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異世界蹂躙 淫靡な洞窟のその奥で

著者:ウメ種



異世界から召喚された「勇者」により「魔王」は倒され十数年。魔王によって生み出された魔物も、その数を急激に減らしていた。そんな中で、知能すら持たない魔物・闇スライム。洞窟の中で小動物を吸収していたそれが、一人の老人を吸収したことで獲得したのは……「雄としての本能」。やがて、スライムは自分を討伐すべく洞窟を訪れた冒険者たちを……
元々、WEB上の官能小説レーベルであるオシリス文庫で発表された作品を再編集したもの、らしい。まぁ、最初からエロ枠であることは知っていた(ぉぃ)
コンセプトとしての面白さ、っていうのは間違いなくある。
粗筋で書いたように、知能すら持っていない一匹のスライム。しかし、吸収したものの能力を獲得し、大きくなっていくそれは、洞窟を訪れた一人の老爺を吸収したことで、人間としての知識……というか、本能というか、そういうものを獲得する。すなわち、哺乳類として生殖をし、自らの子孫を残す、ということを。そして、その本能に基づき、冒険者……の女性を……
このスライムの存在感、というのはかなり印象に残る。人間のように、何か言葉を発するわけではないし、知能があるわけでもない。ただただ、本能のままに、獲物を狩り、そして、その標的たる女性を……。性欲などがわかりやすく表される人間型のキャラクターではなく、ただただ、人間を狩って……という存在。勿論、相手の女性のことなども全く考えず……
なんというか、この辺り、例えば映画『ジョーズ』のサメとかにも共通するのだけど、意思疎通とか、そういうものが通用しない存在だからこその怖さ、不気味さ、そういうものを感じさせる。この辺の不条理さというか、そういうものの不気味さはすごく面白かった。
ただ……物語としては、結構、単調だな、と感じる部分も。何しろ、冒険者(女性)が洞窟を訪れる。スライムの存在に気付かず、餌食にされる。行方不明の冒険者が出たことで、次の冒険者が……というのが続いてしまうため。終盤、最初の女性が……というのもあるんだけど、この辺りも、その過程とかがあまりないので、なんで? という部分がどうしてもあるし。読了後に調べてみると、オシリス文庫版に比べると、性描写とか、その辺りはマイルドに改変されているらしいので、その辺りも影響しているのかな?
スライムの不気味さとか、そういうところは面白かったけど、ちょっとワンパターンになってしまったところが残念。
……まあ、ある意味、ドン引きかも知れないけど、雰囲気からすれば、本能とか、そういうところから女性が命を落とす、とか、そういうのがあっても……とすら思ってしまった(悪趣味なのは理解している)

No.5552

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銀色の国

著者:逸木裕



自殺防止のNPOで活動をする晃佑の元に届いた一報。それは、友人が自殺した、というもの。元相談者である友人の死は、その前後、VRゲームに熱中していたという。だが、そのVR機器にあったはずのデータは消失していた。そんな中で、彼は、そこに恐ろしい計画があるのではないか、という危惧を強めていく。一方、自傷行為の画像と「自殺したい」というつぶやきをSNSに発信していたくるみは、ネット上の自助グループに誘われる……
なかなか怖い話。
物語は粗筋で書いたように、晃佑、くるみの視点を中心に描かれていく。
晃佑は、NPO団体の代表として、自殺志願者の言葉に耳を傾け、自殺をしないように導く立場の人間。そんな彼だからこそ、友人がVRによって、自殺へと誘導されたのではないか? という疑念に囚われていく。そして、もう一人の主人公であるくるみは、まさに、そこへと誘いこまれてしまう。
その中で怖いのは、その中での手口。自傷行為を繰り替えている相手に対して、「死ね」と言っているわけではない。むしろ、やっている行為というのは、ある意味、社会復帰へのステップと似たようなもの。VR世界で与えられるミッション。例えば、「何でも良いから、高い建物の写真を撮り、UPしましょう!」とか、そういうもの。本当に、何てことのないミッション。しかし、やることによって達成感を得て、次へという意欲が湧いてくる。そして、気づかない内に、「自殺」という行為を実行するための障壁をどんどん下げていく。
例えば、飛び降り自殺をする、としても、高いところに立てば本能的に「怖い」という想いが出る。それが障壁となることもある。しかし、ミッションをこなす中で、その恐怖感などが薄れていったら……? その辺りに導いていく過程が物凄く怖かった。
一方の晃佑。VRを使って……ということが行われている、という確信はある。しかし、誰が、どうやって、そのVRを作ったのか? その中で次々と発覚していく行方不明者。一体、黒幕は何を狙っているのか? その一方で、NPO代表としての業務をする中で感じる虚しさ。自分が相談をした相手が自殺をしてしまった。自分は何のために頑張っているのか? そもそもが、過去、銀行員として働いている中、融資をした相手が自殺した、ということで一度は壊れた心を持つだけに、再び、その虚しさと対峙することにもつながっていく。そして、晃佑を手助けする友人・宙もまた、ゲームクリエイターとして名を馳せたところで、ワナに嵌められた過去がある。その中で……。それぞれが、トラウマを持っており、事件を追えば追うほど、そのトラウマと対峙せざるを得ない、というところへ進んでいく部分もスリリングさを強調している。その流れに、どんどん惹きつけられた。
ただ、終盤、その黒幕とかが明らかになっていくわけだけど……イマイチ、その目的とかがよくわからずにモヤモヤとした部分も覚えた。まぁ、ある意味、そんな部分も含めての破壊衝動が「自殺」ってことなのかもしれないけれども。

No.5551

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暗鬼夜行

著者:月村了衛



「薮内の読書感想文、昔の入選作のパクリだって」 SNSに記されたその一言。感想文コンクールへの出展が決まった作品に対して生まれた疑惑。文芸部顧問であり、疑惑の生徒・薮内の指導をしていた汐野は、その騒動の収集の責任者に任命される。ところが、その騒動は、ただの盗作疑惑から思わぬ広がりを見せていって……
いや~……本当に嫌な雰囲気が漂った作品。
冒頭に書いた粗筋だと、盗作疑惑について調査をして……みたいな話かな? と思われるかも知れない。けれども、物語はそうではない。
元々、大学では文学を専攻し、作家としてのデビューを狙っていた汐野。しかし、あと一歩、というところまでは行ったものの、デビューには至らず、仕方なく教職に。あくまでも、デビューまでの腰掛、と考えていたものの、実際になった教職は多忙を極め、創作などとは程遠く、倦んだ日々。そんな中、読書サークルで知り合った女性と婚約をするものの、彼女の父は県議会議員。その後継者になることが結婚の条件。そのためには、それだけの実績が必要。そのためには、この騒動を静かに幕引きすること。
そんな中で浮かび上がるのは、コンクールのライバルと言える存在。その少女の父は、疑惑の少女・薮内の父、そして、婚約者の父が進めている学校の統廃合に対し、強硬に反対しているグループの中心人物。
ただの盗作疑惑が、学校の統廃合を巡っての政治的な騒動へと拡大。さらに、その騒動を聞きつけたネットメディアも現れて、騒動はますます過熱。そんな中で、何とか鎮めようと画策する汐野だが、次々と思わぬ形で新情報が出ていく。
というわけで、そもそも、汐野は、この騒動に関しての利害関係者。しかも、汐野自身が結婚する、というのは、自分の生んだ日々からの脱出という一発逆転のチャンス。そのためにも、という想いがある。だからこそ、騒動はどんどんスリリングになっていく。その上で、どんどん汐野の自意識とか、そういうものがどんどん露になっていく。そして、最初にSNSに投稿した存在が明らかになった時に……
自分がどういう存在なのか、というのをこれでもかと突き付けられる汐野。そして、その汐野をして「自分と同じ」と思わせるその相手。しかし、その相手は止まらない。それは、汐野自身が歩んできた道そのものであるから……
読み終わってもやっぱり感じる嫌な後味。でも、自我やら何やらがぶつかり合っての騒動の末がきれいに終わるはずもない……ってことなんだろうな。

No.5550

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罪人の選択

著者:貴志祐介



全4編を収録した短編集。
著者の作品というと、まずはホラー作品。そして、最近は青砥、榎本コンビのミステリー作品というイメージがあるのだけど、本作はSFという趣の作品が多い印象。そして、収録作の初出時期を見ると、30年以上前の1987年のものから、2015年のものまで、とかなり幅広い時期に綴られた作品が収録されている。
個人的に印象に残ったのはまず2編目の『呪文』。宇宙へと人々が進出し、その地への植民が広まった時代。人々は、その環境で適応するために進化をしている。また、その一方で入植に失敗し、滅び去った星も数多くある。金城が調査に訪れた星も、そんな入植地であり、極めて厳しい状態にある場所。そして、そんな地では「マガツ神」と呼ばれる存在が信じられている。しかも、その「マガツ神」とは、人々に不幸を与えるものであり、人々はそれを奉るのではなく、何かが起きたとき、そんな神を攻撃する、という形で発揮されている……
全知全能の神がいる、というわけではない。また、日本の八百万の神のように、災いをもたらすものも、奉ればプラスになる、と考えられているわけではない。そんな信仰がなぜ生まれたのか? そして、そんな入植などを推し進める企業を動かしているもの……。民俗学というか、宗教学というような考察と、世界観そのものの組み合わせ方が上手いな、と思う。で、ここまで極端ではないけど、現地の人々の想い。例えば、開拓民として送られた人々とか、ある意味で「棄民政策」なんていわれたようなものがあるわけだけど、そういう人々の恨みとか、そういうものとも共通した部分があるんじゃないかろうか、なんていうのを思わずにはいられなかった。
逆に、SF的な要素があまりないのが3編目の表題作。
2つの時間軸で行われる「私刑」。戦後まもなく密造されたバクダンと呼ばれる酒と、自己流で作られたフグの卵巣の糠漬けの缶詰。それぞれの時代で、罪人は「どちらかを選んで、それを口にすること」を迫られる。どちらかは毒で、どちらかは助かる。それぞれ、助かる方法を考察し、選択をするが……。過去パートでは、純粋に目の前の情報から。もう一つのパートでは、その過去の状況から……
それぞれ、論理的に導き出した結論。しかし、時間の経過というのが……。このオチは何となく予想することが出来たし、後味も決して良くない。ただ、その後味の悪さも含めて持ち味なのだろう、という風に感じた。

No.5549

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著者:竹町



不可能任務の達成に成功したチーム『灯』。次のミッションとして与えられたのはスパイ殺し『屍』の排除。政治家・ウーヴェを護衛しつつ、『屍』を排除する、という任務のため、クラウスが選抜したのは「実力に不安の残る4人」で……
シリーズ第2作は、タイトルの通り、《愛娘》のグレーテがメイン。
貴族の家に生まれたものの、男嫌いで、家から疎まれていたグレーテ。しかし、そんな彼女がなぜかクラウスに懐いてしまう。そんなところから始まる物語。そして、そんなグレーテを含む「実力に不安の残る」4人が任務へ……
1巻の時は、正直なところ、キャラクターの描き分けとか、そういうところがイマイチという感じがあった。ただ、それを反対に利用して、というのはうまいのだけど、一方で、一発ネタ。だからこそ、2巻はどうなることか、と思ったのだけど、今回は文句なしに面白かった。
グレーテらが護衛することになった政治家・ウーヴェ。極端ともいえるような吝嗇家の彼の館に、メイドとして潜入し、彼を守ることに。ところが、吝嗇家である彼は、元のメイドであるオリヴィアに加え、4人ものメイドはいらない、と言い出す。そんな中、何とかそこにいることが出来るよう工夫をし……
この辺りはある種の日常回的な部分ではあるんだけど、この護衛対象であるウーヴェ、なかなか良いキャラクター。先に書いたように、極端な吝嗇家で、掃除やら、食事やらまで切り詰めようとする。しかし、その背景には、自分のことをさて置いてでも、という高潔さ故。その高潔さから彼が知洋としているのは……。登場した当初は、その強烈なキャラクターに圧倒されるんだけど、だんだんと良い味が出てくる。そして、そんなウーヴェのことを知る中、今回のメインではないのだが、孤児院育ちの《百鬼》のジビアは、「ウーヴェのため」に動き出す。
そんな中で、いざ、『屍』が動き出して……
そこまでの展開の中で仕掛けられている「罠」。グレーテが本当に隠していたもの。このひっくり返しは見事の一言。最終的にクラスウが良いところを持っていく、というのは確かなのだけど、そこまでの伏線の張り方に唸らされた。

No.5548

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神酒クリニックで乾杯を

著者:知念実希人



飲酒をした状態で手術を行い、医療事故を起こしてしまった……として、職を失った外科医・九十九勝巳。知人の紹介により、勤めることとなったのは「神酒クリニック」。院長の神酒をはじめ、腕は立つがクセモノばかりが揃ったそこは、世間に知られることなくVIPの治療を行う病院だった。だが、この病院は、普通の治療だけでなく、もうひとつの「仕事」もあって……
という感じで粗筋を書いてみたのだけど、これだと、作品で何が描かれているのかサッパリ示していないことに気付いたので、もうちょっと続きを。
神酒クリニックのもう一つの「仕事」。それは、治療をしているVIPの依頼を受け、その望みを叶えること。今回、依頼を受けることになったのは、大手ゼネコン会長から。末期癌で余命いくばくもない彼には、隠し子がいた。そして、その隠し子は、世間を騒がせているバラバラ殺人の被害者である。会長がいきているうちに、自分の息子を殺した犯人を見つけ、罰してほしい、というもの。その殺された息子は裏カジノに出入りし、借金を重ねていた。そして、借金を返すために、「大きな仕事」をする、と言っていたのだが……
医療事故とか、そういうものを題材にはしているが、上に書いた殺人の捜査を行う、とか、完全にエンタメ方面に舵を切った作品と言える。
この作品の長所は、何と言ってもテンポの良さと、その中で、それぞれのキャラクターがしっかりと立っている、ということだろう。経歴不明だが、医療の腕も、さらに格闘技の腕も一流の神酒。お色気担当の女医・ゆかり。魔法のように人の心を読むことが出来る精神科医・天久翼。麻酔医でいつもはやぼったいが、実は超イケメンな黒宮。唯一の常識人……のように見えて、ハンドルを握ると……な看護師・真美。それぞれが、まさに特殊能力のようなものを持ち、それを活かしながら(ただし、オチのような部分もある)、色々と情報を集めて……という流れは素直に面白い。まぁ、捜査一課の刑事が情報を流して……とか、そういうのも含めてリアリティっていうのはないけど、素直なエンタメ作品なのだから、そんなの気にしなくていいだろう。
そんなこんなで、事件の捜査が進む中で、九十九自身が関わった事故にも繋がっていって……というのはまとめ方としては奇麗なのだろうけど、ちょっと出来すぎな気はする。黒幕となる人物があからさま、っていうのも含めて。
とは言え、テンポが良く、キャラクターもしっかりと立った、一級のエンタメ作品には仕上がっていると言えるだろう。

No.5547

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吸血鬼に天国はない3

著者:周藤蓮



個人でやっていた運び屋を、会社として運営し始めて1か月。恋人のルーミー、社員であるバーズアイ姉妹との仕事を回す日々。経営は決して楽ではないが、シーモアは楽しい日々を送っていた。そんなある日、シーモアは捜査官から、ルーミーはかつて所属していたマーダー・インクから、脱獄した『ボーデン家の死神』の捕獲・討伐の依頼を受ける。そんな中、街では『死神』による殺人が次々と発生して……
1巻、2巻とシーモアとルーミーの関係を描いてきたわけだけど、この巻をもって、一つの結論が出たような感じがする。
粗筋で書いたように、それぞれ、『死神』を追うように依頼されたシーモアとルーミー。前巻のエピソードにおいて、人と化け物。その根源的な違いなどを理解し、その上で「恋人」となることを選んだ二人。そんな中で出てきた「死神」騒動。
そもそも、死神が脱獄をしたのは、ルーミーによるもの。同じ「化け物」同士、相手を倒したりする意図はなく、ルーミーは死神と形ばかりのやり取りをするだけ。一方、シーモアは、一度は死神をとらえた捜査官の脚として日々、動き回る。捜査官の目的は、死神の捕獲と共に、死神に誘拐された捜査官の娘を救助するために……。だが、殺人を犯していたのは……
「化け物」であるルーミーとの関係を明確にしたシーモア。だからこそ、死神と、彼女に誘拐されたエマとの関係ともつながっていく。
吸血鬼として、人を殺めることもあるルーミー。そんな存在を肯定するシーモアだからこそ、エマと死神の関係性にも理解できる。一方で、世間一般の常識にとらわれている捜査官自身に対しては……。その点ではある意味、シーモアがブレない考えを持っている、ともいえる。しかし、一方で、守るべき相手を持ったシーモアの行動の変化とか、そういう部分で変化も感じる。ハードボイルドというわけではないが、しかし……という関係性というのを強く感じる。
その一方で、「化け物」という存在そのものの在り方っていうのも、今回のエピソードでは登場。この設定自体は、他の作品でも見られるものだけど、ルーミーが「化け物」である、ということを考えると、この辺りも、今後、色々と意味を成してきそうな気がする。

No.5546

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著者:中村啓



病院で死を遂げたはずの人々が次々と生き返った。報せを受けた科学者・最上友紀子と警視庁の警視正・小比類巻ら、警視庁科学犯罪捜査班は捜査を始めるが……(『よみがえる死者』)
など、全3編を収録した連作短編。シリーズ第2作。
前巻もそうなのだけど、この巻も……「科学捜査」「科学犯罪」と言いつつ、ちょっとオーバーテクノロジー的な形での犯罪と、それを捜査する小比類巻ら……という形の話。なので、SFの世界に近いのかな? というのを感じる。そして、メンバーがかなりライトというか、軽いというか……
例えば、粗筋でも書いた1編目。突如、生き返って失踪してしまった死者たち。生と死はどこで? なんていう議論をしつつ、では、生き返ったとしたら、どういうことになるだろうか? そんな死者の親がある研究者で……ということが判明するのだが……。実際に起こった出来事と、SF的なものを融合させての問い。それをやってしまった人間の心情は理解できないではないが、しかし、その段階でそれをやってしまったら……という、想像しただけで残酷な結果が印象に残る。
一方、2編目『仮想されった死』は、自分はすでに死んだ存在だ、という感覚を持ってしまう「コタール症候群」。非常に珍しい症例のはずなのだが、一気に二桁もの患者が出てしまった。なぜ、そんなに大量の患者が? その患者にはある共通点があって……
うん、自分はその体験をしたことがないのだけど、確かに、近年、結構、注目を集めている技術。まだ、現在のそれは、そこまで技術が発達していないけれども、作中で描かれているとおり、今後、ますます、リアルなものになっていくだろう、ということは想像に難くない。そして、その技術を利用して死を体験してしまったとしたら……。また、死を経験してみたい、という人間が現れたとしたら……。
実際にこうなるかどうかはわからない。言っちゃ悪いけど「ゲームをやると現実と虚構の区別が……」という従来のゲーム悪影響論とかの延長に過ぎないような気もする。するのだけど……というぎりぎりの線を突いている話だとは思う。
3編目は、大学の医学部付属病院で次々と起こる変死。亡くなったのは新しい技術による治療を受けた患者。そこには……
技術開発と医療の境目……。言われてみれば難しい話ではある。作中の被害者とされている人々は末期がん患者。いわば、何もしなくとも死んでしまう存在。だから、何をしてもよい、というわけではない。でも、一方で、何もしなくても死ぬなら新たな可能性に賭けたい、という思いもあるはず。
その一方で、新薬であるとか、そういうものに対する製薬会社の思惑。さらに、それを推し進めたい厚労省。ここは利害関係という点で……というのはあるはず。でも、利益があるからこそ、技術が革新されるといえばそうだし、でも、厚労省内でのアレコレとかもあるし……。
捜査班のメンバーが結構、滅茶苦茶やってくれたり、っていうのはあるし、SF的な部分に足を突っ込んでいるところもある。でも、だからこそのテーマ性っていうのは感じる。
……というか、読んでいて、やっぱり『怪奇大作戦』が頭に浮かぶ(笑)

No.5545

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パンダ探偵

著者:鳥飼否宇



ヒトと呼ばれる種が地球上から滅ぼして200年あまり。世界は知能を持った動物たちの王国となり、肉食・草食の区別なく、平和に暮らしていた。そんな世界で、保育士を目指す天涯孤独なジャイアントパンダのナンナンは、突如、何者かに連れ去られてしまう。だが、そこでは何かを要求されることはなく……。一方、ライガーである探偵タイゴは、自分の子供が誘拐された、というホルスタインの依頼を耳にする……(『ツートーン誘拐事件』)
など、全3話を収録した連作短編集。
タイトルでは「パンダ探偵」とあるけれども、主人公であるパンダのナンナンが「探偵」として活躍する場面は、少なくともこの巻ではすくない。というのも、粗筋で書いた1編目で、ナンナンは探偵どころか被害者の側だし、一応、探偵事務所の一因となる2編目でも、先輩であるライガーのタイゴについて回る見習い、というような立ち位置。3編目で、そのタイゴが大統領殺人事件の容疑者として逮捕されたとき、ナンナンがタイゴの容疑を晴らすために動いて、探偵らしい活動はするけれども、最終的にはタイゴが……となるため。そういう意味で、「パンダ探偵」と言いながら、それほどパンダ探偵という印象は強くない。
ただ、著者は鳶山、猫田の「観察者」シリーズなど、自然の動物、昆虫などの生態というのを題材にした作品を書いている人物。本作も、擬人化された動物が社会を築き、ほかの動物を食べてはいけない、というようなルールがありつつも、各動物特有の能力とか、生態とかというものが大きな意味を持っている、という形でのミステリになっている。それは、観察者シリーズの作風とも近い部分があるな、というのを思う。
例えば1編目でいえば、タイゴはホルスタイン、そして、マレーバクが立て続けに誘拐された、という事実にたどり着く。そして、そこからタイゴは、白黒のツートーンカラーの動物が誘拐されているのでは? と考える。果たして、ナンナンもた、誘拐されていた、ということになるのだけど、誰が、なぜ、ツートーンカラーの動物を誘拐していたのか? ナンナンらの証言によって、犯人がどういう特徴を持っているのかが、判明する。そして、その犯人、いや、犯獣の特徴は……。そして、誘拐されたナンナンは、ただたらふく、食事をしただけだったのは……というのが組み合わされると……に納得。逆に2編目は、食糧庫から大量の干し草が消失。完全なる密室とはいえないにしろ、保管庫の前には見張りがおり、空いている反対側は断崖絶壁。形は本格もののように見せかけて、でも、各種の動物が、ルールを作って……となった場合に、こういう事件も起こるんじゃないかと思う。まあ、ナンナンとか、コアラとかみたいな存在はまた特例になりそうだけど……
ただ、タイゴが容疑者になってしまう3編目も含めてみると、ナンナンが探偵の道へと進む、成長過程という感じでいいのかな? というのも思う。自他ともに認める運動音痴。けれども、自分を助けてくれたタイゴに憧れ、警察官だった亡き兄とタイゴを重ねる。そして、そんなタイゴがピンチのときは、タイゴに教わったことをもとに、聞き込みなどをして推理を巡らせる。1巻の段階では、それで解決! まではいかないものの、着実に一歩を踏み出しているのがわかる。となると……
この世界には、ナンナンたちの暮らす国以外にも、体制の違う国があり、その間での対立なども存在している。そして、その国の諜報員がタイゴを……というシーンもある。となると、今後、ナンナンが……というときも、当然のようにあるだろうしな……

No.5544

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さえこ照ラス

著者:友井羊



沖縄本島北部の法テラス。スタッフ弁護士は東京の大手弁護士事務所の若きエースだったという阿礼沙英子。オジィ、オバァの方言に苦戦をしながらも、持ち込まれた相談をビシバシと解決。そんな沙英子の活躍を描く連作短編集。
全7編を収録。
物語の主人公は、法テラスの事務員で、なぜか調査員みたいな扱われ方をするお人よしの大城。そして、トラブルを実質的に解決するのが弁護士である沙英子という形の役割分担。で、法テラスを舞台にした話で、法律相談が……というと、法廷ミステリみたいなものを予想すると思うのだけど、法律的な話をしながらも、その中の謎を解くという普通のミステリに近い形をとっている。そのうえで、沖縄、という土地がポイントになっているものが多い。
1編目の『オバァの後遺障害認定事案』。恐らく、この話が唯一、沖縄と関係がない話じゃないかと思う。
物語としては、交通事故にあった老婆。医者の診断の結果、完治している、ということだが、その箇所がずっと痛い、という。医師、さらに、息子までもが気のせいだろう、下手をすれば、トラブルメーカーの孫が金に困って祖母を……なんて疑うのだが……。「こういう展開ならば、たぶん、こういう真相」というのはあるのだけど、その中で、祖母を心配するけど……という孫を叱り飛ばし、さらに、老婆が嘘を、という医師、息子も……という沙英子、というところでキャラクターを植え付けるのには十分な話だと思う。
で、2編目以降は、というと、沖縄の土地というのがポイントになっている。例えば、土地の相続をめぐっての話。相続の対象となる場所は、アパートか、米軍基地の軍用地か? 不動産の相続をめぐっての争い、というのはあるけど、アパートと軍用地。片方は、自分で経営せねばならないけど、片方は国がしっかりとお金を払ってくれる優良物件。さらに、そこに戦時中、多くの人々が亡くなり……なんていう事情も絡み、まさに沖縄ならでは、という物語。また、沖縄の、コミュニティでの互助システムである模合。その模合をめぐっての話は、沖縄の、コミュニティが根強く息づいている様子と、逆にそこへ……という移住者がいる、という部分での隙を突くような話。変わったようで変わっていない。変わっていないようで変わっている。そんな部分をうまく料理しているんじゃなかろうか。
で、まぁ、基本的には沙英子が一刀両断して……という形なのだけど、何気に沙英子の変なところとかも面白い。基本、合理主義なのだけど、何気にお化けとか、そういうのが嫌いだったり、はたまた、沖縄料理とかにこだわって変なところでトラブルを呼び込んだり……見た目とかはバシッと決めているのだけど、何か三枚目な部分というキャラクターは魅力的。
ただ、その沙英子が、なぜ大手の法律事務所を辞めてこんなところに来たのか? とか、そういうところはいまいちわからないまま。そのあたりが気になった、っていうのも確かだったりはする。

No.5543

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