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逆転美人

著者:藤崎翔

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「私は報道されている通り、美人に該当する人間です。でもそれが私の人生に不幸を招き続けているのです」 娘の学校の教師に襲われながら、しかし、大挙して押しかけたマスコミに様々な疑惑をかけられたシングルマザーの香織(仮名) そんな中で出版された彼女の手記『逆転美人』。しかし、それには重大な秘密が隠されていて……
帯にある「伝説級トリック」はちょっと煽りすぎのような気がする。まぁ、紙の本だからこそ、のトリックなのは間違いないけれども。
で、物語は350頁ほどの分量があるのだけど、その3分の2くらいが香織(仮名)の手記という体裁で語られる。
はっきり言って貧しい家庭に生まれた香織。自分でも自らの容姿が優れている、ということを自覚しているが、それによって得をした、という経験がない。幼いころは、その容姿により不審者に狙われ、学校に入ってからは嫉妬などによってイジメを受けた。高校を中退し、始めたバイト先は比較的恵まれていたものの、その容姿に目をつけられた末……。正直なところ、香織自身も大分、隙があるのだけど、でも一般的に得だ、というのが本当にそうなのか? というのは思う。確かに、優れた容姿によって手にできるチャンスはあるかも知れない。けれども、立ち回りとか、そういうものを知っているからこそつかむことができる。それができなければ、却ってトラブルを呼び込んでしまう。それは一つの事実かも知れない。
……と思わせての、後半に入ってからの長い長い「追記」。そこで記されているのは、この手記の作者が香織(仮名)によるものではなく、娘が執筆したものだということ。そして、その中に様々な嘘が入り込んでいること。
これまで読んだ著者の作品って、ひっくり返しはあるのだけど、それを懇切丁寧に解説をするのが特徴。懇切丁寧過ぎて、ある意味、ただの解説文と感じることすらあるほど。そして、本作の解決編と言える「追記」に関しては、それを究極的に突き詰めた感すらある。何しろ、100頁以上に渡って解説されていくのだから。「なるほど」とは思いつつも、ちょっと冗長過ぎないか? とも思えたり。ただ、その最後の最後で明かされたトリックは。
確かに、これによってすべてがすっきりする。そして、冗長と言える理由や、なんか時に具体的に当時の話題などが出てくる一方で、方やそういうものがないチグハグな理由なども。著者は、これを書くにあたって、大分苦労したのだろうというのも察せられる。そういう意味で、労作であるのは間違いないし、サプライズも十分に感じられた。
ただ、このメッセージ……(作中では、いたとされているが)本当に気づく人っているんだろうか? という気はする。

No.7019

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Tag:小説感想藤崎翔

ドスケベ催眠術師の子2

著者:桂嶋エイダ

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自分の同伴がなければ、ドスケベ催眠術が使えなくなった真友に付き合う日々を送る沙慈。留年危機の黒山未央の勉強の手助けも始めた。そんな中、彼の前に現れたのはスクールカウンセラーであり、ドスケベ催眠サポーターであり、幼馴染のお姉さんである甕川水連。真友とも旧知の仲である水連との再会を喜ぶ沙慈だったが、そんな中、校内で辻ドスケベ催眠事件が発生して……
「辻ドスケベ催眠事件」という言葉のインパクトよ……
物語とすれば、水連との再会からほどなくして起きた、「辻ドスケベ催眠事件」。勿論、皆から最初に疑われるのは真友。過去にやらかしたこともあるし、で周囲からの目は厳しい。けれども、現在の彼女は、沙慈が同伴しなければ使うことすらできない。そのため、沙慈と真友は、濡れ衣(作中では「ビショ濡れ衣」とか表記されている)をはらすために奮闘することに。
まず言うと、今回の「辻ドスケベ催眠事件」で起きたことの、しょーもなさとかが好き。生徒副会長でイケメンの四田が、自分を賓頭盧と言い出して脱ぎ、自分の身体を触れと迫る。陽キャなギャル・高麗川が、普通の会話なのに、アクセントとかを変に感じ、どれもスケベな言葉と思えてしまう……などなど。大した被害とは言えないのだけど、地味に迷惑で、変態チックな線をついていて笑った。しかも、四田に関しては「仏になった」とか言われ、「死んではいない……けど、仏であっているのも確か」な状況とかも面白いし。色々とツッコミどころの多いやりとりがあり、しかし、少しずつ「辻ドスケベ催眠事件」に迫っていくのだが……
物語のやりとりとか、かなりおかしなものがあるんだけど、最後まで読むと、やっぱり沙慈の父である初代ドスケベ催眠術師の遺したもの、というテーマが露になってくるのが上手い。
幼いころに出会った沙慈と水連。当時の沙慈の置かれた立場を知り、励ました合理主義者を名乗る水連。そんな水連に憧れ、「合理主義者」を目指した沙慈。その後の別れと再会……。沙慈と水連、それぞれの「合理主義」の違い。こう見ると、沙慈は合理主義者を名乗るただのツンデレだよな、という感じになる。一方の水連は、文字通りで、ちょっと怖いくらい。ただ、そんな水連もまた、ドスケベ催眠術に人生を狂わされた結果、ともいえるわけで……
文庫裏表紙にある「人情系」という紹介。これは確かに、物語を反映しているのだけど、読んでいると、それ以上に沙慈の父という存在の強さが印象に残った。

No.7018

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Tag:小説感想ガガガ文庫桂嶋エイダ

敗者の告白

著者:深木章子

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山梨県の山荘で、会社経営者の妻と8歳の息子が転落死した。無実を訴える夫だったが、容疑者として拘束される。その理由は、妻が死の直前に出版社に送っていた手記、さらに、祖母に向けて息子が送っていたメール……さらに証人たちの言葉はそれぞれ対立を孕んでいる。そんな事件の中で容疑者の弁護士が辿り着いた真実は……
著者の作品は、2011年にデビュー作を読んで以来なので、実に13年ぶり。デビュー作が、狂気を孕んだイヤミスという感じだったので、どうしても身構えてしまい、なかなか読むことができなかった。もっとも、本作は2014年刊行の作品なので、著者の作品としては初期のころの作品であるのだけど。
物語は、冒頭に事件の概要が示された後、それぞれの関係者の証言によって進んでいく。物語の発端と言える死んだ妻の手記。気鋭の会社経営者である夫との結婚。しかし、その夫の会社の資金繰りの悪化。そんなときに起きた母親の死。その土地を売って、資金へという夫の対立。不可解な第2子の死。やがて、自分の命を狙って……ということが綴られる。さらに、息子が祖母にあてたメールに記された息子の本性……。そんなスキャンダラスなところから物語が始まる。だが、夫は、それを否定。さらに、証言者たちによって事件の様相は次々と変化していって……
まず、読みながら感じるのは、被害者である妻に対する印象。当初の手記の中では、ごくごく真面目な主婦と言った印象だった彼女だが、その後の証言の中で出てくる彼女の秘密。裏の顔とでも言うべきもの。当初の、夫が最大の悪党、という感じがだんだんと弱まっていく。そして、裁判は結審するのだが……
裁判の基本と言える法則によって決まった決着。しかし、それでも色々と疑問点の残る事件。そんな事件に、弁護士として携わった弁護人・睦木玲が辿り着いた結論は……。人間にある表の顔と裏の顔。それは、妻だけではなく、様々な人に。完璧だと思った人物にも、また、そんな醜い一面も隠し持っている。作中を通して妻の人間性というのが掘り下げられていくからこそ、方向性が変わった結末の衝撃というのが印象に残る結末になっている。
それでも、ここまでするか? と思うところはある。あるのだけど、でも、そこまでの物語で、人間の様々な感情とかが綴られていただけに、これもアリと言う風に感じた。この辺りもしっかりと計算されていたのだな、と感じる。

No.7017

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Tag:小説感想深木章子

ゆうずどの結末

著者:滝川さり

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大学生の菊池斗真は、同じサークルの学生が投身自殺をするのを目撃する。警察の捜査により、事件は自殺として結論付けられるが、一緒に目撃した先輩・日下部は、その学生が自殺の瞬間に手にしていた『ゆうずど』という小説を読むが、間もなく日下部もまた自殺してしまい、今度は斗真の前にその小説が現れて……(『菊池斗真』)
という『ゆうずど』という書籍を巡っての連作短編形式の物語。
最初に、この『ゆうずど』という小説を巡っての物語について書くと、この少しでも読むと呪われてしまう。一旦、そうなると本を捨てようが何をしようが自分の元へと戻ってくる。さらに、目の前に紙の化物のようなものが現れ、読んでもいないのに栞が進んでしまう。そして、栞が物語の最後まで達したとき……。基本的にこれを覆すことができない。そして、そんな中でのアレコレを描いた物語と言える。
粗筋を書いた1編目『菊池斗真』。冒頭に書いたように、同じサークルの学生、さらに先輩・日下部を喪った斗真。自分の前に現れたそれに対処しようと考えるが、しかし、何をしても戻ってきてしまう。そんな中で頭に浮かぶのは自分の親のこと。ある日、父が自殺をし、母は苦しい生活を続けながら、自分を大学に行かせてくれた。「自殺は最悪」という母。でも、このままでは……。斗真の最後の希望が……というのが、何よりも切ない。
ミステリー的な楽しみがあるのが、2編目『牧野伊織』。引きこもり生活をする伊織が知った『ゆうずど』という本の存在。今の状況なら、むしろ「呪われた」方が良い、という伊織は、ネット上の友人・シーラに相談をする。すると、シーラはその本を持っているし、読んだこともあるが何もなかったという。シーラからその『ゆうずど』を譲ってもらいそれを読むと……。はっきり言えば、伊織はかなり自分勝手な存在とは言える。しかし、後のエピソードで語られる『ゆうずど』の法則。そして、それを知らずに推測した伊織が起こしたひっくり返しは、「そう来るか!」という驚きだった。
一方の3編目『藤村翔太』は、かかわった人々の人間関係を考えさせられる。小学生である翔太は、友人の陽斗と共にイジメに遭っていた。担任は、「お前にも悪いところがある」と対応してくれず絶望の中にいた二人は『ゆうずど』の噂を耳にし、復讐を企てる。やがてそれを手にした二人は、「読んではいけない」「少しでも読めば」から計画を立てるのだが、逆に陽斗が『ゆうずど』の文章を目にしてしまって……
絶望の中で、それでも復讐を、と考える二人。その悲しみを乗り越え、陽斗の意志を次いで復讐を成功させるのだが……。遺された人間の意志。しかし、それはバラバラになることだって当然にある。そして、その思いが交錯した結果、という結末は凄く衝撃的だった。主人公の翔太が小学生で、ある意味、純真だからこそ余計に。
その後のエピソードで、呪いの発動条件とか、由来とかも明らかになっていくのだけど、印象に残ったという意味では前半3編かな?

No.7016

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Tag:小説感想角川ホラー文庫滝川さり

著者:柳之助

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どこかの薄暗い部屋。少年・ノーマンは拘束され、尋問を受けていた。語るのは、心を異能に換える能力者『アンロン』について。そして、彼を慕う4人の少女たちとバケモノに立ち向かった思い出……
第30回電撃小説大賞・銀賞受賞作。
うーん……なんか、プロローグというか、逆にシリーズの中盤くらいの巻を読んでいるような、そんな感じ。
物語は、その冒頭でノーマンが拘束され、尋問を受けるぞ、という状況。それを救出すべく4人の少女たちが立ち上がり……しかし、連携なんぞ一切ない無茶苦茶な戦いを始めた、という描写が記される。そして、そんな中で、ノーマンが少女たち、それぞれと事件を解決していく様が描かれる。
最初のシズクとのエピソードで、この物語の舞台設定の基礎と言えるところが描かれ、2編目のエルティールとの物語でさらなる一歩。そして、3編目のロンズデー、4編目クラレスとのエピソードを経て……。それぞれの少女たちとの出会い、とか、そういうものはカットされており、いきなりその関係性などが描かれる。そして、各編、殺人などの事件が起こり、その真相を……と、ミステリー作品のような形で話が進むのだけど、謎解き要素はほぼ皆無で、少女たちとの関係性、その設定説明と言った部分に重きが置かれた印象かな?
まぁ、ただ、その世界観、そして、ノーマンと少女たちの関係性というのが魅力的ではある。それぞれ個性的、というか、個性が強すぎるような面々。そんな4人をある意味ではなだめすかし、しかし、同時に互いに対する信頼感というのをその中で存分に描いている。さらに、そんな4つのエピソードの末に出てくるそれぞれの事件の繋がり。その中でノーマンが語る人間と『アンロン』の関係性には、覚悟とか、そういうものが強く感じられたし。
最初に書いたように、物語そのものは、世界観の説明とかが中心になるので、例えば、テレビアニメの第1話とか、そういう印象があることは否定できない。それだけに、この面々の絆とか、そういうのがより深く描かれ、そして、大きな事件に……というような展開になってくれることを期待、かな?

No.7015

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Tag:小説感想電撃文庫柳之助

絶体絶命ラジオスター

著者:志駕晃

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AM局の局アナにして、人気パーソナリティの垣島武史は、酔いつぶれて記憶を失った翌朝、奇妙な現象を目の当たりにする。紛失してしまった自分のスマホの位置情報がなぜか複数。FXで儲けたはずの金がなぜか引き出され、さらに部屋にも何か違和感が……。そんな中、自分そっくりな男が現れ、しかも、そいつに命を狙われているようで……
著者は元々、ラジオ番組のディレクターとか、そういう仕事をしていた、ということは知っていたので、そちらをメインにした作品かな? と思いきや、かなりガッツリとしたタイムリープもののSF作品だった。
物語は、冒頭に書いた通りの形で始まる。ラジオ局のアナウンサーながら、ラジオパーソナリティとして活躍をしている垣島。酒を飲んでは、意識を飛ばし、なんていうだらしのないところもあり、結婚を考えている恋人との関係は足踏み。ただ、そうはいっても、仕事自体は順調と言ってよい状態。そんな中に現れたわずかな違和感。スマホが消えていたり、家に誰かが入ってような感じがしたり……。でも、酔っぱらった自分が、と考えればつじつまがあわない、というほどでもない。しかし、どんどん増えていく違和感。どうやら、自分そっくりな人間が自分の周囲にいるらしい。ついには、災害もあってラジオ局に行けないとき、自分の代わりにそいつがラジオパーソナリティを務めて……
自分そっくり、というか、文字どおり、自分そのものの存在がいる、という不気味さ。最初は、のほほんといった感じの物語が、偽物に浸食されていく。さらに、その偽物に命を狙われて……という流れはホラー色の強い物語といえると思う。ただ、それがあるきっかけで、次の展開へと移ろって……
ホラー作品という印象だった物語が、中盤のある出来事をきっかけに、完全にSF作品に。ただ、その構図はわかるものの、なぜ命を狙われているのか? とか、そういう謎も残る状態に。確かに、命を狙われる要素自体は、出てくる。恐ろしい敵も出ては来る。来るのだけど、それと垣島自身の偽物との関連性というのがよくわからない。そんな中、命を狙われていた垣島がさらに……となっていって……
物語がホラー小説のような展開から、だんだんとカラーが変わっていくように、物語のテイスト自体もだんだんと変化。「これは一体、どういうことだ?」というところの意味が解きほぐされる中で、それぞれの行動の持っていた意味、その背景にあったものがわかっていく。ある意味では辻褄合わせではあるのだけど、それが心地よい。
まぁ、終盤にはラジオ番組での様子なんかもあり、しかも、そこで特別な企画を、という形になる。なるのだけど、もっと普段の番組の様子とかがあれば、より楽しめたんじゃないかと思うところはある(垣島自身が普段の番組を「ふざけた番組」とか、そういう風に言う場面はあるのだけど、具体的にどうふざけているのかよくわからない) ここがもっとはっきりしていれば、終盤の番組内のメッセージ、リスナーとの関係性がより明確になったんじゃないかと思うだけに、勿体なさを感じた。

No.7014

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Tag:小説感想志駕晃

著者:阿部和重伊坂幸太郎

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BOOK☆WALKER (上巻 下巻

「ゴシキヌマの水をよこせ」 突如として、謎の外国人に狙われることになった相葉時之。何とかその場を逃げ出し、飛び込んだ先は小さな映画館で……。「「副業」として、子供のころに放映されていた戦隊ヒーローについて調査をしている井ノ原悠。その調査の最中、彼もまた小さな映画館へたどり着く。相葉、井ノ原、小学校時代の旧友は再会し、ともに謎の外国人、さらには政府にまで追われることとなって……
純文学方面で活躍している阿部氏と、エンタメ作家として活躍している伊坂氏がタッグを書いての共著作という軽先を持つ本作。正直なところ、私自身は阿部氏の作品……どころか、阿部氏自体についてよく知らなかった。そして、もし、阿部氏の名前がクレジットされていなかったら、「いかにも伊坂氏らしい作品だな」とか感想を書いているんじゃないかと思う。逆の立場だったらどうなるのかわからないけど。
物語としては、冒頭に書いた通り、主人公コンビの片割れである相葉が、謎の外国人に狙われるようになる、というところから。そもそもこの相葉。直情的で、何かあれば猪突猛進で行動をするタイプ。その結果、大きな借金を背負い、そんな苦しさ。さらに友人が「健康になれる水」に騙されて大金を失ったことから、その相手に復讐を、として企んだこと。しかし……。一方の井ノ原もまた投資の失敗などで借金がかさみ、OA機器のリースをする会社で働きながら、そこに仕込んだ機械で情報を盗み出す「副業」にいそしむ状態。そんな中、戦隊ヒーローに関する調査を依頼され、そこで相葉と再会し、事件に巻き込まれることに。
文字通り、周囲を破壊することもいとわずに襲ってくる謎の外国人。その一方で、「ゴシキヌマの水」にかかわったことで、危険な病である「村上病」の患者としてとらえようとしてくる政府関係者。外国人と政府関係者が手を組んでいるのかどうかわからない。しかし、敵だらけ、という状況。そんな中、戦隊ヒーローものに関する情報収集を井ノ原に依頼した女性・桃澤も物語に加わってくる。
謎の病「村上病」。蔵王連峰の火口湖・御釜の水によって引き起こされるという病。それは非常に毒性が強く、日本の人々には予防接種が施されるほど。しかし、そんな生物がすめないはずの湖に見えた異変。それを隠そうとする政府の陰謀。予防接種を受けているし、病状がないにもかかわらず、感染者と報道されることとなった相場……。一方で、そんなゴシキヌマの水を求めて動く側のそこにあるものは一体、何なのか? 伊坂氏の過去作で出てきたテーマなんかを色々と踏襲しつつ、しかし、あくまでも追うものと追われるもの、という構図を崩さずにエンタメ作品に徹して描いていく形になっている。
正直なところ、感染力、とか、そこに対するアレコレっていう部分は、2020年からの新型コロナウィルス感染症をめぐっての出来事を目の当たりにしただけに、本作が発表された時以上に身近に感じられる部分があるような気がする。反ワクチンの主張とかと、相葉、井ノ原らが理解していくものに共通点とカを感じるし。流石に、新型コロナウィルスワクチンに関して、こんな陰謀だとは思えないけれども、信じる人は信じそうだな、なんていうのは感じる。題材としては、先を行っていた、ということも言えるんじゃないだろうか?
第二次大戦時の陰謀から、戦後の政府の陰謀から、はたまたテロリストによる策略へ……。いろいろと話、風呂敷を広げながらも、しかし、物語の流れは非常にわかりやすく、テンポも良い。非常にうまくまとめ上げられたエンタメ作品だな、というのを何よりも思う。
楽しかった。

あと……相葉についてきた犬。プロ野球の外国人助っ人の名前で……で、ずっと「ポンセ」と呼ばれ、しかし、相葉にはなついていなかったんだけど、最後に実は別の名前だったと判明とか、そういうのを期待していたのだが、そこがなかったのは残念かな?

No.7012 & No.7013

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Tag:小説感想伊坂幸太郎阿部和重

新説 狼と香辛料 狼と羊皮紙10

著者:支倉凍砂

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エシュタットを騒がせた偽の「薄明の枢機卿」騒動を収束させたコルとミューリ。公会議に向けての準備を進める二人に届いたのは、エーブの配下で、羊の化身であるイレニアが投獄されたという一報。しかも、そこは七選帝侯の一人である傭兵王デュランが治める山岳都市ウーバンで……
ということで、山岳都市であるウーバンへと向かっての物語。そこで知ったのは、傭兵王を擁するウーバンの窮地。
傭兵を輩出し、その武力によって選帝侯という立場を勝ち取ったウーバン。しかし、現当主は足に障害を持っており、戦での活躍ができない状態。それ故に、立場としては非常に弱いものとなり、ウーバンという都市自体も軽くみられる状況に。人々の不満は高まり、いつ暴動などが起きてもおかしくない状況に。
その一方で、公会議に向け、選帝侯という後ろ盾ができることはコルにとって有利にもなる。イレニアが投獄された理由である「誘拐された」天文学者を取り戻すために協力を申し出るが……
誘拐された、という天文学者。しかし、土地的にも、そこまで無理やりなことができるのか? さらに、その行方を探す中で浮かび上がるその天文学者を巡っての駆け引きなども見えてくる。そんな中、「人ならざる者」の協力なども取り付けながら一歩ずつ近づいていくが……
今回は「期待される」ことと、その代償というのが一つのテーマだろうが。
天文学者を追う中で、人ならざる者の協力を仰ぐコル。ミューリなどは、もっと大々的に利用すれば、というが、コルはそれに消極的。人々がコルに大いなる期待を持っていることは確か。人ならざる者の協力を得れば、もっと楽にできる。だが、そうすれば、ますます期待は高まってしまう。それは、コルの行動に対するハードルは果てしなく高まってしまう。そして、期待に応えることができないようになったら……? そして、それはデュランと天文学者の関係にもあって……。人間は、相手に対して果てしなく希望を抱いてしまう。そんな終生の行き着いた先とか、そういうのを考えるとコルの姿勢は慎重すぎるくらいでちょうどいい、というのがよくわかる。
そんな中、天文学者と選帝侯の間の関係を解消するためにコルが示した道筋。これは、普通の聖職者には思いつかない方法。過去のシリーズで行商人であるロレンスと旅をつづけた、という過去の経験があればこそ。コルにしかできない方法だよな。これもまた、コルに対する期待を高めてしまうのでは? という感じもするのだけど。
とは言え、今回のエピソードはあくまでも道筋を示した、というところで終わり。しかも、一度、コルとミューリが別行動をとろう、という形で終了。ということは、今後、まだ一波乱、二波乱あるのだろう。続編、なるべく早めにお願いします!

No.7011

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著者:早坂吝

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人工知能探偵・相以と助手の輔が参加することになったのは、政官学共同開発のフルダイブ型VR。魔法が存在する世界観の中、肉体を持った相以は、輔とも推理バトルをすることに。だが、全てのモノが浮遊している、というその空間において、世間を騒がせている「骨折りジャック」によるものと思われる殺人が起こって……
このシリーズも久しぶりの刊行。前作を読んで、2年9か月ぶりだった。
冒頭に書いたように、VR空間においての推理ゲームに参加することとなった輔たち。参加者には、火、水、土、風、光、闇、夢、現という8つの魔法のどれかが付与されており、その中で、夢に関しては、それを使うことによって、相手の魔法と交換してしまう、ということが起きる。そんな中で、誰がどの魔法を持っているのか? という推理することに。だが、そんな中で殺人が起き、さらにその裏には犯人AIの以相が……
今回の読みどころとしては、何か肉体(?)をもってちょっとヘッポコになった感じの相以かな? ゲームが始まって、いきなり「全員を殺せばよい」とか言い出す相以。流石にそれは却下されたもののいつものような推理の冴えが感じられない。さらに疑問を思うのは、殺人が起きたことにより、痛覚という概念のなかった相以が、肉体を持ったことで殺人の被害者になったらどうなるのか? という問題も発生する。
まぁ、謎解きに関して言えば、特殊設定での、非常にオーソドックスなもののように思う。殺人に関しては、丁寧な現場検証をして、さらに魔法に関するルールを通して推理を組み立てていって……となっていく。ただ、その中での最大の仕掛けに関しては……実は自分、最初に考え付いたことだったりする。これ、状況をそのまま考えると、さらには何らかの仕掛けがあるだろうな、という前提で考えると……というメタ視点での考えて言うと……
どちらかというと、謎解きよりも、シリーズのアレコレを巡っての部分が大きいような感じがする。以相が狙っていたもの。そんなたくらみに対する輔の策略。上手く交わした、ということになるのだけど、今後、こういう方向でシリーズを展開させていくのかな? という思いをさせるエピソードだった。

No.7010

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Tag:小説感想新潮文庫nex早坂吝

赤の女王の殺人

著者:麻根重次

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市役所の市民相談室で勤務する六原あずさは、妻が精神的に不安定だ、という相談者の家を訪れ、妻が転落死する場面を目撃してしまう。密室状態の部屋から転落した相談者の妻はその最後に「ナツミ」と遺したことで、あずさの夫で刑事の具樹は、その「ナツミ」を探すことになる。一方、あずさが所属する相談室には、奇妙な相談が立て続けに入って……
第16回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。
まず思ったことから書くと……すっげー地味な話。ただ、読み終わってみると、全てが結びつくところは上手い。
物語は、市役所職員のあずさと刑事の具樹、という夫婦、双方の視点で語られていく。刑事である具樹は、ひたすらに地道な聞き込み。事件現場である被害者の部屋には鍵がかかっているという密室状態。そこにどうやって入るのか? という謎はありつつも、しかし、被害者が最後に発した「ナツミ」を確保すべく、捜査を続ける。その中で、被害者がかつて勤めていた時の同僚に、そんな名前の女性が存在していたことを突き止める。しかし、そのナツミもまた行方不明になっていた。
一方、事件の目撃者であるあずさの元には、次々と奇妙な相談が……。先祖代々の墓地に収められたお骨がなぜか増えていた。なぜか、高齢の男性をストーキングする男。しかも、そのストーカーはなぜか季節外れの服装をして。
勿論、この夫婦が出会う二つが上手く組み合わさることで、全てが繋がっていく、ということになるのだけど、ここで上手くいかされていると思うのが、舞台となる街。実は、長野県松本市というのが舞台になっているのだけど、地方の、人口がそこそこにいる。けれども、大都市の通勤圏とも違う、ある種、独立したような街、というのがこの作品の一つのリアリティになっているように思う。だって、首都圏のベッドタウンくらいの街だったら、人口とかで結びつかないだろうし、逆にうちの田舎のような限界集落みたいな街だったら、迅現関係が近すぎてバレるだろうし。その辺りの距離感が上手くできているな、と感じる。
その上で、物語の構成としても、一旦は「こうだろう」という回答が出て、しかし、明らかに見落としている部分からの新たな真相へ、という構成も楽しい。全体的に地味な展開ではあるのだけど、しっかりとすべての謎を回収していくのは見事の一言。
まぁ、その本当の真相、という部分でも、それは本当に可能なのだろうか? と感じるところはあるのだけど、そこはご愛敬、かな?

No.7009

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