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天使は炭酸しか飲まない4

著者:丸深まろやか

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学校で「天使」として活動する明石伊緒に届いた日浦亜貴に関する不穏な連絡。その原因は、彼女が所属するテニス部でのイザコザ。部内で孤立する日浦を助けるべく奔走する伊緒。だが、そんな折、当の日浦自身から釘を刺されてしまう。だが、それでも……
かなり強烈な引きだった3巻のラストシーンから続いての物語。
今回は、これまでの巻とは大分、印象が異なるな、という感じのエピソードだった。
というのも、これまでは「天使」として、誰かに対して告白ができるようにしてほしい、という依頼を受け、その依頼人、そして、その相手についての調査をし、その問題を解決して……という流れで展開していくのに対し、今回は伊緒が自発的に日浦のピンチについて知り、そのピンチから脱することができるように動く、という物語だから。勿論、実は……という裏もあるのだけど。
テニスの腕に関して、部内でも飛びぬけて強い実力を持つ日浦。しかし、その強さゆえに入学早々、先輩とぶつかってしまい部内での立場が危ういことに。しかし、それでも気にせずに部活に在籍。我関せず、とでも言うべき態度で試合などに出場する。元々の元凶であった先輩は既に引退、卒業してしまっているが、しかし、イザコザを作ってしまった、という過去は変えられずに部内の雰囲気はまだ微妙な状況。そんな中、部長である双葉を激怒させてしまったことで再び……
日浦に関して、まず思うのは「強いな」と言うことだったりする。だって、こんな雰囲気の中でも居続ける。我関せず、ってそれだけで強いもん。そんな中、手を貸そうとする伊緒の手を振りほどいて……っていう部分は、強がりにも見えるのだけど、でも……。実は、そんな中に「天使」への依頼人がいて、なんていうひっくり返しはあるけど、それすらも、日浦が自らの手ですべて解決してしまう。いや、日浦は本当、滅茶苦茶強いよ、と言う風にしか思えない。
ただ、そんな伊緒の行動規範とでも言うべきもの。一方での日浦の強さ。物語の中で、日浦は「天使」の活動をサポートしているわけだけど、なぜ、日浦が伊緒のサポートをしているのか? なぜ伊緒を気に入っているのか? そんな背景もよく理解できるものになっていたな、と感じられる。
その上で、過去のエピソードでのヒロインたちのパートもあり、そこで伊緒に対する恋心とか、そういうものが感じられる部分が色々と。結構、複雑な関係性になってきたよな、というのも同時に思ったりする。

No.6844

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Tag:小説感想電撃文庫丸深まろやか

龍の墓

著者:貫井徳郎



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東京都町田市の山中で、身元不明の焼死体が発見される。町田署の女性刑事・保田真萩は捜査一課の南条と共に遺体について調べるが、有力な情報をつかめずにいた。そんな矢先、今度は荒川区で女性の変死体が発見される。奇妙な装飾が施されたその遺体が発見されるや否や、ネット上には人気VRゲーム『ドラゴンズ・グレイブ』を元にした見立て殺人ではないかという噂が流れ始める。一方、人間関係に疲れて仕事を退職し、『ドラゴンズ・グレイブ』に熱中する瀧川の前に、館を舞台にした殺人事件というイベントが始まり……
著者の公式サイトで「なぜかバリバリの本格になってしまった」と紹介されているのだけど、著者の作品でこういう形式の作品って凄く久々な気がする。
粗筋で記したように、物語は町田の焼死体を契機とした連続殺人(?)と、ゲーム内のイベントとして行われる館内での連続殺人という二つの連続殺人を中心に描かれる。そして、そのゲーム内の事件の再現だ、という噂の通り、事件現場は似たような印象になっている。
第一の殺人は高温の炎によって焼かれて、という殺人。第二の殺人は、光に貫かれて死亡する。そして、第三の殺人は首を絞められて。
ゲーム内では、貴重な魔法を使用して行われたものとしか思えないやり方。しかし、自分が魔法使いである、と言う風に言っている人物は存在しない。館に揃った人物はむしろ戦士のような人物ばかり。魔法使いになるためには厳しい修行が必要で、魔法使いだけど戦士としても……という人物がいるとも思えない。では、一体?
一方の現実の事件は、そんなゲーム内の事件という題材を上手く利用した形で……
現実の方の殺人に関しては、物語の冒頭から描かれているのだけど、ゲーム内の事件はなかなか事件が起きず、ただひたすらに瀧川がゲームに興じる姿が描かれるというちょっと変則的な構成ではある。けれども、その瀧川がゲーム内でやってきたことが、しっかりと伏線になっての解決というのに納得。そして、その上での、現実の事件について……。トリックとしては、結構、古典的なトリックだと思うのだけど、それが一つの味何なっているのはわかる。さらに、その現実の事件についての背景は……
これは、本当に昨今、色々と話題になっているものの一つだと思う。丁度、これを書いている時点でも、そんな話を髣髴とさせる出来事が起きているし。犯人の行動は、ある意味では荒唐無稽と言えるものの、その問題を引き起こしている存在と動機と言う点では同じともいえる。本格モノ、としての体裁はしっかりと取りつつも、しかし、そういった現実の出来事を反映していく辺りは、やっぱり著者だな、とも感じるところだったりする。
間違いなく本作は本格モノの味わいがある。でも、同時に現実とのリンクも。両者の良さをしっかりとハイブリットした策品じゃないかと感じた。

No.6843

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Tag:小説感想貫井徳郎

著者:西条陽



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どこにでもいる男子高校生の夏目幸路は、この夏休み、小学校5年生の女の子を「猫として」飼っている。それは、当の小学生である雪見文香が「未来のニュースを視る」能力を発現し、自らの死を予知していた。そして、それを回避するためには、幸路の家で「飼い猫」として振る舞うことだった。5年前に起きた小学生連続殺人事件・8月事件。その再現のような事件が起きる中、幸路、雪見、そして、幸路の幼馴染の少女・月子を巡る運命は……
一応、異能ミステリとでもいうジャンルになるのかな?
先に説明をすると、物語の前提として、この世界には「異能」と言えるものがある。それは、過去に壮絶な経験をした者に発現する能力で、雪見は未来のことがニュースサイトの見出しのように現れる。そして、月子は炎を操ることができる、というもの。ただし、その能力を発現するとその代償も必要になり、雪見は布団などで眠ることができない。月子は身体が発情してしまい、それを鎮める必要がある。……そのため、幸路と月子の疑似性行為的な描写が結構挿入される。
で、月子がそのような能力を発現してしまった過去、というのが5年前の事件。毎週、1人ずつ小学生が殺される、という事件の4番目の被害者に選ばれ、しかし、辛くも死を免れた、というトラウマがトリガーとなっていた。幸路はその事件以来、その犯人を捜している。そして、5年間の沈黙を破り、次なる事件が……。そんな感じ。
恐らく、雪見はその殺人犯に殺されてしまう。それを防ぐために、そして、5年前の真相を明らかにするため、調査を開始する幸路たち。小学生時代、一緒に調査をしていた仲間たちも加わって調査を開始る。だが、そんな中で届く「事件に関わるな」という警告文。その結果、判明する「今回の」犯人。それでも……
純粋にミステリとして見れば、一足飛びに答えにたどり着くような部分があるな、と言う風に感じるところはある。けれども。その中での月子、雪見との関係性と言うのは印象的。「現在の」事件を解決したことによって変わった運命。しかし、それは……という雪見の悩み。過去のことがあり、幸路は自分の側に、という月子の葛藤。一方で素直になることができず、かつ、変な潔癖症もあるために、足踏みともいえるような幸路と月子の関係性。事件というのが物語の中心になっているのだけど、本当はそっちがメインなのではないか、と言う風に思わざるを得なかった。
ただ、事件の真相は……かなりどす黒いと言わざるを得ないもの。これはこれでトラウマものだよなぁ……と。
物語的には、もう一人、幸路のあこがれの人という白瀬さんという人物もいるのだけど、彼女はまだ顔見せ程度の状態なので、今後、どういう風に絡んでくるのか楽しみ。

No.6842

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Tag:小説感想ガガガ文庫西条陽

飯所署強行犯係 事件ファイル

著者:中村啓




凶悪犯罪とは無縁のベッドタウン・飯所市で著名なオカルト研究科・武長吉男が不可解な死を遂げた。その遺体は、自室の椅子に座った状態で、上半身だけが焼失した状態で発見されたのだ。飯所署の刑事課強行犯係の榎木は、先輩の土井からこれは、人体発火現象の結果に違いない! と言われ……。一方、その頃、飯所署では資産家老人の失踪事件、近隣で行われた氷フェスティバルの氷像破壊事件なども起きていて……
一応、ジャンル分けをするならユーモアミステリ、ということになるのかな?
物語としては、一応、榎木が主人公となるのだと思う。彼は、先に書いた武長の捜査に加わる……のだけど、どちらかと言えば捜査に参加というよりは、有名政治家の息子ということでやりたい放題の問題刑事で、先輩の土井のブレーキ役としてコンビを組まされることに。そして、土井の無茶苦茶な捜査に振り回される、という部分が強く押し出されている印象。
何しろ、土井の発想が無茶苦茶。元々、土井はオカルト好き。そのため、事件は人体発火事件だと言い出し、その線で、テレビ番組で武長と対立していた大学の准教授を疑い始める。その准教授のアリバイが確認され、武長に多額の保険金が掛けられていると知るや、今度は武長の妻を……。はっきり言って行き当たりばったりも良いところ。勿論、そちらを優先するため、与えられた仕事はそっちのけ。ユーモアミステリとして、こういう展開はありなのだけど、他の面々が基本的に真面目なので、ちょっと浮いている感はあるかな。そして、その一方での氷像破壊事件や老人の失踪事件について少しずつ進展していって、それぞれの繋がりなども見え始めて……
物語としては、様々な謎がしっかりと結びついて終わっているので、綺麗にまとまっているとはいえる。
ただし、物語の中で「謎の存在」として暗躍する外国人・トーマスが表れて、上手くヒントを与えてくれて、というような展開はちょっとご都合主義に感じられるかな? そのトーマスが何者なのか? というような部分は依然として謎なままだし。なんか、無理にドタバタしなくても、物語の様々な要素が活かされていたと思うだけに、この作風だと逆に入りづらいんじゃないかな? と思えてならなかった。

No.6841

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Tag:小説感想中村啓

著者:青柳碧人



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『浦島太郎』『鶴の恩返し』など、お馴染みの昔話をミステリへと転化させた短編集。全5編を収録。
まぁ、昔話をモチーフにしているのだけど、ただ、粗筋そのものは昔話のそれと登場人物や設定が似ている、というだけで別物となっている。そして、結構、業の深い人物になっているような気がする。
1編目『一寸法師の不在証明』。勿論、モチーフは『一寸法師』。
鬼を退治し、姫君と婚約することとなった一寸法師。そんな一寸法師に殺人の容疑がかかる。だが、殺人が行われたと思しき時間、一寸法師は鬼の腹の中にいた、という鉄壁のアリバイがあって……。アリバイトリックと言う、ガチガチのハウダニットのミステリー。そして、そんなトリックには、当時の風習と、この作品ならではの道具・打ち出の小槌を用いたトリックは印象的。しかし、一寸法師、本当にロクデナシだなぁ。
2編目『花咲か死者伝言』。モチーフは『花咲かじいさん』。
真っ白な野良犬のおいらは、ある老夫婦に拾われる。老夫婦は、かつて、同じように白い犬を飼っていて、その犬は不思議な出来事を起こし、しかし、近所の老人に殺されてしまったという。その犬に変わって大切にされるのだが、飼われ始めて数日後、おじいさんが殺害されてしまう。おいらは、その犯人を捜すことにするのだが……。花咲かじいさんを苦しめ、しかし、常に裏目に出た爺さんは既に囚われの身。その他の、動機がありそうな者たちも……。そんな中での犯人は……
とにかく私利私欲を捨てたからこそ、花咲かじいさん。でも、人間は何かがあれば変わってしまうこともある。よく言われることだけど、なんか世知辛い真相だった。
5編目『絶海の鬼ヶ島』だけは、ちょっと毛色が違うかな?
『桃太郎』によって、多くの鬼たちが殺されてしまったその後の鬼ヶ島。生き残った鬼たちは、「人間」や「猿」「雉」「犬」と言った侵略者たちを恐れ、数家族で細々と暮らしていた。だが、そんなある日、島で殺人……ならぬ、殺鬼事件が発生して……
孤島の中で次々と起きていく殺人。誰が犯人なのか? という以前に、文字通り「次々」なので、身の安全をどうやって図るのか? なんていう部分も。一応、トリックとかも考察はされるけど、そこには打ち出の小槌とか、ここまで出てきた昔話のアイテムも登場。そういう意味で、作品の締め、として描かれたのだろうと思う。そして、その真相もまた……実に皮肉な話ではある。

No.6840

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Tag:小説感想青柳碧人

清楚怪盗の切り札、俺。

著者:鴨河



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「ぼくは、きみみたいな”切り札”が、欲しかったんだ」 魔術を盗むという右手を持ち、腕も確かながら、「小物」扱いされることに憤っている盗賊・アッシュ。そんな彼は、伝説の大怪盗と呼ばれる謎の怪盗・ノアの予告に先んじて、目的の「至宝」を狙う。だが、そこで待ち構えていたノアの狙いう「至宝」とはアッシュ自身のことで……?
という形で出会う二人。ノアは、国の宗教の権力者・メビウスを狙っている、ということが判明。メビウスは、名誉司教として名を馳せているが、裏では魔術の研究のためにはどんな手段も厭わない、という存在で人体実験などの非人道的なことを平気で行う存在。実はアッシュ自身もメビウスの下で育てられ、その人体実験で大切にしていた少女を喪ったという過去を持っていた。そこで、二人は協力をすることに。そして、二人が狙うのは、メビウスが王家との繋がりを強めるために結婚しようとしている王女・シンシアを自分たちのものにすること……
清楚……とは?
まず言うと、アッシュとノアの掛け合いが楽しかった。清楚怪盗を称するノア。でも、口を開けば、結構、どストレートな下ネタ……まではいかないけど、ぶっちゃけた物言いが多い。そして、そんなノアに対してツッコミを入れるアッシュ。この辺りのやりとりがまず楽しかった。
「シンシアを寝取れ!」
とか、どう考えても清楚怪盗なる存在の言葉じゃないんだよな。
ただし……「怪盗」か? という感じ。「怪盗」というと、ライトノベルでは珍しいけど『ルパン三世』とか、物凄く有名な作品があるだけにどうしても比較してしまう。
とんでもなくお人よしのシンシアをメビウスに嫁がせないために、シンシアの前に現れ、その心を奪おうとするとかって、解答というよりは工作員、諜報員という感じだし、途中からは完全に異能力バトル作品のソレ。異能力バトル展開となること自体は別に悪いことじゃないのだけど、「怪盗」を名乗っているからには、もっとそれっぽい特技とか、技とか、そういう部分を強調してほしかったかな、という思いは残る。また、タイトルにある「切り札」という部分に関しては、そこまで二人で一緒に戦ったりしないので(シンシアを篭絡するために行動するときは一緒だけど)、あまり切り札感もなかったかな、と言う感じに。
先に書いたように、ノアとアッシュのやり取りとか、楽しい部分も多くあったので、続編が出るならもっと「怪盗」色を出してほしいな、と感じた。

No.6839

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Tag:小説感想富士見ファンタジア文庫鴨河

可燃物

著者:米澤穂信



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余計なことは喋らない。上司からは疎まれ、部下からも良い上司だとは思われていない。しかし、捜査能力は本物。そんな群馬県警の刑事・葛を主人公とした連作短編集。全5編を収録。
著者の作品は、一応、単行本ですべてを読んでいるはずだけど、「探偵」とか、「記者」みたいな主人公作品はあったけど、ガッツリと警察官が主人公と言う作品は初じゃないかな? もっとも、作品としてはそれぞれ有力な容疑者が最初から分かっていて、というような話が多いけれども。
1編目『崖の下』。スキー場で行方不明になっていた男が頸動脈を刺された遺体となって発見された。その場所には一緒に行方不明になっていた男がおり、その男による蛮行であると思われるが、肝心の凶器がない。男が発見された場所の周辺に足跡などはなく、協力者が凶器を持ち去ったことも考えられない。犯人は何で事件を起こしたのか?
これは、完全に「凶器は何か?」というところにクローズアップした物語。遺体の発見場所からして、犯人は明らかで移動していないことも明らかなのに……という状況から。解剖医から言われる凶器の形状。遺体にあったわずかな痕跡。犯人の怪我の具合。そういうものから絞り込んで……。加害者と被害者の関係は、学生時代からの付き合いだけど実は……そんな歪な人間関係。その両者が上手く組み合わさった末の、思わぬ凶行。そう感じさせる話だった。
2編目『ねむけ』。県内で起きた強盗事件。容疑者として浮かび上がったのは、過去にも同様の事件を起こしていた男。警察は車を運転する男をマークしていたが、道路工事によって距離が離れた間に事故を起こしていた。目撃者は、男の車が青信号で走り出したところで衝突された、というのだが……
深夜の事故でありながら、なぜか次々と発見される目撃者。昼間の事故であったとしても、目撃者がいない、名乗り出ないのは普通であるのに。そんな不自然な状況。そして、そんな彼らが、男が信号を守っていたというのは何故か? これは、心理学の話とかで出てくるものだよな、という印象。深夜の時間と言う設定と、ちょっとした情報で操られてしまう証言。その辺りの舞台設定が上手い。
4編目の表題作『可燃物』。住宅街で次々と起きる放火事件。重大な結果には繋がっていないが、このままエスカレートしたら……パトロールを続ける中、なぜか犯行はぴたりと止まってしまう。そんな中、住宅街で不審な行動をとる人物が目撃される。果たして……
これは完全にホワイダニットの物語かな? 立て続けに起きてきた放火。それがなぜピタリと止んでしまったのか? 被害状況から、事件が起きた日がどういう日だったのか? そして、事件の目撃者が撮影した事件時の映像の、思わぬ部分から判明するその目的。犯人は明らかに狂気に取り憑かれているのだけど、そこに至るまでの丁寧な描写が印象的だった。
各編、長いもので60頁程度と決して分量の多い作品ではないのだけど、それぞれが非常に濃密。そんな短編集だった。

No.6838

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Tag:小説感想米澤穂信

帆船軍艦の殺人

著者:岡本好貴



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1795年、フランスとの長きに渡る戦いによってイギリス海軍は深刻な兵士不足に悩んでいた。そんな中、戦列艦ハルバート号は一般兵に対する強制徴募を実行する。そんな強制徴募によってハルバート号の水兵になってしまった靴職人のネビルは、身重の妻を心配しながらも、水兵としての厳しい日々を送ることになる。だが、そんなある新月の夜、隣のハンモックで寝ていた水兵が何者かに殺害されて……
第33回鮎川哲也賞受賞作。
こうやって書くと、無理やり、水兵にさせられたネビルが船内で起きた殺人を解明する物語のように見えるのだけど、実はそうでもなかったりする。物語の軸としては二つで、ネビルの水兵として日々。そして、5等海尉であるヴァーノンが殺人事件を解明するパート。その二つで進行していく。
まず、ネビル。仕事を終え、仲間たちと共に酒場で飲んでいるときに、強制徴募の兵たちに拉致され、船へと連れてこられてしまう。いきなり始まる厳しい訓練。さらに、食事は、というと虫の湧いたクッキーだったり、塩漬けの肉だったりと癖のあるものばかり。さらに、寝室も雑魚寝……どころか、空間を作るために何十人がハンモックで上下すら入れ替えて詰め込まれての就寝。そんな中で、船から逃げ出そう、という計画に誘われて……
文字通り、船の中での過酷な日々。その中での不平などもあり、そこからの脱出を図る。軍隊もの、特に海軍みたいなものは、船の乗組員は家族みたいな描き方をされることがあるからこその、この状況と言うのが印象に残った。
そして、もう一方の謎解き。寝室での事件に続き、船倉で第二の、さらに、懲罰房で……と、次々と発生する殺人。船内に犯人がいることは明らか。それを解明しなければ、大きな反乱にも繋がりかねない。だが、メイントリックとなる不可能殺人があったり、船内における立場の違いなどがあったりと、船内政治とでも言うべきものが立ちはだかる。それでも、水兵出身で、その気持ちにも配慮したヴァーノンが導き出した真相は……
ネビルとヴァーノン。主人公と言える存在が二人いることで、物語としてどちらをメインにしたかったのかな? と思う部分はちょっと残った。
ただ、当時の軍艦における状況とか、本格モノとしての殺人の謎解き。そういうものはしっかりとしており、これはこれで面白かった。

No.6837

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Tag:小説感想岡本好貴

著者:零雫



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話題のナポリタンを食べるため、喫茶店へと向かった晴麻と紅葉は、そこで店員が殺害されていたことを知る。密室の中で発見された遺体の謎を解くのに協力をすることになった二人は、間もなくトリックを解明して見せるが、湯ノ宮という変な刑事に気に入られてしまう。そんな日々を経る中、学園に転校生としてやってきたのは紅葉と同じ施設で育ったエレインとメアリンという姉妹で……
シリーズ第2作目だけど、まず思ったのは、キャラクター、そして、世界観の掘り下げ、というのを強く描いてきたな、というのをまず思った。
喫茶店で起きた密室殺人というジャブから始まった物語は、紅葉と同じ施設で育ったという姉妹の登場により、紅葉の過去を巡っての物語へ。1巻の段階でも、十分に可愛いところとかを見せていた紅葉だけど、彼女の服を買う、というようなところで色々な格好をさせられたりする。勿論、そんなやり取りの中で春麻の前とは違う顔も。ついでに言えば、序章の湯ノ宮に気に入られた晴麻に嫉妬(?)という感情を見せる辺りも可愛い。ところが、そんな旧友である姉妹が殺される、という事件が起こって……
エレインとメアリン、二人が二つの密室の中で殺害される。それぞれのトリックは? さらに、テロ予告まで……
当然のことながら、それが最大の謎ではあるのだけど、仲の良かった友人を喪った中での紅葉の無念さ。さらに、テロが起きる、という状況の中で犯人を探るためにタイムリープを繰り返すことになる、という展開は前巻同様。同様なのだけど、今回の事件は異能の力が関係のないだけに、純粋にヒント集め、という形で使用されることに。その中で、ちょっとした描写、さらに一言、といったものから犯人を探し出す。さらに、テロという事件の中でのアクションなども加わるなど、本格モノの要素に加え、プラスアルファという描き方が光っている。
そして、その上での真犯人……
文字通り、「まさか!」という人物であり、同時にそこから異能力を持つ者に対してのアレコレという背景も感じさせること。
前作同様、本格モノの楽しみがありつつ、今回はその背景となる世界観とか、そういうものをよく強く感じさせるものになったな、というのを強く思った。

No.6836

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Tag:小説感想GA文庫零雫

青矢先輩と私の探偵部活動

著者:喜多喜久



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かつて母が在籍し、父との出会いのきっかけとなった桜永第2中学探偵部。そこに入るために、故郷の北海道を離れ桜永市へ越してきた美玖。だが、その探偵部は既に廃部になっていた。探偵部復活を目指し部員集めを始める美玖だったが、入部希望者の依頼で近隣の名門高校・叡光学園に侵入する。そして、そこで叡光学園でもトップの天才高校生・青矢先輩と出会い……
という連作短編集。全5編を収録。
まず言うと、結構、重大な犯罪を題材にした話が多くて驚いた。もっと日常の謎を題材にしたものかと思っていただけに驚き。
そもそも、美玖と青矢先輩が出会う1編目『探偵部の復活』。探偵部復活を目指してビラ配りをする美玖の前に現れた先輩は、興味があるから叡光学園に侵入し、内部の様子を写真に撮ってきてほしい、と言う。その指示に従って青矢に出会うのだが、侵入を依頼した先輩の思惑には裏があって。このエピソードは、多分、誰が読んでも「胡散臭い」って感じだとは思う。その意味では、本当に出会いのエピソードという感じかな?
第3話『救済の毒草』。クラスの生徒たちから嫌がらせを受けている担任教師が倒れた。原因は、給食の中に紛れ込んでいた毒草。命に別条がなかったものの、教師は休職。配膳の差異の位置関係から、教師に嫌がらせの中心となる生徒が槍玉にあがるが……。SNSでの投稿や、学校と言う空間での嫌な雰囲気。その状況に加え、さらに事件そのものは殺人未遂にもなりかねないもの。かなり重大な犯罪という状況に驚いた。ただ、ある意味、ここまで追い込まれると、というのはあるのかも。
学校という舞台を考えると、カンニングを題材にした4編目『神の目の在り処』。3年生の成績上位10位がすべて入れ替わる、という事件が起きた。上位の生徒の成績は変わらないが、それまで平均点以下の成績しか取れなかった生徒が高得点を取り、ベスト10を独占した。カンニングが疑われるが、証拠はない。試験問題作成用のパソコンなどには細心の注意を払っていたのに、どうやってバレたのか? これはある意味、完全犯罪と言えるところまで行った……はずだったもの。しかし、欲が出たことで……その辺りのさじ加減が上手かった。でも……平均点以下の生徒に、試験問題&解答を覚えさせても、ベスト10の人の成績が変わらないなら、追い落とせるものかな? なんてことはちょっと思ったり。
そんな中で、叡光学園は女子禁制で、女子と話をしているだけで罰を受けるから、と青矢先輩と会うときは常に男装。でも、ちょっとずつ意識して……なんていう辺りの方がこの作品の味なのかも。
ただ、美玖、青矢、両者について深く語られていないような感じがするだけに、続編が出ていないのがちょっともったいない気はする。

No.6835

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Tag:小説感想喜多喜久