはかなわないとはいえ、圧倒的な強さを誇る「天才」と言われるだけの才能の持ち主。「紅藤がいる限り、名人になれなかったから」と動機を説明した黒縞だったが、彼らのことを取材したライターの私は関係者に取材を続けるが……。関係者への取材で明らかになってきたのは、黒縞は同性愛者だった、ということ。そして、彼が愛していたのは紅藤。紅藤には妻がおり、愛憎の果て? しかし、黒縞の師匠は、紅藤の結婚を心から祝福していたという。では、紅藤は黒縞に言ったという「望みには答えられない」の意味は?
作中での事件が20年前のもの。当時は見向きもされていなかったものが、現在は……。私の知り合いも、実は、そういう部分に手を出しているとか、現在、色々と盛り上がっているそれを予見していた二人。だからこそ……という皮肉な結末は端正で、印象に残る。
そういう端正な物語から、「あれ?」って方向へと移っていくのは4編目『リビング・ウェル』。大好きだった祖父が事故で意識不明になった。回復の期待は低く、祖父は尊厳死を求めていた。しかし、金銭的に困窮していた叔父夫婦は、その年金を目当てに治療の継続を訴えて……。尊厳死というけれども、その意思をどう表すのか? そんなテーマで読ませると思ったら、そのオチ(笑) 作中で叔父夫婦が訴えていた言葉が、別の形で、しかし、本当に……っていうブラックな結末はなかなか笑わせてもらった。でも、ある意味、このオチも含めて尊厳死などの難しさを表しているのかも。
そして、同じような形なのが、『カレーの女神』。母に捨てられた大学生の淳平。そんな彼の記憶にある母の思い出は、母が作ってくれたカレーの味。特殊な方法で作ったカレーだ、ということらしいのだが、その味に出会ったことはなかった。しかし、たまたま入ったカレーショップで、その味に再開して……。ハートフルな形で物語が終わったと思ったら……。こっちは社会問題とか、そういうことは関係なく、シンプルにひどいオチ、と言えるかも。
そして最後の表題作。作家として順調にキャリアを重ねてきた浜名湖。しかし、自分の形、といえば聞こえが良いが題材だけ変えて同じ作品を作っているだけ、というジレンマに陥っていた。そんなとき、彼が出会ったフリー編集者は、政治的に正しい(ポリティカルコネクトに沿った)警察小説を書くべき、と提案する……。
とりあえず、この作品の内容についてはノーコメント。ただ……一つだけ言えることとしては……結末は最初から知っていた(笑) っていうか、こういうのを突き詰めれば突き詰めるほど、何も書けなくなるのは間違いない。何というか、線引きは難しいけど、こういうことを訴えている人の中の、極端な方向に走った人たちの主張を見ていると、こういう方向を目指しているとしか思えないよね、と思うことはある。それ以上は何も言わない。
結構、この作品集は前半の話が好きか、それとも、後半の話が好きか、両極端になるんじゃなかろうか、という気がする。

No.4559

にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

当記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。

著者:田代裕彦



有名料理研究家である父の入院により、壊滅的な食生活を送ることとなってしまった女子高生のちとせ。そんな彼女を見かねて、父の教え子であり、ちとせの高校の教師である小函先生がお弁当を作ってくれることに。料理とは無縁に見える鉄面皮である先生だが、作る料理は絶品。喜んだのもつかの間、自分でお弁当を作っている、といったことでちとせは思いがけないトラブルに巻き込まれてしまって……
というところから始まる連作短編集。全3編収録。
富士見ミステリー文庫からデビューし、最近は謎解き要素のないライトノベルなども書いてきた(ただし、残念ながらあまり長く続いていないない)著者だけど、やっぱり、こういう形のミステリ作品が一番、しっくりくるなぁ、という印象。
第1話は、冒頭に書いたように、先生にお弁当を作ってもらうことになり、しかも、それは自分で作った、と周囲には説明。ところが、クラスメイトのある男子が、同じメニューの弁当を。しかも、郁はその男子に恋していて……。ここでの謎は、なぜ、その男子は同じメニューを作ったのか? 勿論、先生がその男子にも作っているわけではない。とすれば、なぜ?
謎解きとしては、結構、シンプルである。でも、そんな理由を知ったあとのちとせと郁のやりとりが印象的。確かに、純情なんだろうけど、それをやられたら……っていうのは間違いないよね(笑)
一方、ひょんなことから元芸能人の茜と仲良くなったちとせと郁。お昼を共にするようになるが、茜に意地悪をする女子の嫌がらせが続き……。こちらは、言葉の魔力とでもいうようなものだよな……。確か、『美味しんぼ』とかでも、同じような言葉がよく出ていると思うけど、それを実証するようなことを目の前でやられてしまった。そのコンプレックスは……。こちらは、先生が提案する解決策がすべてを分かった上での「大人の対応」とでもいうような感じでよかった。
そして、ちとせの母の思い出を巡る第3話。どうしても、亡き母が作ってくれたお弁当を思い出せないちとせ。壊滅的な料理下手だったという母が作った弁当だが、幼い日のちとせは、それが大好きだったという。しかし、父の日記などを見ても、ヒントとなりそうなものはごくわずか。しかし、そこから先生は再現を試みて……。こちらも第2話から続いての言葉の魔力を感じる。大好きだった母。でも、ちとせ自身が料理が出来ないコンプレックス。第1話から張れられていた伏線をしっかりと回収してのまとめ方はやっぱり上手い。
こう見ると、物語はちとせ自身の周囲、というのでまとめられていたのだな、と感じる。逆に言えば、先生については殆どわからないまま。続編が出るなら、是非ともそちらを期待したいな。

No.4558

にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

当記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。

著者:伊坂幸太郎



妻に出て行かれたサラリーマン、声しか知らない相手との交流を続ける美容師、クラスメイトの少女から自主パトロールに誘われた高校生……日常のちょっとしたことの中にある出会いを描いた短編集。
あとがきでも記されているのだけど、もともとは、斉藤和義氏のアルバムの作詞を依頼されたことから紆余曲折を経て生まれた短編をきっかけに生れたものだという。確かに、著者が自分で「恋愛ものは苦手」とあるように、人と人の出会い、とか、そういうものを題材にした作品ってパッと思いつかない。そういう意味ですごく新鮮だった。
そのきっかけとなった1編目『アイネクライネ』。同僚のミス・藤間のミスにより、夜中にアンケート調査をすることになった僕。なかなか声をかけても相手をしてくれない。そんなとき、協力してくれた女性。そんな彼女のカバンについていた人形が気になって……。先に書いたきっかけの物語なのだけど、作品の雰囲気とか、そういうものはいつも通り。常識的に考えれば、突拍子のないような物言いをする人物の、しかし、実は核心をついているのではないか、という言葉。それを通じて、でも、しっかりと出会いの物語になっているのが流石。
同じ形で描かれたという2編目『ライトヘビー』。自分を指名してくれるOL・香澄から、弟を紹介された美容師の美奈子。電話番号だけを知っていて、時々、掛かってくる香澄の弟との会話を楽しむようになっていくが……。こちらはミステリらしい仕掛けが何よりもの特徴。そのうえで、何かきっかけで告白するんだ、という男性の話をしながら「それって他力本願じゃない?」なんて会話で盛り上がる香澄と美奈子の会話が、いかにも女性同士のおしゃべり、という感じで印象的。
多少のブラックさを感じるのは『メイクアップ』。広告会社の広告制作の打ち合わせのため、結衣の前に現れたのは、学生時代、彼女をいじめていた亜季。結婚し姓が変わり、容姿も当時とまるっきり変わった結衣は、バレているとは思わないが……。この話は、それまでの話とは違い、なかなかスリリングな物語。学生時代、クラスの女王様として君臨した亜季。自分に対する態度などからは、そんな頃の面影は見えない。本当に変わったのか? しかし、一方で、自分の前に現れ、表向きは他人として交流を求める亜季の真意は? 正体がバレているのか、それとも? そんな状況の中で、明後日の方向からのオチ。メインの部分は取り残された感じもするが、ちょっと優しい(?)感じがするため、読後感は良い。
そして、最後のエピソード。これまでも、登場人物たちの間に関連性が見え隠れしていたので、それらを結びつける話っていうのは予想できたのだけど、時系列が色々と前後した話については……ちょっと読みづらかったかな? もうちょっとすっきりしていても良かったかも、と思ったり。

No.4557

にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

当記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。

著者:間宮夏生



その風体により、女子からは全く相手にされず、二次元の世界へと熱中していた少年・浦島麟太。そんな彼は、ひょんなことでUFOに轢かれてしまう。そして、気づいたら月。麟太を轢いたのは「月の民」の王女・輝夜という少女。うさみみを持った彼女は、政略結婚から逃れるため、麟太にニセ夫婦になってほしい、と言ってきて……
一言でいうと、ボケツッコミの掛け合いがメインの作品かな? と。
物語としては、冒頭に書いたように輝夜に轢かれた挙句に、彼女を救うため、偽装結婚をすることになった麟太。輝夜は、地球……というか、日本が大好きで、日本の生活などに憧れる。しかし、どこかズレていて、おかしなことばかり。そんな中、政略結婚から逃れるために、月面で行われるレース「月面戦争」でその許嫁と勝負することに……
とはいえ、物語の中心になるのは、レースの方ではなく輝夜と母である女王との確執。
女王は、国のために王族が我慢するのは当然、という立場。しかし、輝夜は、それを良しとしない。そんなところで、対立をするのだが、しかし、過去、女王もまた……
話の流れそのものは結構、王道と言えるのだけど、漫才を繰り広げるような中にありながら、そのぶつかり合いで互いのことを知っていく。それは、輝夜と麟太だけでなく、輝夜と母も同じ。そして、地球へ帰りたい、という思いをレースに棄権すれば……という提案に対し、しっかりと勝利を得て、そのうえで、という麟太の決意はなかなか熱いものがあった。……が、レースがいざ開始されると、なんか、ギャグそのものの流れになってしまうんだけど。でも、最後の最後に、それでもしっかりと熱いところを入れてくるあたり、抑えるべきところを抑えているな、という風に思う。
表紙を見ると、結構、お色気シーンが多いのかな? と思える部分もあるかもしれないけど、そういうのはあまりなく、ボケとツッコミの漫才のようなやり取りの中で、輝夜、麟太、女王の人間関係を解きほぐす。そんなしっかりとしたストーリー性を感じた。

No.4556

にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

当記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。


著者;岡崎琢磨



幼馴染の貫地谷マイは、身体が弱く、何かあるごとに病に伏せってしまう。僕、山名井元気は、そんな彼女にプリントなどを届けるのが仕事。そんなマイは、ミステリ小説が好きで、謎を解くのが好き。そこで僕は、学校で起こった不可解な出来事をマイに教えるのだが……
という短編集。全6編を収録。
物語の形は、いわゆる「安楽椅子探偵」の形式。まぁ、ヒロインであるマイはベッドに伏せった状態で、なので、出版社などの紹介文では「寝台探偵」なんて書かれているけど。
最初に書いておくと、物語としては基本的にワンパターン。主人公の元気が、病で欠席したマイのもとを訪れる。そして、そこで学校で起きた不可解な事件について話し、マイがそこに推理をする。それをもって解決に乗り出すが、新たな事実などもあり、推理は間違い。そして、新たな事実から本当のことを……。大体、このパターンで物語が描かれていく。そして、謎が解明されてすっきり、というよりは、その上でもやもやとしたものが残る、という話が多いように感じる。
お年寄りが一人で店番をしている書店で、不良生徒が万引きを。その証拠写真も撮って店長に見せたが、在庫などを調べてもそんな被害は生じていない。では? という『夏風邪』。足し算、引き算で考えればその行動の理由は明らか。でも、その不良生徒ではないところに思わぬ真相が出てしまう、という皮肉さが印象に残る。
花火大会での、真面目なクラスメイトである大平さんの出来事を描く『IBS』。最初は確かに浴衣でいたのに、先輩と一緒にいた後、なぜか普通の服に着替えていた。しかも、髪などは乾ききっていない状態で……。これも、謎解き要素はそれほどない。出てくる情報を積み重ねれば真相は簡単。けれども、その意図。見方によっては、情熱的、と言えるだろうモノが瞬く間に醜悪に感じられる、という空気の変化の仕方がうまいと感じる。
もっとも、体育祭の人文字が何者かに妨害された、という『片頭痛』は、後味の部分はともかくとして、謎そのものに無理があるように感じる。そのトリックで同じような状況が再現できるものだろうか? 明らかに使われたものの音などが異なるように思えてならないのだが……
また、もう一つ気になる箇所としては、各編、タイトルにマイの病が出てくるのだが、それが謎などとあまり関連づいていない点。「この病気は……」とか説明も多いだけに、何か関連するのかと思いきや……って感じなのだ。勿論、普通に考えて病と学校の謎が関係するわけはないのだけど、物語としてタイトルにも使われるなら、何かしら、関連性を持たせても良かったんじゃないかな? などと思える。

No.4555

にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

当記事は、「新・たこの感想文」に掲載するために作成したものです。
他のブログなどに、全文を転載することは許可しておりません。
「新・たこの感想文」以外で全文を転載したブログ等がありましたら、それは著作権を侵害した違法なものとなります。