著者:氷桃甘雪



過去に犯した罪を恥じ、各地を旅する猟師の私は、ある日、訪れた村で、奇妙な事件が起きていることを知る。それは、森には秘薬を作ることが出来る「赤ずきん」たちが住んでいる。年に1度の、赤い月の夜、彼女たちはオオカミの化け物に食い殺される、というもの。決して救おうとしてはならない、という村人の警告を無視し、少女たちを守ることにする私だったが……
第12回小学館ライトノベル大賞・優秀賞受賞作。
なんか、ライトノベルレーベルじゃなくて、講談社ノベルスとか、その辺りのレーベルでも出てきそうな作品だな、という感じ。
物語は、冒頭に書いたような「秘薬」を作ることが出来る少女(赤ずきん)たちを、オオカミの化け物、ジェヴォーダンから守るために戦う、という物語。オオカミの化け物、という風に言われているが、しかし、人間以上に思慮深く、こちらの思惑を見破って攻撃を仕掛けてくる存在。一方、赤ずきんの作る秘薬は、例えば、物体を透明化させることが出来る。匂いを消すことが出来る。他の生物に変身できる。モノを破壊できる、などという効果がある。そして、それを上手く組み合わせると、より、相乗効果も発揮することが出来る。襲い掛かる強力な敵を前に、それらを駆使し、となるのだが……
そんなパニックホラー的な展開から物語が始まるのだが、だんだんと見えてくるのは、その赤ずきんたちの中に「裏切者」がいる、という事実。明らかに、何者かがジェヴォーダンを誘導している形跡が見える。さらに、それを裏付けるように、ジェヴォーダンを作った魔女が赤ずきんの中にいる、という手記まで見つかって。強大な敵の攻撃を防ぎながら、しかし、同時に裏切者を探さねばならない。しかも、裏切者を探せば探すほど、赤ずきんたちの中の疑心暗鬼が高まっていって……という緊張感はなかなか読ませるものがある。
で、その裏切者探しが、この設定を存分に生かしたものであること。そして、しっかりと論理的な解決がなされる、という点も評価したいところ。ちゃんとヒントをしっかりと提示して、その上で謎解きをしているんだよね。そういう意味では、本格ミステリとしての味わいもある作品といえよう。
正直なところ、最後に明かされる主人公の正体については、こじつけた感はあるのだけど、テンポの良さとか、そういうものがよく、最後まで楽しめた。面白かった。

No.4791

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著者:柴田勝家



零障事件が頻発している、という女子高へと潜入捜査をすることとなった御陵。そこで知ったのは、クビナシ様というスマホアプリを使ったおまじないが流行していること。異色の呪術に、御陵は興味を示すのだが……
大分、作品の形とでも言うべきものが固まってきたかな? という印象。言い方は悪いけど、今回のエピソードは、かなり定番のモノを使ってきたな、という感じがする。
冒頭に書いたように、霊障事件が多発している学校。その中では、怪しげなまじないが流行しており、その背景には、霊子を利用したゲームアプリが使用されていた。そのアプリを開発した、というのは、学校の元教師である三上。だが、三上は、かつて、学園でも有名な女子との交際疑惑があり、その後、生徒は自殺していた。三上を殺す、という脅迫文などが出る中、三上が殺害され……
正直なところ、自殺した少女が言っていた「子供」云々については、この流れならば、「多分、これのことだ」というのは予想できる。勿論、警察の立場としては、そのことを調べねばならないんだろうけど、なかなかそっちの発想に進んでいかないのはちょっともどかしい。それが判明すれば……事実まであと少し、というのがあるだけに余計に。また、完全に霊子を遮断した、霊的な意味での密室空間、というのがこの作品の謎になるわけだけど、結構、あっさりとそれが破られている感じで、肩透かし気味かな? と感じる部分も。
ただ、個人的に、この学校という閉鎖空間での、人間関係の手のひら返しとかはリアリティがあって良いなぁ、と感じる。
元々、奔放で、学校でも人気者であった彼女。しかし、教師との恋愛疑惑などがあり、その評価は反転してしまう。狭い村社会とでも言うべき社会環境だからこその、ちょっとしたものでひっくり返ってしまう人間関係。そして、「子供」を奪われた恨み。それらが呪いとなって……という辺りは、わかる気がする。しかも、最終的に、この霊子という存在があり、呪いとして後に災いを、という場合、それが罪として成立するのか? という世界観そのものの問題を作り上げる辺りは、SF作品が主戦という著者らしいんじゃないだろうか。
ただ……
最終的にはメイド喫茶かい!

No.4790

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著者:鳩見すた



全世界を襲ったゾンビパンデミックから5年。人類がほぼ全滅した東京を旅する少年・ユキトは、「死ぬまでに達成したい10のこと」を達成すべく旅をする少女・エコと出会う。「ゾンビ化していないゾンビ」であるエコ。彼女の死を見届けるため、共に旅立つユキトだったが……
無理にジャンル分けをする必要はないと思うのだけど、旅モノ、終末モノとでも言えばいいのかな?
読んでいて「生きる」っていうことを感じさせる物語だなぁ、と感じる。
冒頭に書いたように、ある時、世界同時多発的に発生したゾンビパンデミック。人類は多くが死に絶え、それを食らっていたゾンビたちも腐りきって、世界から消えていた。残った人々は、再生を、と言いつつもそれは上手くいかず、荒廃した世界が成立していた。そんな中で、旅をすることになる二人。
目の前で仲間を喪い、半ば死に場所を探して旅を続けるユキト。ゾンビになりつつも、それをロスタイムのように感じ、生前、「やりたかったこと」リストを埋めていくエコ。二人の価値観の違い、そういうものは確かにあるのだけど、その中で互いのことを知り、それを尊重していくようになっていく……。とにかく、エコのキャラクターが光る。天真爛漫で、無茶なことも言いつつ、ユキトを引っ張って旅をするエコ。でも、そんな彼女の、天真爛漫さの裏に隠された決意。だんだんと、そんなものが見え隠れし、つらい過去を背負いながらも、基本的には優しいユキトが叶えていく様は優しさを感じさせる。また、農家のおばちゃんとか、ちょっとしたところで出てくる脇役たちも良い感じ。
そんな物語だから、だんだんとエコの身体が……という方向で行くのかな? と思ったら思わぬ陰謀があったり、とちょっと予想外ではある。でも、その結末はやっぱり、好きな形になった。そして、その中での二人のやりとり。それを含めて、やっぱり、「生きる」ということへのメッセージが綴られているんじゃないか、というのを思う。考えてみると、著者のデビュー作も、極限状態のサバイバルとかがあったわけだし、そういうところは共通しているのかな? と思う。

No.4789

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著者:猫又ぬこ



俺にとっての「憧れの男」であった真琴と忍。7年ぶりに再会し、学生寮の同室となった俺が知ったのは、二人が実は女だった、ということ。しかも、真琴、忍ともに、相手が女であることを知らなかった。その上、自分の正体が女だとバレると困るから、とサポートを頼んできて……
良いなぁ、この全体を通してナチュラルに狂っている感じ。
最初に設定を紹介しておくと、主人公の竜之介、真琴、忍の関係は冒頭に書いた通り。幼いころに出会い、真琴と忍の「男らしさ」に惚れ、彼らのようになりたい、と誓った竜之介。しかし……。真琴、忍の両者は、二人とも代々、白椿家のボディガードを務める家系に生まれたライバル同士。そして、ボディガードを務めるには、屈強な男である、ということが必須。しかし、二人とも実は女で、相手が男だと思っているから正体バレをしたくない。しかも、通うことになった学園は、男子に門戸を開いたばかりの超名門女子高で、たった3人の男子生徒……ということになっている、というもの。
この設定自体でかなりツッコミどころ多いでしょ? 何しろ、同級生の女生徒たちは、男というものを全く知らないため、興味津々。そして、真琴と忍の二人は、「男らしさ」について勘違いが多い上に、しかも、勢いで色々と言って引っ込みがつかなくなる、というタイプ。おかげで、エロ本を皆で見る、とか、学園の生徒が持っていたBL本に触発されたり……とか、最早トンデモない方向に。
さらに言うと、男装している、っていうけど、水泳の授業どうするの? とか思っていたら……すっげぇ力業。っていうか、おんぶして胸をごまかす、って水泳の授業できてなくね? とか思いつつも、絶対、そのシチュエーション狙っていたな、と感じる描写があったりで大笑い。挙句に、女の姿の真琴、忍が互いに出会って、名前も知ったのに気づかないとか、天然ボケ過ぎる展開とか、予想の斜め上を行く展開の連続で笑わせてもらった。細かい設定がどうとか、じゃなくて、このおかしな状況を笑いながら読めば良いんだと思う。
まぁ、そんな状況だけど、二人とも、竜之介を持っていて、(相手が女と知らないのに)互いに嫉妬を覚える……みたいな形になっていって……という感じなので、今後、ラブコメ方向での展開も期待できそう。2巻にも期待。

No.4788

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著者:大原瞠



近年、様々な形で「住みやすい街」ランキングが発表されている。少子高齢化、人口減少という状況になった日本において、各自治体は、人口減に歯止めをかけるため、そのようなランキングの上位を目指し、住民サービスの向上を図っている。しかし、そこには様々な落とし穴があるのだ、ということを綴った書。
うーん……。読んでいて「一理ある」と思うところはあるんだけど、なんか、素直にその通りだ、と感じづらかったなぁ……
例えば、第1章。待機児童という言葉が注目され、認可保育園の充実なんていう言葉が行政サービスで注目される。大規模なマンション建設などにおいて、「認可保育園があります」なんていうのが宣伝文句として謳われる。しかし、認可保育園はどこに入れるのか? とかは、自治体が決めるものだから、大規模マンションにあったとしても、その住人が入れるとは限らない。下手をすれば、大規模マンションの住人が誰もいない、ということだって起こり得る。しかし、その保育園を設置するためのインフラ整備などをマンション購入者が負担せざるを得ない場合だってある……なんていうのは、「なるほど」と思ったし、「認可=良い」「認可外=悪い」という二分論は早計だ、というのもその通りだと思う。ただ、その一方で、認可外はそもそも色々とある、と言いながら「認可外は保護者ファーストだから、実はねらい目」というのはちょっと強引じゃないか? って気がする。
いや、終章で語られるように、そもそも自治体の役割には生活に必要なインフラの管理・維持などがある。しかし、それは表から見えづらいもの。一方で、認可保育園の数とかは、多く注目される。住民サービスの充実という指標が出ることにより、そのような見えやすい部分にばかり資本が投入され、本来必要な部分が後回しにされ、破綻したのでは目が当てられない、というのは全くその通り。納得できる部分は多くあるのだ。
ただ、一方で、そもそもの価値基準の違いじゃないのかい? と思える部分がしばしばあるのが気になるところ。それが顕著に表れるのが、第4章。
色々な文化施設があるのは良いことなのか? ということに疑問を呈している章である。体育館とか、競技場があれば良いのか? 図書館があれば良いのか? っていうのだけど、これはそもそも、その人の価値観じゃなかろうか? 確かに、それらがあっても利用する人はその一部だろう。でも、そのことを知った上で、自分にとっての「良い町」選びの指標とするのは十分にアリだと思うのだが。また、鉄道の高架化などについてその高架化したエリアの周辺住人しか恩恵を受けないけど、その負担は自治体全体にのしかかる、っていうのは、それを言い出したら何もできなくね? 例えば道路の整備とかだって、全部を一律に行うことは出来ない。色々な地域の事情をくみ取って、そこに優先順位をつけ調整していくのが政治ってものなわけだし。大体、「〇〇線が高架化されるからこの町に住もう!」っていう人、いるのかな? なんか、この章は、イチャモンをつけているだけの内容と思えてならなかった。
というか、そもそも論として、ランキングってある指標で数えると、というものに過ぎない。だから、それで上位に来たとしても、別の側面で見ると……っていうのは当然のこと。そのことをまっすぐに伝える、というのであれば良いのだけど、著者の主義主張が強く出過ぎていて、どうにも反発を覚える部分が多いなぁ……という風に感じてしまう。明らかに、書き方の問題だよな、と感じる。
あと、第7章の、マンション購入と賃貸、どちらが得か? は、そもそもの本論から外れている気がしてならなかった。

No.4787

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著者:カミツキレイニー



小学生の頃、俺、辰巳千樫は、市ヶ谷すずに恋をした。高校で再会した彼女は、引っ込み思案で不思議系の少女。そんな彼女との、待ちに待ったデートの日、この関係は始まった。すずを狙ったテロの中で知るすずが「異能兵器」であるという事実。その戦いで死んだ千樫は、復興庁終末によって生き返り、すずが望む「ラブコメのような学園生活」を演出する「お友達係」になって……
結構、切ないというか……突然に終わってしまった感じはするんだが……
昔、『最終兵器彼女』という作品があったんだけど、ある意味ではそこに近いのかもしれない。設定としては、すずは、世界に5体しかいない「異能兵器」。ある日、月を大きく破壊した、なんていう逸話があるくらいに破壊力は強く、まさしくそれは現在の核兵器、いや、それ以上くらいの存在と言える。そんな異能兵器を持っていなかった日本だが、ある日、すずが異能兵器である、ということが発覚し、その存在を手にすることが出来た。しかし、彼女は、その異能兵器を研究する研究所から飛び出して、千樫と同じ学校に入ることとなった。その願いは「ラブコメがしたい」というもの。
結構、設定からしてすれ違い、ってものではあるんだよね。
千樫は、すずが好き。そして、そんなすずのために……と思っている。けれども、文字通り、命を握られ、すずの想いを成就させ、最終的には研究所へと連れ戻す、という役割を背負わされている。そして、すずには既に「好きな人」がいる、という……。そんな中で次々と、その異能兵器を狙っての襲撃者が現れる。普段は、引っ込み思案で何を考えているのかわからんないのだけど、SNS弁慶で色々なことを発信しているすず。そんな彼女が凄くかわいい、っていう千樫の想いは共感できるし、襲撃者との戦いの中で文字通り「死にながら」彼女を守ろうとするところは格好良い。まぁ、襲撃者たちも結構、ヘッポコだったりとか、そういうのも重くなりすぎずに、という感じでバランスの良さを感じるし。
という風に感じていたからこそ、その結末が唐突にも感じられたのだけど……
ただ、最後の最後に明かされるすずの想い。そして、千樫の想い。読者だけにそれが知らされる結末は切ない。一応、千樫の想いは……ってことにはなるのだろうけど……
これで完結なのかな? いや完結と言われれば、それでも納得できるのだけど、何か報われてほしいな、という気もする。

No.4788

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(書評)メルヘン・メドヘン4

著者:松智洋、Story Works



ヘクセンナハト第2夜でアメリカ校に勝利し、決勝進出を果たした日本校。もう一つの準決勝はドイツ校とイギリス校という優勝候補同士の大激戦。終始、優位に戦いを進めるイギリス校だったが、突如、アーサーが棄権を申し出る。そんな中、アガーテと交流を持つこととなった葉月は「シンデレラ」についてある情報を手に入れる。一方、静もまた、アーサーと知り合い、静と距離を置くよう忠告され……
シリーズ最終巻。
敢えて冒頭の粗筋で書かなかったのだけど、冒頭、アメリカ校の不正の話が持ち上がる中、葉月が自分の将来について考える、という描写が出てくる。さらに、アガーテの言葉により、葉月は実は魔法使いではない、ということを知らされてしまう。そんなところからもわかるように、葉月が将来、どうするのか? というところが大きなポイントとなっていると言えるだろう。そして、決勝戦を前に起きる危機……
こういうと何だけど、番外編の『フェスト』も含めて、登場人物の中で異色の存在と言えるアメリカ校・リンの存在が大きな位置を占めていたのだな、というのがわかる。まぁ、彼女は彼女で「パパ」の存在が大事で、ってことは間違いないのだけど、そのために友情とか、そういうものも関係なく動いていた存在。そんな彼女が暴走し、静の母が死んだときと同じく魔法獣になってしまう。
魔法獣に対抗するため、アーサーを中心に結成された円卓騎士団。だが、そこに葉月は入らない。そもそも、魔法使いではない、という自身の立ち位置はある。けれども、そんな自分も何かの力になりたい。例え、それが微々たる力であっても……
ここまで、毎回のように「百合百合しい」とか書いてきたのだけど、第1巻から、そして、番外編のフェストで描かれた、メドヘンたちの友情の物語が、まさにすべて結びついた話はまさに大団円。ある意味、綺麗すぎる、と評価することも出来るのかも知れないけど、この綺麗さ、っていうのが作品の持ち味だと思うし、満足のできる完結編だった。
葉月と静の友情に幸あれ!

No.4785

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著者:宮部みゆき





いよいよ開廷した学校内裁判。「空想です!」 弁護人・神原和彦は高らかに宣言する。大出俊次が柏木卓也を殺害した根拠は存在しない。問題児である、ということからスケープゴートを作り出しただけだ。対して、検事・藤野涼子は事件の目撃者であり、告発状を出した三宅樹理を証人出廷させ……
長かった物語もいよいよ最終章。物語は、実際の裁判と同じように、検察・弁護人、双方の側がここまで集めた情報を出し、証人を出廷させ、その言葉についてそれぞれが質問を重ねることによって進展していく。
第1部の終盤、そして、第2部のラストと、それぞれ、そこまでの前提と思われていたものが崩れて、どんなひっくり返しが!? ということを考えていたのだけど、読み終わってみれば、ある程度、当初、前提としていた通りだったな……という感じではある。そもそもの裁判の焦点である大出俊次は有罪か無罪か? 被害者と言われる柏木卓也は何を考えていたのか? そして、三宅樹理、神原和彦の目的は……
こういうと何だけど、第3部で出てくるそれぞれの話は既に第2部の時点で出そろっている、と言える。勿論、検察側、弁護側、双方とも別々に行動をしているわけで、互いに相手の持っている情報は知らない部分が多く、それをすり合わせることによってその背後が明らかになる、という構図であることは間違いないわけだが……
とにかく、この作品を読んでいて感じたのは、学校という極めて狭いが、しかし、生徒たちにとっては世界の多くを占める世界の歪さ。思慮深く、しかし、どこか醒めた思いを抱えていた柏木卓也。そんな彼にとって、学校という場所は理解できない場所であった。一方で、立派なことを言っても、大出俊次という悪ガキを放っていた学校。その中で地獄を見た三宅樹理にとっての学校。そして、父が事件を起こした、という過去を背負った神原和彦にとって……。それぞれが抱えた想いを吐露し、その心の叫びが重なっていく終盤の展開はあまりに重いもの。ネタバレになってしまうけど、検事である涼子が敗れた、というのは、あまりに正しく、そして、現在の言葉でいうスクールカーストの上位にいる彼女にとって見えていなかった、いや、見ようともしなかったものだから、という部分が大きかったからのように思う。
先に書いたように、ひっくり返しとか、そういう衝撃はない。けれども、その分、ストレートに心の叫びが綴られていた作品のように思う。

なお、私が読んだ文庫では、6巻の巻末に、書き下ろしの杉村三郎シリーズの短編(涼子のその後を描いた物語でもある)が収録されているのだけど、ちょっと軽い感じの話で本編とはカラーが違っていたかな? と思う。

No.4783

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(書評)編集長殺し2

著者:川岸殴魚



幼女である編集長をはじめ、全編集者が美少女であるギギギ文庫を舞台にした短編集第2弾。
あくまでも、私が思っただけ、かも知れないけど、前巻よりも編集部あるある(?)がパワーアップしたような気がする。
例えば、1編目。文庫裏表紙の紹介文の内容を考える、という話なのだけど……確かに、その紹介文って大事だよな、というのは思う。その本が発売になる前は、その本がどういう内容なのか、っていうのは、サイトなどに綴られた紹介文と表紙デザインくらいだからなぁ……。その編のキャッチーさとか、そういうのが大事、っていうのはよくわかる。まぁ、そこでなぜか、巨乳方向にどんどん進展していく、という辺りはこの作品らしいんだけど、何か真面目な印象を受けるエピソードだった。
しょーもねぇー! って感じるのは2編目の。大物作家の編集になった桃子。ところが、良いように言いくるめられて、キャバクラ、ガールズバーに……。大金の領収書をどう処理してもらうか……。編集長を上手く言いくるめて……という中、そういうのを上手く処理する先輩にアドバイスをもらうが……。確かに、桃子の言っていることは無茶苦茶なんだけど、あの編集長が……って相当に目が座っていたんだろうな(笑) 編集部あるある的な話ながら、そのオチに大笑いした。
4編目の発行部数の話は、そもそもの問題として、「発行部数」ってどういう風にやっているのか、っていうのは知らなかった。まぁ、多少、盛っている部分があるんだろうな、とは思っていたけど、ラノベなんかの場合、コミカライズとかそういうのも含めて、だったのね。というところを含めての、部数盛り合戦! 途中、桃子がツッコミを入れるけど、なぜか下がってを含めてのオチ。……ですよねー!
てな感じで、基本はギャグ路線なのだけど、編集部の雰囲気とか、そういうのも結構、リアル(?)に感じられ、前巻以上に楽しむことが出来た。面白かった。

No.4782

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著者:石川博品



上原蒼は、かつて自身も入院していた病院へと向かう。そこで、彼は、彼女と話をする。半年前、突如として発生した謎の奇病からの出来事を。
いや、とにかくこの作品、「どこに転がるのかわからない物語」というのを言わずにはいられない。
物語は、病院で、半年前の出来事を語る、という形で、その時の出来事を語る形で綴られる。その内容が本当に……
主人公・上原蒼は、山中の田舎町で、将来、何をしたいのかもわからないままに過ごす高校生。ただ一人、山を走るのが好きで、それだけをして。そんなときに発生した謎の病気。身体に金属の鱗のようなものが出来てしまう病。両親も、ご近所さんも、あっけなくそれで死亡し、町は閉鎖。しかし、そんな町でひっそりと暮らす蒼だったが、そこに異形の存在が……
表紙やタイトル、といったものを見ると、病気の少女とのボーイミーツガールもの、という感じなのだけど、本編として描かれるのはパンデミックものであり、サバイバルものであり、そして、異能バトルもので……。思わぬところから、思わぬところへと話が進んでいって、どこへ転がっていくのかわからない。その中で、同じような存在と出会い、「彼女」に恋をして……
読中は、なんで、この表紙で? とか、そういう風に思うところも数多くあったんだけど、それでも最終的には表紙のような、青春モノへと収束していくのが流石というところか。何もなかった少年が、奇病を、そして、出会い、壮絶な戦い、仲間の死、そのようなものを目の当たりにしながら見つけ出したもの。暗い情熱かも知れない。しかし、そこで見つけ出したもの。その根底にあったものは……
「なにかになりたいという熱病」
周囲から見たら情けないかも知れない。バカバカしいかも知れない。冷静に考えれば、というかもしれない。でも、それがなければ、そもそも何もなしえない。当初、何もなかった蒼が、何かを手にした。そういう意味では、パニックものであり、異能バトルものであり、しかし、やっぱり青春モノ、という風に言えるのだろう。

No.4781

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