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著者:瘤久保慎司



懐妊したパウーのため、北海道にて「霊雹」のキノコを探すビスコとミロ。しかし、そこに謎の飛翔体が来襲し、二人は北の大地ごとアブダクトしてしまう。飛翔体の大統領である謎の生命体・メアは、地球生命の保存を標榜し、二人は危機に陥ってしまう。そんなとき……ミロが出産をして……
あかん……
冒頭の粗筋の時点でわけがわかんない! だって、男のはずのミロが出産して子供が生れるってだけで、色々とおかしいし!
ともかく、謎の生命体・メアの来襲により危機に陥ったビスコ&ミロ。その危機はミロが出産した子供・シュガーによって回避された。しかし、何とか危機を脱しただけ。宮崎に逃れた二人は、飛翔体・箱舟にとらわれた生命を取り戻すためにもシュガーを覚醒すべく、子育てに奔走することに。そんなとき、二人の前に現れたのは死んだはずのビスコの母・赤星マリーで……
そんなマリーの存在はあるんだけど、まずは、ビスコとミロの子育て奮闘記。何というか……予想通り……
シュガーが滅茶苦茶に力が強く、なおかつ我が強いっていうのはあるんだけど、ほとんどミロのワンオペ状態。そして、疲労困憊のミロに代わって本の読み聞かせをしようにも、細かなところにツッコミを入れ、子供に文句を言われる。そして、途中で本人が飽きる。……典型的なダメイクメン。パウーとの子育てが心配になる。そんなこんなで困っているところに、マリーが現れて……
幼いころに死んだ、とされる母親。そんな母親の存在に反発を覚えつつも、しかし、背に腹は代えられない。しかし、母には母の思惑があり……
菌聖と呼ばれたキノコなどの扱いの天才。そして、その天才性を伸ばすために、「愛を捨てた」母。だからこそ、ビスコの元を去った……。しかし……。マリーの考えは明らかに歪んでいる。でも、それも「母の愛」。そして、そんなマリーによって生み出されたのも。最初に書いたように色々とおかしなところだらけではある。あるのだけど、ビスコはビスコで母親について思うところがあり、勿論、シュガーはビスコとミロと親子関係。そして……。ある意味では親のエゴ、子供のエゴ。そういうものが捻じれに捻じれたものに、この作品の世界観が結びつくと、こういう物語が出来るのだろう、というのを感じる。さらに言えば、作中、過去のキャラクターなどが多く登場するのだけど、そこにも親子関係のアレコレがあるっていうのを思い出した部分もある。
そういう意味で、世界観をこれでもか、と詰め込んだエピソードのように感じた。
……で、メア、マリーとのアレコレは終結するわけだけど、物語巻末のパウーの出産。
……色々と凄すぎる……

No.6094

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Tag:小説感想 電撃文庫 瘤久保慎司

著者:越尾圭



新宿中央公園で突如、ドローンが爆発。少年時代に殺人を犯した男が死亡する。現場から発見された金属製のカプセルからは、警察庁が開発を進める犯罪捜査AIに対する挑戦状が入っていた。たまたま現場に居合わせた警視庁捜査一課の刑事・十勝は、その捜査AI・アテナの開発を進めるリーダー・穂積から相棒に指名される。アテナを駆使する捜査を進める二人。だが、次なる事件が……。さらに、十勝の元には、犯人から母親を人質に、情報をよこせと言う犯人からのメッセージが……
犯罪捜査を専門とするAI。どうしても某シリーズを思い浮かべてしまうけど、勿論、別物だけど。
物語としては、次々と起こる殺人。被害者として選ばれているのは、過去に殺人などを行いながらも、少年法や刑法39条などによって、不当に罪が軽くなった、とされている人物。そして、十勝とタッグを組むことになった穂積もまた、両親を事件によって喪い……という過去を持っていた。AIによる絞り込みで、そのような過去を持っている人物。また、防犯カメラなどの情報。そういうものを駆使した絞り込み。さらに、十勝の元へ届く脅迫。母親を実質的に人質に取られる形となり、母を避難させるものの、なぜか情報は筒抜け。どこから情報が洩れているのか?
AIを捜査に用いる、ということで、AI開発におけるフレーム問題などと言ったものを分かりやすく解説している。しかし、次々と起こる事件を始めとしてサスペンスフルな物語がメインとなっているため、いかにも説明説明した部分というのがなく、どんどん読み進めることが出来た。この辺りの話の作り方は素直にうまいな、と感じる。そして、その物語の結末。3分の2くらいのところで、一旦は犯人が判明したと思ってのひっくり返しなど、かなり練り上げられている。
この物語。AI開発がテーマではあるのだけど、読み終わってみると犯罪被害者が、その過去にどう立ち向かうのか? という部分なのかな、とも思う。自身がそういう事件に関わった過去を持つ穂積と黒幕。どちらも、関係者ではあるが、しかし、その立ち向かい方は対照的。その点がより、印象に残った。
ただ、分量的なこともあるんだろうけど、もうちょっと犯人側の掘り下げがあっても良かったかな? と思う。一応、説明はされているけど、その中での心情とかが描写されていれば、もっとそのテーマが鮮やかになったように感じるだけに。

No.6093

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Tag:小説感想 越尾圭

著者:久住四季



念願の本庁捜査一課へと配属になった莉花。引き立ててくれた仙波の下に配属された彼女らが当たることになったのは、車により執拗に手足だけを轢き潰された異様な死体。被害者が、半グレグループの構成員であったことから、内部抗争と思われたが、助言を求めた犯罪心理学者・阿良谷の意見は違った。そして、目に釘を刺すという方法を使った別の事件と共通する、という。一方、そんな中、莉花は監察官の直澄から、情報漏洩の犯人探しに協力するよう求められ……
シリーズ第3作。
ということで、物語は目の前の殺人事件の捜査。そして、警察のデータベースから情報が漏洩している。その漏洩を行った犯人探し、という二つの側面から進展する。
殺人の方は、冒頭に書いたように拷問の上での殺害、という形。最初の被害者が半グレであった、ということで仲間内での出来事と思われたが、しかし、阿良谷の指摘により、同様の事件が。もう一つの事件は半グレではない、菓子店を経営していたパティシエ。だが、その両被害者は前科を持っていた。ただ、その情報はどこから漏洩したのか? そして、なぜに拷問なのか?
一方で、そんな情報漏洩の元と思われるのが監察官からの依頼。捜査一課には復帰したものの周囲からは浮いた存在の莉花。だからこそ、莉花は自由に動くことも出来る。そして、漏洩犯は同じ仙波班の中に? 事件を捜査しながら、しかし、同時に身内も探らねばならない。
そして、そんな事件の中で浮かび上がってくるのが、死刑と無期懲役の間を埋める刑罰として「拷問」を主張していた元大学教授。彼が? 教授の元へと迫っていくが……
これまでのシリーズ作同様、分量は少ないのでまとめなどについては簡単に行きすぎな気もするのだけど、事件捜査の中で同時に身内を探らねばならない、というスリリングさもあって一気に読むことが出来た。そして、表向きは莉花と距離を置いていた仙波班の人間だが……
警察官として、何を優先すべきなのか? という清濁併せのむ姿勢を見える仙波。だからこそ、阿良谷の助力を求める莉花にも釘を刺す。目の前の事件から、ある意味、シリーズのテーマとも言えるべき場所もクローズアップされてきたように思う。そして、その阿良谷に対する裁判が再開される、という物語の締め……。シリーズとしてもここで一気に動いてきたな、というのを感じる。

No.6092

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Tag:小説感想 久住四季 メディアワークス文庫

著者:凪木エコ



風間マサト、26歳。ブラック企ぎょ……広告代理店に勤めるサラリーマン。そんな彼が教育係をしている後輩社員・伊波渚は、美人で仕事が出来、しかも人懐っこいとパーフェクト。そんな彼女の欠点は…… 「先輩、今日も飲み行きましょう!」 残業終わりは毎回、飲みに誘い、酔うと甘えん坊に拍車がかかり……
『おっぱい揉みたい(以下略)』の3巻をまだ読めていないけど、あちらはひたすらイチャイチャとしている話。そして、本作も、基本的に最初から最後まで、ひたすらにイチャイチャしている感じ。
毎日、仕事終わり(残業終わりともいう)になると「飲みに行きましょう」と誘ってくる後輩の渚。残業後なので、二次会とかには行かないが、それでもそんな渚の言葉に付き合って出かけることに。そして、ただでさえ距離が近い渚だが、酔っぱらうとさらに距離が近く、甘えてくる。そして、終電を逃したならホテルに行きましょう、なんてドキッとするようなセリフも……。まぁ、時には飲み過ぎてリバースしてみたり、なんてこともある。
まぁ、主人公のマサトがちょっとでも下心があれば……っていう感じもするんだけど、そこは、常識人というか、物凄く身持ちの固い人物。そうなると今度は、渚の好意がわかっているだけに読者としては「この朴念仁め!」という気分になる。そのある種のもどかしさが持ち味なのだろうな。
基本的に単話形式で物語が進み、その1話が20頁程度なので、非常にサクサクと読み進めることが出来る。そして、その中で上に書いたようなやりとりがなされていく。ある意味、最初からずっと同じような展開が続いていくのだけど、このやりとりそのものが楽しいで、個人的にはそこに不満はないかな、という感じ。そういう風には書いたけれども、この巻の終盤には渚がマサトに対して好意を抱くことになったきっかけなども描かれており、話としてもちゃんとまとまっている。
これで物語として一段落と言うことも出来そうなのだけど、このやりとりの続きが読めるなら、それを読んでみたい、というのは確か。
最後に……
こいつらの肝臓、大丈夫だろうか?(ぉぃ)

No.6091

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Tag:小説感想 富士見ファンタジア文庫 凪木エコ

巫女島の殺人 呪殺島秘録

著者:萩原麻里



瀬戸内海に浮かぶ千駒島。この島では、巫女が死者の魂を呼ぶ、という秘儀が今なお行われている。そんな島から与志月研究室に届いたのは、この島では過去の事件を隠蔽し、次の祭りにて新たなる死がもたらされるだろう、という手紙だった。本来、外の人間が島へ立ち入ることのできない大晦日の祀り。調査のため、特別に許可された真白ら、与志月研究室の面々だったが……
シリーズ第2作。
前作『呪殺島の殺人』も、いかにも、なクローズドサークルの状況が作られ、しかし、いざ物語が始まってみると王道のクローズドサークルものとは異なった方向へ……という感じな話だったのだけど、本作も同様。
島の人間にだけ伝わる祀りがある。しかし、その祀りには因縁があるらしい。そんな中、祀りの中心となる巫女。その巫女の同級生、幼馴染の若者たちが次々と遺体となって発見される……。ここだけ切り取れば、「いかにも」って感じでしょ? ところが、その幼馴染をはじめとして、関係者の面々のアリバイというのは基本的にない状態で、誰が犯人か、というのを考察しようにも決め手がない状況。そういう状況で、誰が事件の犯人なのか、ではなくて、その「祀り」とはどういうものなのか? を探ることに焦点が当てられている。
実際問題として、それだけで十分に読ませるものはある。
先に書いたように、祀りの中心となるのは、千駒美寿々という巫女。そして、その巫女は18歳になると神通力を身に着け、「本当の」巫女になるという。今年の祀りは、まさに、その美寿々が18歳となってのもの。そんな島で、祀りを取り仕切る世話役たちと、美寿々の幼馴染に当たる同級生。高校3年生である彼らは、閉鎖的な島での役割と自分の進路への悩みなども抱えているが、もう一つ、何か隠している様子が見受けられる。そして、その死の中で……
島にとって、何よりも大切な祀り。
経済とか、そういうものを含めて、島とか村においてそういうイベントが大事である、という考え自体は理解ができる。しかし、実際に自分の子供が死んでいる、という状況にあっても、ほとんど無頓着に祀りを進めようとする島民たちというのは、明らかに異常。なぜ、そんな態度が取れるのか? 勿論、そこにはちゃんと理由もあって……
確かに、物語の冒頭に研究室へ届けられた手紙に書かれた言葉の意味。なぜか近年は、移住者が多くいるという理由。18歳を迎えた巫女が8年ぶりに生まれる、ということの持つ、極めて大きな意味。特に、物語のきっかけともいえる手紙の言葉の意味が、文字通りにひっくり返る真相には驚かされた。
いや、考えてみれば、ここまでというのは異様だし、そこまで信じている人もいないとはいえる。でも、身近にある思想の中にも、これに近いもの、っていうのはあるんだよな。例えば、12月の後半に大々的なお祭りがある宗教とか、そういうのも近い部分はあるんだよね。それをさらに先鋭化させたら……。勿論、これは架空の物語であるのだけど、外部の人間、思想が入りづらい孤島という環境とか、そういう舞台設定はリアリティをもたらすうまい小道具として活きているのだな、というのを感じる。
前作同様、今作でも物語の終盤は、今後もいろいろとありそうだ、というのを示唆する形で終わっている。
設定とかを考えるのは大変だと思うのだけど(ちなみに、前作を読んだのは、2020年7月なので、1年半ぶりくらいの続編)、続くのであれば、また読んでみたい。

No.6090

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Tag:小説感想 新潮文庫nex 萩原麻里

著者:加藤実秋



神奈川県蜂須賀市の駅前繁華街の外れにて、バラバラにされた外国人女性の遺体が発見された。被害女性は中南米系……、恐らくはブラジル人と思われることから、所轄の刑事・白木は、警察通訳人の幾田アサとコンビを組んで聞き込みに捜査に当たることになって……
形の上で、短編が1編あって、そのあとに長編が、というような形だけど、話そのものはつながっているし、むしろ短い第1章のあとに、長い第2章、というようなイメージで考えたほうが良いのかな?
物語は、というと、粗筋として書いたように、繁華街で発見されたバラバラ遺体。その捜査をするために白木とアサが出会い、ぶつかるところもありつつも聞き込みをすることに。ただ、この事件そのものはまもなく解決を迎える。ただ一つ、そのバラバラ遺体を集めても、欠損している部分が残る、という点を除いて……
それから1か月。再び今度はバラバラ遺体が発見される。場所は造船所内の港。そこにやはり、バラバラの遺体が。被害者は造船所で働くブラジル人女性。ただし、彼女はブラジル人の中でも少数民族に属する民族で、造船所内でも特殊な立ち位置のグループに属していた。そして、1か月前の事件の被害者も同じ民族出身だった……
その事件を二人が捜査する形なのだけど、まず言えるのは二人の設定がちょっと特殊のが特徴かな?
主人公の白木は、結婚願望が強いのだが、ふとしたところで空気の読めない一言を発してしまう悪癖がある。そのため、結婚相談所から紹介された相手にも次々と振られてしまう、という立場。ただ、この事件の中で紹介された女性とは上手くいきそうな雰囲気もある。実際の警察官も、仕事は仕事、プライベートはプライベートなのだろうけど、捜査の合間を縫ってデートとか、なかなかすごいことをやってくれる。
一方のアサは、日本人ではあるが幼いころから海外で過ごし、ブラジルで大学、大学院まで修了。日本に慣れていないため、日本の文化などにはやや疎く、白木の物言いなどに対して正面から反発したりもする。ついでに、ことわざなどにも弱く、ことわざの誤用を連発したりもする。
そうして、事件、白木の婚活が同時進行で、白木、アサの対立を軸に物語が進行していく。
その対立軸というのが、二人が捜査の最中に出会う一人の青年について。被害者と同じ民族の血を引きながら、しかし、混血であるとしてコミュニティに入れてもらえない存在。性格は明るく朗らかで、捜査にも協力的。そんな青年をアサは個人的に気に入ってしまう。けれども、捜査をする側である白木たちは、彼もまた容疑者の一人であり……
一度目の聴取などで、問題が晴れた、と思いきや、二度目、三度目と聴取に行くことになる白木たち。青年は、それにも応じるが、青年以上にアサが反発。なんで、そんなに疑うのか? よく刑事ドラマとかでも、「またですか? 何度も聞かれましたよ」みたいな目撃者とかの台詞があるけど、そういう状況に(一応)捜査側の人間が反発する構図っていうのはなかなか面白かった。そして、だんだんと対立はするのだけど、その中で白木がアサに伝えた「個人的な思い入れをしたならば……」という言葉も。
……まぁ、警察通訳人はあくまでも民間人だから、そういうのも全くないわけではないのだろう。でもその一方で、契約とかである程度、役割とかを知らされているはずだから、アサのように表立って反発することもできないと思う。このあたりのラインを描けるのは、リアリティ趣向というよりも、キャラクター面を表にした警察モノらしいところじゃないかと思う。これはこれでアリでしょう。
正直なところ、アサがシングルマザーである、という部分はあまり活かされていない気がするところはある。これなら、日本文化に疎い帰国子女ってだけでもよさそうな感じがするし。設定として、シングルマザーとするなら、そこはもうちょっと掘り下げてもよかったかも。

No.6089

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Tag:小説感想 加藤実秋

冷たい檻

著者:伊岡瞬



北陸の過疎の町・岩森村。その駐在所から、警察官が失踪した。県警本部から派遣された調査官・樋口透吾は、後任の駐在員・島崎と共に失踪の謎を追うことに。しかし、それは閉鎖されたショッピングタウン、「かんぽの宿」を引き継いでの大型複合医療施設といった村の事情とも絡み合っていた。そして、凄惨で不可解な殺人事件が発生して……
冒頭に書いたあらすじだと、主人公の透吾が、島崎とのバディで村の秘密に挑む……的な話っぽく思えると思う。でも、実際はそうではない。主人公格といえるのは透吾なのだけど、様々な立場の人間の視点が描かれながら、村の状況とかが少しずつ読者に明かされていく、というような構成の物語になっている、というほうが正しいと思う。
とにかく、物語全体を通して感じたのは、何かおかしなことが起きているらしい。それは間違いないのだろうけど、では、それぞれのエピソードが一体、どこでどうつながっていくのだろうか? という不気味な雰囲気。
主人公格である透吾は、村がどういう状態なのか、というのを予め、ある程度は頭の中に入れた状態で登場。しかし、相棒となる島崎は、透吾がどういう存在なのかも知らないままに案内役を仰せつかる。しかも、島崎は島崎で、形式的に手伝えばよく、その行動は報告せよとスパイのような役割を請け負っている状態。この時点で、何かおかしな空気を感じさせる。
さらに、児童養護施設で暮らす少年たちの間では、『アル=ゴル神』なる神に頼めば、その相手を排除してもらえる、という噂が広まり、実際に失踪したものもいる。更生施設で暮らす青年・レイイチは、そこで鬱屈した生活を送っているが、施設から与えられるサプリメントで一部の人間が性格からして変化しているのではないか、と感じるようになっていた。養護施設の職員・千晶は、勤めやすい施設であるが、何かこの施設はおかしい、という印象を抱いていた。閉鎖されたショッピングタウンの敷地内でラーメン店を営む熊谷。店を閉めようか、とも思う彼の元に、もう少し続けてくれと現金を渡すものが現れ……
自分の実家は、北陸ではないけれども、やっぱり過疎地域。ショッピング施設とか、そういうのもいろいろと縮小したり、なんていうのは目の当たりにしている。その中で、新たな施設、雇用を創設するための働きがあり、しかし、その一方で既得権益とか、その創設にあたっての利権を得ようとして有象無象がうごめく。勿論、そこには町の顔役たる町長とか、長老なんていう面々も顔を連ねている。その構図が、いかにも「田舎」という感じで、読んでいてすごく理解できるところがあった。そして、そんな、ある意味「普通の田舎の風景」と同時進行で起きている、文字通りの「異常な兆候」。これがどう絡んでいくのか……
老人ホームと、更生施設と、児童養護施設が複合された大型医療施設。その中で何かが起きているらしい、ということは早い段階から判明。しかし、それが駐在員の失踪に繋がるのか、といえばそうは思いづらいし、ショッピングタウンや政治に繋がるのか、といっても……。600頁ちかい分量があり、読んでいるうちに、それぞれがどういう事情、秘密を抱えているのかはわかってくるのだけど、どうしてもすべてがどうリンクするのかがわからない。それが最後の最後に結びついたとき……
思ったほど、衝撃的とか、そういうものではなかったな、と思わず感じてしまった。
いや、それぞれの状況がしっかりとつながったのは間違いない。理屈としてしっかりと説明されてもいる。ただ、いくつかの部分とかは背景の背景くらいの薄いつながり、という感じだし、いくつかの部分については偶然の結果でもある。作中の事件とか、そういうものが全て意図的に繋がった結果というのを期待していたので、その点ではちょっと肩透かしという部分はあるかな、と感じた。
でも、先に書いた田舎の雰囲気とか、そういうのは十分に楽しめた。

No.6088

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Tag:小説感想 伊岡瞬

出会ってひと突きで絶頂除霊!9

著者:赤城大空



かつて「性の理想郷」を作り上げた魔族・サキュバス王。大規模テロの制圧には成功したものの、いまだに「国内に封印されたサキュバス王のパーツが奪われる」という予言は残ったまま。事態の好転には至らなかった。その状況の中、退魔師サイドはパーツ防衛のため、晴久らの防衛に、ある人物をつけて……
物語も、大分煮詰まってきた、という印象。
そして、絵面的にもだいぶ汚くなってきたなぁ……。流石は、「性癖に正直になった」と著者自身が自白しているだけのことはある。
最強クラスの千鶴、手毬が封印されてしまう、という状況になった退魔師陣営。サキュバス王のパーツを守るため、晴久らを囮にする、という作戦を決行。そんな中、晴久は一人の黒ギャル・春美と出会う。春美の明け透けな晴久への接近で周囲の女性陣が、もやもやし、彼女が実は魔物と判明。しかし、晴美はテロリストに対して攻撃を仕掛け始める。そう、彼女こそが囮となった晴久の護衛で……
前半はそんな感じの物語なのだけど、雰囲気としてはいつも通りのドタバタ劇といった印象。ただ、春美がひっかき混わす中で、何気に女性陣も性癖ダダ漏れ状態になりつつあるのは楽しかった。
と同時に、これまで人類対魔物、という構図と思われていたのだけど、春美のように魔物=人類の敵、ではないとか、敵対関係の構図の変化も見え隠れし始める。そんなとき、晴久らにパーツの一つである「サキュバスの口」を手にしたアンドロマリヌスが襲撃を加える。しかも、その攻撃によって晴久はショタ化。しかも、その影響で、本音(?)が素直に出てしまうようになってしまい……
ここが、絵面が汚くなってきた、と言わざるを得ない部分。
だって、まんま「イかせる」ことでパーツを奪うことが出きる。っていうだけでアレなのに、口をつかって……。一方で、晴久を守るはずの面々も、ショタ化した晴久のふとした一言でドギマギ。ドギマギするだけならばよいのだけど、色々とアレな行動をしようとするし。アンドロマリヌス、サキュバスの口でイかされるとヤバいならば、お姉さんが……とか、未遂で終わっても、「お巡りさん、事件です」案件だしなぁ……。中盤までは、日常的なドタバタ。アンドロマリヌスの襲撃以降は、基本的に強敵との熱いバトル……のはず。はずなのに、ちょっとした言葉遣いとか、途中のギャグのせいで、ひたすらに絵面が汚くなる、というのは一つの才能なのかもしれない……そう思う。
ただ、アンドロマリヌスとの対決。さらに、それに続いて……で、ラスボスとでもいうべきものまで戦いに参加してきて、いよいよ物語は終盤という雰囲気は強くなった。……というか、「口」だけでこのひどい絵面なら……という部分に期待をしてしまう。
どちらにしても、物語の状況、情勢が大分、混沌としている、というのは間違いのないところだけど。

No.6087

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Tag:小説感想 ガガガ文庫 赤城大空

夏至のウルフ

著者:柏木伸介



愛媛県松山東署警強行犯係の刑事・壬生は、妻と離婚して以来、恋人の家か映画館に寝泊まりする生活をしている。そんな彼だが、「狩りモード」、いわゆるゾーンに入り込むと、五感が研ぎ澄まされ事件の断片が繋がり始める。そんな壬生、同僚たちの活躍を描く連作短編集。全5編を収録。
著者のこれまでの作品とは、大分、雰囲気の異なる作品だな、というのがまず最初に思ったこと。
著者のこれまでの作品って、『クルス機関』シリーズのようなスパイもの、謀略もの、というようなカラーが強く出ているのだけど本作は、愛媛県の所轄署を舞台に、ちょっとした事件を解決する、というような話になっている。で、そんな物語の何よりもの特徴は、登場人物が皆、思いっきり方言で会話をしている。正直、地方とは言え、ここまで方言丸出しでの会話をしている地域ってあるのかな? と思うくらいに。まぁ、それが作品の味になっていることは間違いないのだけど。
1編目の表題作。松山の繁華街で、デリヘル嬢が殺害された。捜査線上に浮かんだのは、被害者が勤めていたデリヘルの経営者。その経営者は、被害者の弱みを握り、愛人にしていたらしい、という噂。その関係の拗れではないか、という方向に動き出すが、どうにも腑に落ちない……。1編目ということもあり、壬生、そして、周囲の面々の紹介という側面もある話。県警本部と東署の間にある確執。そんなものを描きながら、風俗嬢などのやりとりをする際のルールがあることが見えてきて……の真相。導入篇としてまず良かった。
ある意味、物凄く小さな事件のようで……というのが、3編目『燕と泥鰌』。住宅街の路地で、老婆が襲われた。被害にあった老婆は、その際に転倒し、軽い怪我。そして、その時に持っていた泥鰌、660円相当が奪われた……。被害額660円の強盗事件の小説って、まず見たことがない。しかし、そもそも、そんな600円程度のものを奪うために強盗を働くだろうか? 被害者は、周囲からも良い人と言われており、恨みを買ったような様子はない。そんな中、周囲でトラブルを起こしている人物の存在が浮かび上がってきて……
ちゃんとしている人かどうか、という問題と、価値観がどうか、という問題は別である。まず、この部分が印象に残る。そして、その上での思い込み、という落とし穴。それだけだと単純に真相がわかったけれどもちょっと苦い感じになるのだけど、トラブルメーカーの方にもしっかりとお灸をすえる結末があるのですっきりとした気持ちになれる、というのが何よりも良いところかな? と感じる。
キャンプ場でソロキャンパーが襲われた、という事件を題材にする4編目『満月の町』。町おこしのためにキャンプ場を設置。多くの客が訪れ活性化に繋がっている、という一方でゴミの処理などのトラブルも起きている。街の守旧派などの反対もある。そういう思想が原因なのか? ミステリー作品で、色々と背景とかを考えてしまうからこそ、という落とし穴が面白かった。確かに、現実を考えれば、こちらの可能性が高いだろうな……
各編、50頁程度で、登場人物も最小限度。そのため、読んでいるうちに、犯人はこいつかな? と絞れてしまう部分があるのは否めない。ただ、それぞれ、その最小限度の分量の中で趣向を凝らしており、こう来たか! というのを楽しむことが出来た。

No.6086

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Tag:小説感想 柏木伸介

ビタートラップ

著者:月村了衛



「私は中国のスパイなんです」 農水省に勤める公務員・並木は、付き合っている中国人留学生の慧琳から、自分をハニートラップにかけるべく指示されていた、と告白した。その理由は上司から出版社の人に見せてくれ、と渡された中国語の原稿。慧琳は、自分を欺くために接近したのか? 並木の心は乱されて……
まず思ったのが、著者の作品としてはかなりライトな作品だな、ということ。
著者の作品は『機龍警察』シリーズ、その他、最近の作品は実際の社会問題などを下敷きにして単行本で400頁、500頁くらいのものも少なくないのだけど本作は215頁ほどと、分量的にも。
ただ、物語の導入とか、そういう部分は流石。冒頭に書いたように、自分は中国政府の指令によって並木をハニトラにかけるべく接近した、という慧琳の告白から始まる。自分は並木のことを愛している。だから良心の呵責に耐えられない。
まず思うのがなぜ? 自分は農水省の職員。とは言え、エリートでも何でもないノンキャリアの一般職。上司からの預かった原稿がある、とはいえ、一般の中国人が書いた素人小説。そんなものに何の価値が? 別れるにせよ何にせよ、いきなり、では怪しすぎる。慧琳は指示を出してきた上司・鄭を欺くためにも、同棲生活を提案。信頼感もない同棲生活が始まる。そして、そんな並木の前には、公安警察の山田、さらに慧琳の上司・鄭らが現れ……
スパイとは言え、慧琳に対する愛情もある。しかし、それすらもが怪しく感じられる。山田からもたらされる慧琳の秘密。抵抗をしているように見えるが、鄭らに情報を与えている慧琳。やはり……そんな思いは膨れ上がる。しかし、その一方で、わざわざそんな情報を並木に報告するのは、彼女の本心なのか? その間で揺れ動く並木の心に惹きつけられる。
そして、本作のテーマである「偏見」。並木自身は、自分は外国人だから、なんていうのは思っていないつもり。しかし、慧琳について、遊んで捨てられる存在と思っていなかったか? と言えば否。また、中国ってこういう国だから……みたいなものも実はある。その辺りもしっかりとはしている。
ただ、物語の解決法がちょっとなぁ……と言う感じ。詳しくは書かないけど、物凄く都合の良い存在がいて、その人が快刀乱麻に問題を解決してくれて、っていうのはちょっと出来すぎでしょ。テーマとか、そういうところでは惹きつけられたのだけど、結末に至る過程がちょっと強引な気がした。

No.6085

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