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偽りの私達

著者:日部星花



「……なんで、今日が7月8日なんだよ」 土井修治が目覚めたとき、なぜか、日付は巻き戻っていた。7月17日、この日は衝撃的な一日だった……はずだった。なぜならば、クラス一の美少女・渡辺百香が怪談から転落し、死亡した日なのだから。なぜ、彼女は死亡したのか? 修治は調べ始めて……
第17回『このミス』大賞・隠し玉作品。
上手いなぁ……。何よりもそう思った。
物語は3章構成で、第1章は冒頭に書いたように、修治が過去に戻って、なぜ、百香が死亡したのか、というのを探る。そして、第2章はその修治と仲が良く、スクールカースト上位グループにおり、百香が死亡した原因とも思われる七瀬の状況を描く物語。そして、幕間を挟んで、第3章が死亡した百香の物語。
各章についての概要で「スクールカースト」なんていう言葉をつづったように、人間関係ドロドロ(笑)
学校内で、特別目立たず、そして、あまり周囲に関わらずに暮らしていた修治。だから、百香の死も、驚いたものの、何があったのかはわからなかった。しかし、時間が巻き戻された、ということは何かがあるはず。そんな思いから、過去とは違った形で行動を始める。そこでわかったのは、仲の良い七瀬が、恋人と別れていた、ということ。その原因は、恋人が百香と浮気をした、ということ。その結果、七瀬は……。だが、それすらも、学年の女王と言われる少女・瑠夏の策略で……。そこで、今度は2章に入り、その七瀬が百香、瑠夏の間で翻弄されていく様が描かれていく。そして、その終盤で思わぬことが判明して……
ここまで、この部分に触れてこなかったのだけど、この作品には「まほうつかい」という存在がある。この「まほうつかい」そのものが、一種の都市伝説のようなものであるのだが、それでも、その存在の影、というのは常に感じられ、さらに、その噂では細かな諸条件も存在している。そういうものが色々と発揮されての、百香の章では、それが文字通り、怒涛に回収されていく。物語そのものの仕掛けだとか、修治と七瀬の関係。そういうものが全て判明して、というのは見事の一言。
帯では、著者が17歳、というのが強調されているけど、そんなのどうでもいい。嫌な雰囲気で進む物語と、その中での怒涛のひっくり返しの迫力が凄まじかった、という凄さにすべて打ち消された。

No.5178

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著者:黒川慈雨



元ナンバーワンホストである皇聖夜こと、上杉三太は、コネによって小学校教諭に転職し、1年生の担任に。だが、そんな受け持ったクラスの子供は、読み方がわからないキラキラネームだらけ。そんな子供たちに囲まれての教師生活が始まるのだが、学校の近隣で動物が傷つけられる、という事件が発生する。しかも、その犯人は、三太のクラスの子供という噂が流れ……
第17回『このミス』大賞・隠し玉作品。
なんか、読みづらかったなぁ。物語は、主人公の三太が、子供の面倒を見ながら、周囲で起こる事件を追う、という形になる。
主人公の三太は、元ホストで、特にやりたくなかったのに教師をしている、ということもあってそこまで教育熱心というわけではない。子供たちの名前とか、会話の内容とかには、常にツッコミを入れる。さらに、ホスト時代の客とかとのやり取りもある。勿論、周囲にそれがバレちゃいない、なんていう部分もある。主人公のツッコミは同感、と思う部分は結構あるんだけど、その一方で、元ナンバーワンホストだった、ということもあって見下した態度とかにウンザリする部分もある。
その上で、ちょっと読みづらい、というのは、常に子供についての紹介文とか、そういうのが多くて、どうにもリズムが崩れてしまう部分があるため。そして仕方がないと言えば仕方がないのだけど、日常のトラブルとかが動物が虐待される、という事件と並行に置き、どこがメインなのか、よくわからない部分があるため。
まぁ、そんなことを言いながらも、クラスでも嫌われ者で、周囲から「犯人はあいつだ」と言われていた公人(ぎふと)を最初は疑いつつも守り、そして、そんな彼の抱えたものを探り出して……という部分は良かったし、部分部分ではよいと感じた部分もあるのだけど。ただ、公人の秘密も、ちょっとファンタジーな部分があるのだけど。
なんか、ちょっと自分には合わなかったかな、と……。

No.5177

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白銀の逃亡者

著者:知念実希人



「あなたも私と同じヴァリアントでしょ」 夜勤専門の救急医療室で働く純也の元に現れた少女・悠は、純也の正体を指摘する。4年前に発生した奇病の結果、生まれた人々を隔離する施設から逃げてきたという悠は、純也を反政府組織の計画に引きずり込んでいって……
一応、設定から言うと、4年前に発生したDoMSという病。致死率95%という驚異的な死亡率を誇る一方、そこで生き残ると、今度は驚異的な身体能力を持った肉体へと変貌させる。そして、その病が蔓延したころに、その罹患者が起こした強姦殺人事件により、現在、彼らは隔離施設での生活しなければならない、と定められている、
という設定で、その施設から逃亡してきた悠。そして、自分がヴァリアントであることを隠して、一般社会で生きている純也。それが、ヴァリアントを憎み、その存在を追う刑事・毛利から逃げながら……となるので、確かに「逃亡者」ではあるんだけど、あまり逃亡メインという感じではないんだよな。しかも、悠の兄であるという、上に書いた強姦殺人魔を脱獄させる。しかも、悠の兄・比呂士は、反社会組織とも結びついていて……となるから、逃亡の悲壮感とか、そういうのはちょっと少なかった気がする。巻き込まれた純也はとんだ災難だけど。
むしろ、物語のメインとなるのは、その隔離政策とか、そういう部分だろうか。
上に書いたような形で、ヴァリアントの隔離が法的に定められた。奇しくも物語は衆院選の時期。政権交代を果たしたは良いが、失政続きで、政権を失おうとする現与党は、この状況を利用し、隔離拡大をもって支持の拡大を図る。対して、4年前の首相は、そんな状況に違和感を感じる。しかし、ヴァリアントへの対策が弱腰と言う批判も高まる……。しかし、実際には、DoMウィルスは、人々が恐れているほどの感染力もなくて……
この辺り、ワンフレーズ選挙とか、そういうものがあるから実際にリアリティはある。また、専門家が持っている最新知と、そうではない一般の人々の持っている恐怖心の乖離とかも確かにある。例えば、日本における凶悪犯罪の減少と、しかし、人々の持っている「治安悪化」という印象とか、そういうのは沢山あるわけだし。そういう部分が面白かった。
ただ……結局、比呂士が行ったことって……確かに、そういう部分に一種の啓蒙は与えていると思う。思うのだけど、でも、やっぱりテロ行為、犯罪行為なんだよな(苦笑) 作中で語られるほど、綺麗な終わり方はしないんじゃないかな? というのは気になった。

No.5176

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軍艦探偵

著者:山本巧次



短期現役士官制度に応募し、海軍主計士官となった池崎は、戦艦榛名へと配属された。山本五十六連合艦隊司令長官の視察を控え、緊張感の増すその榛名で、運び込まれたはずの野菜箱の一つが消失したことが報告される。軍内での食料盗難・銀蠅かと思われたのだが、なぜか食材箱の数の総数は合っていて……(『多すぎた木箱』)
など、池崎が配置された軍艦内で起こる事件の謎を解く連作短編集。
こういう言い方は何だけど、軍艦内での「日常の謎」ミステリと言った趣。
粗筋として書いた1編目の『多すぎた木箱』。軍艦に運び込まれた木箱が消えたのは何故なのか? しかも、消えたはずなのに、なぜか実数自体は合っている。つまり、記録の改竄? それは何故? もしや、敵国スパイによる破壊工作が? そんな疑惑まで出てくる始末。そんな中、池崎は、水兵についてのある違和感を覚えて……
基本的には、その船の中で生活をする、という軍艦の在り方。その一方で、現代の会社とか、そういうものにも共通するような、一種のイベント。それが組み合わさった真相っていうのは、二つの意味で上手い。
また、近くを航行する僚艦から奇妙な信号が、というところから始まる『怪しの発行信号』。こちらも、まず疑われたのはスパイ。しかし、間もなく、水兵の一人が、自分と僚艦に乗った弟のやり取りである、と告白する。そして、弟からの連絡は、母が病に倒れた、と言うものだという。すぐさま、休暇を与えられたのだが、池崎は、その水兵の語った暗号の意味に解読法に疑問を抱いて……
こちらは、この時代ならでは、という感じだろうか。この真相の根本も、ある意味では現代でもありそうなものではある。あるんだけど、日本がまだ、日本列島以外にも領土を持ち、また、制度としてこのようなものが当然にあった時代、とならでは、と言った感じか。
そんな中で、戦いは段々と激化していき、日本は窮地に立たされていた。そんな中、オーストラリアから奪ったものの、反撃にあった孤立した舞台の救出に向かって……という5編目、6編目、エピローグ。そこまで、どちらかというと政治色とかが全くなかったのだけど、このエピソードに関しては、国際的な話へと発展。エピローグ、戦後となった日本で池崎が「実はあれは……」という形で謎を解くのだけど、国際政治の時代性を考えれば、こういうこともあるだろう。しかし、その時には、既に関係者の多くが戦死していて……という部分の余韻もある。物語の締めに相応しい話と言えるだろう。

No.5175

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余物語

著者:西尾維新



大学生となった阿良々木暦は、准教授である家住に「虐待の相談」を受ける。その内容は、自分の子供が可愛いと思えなくなり、数日間、家の中に放置してしまっているので、様子を見に行ってほしい、というもの。早速、准教授の自宅に向かった暦だったが、そこにあったのはナイフを突き立てられた人形で……(『よつぎバディ』)
他に、撫子が「仕事」を依頼される『よつぎシャドウ』を収録。
とりあえず、分量的に多い『よつぎバディ』の方から……。
Amazonとかのレビュー見ると、イマイチっていう評価も多かったのだけど、個人的には、この話、結構、好き。
上に書いたような形で始まる物語。准教授の家にあったのは、檻に入れられ、ナイフを突き立てられた人形。しかも、そこで怪異に襲われる。しかも、その直後、准教授は行方不明になってしまって……。それを、余接と共に調べることになる、という話。
そもそもの状況からして不可解な話。自分の子供を虐待してしまっている、というが、なぜにそれが人形? そして、なぜ准教授は失踪した? さらに、最初に暦を襲った怪異はどこへ消えた? 怪異の存在というのは出てくるのだけど、物語の中心にあるのは、准教授の家の、不可解な状況。それは、怪異の存在を前提としたものではなくて、人為的な行動としても起こり得ること。准教授はいったい、何を隠し、どんな嘘をついている? 調べれば調べるほどに不可解なことが増えていく、ということに惹きつけられた。
そして、突然の、准教授からの独白の手紙……。そこで書かれていたのは……そこにあるのは、凄まじいまでの彼女の幼少期。もう一つの話の方が、親に徹底的に甘やかされた撫子の話、ということもあるんだけど、一見、両者が真逆のように思えて、しかし、根本は一緒。その中で、自分は人を、子供を愛することが出来るようになるのか? そして、普通の生活とは? 歪んだ人生を歩んできたからこその問いっていうのは結構、真面目な話として読ませてくれる。
最終的に、その准教授が実は……というひっくり返しもあるんだけど、そこはちょっと弱め、かな?

No.5174

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著者:ゆうびなぎ



「もっと運命的な恋がしたいから」 そんな理由で彼女に振られた砂川凍弥。そんな彼の前に現れたのは、空飛ぶプリン。「おめでとうリン! キミはラブコメの《主人公》に選ばれたリン!」 翌朝、凍弥は転校生の百合ヶ丘ミリカと曲がり角でぶつかり、キスをしてしまう。彼女こそ、異なる世界線から来たラブコメのヒロインで……
という粗筋を書いてみると、イマイチ、どういう世界観なのかわかりづらいので、そこから書いていくと……
空飛ぶプリンが言う「主人公」というのは、文字通り、物語の主人公。そして、ミリアは、途中で打ち切られてしまった物語のヒロイン。打ち切られてしまったことで、彼女がどういう人物なのか、そして、その恋などについて中途半端になってしまった。凍弥は、主人公として、ヒロインとの関係を深めることで、その成就しなかったことを成し遂げ、物語を完結させてほしい、というもの。そして、そのためには、ミッションが与えられ、定められた期限内にクリアできないと……凍弥は死んでしまう……というもの。
こういうと何だけど、結構、ブラックな設定ではある。実際、この作中でのニュースでは、健康だったはずの高校生が突然死をする、という事件が頻発している、となっているし、プリンちゃんのどことなくうさん臭さを感じさせるし。
というかね……ミリア自身は可愛いし、凍弥自身もすごく真面目で、しっかりとしている。だけど、ミッションというのが、最初の手をつなぐ、とかはともかく、パンツを見る、だとか下衆いものもあるんだよね。二人が真面目なタイプなだけに、そのギャップというのが良いんだろうな。アクシデントで、ラブホテルに二人で泊まることになって、とかで手を出さない辺り、紳士すぎる。そして、もう一人のヒロインである未来は……著者の趣味でしょ?(笑) とはいえ、明らかなサブヒロイン(負けヒロイン)枠というか、ある種の当て馬的な感じがある未来、さらには、冒頭で凍弥を振った綾と言った面々が、終盤の「物語を完結させる、ということは……」という凍弥の苦悩を解決するヒントへつながるとか、ただのモブ的な存在にならなかったというのも好印象。ただ、頭が良い、とかじゃなくて、過程を踏んでの締めだっただけに、物語の結末に納得することが出来た。
まぁ、物語として、ここで完結しても良いとは思う。
思うのだけど、もっと、凍弥とミリアと、ゲスなプリンちゃんのミッションのアレコレを見てみたい、とも思う。

No.5173

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逢う日、花咲く。

著者:青海野灰



13歳で心臓移植を受けた僕は、それ以降、自分が女の子になる夢を見るようになった。これは、ドナーとなった少女の記憶なのか? 明るく、快活なその少女に、僕は恋をした。しかし、それは決して叶うことのない恋……
第25回電撃小説大賞・選考委員奨励賞受賞作。
上に書いたような形で物語が開始され、主人公の八月朔日は、夢で見ているドナーと思しき少女がなぜ死んだのか、について調べ始めることになる。……と、こうやって書くと現実的な物語なのかと思えるのだけど、実はかなりファンタジー色が強め。
というのも、物語は、その少女・葵花の視点でも物語が綴られ、しかも、葵花もまた八月朔日の姿を見ることが出来る。まるで、自分に就きそう守護霊のように。そして、ひょんなことで、八月朔日からは「夢の中」で、そして、葵花にとっては守護霊と、会話をすることができるようになる。そして、そのような中で、八月朔日は、葵花の死の原因を探ることになって……
夢の印象の通り、明るく快活な葵花。周囲からも好かれていた少女。しかも、その死因は自殺だという。だが、夢の中でも、周囲の人びとの証言も、自殺の原因などわからない、という。だが、その一方で、なぜか葵花に親し気に迫る教師の星野。その星野を慕っている女子生徒によるイジメなども出てきて……
それを解決するために、八月朔日は過去に介入しようとするのだけど、当然、そこには矛盾が生じる。言うまでもなく、葵花が死なない、ということは、ドナーがいなくなる、ということなわけ。ただ、この部分において、八月朔日の、自分に対する劣等感みたいなものが上手く機能している、というのは感じる。つまり、自分の病が原因で両親は離婚。健康になった、とはいえ、誰かの命で、という想い。しかも、その誰か、が、葵花という憧れの対象になった、ということ。この辺りの想いの自然さ、というのは上手く繋がっているな、というのを感じる。
ただ……全体を通してみると、引き金となった教師の存在が何だかな……というのがあるし、また、実際に過去を改変したわけだけど、そういうところでのパラドックスとか、そういうのが何か、おざなりなままに終わってしまったかな? という感じもする。作中では、ハッピーエンドになっているのだけど、読んでいる身としては、「うん?」という気持ちが残った。
リーダビリティの高さ、雰囲気とかは好き。だからこそ、あと一歩、という感じだろうか。

No.5172

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スーパーカブ5

著者:トネ・コーケン



高校卒業間近の1月。大学進学も決まり、山梨で過ごす期間もあとわずか。平穏に過ごしつつも、東京での新生活に向けてのバイトに励む小熊。そんな彼女に試練が襲い掛かる……
ということで、隣にいた車に巻き込まれた形での交通事故。手術、入院生活へ……
これまでの、スーパーカブに出会い、そして、魅力に取りつかれて行動的になっていく、というこれまでのエピソードが「動」という感じなら、今回は、入院生活という「静」と言った趣だろうか。
ただ……なんというか……事故後のやり取りとかを見ていると、小熊さん、既に無茶苦茶、腹が座っている感じがする。いや、これまでも「冷めている」というか、そういう部分は見えていたのだけど、今回は余計に。事故後、担任がやってきて「もう、バイクに乗るのはやめろ」という言葉に対し、素直に「はい、やめます」と言いながら、全く従うつもりがなかったり。事故を起こした相手の会社の事故担当者に対して、真正面から交渉を突き付けたり……
で、そんな中で、事故に巻き込まれてのアレコレ。自分とは価値観が違う、けれども、一癖も二癖もある同室の入院患者とのやりとり。事故によって損失したバイクがどうなったのか? 勿論、リハビリ、療養の日々……。その中で、平穏な日々を満喫しながら、しかし、自分がやはりバイクに乗りたい、という気持ちも再確認していくことに……。
先に書いたように「静」という印象の巻なだけに、あまり大きな動きとかはないだけに、終盤の椎の大学受験は大冒険といった印象。早朝に山梨を出て、都心の大学受験会場まで……。そんな椎を、影からサポートすべくひっそりとついていく小熊と礼子。そんなに大きなトラブルはないのだけど、バイクに乗るシーンが少なかったこの巻だけに余計に、それが大冒険と感じられるんだろうな。
……しかし……
紀尾井町の大学って……上〇大学? 小熊は首〇大学っぽいし……こいつら、偏差値高いな、おい……

No.5171

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君待秋ラは透きとおる

著者:詠坂雄二



唯一無二の力「匿技」。その力は、1000万人に一人、顕在化すると言われている。そんな力を持つ者たちを集める「日本特別技能振興会」。自他を透明化する匿技を持ちながら、周囲と関わろうとしない君待秋ラだったが、振興会に関わったことで……
ジャンルで語るのが難しい作品を書いている著者だけど、本作もそんな感じだなぁ。
読んでいる最中に感じるのは、異能力バトルとでも言うべきもの。物語は、振興会の人間である麻楠が、秋ラを振興会に入れるために接触を図るところから始まる。そして、いきなり始まるバトル。自由に鉄筋を作り出すことが出来る麻楠。それに対し、物を透明化することが出来る秋ラ。そんな二人の戦いが始まり、それでも秋ラは、振興会へと行くことになって……
そこから始まるのは、振興会での日々。日々と言っても、何かエージェント的な活動をする、というわけではなくて、匿技とはいったい何なのか? とか、そういう考察などが、そこに関わる人々とのやり取りの中で描かれていく。秋ラにとって、感覚的に「こうだから」とやっていたその能力を、多方面から、科学的に検証してみる、とか、そういう一種の発見があり……という時間。そして、その矢先に起きた変事……
これまた、異能バトルが行われて……となったと思ったら……
終盤の変事を引き起こした犯人はいったい誰なのか? そして、それはどういう理由によって起こされたのか? という部分に焦点が移っていく辺りは、完全にミステリのそれ。匿技、という異能力の存在を前提に、しかし、論理的にそこが明らかにされていく辺りは、著者の作品だな、というのを感じる。
読み終わると、うまいこと、話に決着がついているし、でも……というのは、ライトノベルのシリーズ1巻目を読み終わったとき、のような感じもするし、そう考えると、ますます「こういう作品だ」というのが難しいというか……。表紙イラストとか、そういうのも含めて、普段、ライトノベルとかを読んでいる層を意識しているのかな? というのは強く感じたところではあるのだけど。

No.5170

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左遷捜査2 迷宮入り事件

著者:翔田寛



早朝の荒川で、男性の射殺体が発見された。被害者は、孤独死や自殺現場などの「特殊清掃」を請け負う会社の社長。目崎は、ベテランの棟方と共に捜査に挑むことになり……
物語としては、まず、被害者である社長・山根自身がどういう人物だったのか、というところから。特殊清掃の会社をやっている、という山根だが、その仕事は格安。ただし、その仕事は非常に杜撰で評判も悪い。その一方で、数年前までは便利屋をしていて、そちらは大赤字。にもかかわらず、突如、大型トラックを購入し、業種替えをする、として現在の仕事を始めていた。その資金はどこから? さらに、山根を撃った銃は迷宮入りした強盗殺人事件で使われたものと同じ、やら、死の直前に請け負っていた事案の死者は、山根が名乗っていた暴力団と近しい組織にかつて入っていた、なんていうことも判明して……
シリーズ2作目になるけど、やっぱりタイトルがしっくりと来ないなぁ……。確かに、棟方は上司の方針とかを無視したりはするけど、部署として外れているわけじゃないし、捜査上も明らかなにおかしなことをされているわけじゃない。
で、今回は、そんな目崎、棟方ペアとは別に、棟方に対抗意識を燃やす捜査員・大黒の視点での聞き込みなども加わる。双方が、それぞれのアプローチで被害者はどういう人物だったのか、という形で迫っていき、どちらかと言えば、大黒の捜査結果を重く見るような方向で捜査が進む。しかし、そんな中で、棟方は、「そうだとすると……」という疑問点を目崎に示す。
そういう意味では、仮説を立てては、それを検証して……という本格モノの味わいが強いと言える。しかも、2作目となり、目崎自身もただ、尋ねるのではなく、棟方の言葉などから仮説を立てていくなど、しっかりと成長が感じられるのが良い。こういうと何だけど、2巻目にして、すでに、しっかりとした相棒感というか、師弟感というか、そういうものが感じられるようになっている。この辺り、シリーズ化前提での話の強みだし、それをしっかりと理解しているな、とも思う。
物語自体も、実は犯人は……というところから、別の側面では……というひっくり返し的なところがあるし、しっかりと楽しめた作品と言える。
……で、この引きだと、3作目で一区切り、くらいなのかな? という感じもするが。

No.5169

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