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著者:日日綴郎



学校一のヤリチンと言われる少年・隼。陽キャグループに囲まれる彼であったが、実は童貞である、という秘密を抱えていた。そんな彼が長い片思いをしている少女・日和と付き合い始めることに。誰にでも身体を許す、という噂のある日和であったが、実は彼女もまた「未経験」で……
まず思ったことは、この学校の面々、かなり性にオープンだな、おい! ……いや、私がオッサンになっただけの古い人間なのか? 勿論、この話の「未経験」っていうのは、性的な経験が、ってことで、そこがメインになる話である。
高校デビューをし、陽キャメンバーとなったところで、学校一のヤリチンと言われるようになってしまった隼。周囲の面々は、すでに経験済み……どころか、経験豊富で、そんな面々に話を合わせ、見栄を張っている、なんていう中で雁字搦めになっている状態。そんな彼がずっと片思いをしているのが、日和。誰にでも身体を許す、という噂がある少女で、そんな彼女を助けたことで付き合うということに。しかし、彼女もまた「未経験」で互いが互いを経験豊富と思っていることですれ違いが生じていく。
付き合い始めた、ということを宣言するのだけど、「(性格的な)相性ピッタリ」と言ったところ、「(身体の)相性ピッタリ」と勘違いされてみるとか、結構、明け透けにそういう会話が出てくる辺りは、ちょっと自分が高校生だったときとは時代が、もしくは環境が違いすぎるな……という印象。
ただ、そんな周囲の評判とは裏腹に二人はひたすらにピュア。見栄を張って……とか、そういう部分はあるにしても、互いのことを大切に思い、相手を尊重して……この辺りはほほえましい。そして、そんな二人を応援する友がいて……。二人をだまして、ラブホテルに入らせたりとか友達思いなのかどうなのか……
ここまで書いたように、かなり明け透けなところに、ちょっとドン引きした部分がないわけではないのだけど、でも、だからこその葛藤、ピュアさというのを楽しめた、っていうのは確か。
……ただ、個人的にはあとがきで書かれていた、売り上げ次第では日和をサポートしてきたしっかり者で、でも、ダメ男ホイホイの咲の話を描きたい、というのに期待してしまっている自分がいる。……なんか、色々とアレな物語が楽しめそうだし。

No.6567

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Tag:小説感想富士見ファンタジア文庫日日綴郎

春や春

著者:森谷明子



「俳句は鑑賞に値する文学とは呼べません」 そんな国語教師の言葉に反発した茜は、友人の東子に顛末を話す中で悔しさが募り、俳句甲子園を目指すことにする。立ち上げた俳句同好会に集ったのは、鋭い音感を持つ理香、論理的な弁舌に長けた夏樹たちで……
以前に読んだ『南風吹く』のスピンオフ……ではなくて、スピンオフ元となる作品。要するに、読む順番が逆になった、ということ。
で、『南風吹く』の場合、瀬戸内の離島の学校。過疎化もあり、数年後の廃校も決定しており、そんな学校を卒業後にどうするのか? とか、主人公たちの葛藤とか、そういう部分にも多くが割かれていたのだけど、本作の場合は、本当にストレートに俳句甲子園を目指す、という部分に焦点が当てられている。
で、前作でもルールがどうとか、そういうところに「ほ~」と思った部分とかが多かったのだけど、本作は一作目ということもあり、よりそのルールとかを深堀りしたような印象。例えば、メンバー集め。書道家だったり、音楽をやっていた子だったり……。一見するとそれが? と思うのだけど、音楽をやっていたからこそ、音の並びとかに敏感になったり、直接、ではないけれども披講(句を披露すること)の際のイメージとかに繋がったり……。批評をしあうとか、そういう部分でのやりとりは、『南風吹く』でも描かれていたのだけど、より、色々な要素が武器になるんだな、というのを強く感じさせるメンバーになっているな、と感じる。
その上で、本作の場合、同好会の面々と言った面々の視点が切り替わる形で描かれていく。その中には、茜と対立した国語教師の富士とかもいて、嫌味な人なのかな? と思いきや、確かに俳句は文学か? というようなところでは対立したものの、いざ茜らの活動を見る中でアドバイスをするなど、良い教師として仕事をする。また、茜と同好会を立ち上げた東子。創作はダメ、と言いながらも、マネージャーとして、選手たちのサポートをこれでもかと行っており、文字通り、運動部のマネージャーとか、そういう存在として活躍する。よりまっすぐ「部活モノ」感を得ることができた。
その中で、個人的に、一番、印象に残ったのが、同好会の顧問となった英語教師・新野が言った言葉。勝敗を決める試合ではあるのだけど、あまり勝ち負けにはこだわらない新野。その新野は、こんなことを言う。
「同じく夏に行われている大会。例えば、プロ野球選手になるには、甲子園大会などで注目されなければダメ。スポーツ選手もインターハイなどに出ていなければ、将来のトップにはなれないはず。しかし、将来、俳人として活躍する人が、ここに出ているとは限らない。だから、楽しめ」(意訳)
なんか、本来、部活動って、そういうものだよな、というのを感じた。

No.6566

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Tag:小説感想森谷明子

著者:辻堂ゆめ



2020年、世界を襲った新型コロナ禍。いくつもの「こんなはずじゃなかった」が生まれる中、市役所3階に設置された「こころの相談室」には悩みを抱えた者たちが訪れる。そんな彼らを迎えるのは、女性カウンセラーの晴木と、60台の新米カウンセラー・正木で……
という連作短編集。全5編を収録。
読みながら思うのは、結構、不思議な構成をした話だな、ということ。
冒頭に書いたように、コロナ禍によって「こんなはずじゃなかった」という思いを抱く相談者が、市役所に設置された相談室を訪れ、その悩みを告げる。と言っても、本当にカウンセリングルームであるそこは、市の政策などの案内はできるが話を聞くだけ。しかし、その話を聞いてもらったことで少し心が軽くなり、その周辺での出来事などに変化が訪れる。その点でいうと、ミステリーでも何でもない話。……が、それぞれの相談者の悩みが解決した後、晴川は、相談者は実はこんな隠し事をしていたのではないか? という推理を正木に披露する、という形で締められる。
ここで描かれる悩み事。別にコロナ禍でなくても……というものもあるのだけど、コロナ禍でより強調された部分があるだろうと思うところが多い。
1編目・白戸ゆり。高校3年生であるゆり。合唱部員として活動をしていたが、コロナ禍で部活もできない。不完全燃焼で引退。母子家庭であるため、就職を目指すが、コロナ禍で希望していたブライダル関係の求人も激減。1つだけあるものの、自分よりも成績の良い友人も希望しており、学内での推薦は不可。非正規はダメ、という母の言葉の中、希望していない職種へ行くべきなのか? 別に友人が悪いわけではない。でも、のんきな友人の姿に妬みも感じてしまう。推薦とか、そういう部分は平時でもあるのだろうけど、コロナ禍で極端に……という人は多かったんだろうな、と感じる。
最後の謎解き雑談も含めて一番、面白かったのは4編目・大河原昇。日雇いの仕事などをし、ネットカフェで寝起きをしていた大河原。しかし、コロナ禍で仕事は激減し、ネットカフェも閉鎖。公園で寝泊まりする生活に……。不安定かも知れないがそれなりの生活をできていたのが、激変。公園ではさげすまれ、ちょっとしたトラブルで不良に目をつけられてしまった。ネットカフェ難民なんていう話題は結構前に話題になったけれども、その状況が改善されたわけでもない。そんな状況と、その中である青年と出会い……。ある意味、自堕落な生活を送っていた大河原の再生というのは素直に綺麗だと思う。そして、その後の晴川の推理。相談の中にあった大河原の言葉の中の不可解な言葉の数々。そこから導き出されるのは……このひっくり返しも意外性十分で面白かった。
各編のエピソードの中に実は繋がりが! とか、そういう部分での上手さもある。
ただ、各編の主人公の悩み解消に至る展開はちょっと強引さも感じる部分があるかな? という印象も残った。

No.6565

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Tag:小説感想辻堂ゆめ

著者:両生類かえる



秋、何やら様子のおかしなでたらめちゃん。料理店を出してみてはどうか、という東月の提案に対しても何か反応がおかしい。それでも一見、平和な日々。だが、そんな平和な日々を破壊すべく、泥帽子一派の魔の手は静かに忍び寄ってきていて……
シリーズ完結編……なのだけど、何ともいえない終わり方だなぁ……。せめて、もう1巻欲しかった。
冒頭に書いたように、何やら様子のおかしなでたらめちゃん。そんな東月の元へと忍び寄る泥帽子一派の幹部たち。そして、その中で、でたらめちゃんがどういう風に生まれたのか? そして、東月の事情はどのようにして生まれたのか? というのが語られることに。
とにかく、この泥帽子という存在が、何ともいえないキャラクターで魅力的。とにかく、面白いならば何でもよい、という思考をする男。そのため、以前には東月と奈良の喧嘩をカウンセラーとして解決して見せたり、はたまた、東月の過去にもかかわっていたり……。さらに、その一派の幹部たちもまた、癖のある面々ばかりで、その行動に東月たちは翻弄されていく。ただし、一枚岩、というわけではなく、過去にも因縁のある清涼院綺羅々は東月に協力を申し出る。そんな状況で、泥帽子は、泥帽子カップなるものの実行を宣言する……
シリーズ第1巻の、冒頭の設定であった嘘がつけない少女・東月と、嘘しか言えず、しかし、嘘を食べることができるでたらめちゃん。ある意味では、その二人の関係性というところから始まった物語が、再び、そこへ戻ったという印象。勿論、その中で、嘘を現実にしてしまえば、それは嘘ではない、という部分も含めて。その意味では、この物語の根本となるところは一つの決着となったのかな? という風に思う。
ただ……
泥帽子一派が、ある意味では自滅というようなリスクを負っても、その欲望などをかなえるための「泥帽子カップ」の開幕を宣言したところで、一気に場面が飛んで、東月とでたらめちゃんのやりとりで終わり……という物語の終わり方はちょっと不完全燃焼感が残るな。なんだかんだと追いかけていたシリーズだけに、ちょっとこの終わり方は悔しい。

No.6564

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Tag:小説感想MF文庫J両生類かえる

人形島の殺人 呪殺島秘録

著者:萩原麻里



民俗学オタクの幼馴染・古陶里が突如、姿を消した。手がかりを求めた真白は、古陶里が自らの生家がある呪殺島・壱六八島の領主の血縁で、そこへ向かったことを知る。古陶里を追い、壱六八島へ渡った真白だが、その矢先、領主・壱六八家の長女・万姫が殺されている場面に遭遇してしまう。壱六八家の屋敷へと案内された真白だが、その家にはある「呪い」がかかっていると言われ……
シリーズ第3作。
ここまでの2作は、クローズドサークル。事件のトリック、というようなところが強かったのだけど、今回は真白、古陶里の掘り下げとかが強調されたような印象。
壱六八家にかけられた「呪い」とされるもの。それは、その家で生まれた子供は基本的に双子として生まれる。その子供は、何らかの病を抱えている。そして、もし、双子で生まれず、病を持たない者が生まれたとき、その子供は一族の者を殺めるという事件を起こす存在となる……とされている。そして、古陶里は、壱六八家の先代当主が浮気の末に産ませた子供で、病を持たず、一人で生まれた存在だった……
そんな伝承もあり、万姫の殺害は古陶里の仕業であると信じて疑わない壱六八家の人々。古陶里がそんなことをするはずがない、と思う真白だったが、その古陶里は島でも失踪。ますます疑いが濃くなってしまう。そんな中で、何かを企んでる壱六八家の子供たち。だが、そんな壱六八家の中でも事件が起こり、なぜか古陶里は神出鬼没に屋敷内に現れ、真白に対して、「ここを去るべき」と告げる。さらに真白は、その島での中で、色々な違和感を感じて……
島で起きる殺人。その犯人は誰なのか? というのが物語を引っ張る要素なのは間違いない。間違いないのだけど、物語の本題はそこではなかったり。言い方は悪いのだけど、この部分はあくまでも本題へとつなげるための素材とでもいうか……。呪いの伝承の中で濃くなっていく古陶里に対する疑い。しかし、その当の古陶里は、なぜか自分のことをさておいての行動に出る。そんな状況の中で浮かび上がってくるものは……
自分自身がそうだったので、多分、読んでいる中で、物語の構図は予想できるんじゃないかと思う。そういう意味でのサプライズは薄かったと思う。ただ、その辺りも含めて、このシリーズの真相へ至る物語と言えるのだと思う。
ただ、この事件、これで終わってよいのか? という部分はあったり……。あと、ここまでくると、シリーズ完結になるのかな? という気もするのだけど……続編はあるの?

No.6563

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Tag:小説感想新潮文庫nex萩原麻里

斜陽の国のルスダン

著者:並木陽



ヨーロッパの東の果て、ジョージア王国。勢力を拡大させ、全盛期を作り上げた母・タマル。その跡を継いだ兄・ギオルギの元、王女ルスダンは幸せな時を過ごしていた。だが、そんな時代は終わりに向かっていた……。突如として起きたモンゴル軍の襲来。兄の急死を受け、ルスダンは女王となるのだが……
元々は自費出版として刊行され、その後、宝塚歌劇団の題材となるなどし、書籍化されたという経緯を持つ本書。
物語としては、冒頭に書いたように13世紀のジョージア(グルジア)の女王・ルスダンを主人公にした歴史小説ということになるのかな? ただ、ジョージア王国の歴史、もっと言うなら女王ルスダンという存在自身についての知識が全くなかったため、どこが通史通りで、どこからが脚色なのか、というのはよくわからないのだけど。
ただ、あとがきによれば、無能な女王とか、そういう評価が多いスルダンに対して、そうではなかったのでは? というところから描き始めた、というのがよくわかる。母である女王により、大きな勢力を作り上げ、そんな母のあとは兄がしっかりと継いでいる。ごくごく順調に国が動いている時代。だからこそ、母も、兄も政治の思惑に流されぬよう彼女を育ててきた。だが、まったく思わぬ方向からやってきたモンゴル軍の襲撃によってそんな平和は終わってしまう……
政治経験もないままに女王となったルスダン。彼女を支える夫は、キリスト教に改宗したとはいえ、イスラム強国の王子。夫に対する信頼はあるが、重臣たちはそんな夫に対し、不信感を抱く。それでも……そう思いつつ、夫が「敵の敵は味方」と祖国へ連絡をしていることを知り……。互いに互いのことを愛しつつ、しかし、わずかな心の隙によって生じてしまったすれ違い。そして、その両者の運命。この辺りは宝塚で舞台化された作品らしいな、というのを感じた。
その上で、著者が「そうではなかったのでは?」と思うのもよくわかる。自分の場合、時々、日本の歴史小説とかを読んでいるけど、戦国時代を舞台にした作品とかでも、一つのことをきっかけにして、本人の才能とか、そういうものではどうしようもないほどに状況が悪化してしまって……ということは数多くある。それでも、戦国時代とかなら、ある程度は、価値観とかは共通したものがある。けれども、そもそもがキリスト教とイスラム教という十字軍があるように、宗教上の対立なども多かった時代。国そのものの利害関係。その国の中の権力争い。さらに、宗教という価値観そのものを巡る対立なども存在している。その状況で……というのは日本の戦国時代とか以上に難しいことは間違いないはず。そんな時代に翻弄されたルスダンが無能だったのか? というと、反発してみたくなる気持ちはよくわかる。
本書の物語は、愛する者をすべて失ったルスダンが、国を守るために自死しようとする序章から始まり、本編はルスダンがまだ王女であった時代から、夫との運命に、という部分で完結する。物語としては、一区切りではある。でも、その夫とのことがあってから、その最期までに色々とあったはず。歴史小説という形で描くならば、その出来事とかも少しあれば、序章の彼女の決断がよりドラマチックに感じられたのではないか、という気もする。

No.6562

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Tag:小説感想並木陽

著者:心音ゆるり



誰も声を聴いたことがないと噂されるほどに無口な美少女・小日向さん。自販機の前で困っている彼女を助けたのだけど、それ以来、何か距離が近い気がする。相変わらず無口だけれども、そんな彼女に俺、杉野智樹も何か癒されて……
……と書いてみたんだけど、文字通り、そんな話なんだよな……。いや、悪い評価とか、そういう意味ではなくて。
実のところ、ちょっと設定としては重めだったりはする。小学校時代、クラスの女子たちと対立し、ありもしない悪評を立てられ、苦労をしたという過去を持つ智樹。そのトラウマもあり、女子と話をするのが苦手となってしまった。だからこそ、小日向さんを助けたのも、苦手だけど仕方がない、というような感じ。ところが、なぜか小日向さんに懐かれてしまった。そんなとき、過去の悪評もあってクラスメイトの冴島さんに詰められたりもしたものの、誤解が解け、親友の景一も加わって、4人で一緒に行動をすることに。
帯に『阿波連さんははかれない』の阿波連さんが描かれているのだけど、そちらのアニメを見た後に読むと、余計に似ている印象は受ける。どちらも基本的に無口キャラ。でも、じゃあクールなのか、と言えばそんなことはなく、態度やら何やらで感情は読み取れる。しかも、まるで懐かれているかのように接してくるし、しかも時には強引に甘えてきたりもする。相変わらず女子は苦手。けれども小日向さん相手ならば、気負わずに済む。一方で、そんな小日向さんも現在のような無表情になったのには理由があって……
互いに色々とつらい過去などを抱えている二人が、不器用だけれども交流を続ける中で少しずつ変わっていく、という様は素直にかわいらしかった。二人を見守る冴島さん、景一もまたすごい良い奴ら、だしね。
ただ、この巻の段階だと、まだ智樹は保護者的な目で小日向さんを見ている状態なんだよな。小日向さんの方は……と感じられるだけに、そこから更なる進展があるのかな、というところに期待。

No.6561

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Tag:小説感想角川スニーカー文庫心音ゆるり

守護霊刑事

著者:藤崎翔



弱冠24歳にて、U県警独鯉署の刑事課強行犯係に抜擢された大磯拓真。祖父の信夫は、数々の難事件を解決に導いてきた名刑事であり、拓真自身も同様に事件を解決した推理の天才だと考えている。……が、実は信夫の手柄は妻の八重子の推理のたまもの。そして、幽霊となった八重子は、守護霊として拓真の手助けをしていた。そんな八重子は、刑事課に抜擢された孫を導くべく、警察署前のコンビニでバイトをする美久に協力を求めて……
という連作短編集。全5編を収録。
まず最初に書いておくと、物語は基本的にワンパターン。事件が発生し、拓真たちが現場へと駆けつける。その中で容疑者が判明し、現場状況などのヒントを入手する。だが、拓真たちの推理は別の方向へ行ってしまう。そんな状況に苛立った八重子は、コンビニ店員の美久に、ヒントとなる言動をするよう依頼し、それを見た拓真が、自分の見落としに気づいて解決へ導く……という形。
読んでいて思うのだけど、八重子が非常に優秀である、というのは間違いない。けれども、八重子が言うほど拓真も間が抜けている、というわけじゃないと思う、ということ。少なくとも、八重子が美久を通して与えるヒントを見て、「こうだったのか!」と気づくくらいには推理力とか、観察力とはあるわけだし。
てなことで1編目『愛憎のもつれ』。芸大に通う女子大生が殺害された。同じアパートの住人に対する聞き込みから、この女子大生は教授と交際しており、教授に対して奥さんと別れるよう迫っていた。そんな中、容疑者として教授をマークすることになるのだが……。ヒントとなるのは、被害者が教授に送ったプレゼントの荷物。現場にあったメモから真犯人が送った、ということになるのだけど……まぁ、メモだけ見れば確かにそう思う人はいるだろうな……。ただ、世代だけで判断するのはちょっと無理があるような気はする。
個人的に一番、その辺りが上手かったな、と感じたのは4編目『誘拐』。市内でも有数の資産家の娘が失踪した。散歩中の犬を残して。資産家に恨みを抱く人間をピックアップし、容疑者としてマークするものの、しばらくの後、その娘は無事に保護された。自分でもどこに連れ去られたのかわからない、という娘は、犯人の車が途中で立ち寄ったコンビニを語るのだが……
いや、これ計画としては完璧だと思うんだ(その後はともかくとして) たまたま、その事件が起きた日が、思わぬタイミングだった、というだけで……。そこに気づいた八重子の観察眼の冴えも見事。完璧な計画と、そのわずかな落とし穴を見逃さなかった八重子、というところの組み合わせが素直に見事だと感じた。
まあ、でも、この作品……。どう考えても一番の苦労人は、八重子に振り回される美久だよな……間違いなく。

No.6560

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Tag:小説感想藤崎翔

著者:竹町



死亡率9割を超える「不可能任務」に挑むチーム灯。フェンド連邦で経験した盟友の死、仲間の裏切りは彼女たちに大きな傷跡を残した。各々の心が揺れる中、もう一人、その心に傷を負った者が……。それは仲間を失ってしまったチーム鳳のラン。灯に寄生する存在となったランを追い出すため、メンバー全員で彼女の再就職先を探すことになり……
やっぱりこのシリーズにおいて、「鳳」という存在は大きいのだな、というのを感じる短編集4巻。
上に書いた粗筋では、鳳の生き残り・ランの再就職先を、という風に書いたのだけど、まずは、鳳から課せられた「課題」をこなす、という話。
1編目『case 養成学校』。鳳からの課題により、養成学校へと戻ることになったリリィとサラ。養成学校では落ちこぼれ、と言われていた二人。養成学校の学生たちは、当時とほぼ同じ。落ちこぼれ、と言われた彼女は成績上位者からのイジメの対象となり……。1巻の段階で、灯の面々は落ちこぼれ、ということは言われていたのだけど、そんなリリィたちの立場というのが改めて描かれた形。学校という狭い空間での成績上位者と落ちこぼれ。しかし、そんな学校内でのことなど現実の戦いを知っている者としては「甘い」ということを知っていて……。その辺りの、スッキリ感は流石。
一方の2編目『case 他スパイチーム』。チーム鳳・ファルマの兄が率いるチームに行くことになったグレーテ。そのファルマの兄ダグウィンは、そんなグレーテに対し、「自分の妹になれ」と要求するが……。過剰なまでのシスコンのダグウィン。ある意味、そんなダグウィンに媚びるような態度で接するグレーテだが、突如、「お前は妹じゃない」と言い出し……。まぁ、実際に妹じゃないしなぁ……。というのはあるのだけど、最初は滅茶苦茶に喜んでいた彼がなぜ、態度を急変させたのか? それは……
ある意味では、1編目と同じようなテーマが根底に流れている。スパイは常に死と隣り合わせ。だからこそ、自分にとって大事な存在には……。この作品はスパイという特殊な設定だけど、例えば、現実の世界でも危険を伴う仕事をしている人が……っていうのはよく聞くだけに、切実な話ではあるんだろうな。
『case スパイには縁遠い世界』 フェンド連邦での戦いを終え、療養中の灯。中でも重症なのは、裏切り者となったモニカ。用意された部屋に閉じこもり、アネットが攻撃を仕掛ける以外は誰も触れることができない。そんな中、ジビアは……
この作品の「常識人」ポジションと言えるジビア。モニカの想いとか、その一方での裏切りをしたことに対する罪悪感も覚えている。その状況をどうにか打破したい。そう思う彼女のやったことは……。幼い兄弟が数多くおり、その世話などをしているからこそ、クラウスにも思いつかなかった方法を実行できた。この話は素直に、ジビアの人の好さみたいなものが十分に描かれた話だったように感じる。
そして、表題作。ランの再就職先も決まった中、2編目でも登場したフェルマの兄ダグウィンがクラウスに戦いを挑む……
ダグウィンが戦いを挑んだ理由。それは、自身が言うように完全な八つ当たり。もし、クラウスが鳳のボスになっていれば……。クラウスがいようがいまいが、スパイは死と隣り合わせ。一つのチームを率いることだって大変な仕事。そんなことはわかっている。けれども、妹を喪ったやるせなさをぶつける先が欲しい。そんなダグウィンの悲しみ、そして、守れなかったクラウスの罪悪感。クラウスが負傷中とはいえ、互角に渡り合うダグウィンの強さとかも格好良かったし、だからこその傷を感じる。でも、そんな戦いを見てランは……
あとがきによると、今回のダグウィン関連は、アニメのシリーズ構成さんから「フェルマの掘り下げはないかのか?」というようなことを言われたことからのことなのだけど、この巻は、普段、本編では意識しづらいスパイの過酷さを、しっかりと意識させてくれる話になっていると感じる。

No.6559

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亡者の囁き

著者:吉田恭教



「25年前、一度だけ会った女性に伝言を頼まれたが、それを無視してしまった。その時の女性と、伝言相手はどうしているのか知りたい」 探偵である槇野は、盲目のバイオリニストからそんな依頼を受ける。女性の名は深水弥生、その相手はサタケユウスケ。調査を開始する中、伝言を伝えるべき相手・サタケは、4年前に起きた平和島事件。会社社長と常務を社長の息子が殺害し、焼身自殺を遂げた事件の被害者であったことが判明し……
『視える』(文庫版は『凶眼の魔女』に改題)に続く、槇野シリーズ第2作。
一応、非現実的な要素はあるのだけど、基本的にはハウダニットとフーダニットをメインにしたミステリという印象。
先に書いたように、25年前に頼まれ、無視をしてしまった伝言。その際の二人はどうしているのか? というのを探ることにしたが、その一方は殺害されていた。その事件での最大の謎。それは、父と叔父(佐竹)を殺害した後、焼身自殺をした。しかも、その犯人は、事件の際に突如、大音量の音楽を流し、奇声を発しながら炎に包まれて自宅ごと焼死した、という不可解なもの。警視庁の刑事・東條有紀にも協力を求める中、依頼人が泊まった旅館の女将も同じような死を遂げていたことが判明し、さらに伝言を頼んだ深水は、保険金殺人の末、自殺していたことが判明し……
調査を進めれば進めるほど、出てくるのは関係者のうさん臭さ。その旅館の女将もまた、同様に問題のある人物。そして、その関係者たちは、それぞれ不可解な死を遂げていた。その奇妙さ。その中で、何よりもの謎は、奇声を発しながら炎に包まれた、という不可解な死の状況。さらに、その事件と依頼人が出会った時期にズレが生じているのは何か? というチグハグさ。なぜ、そんな不可解な状況が生じているのか? という謎が最大の問題として立ちはだかる。
まぁ、その奇声を発しながら……というトリックが見えてきたときのミスリードは流石に安直すぎるな、という感じはする。確かにその人物は、そういうのに詳しいだろうけど、それなりに知られた情報だろうし、そういう世界のマニアなら世間話とかで周辺に話をしていてもおかしくないよなぁ……と感じることも。それを言っちゃうと、2016年が舞台なら、ネットで検索をすれば、ある程度、事件とかも調べられたのでは? というのは野暮ってものか。
それでも、色々と謎を散りばめ、右往左往しながらも不可解な事件の真相へと向かっていく物語は楽しかった。

No.6558

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