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復讐は合法的に

著者:三日市零



6年間付き合った彼氏に手ひどく裏切られた麻友。そんな彼女に声をかけたのは「合法復讐屋」のエリス。弁護士の資格を持つエリスは、その知識を駆使して彼女の復讐を代行することになって……(『女神と負け犬』)
他、全4編を収録した連作短編集。
第21回『このミス』大賞・隠し玉作品。
うん、面白い。物語は、合法復讐屋であるエリスが、その知識などを用いて依頼をこなしていく、という話。まずは、その復讐屋であるエリスのキャラクター。冒頭の粗筋で書いたように麻友が男に裏切られたときに出会うのだが、その時は女神のような美女。しかし、翌日、エリスの事務所へ赴くとそこには男の姿のエリスが……。オネエであり、しかし、その姿は美女というそのキャラクター自体がもう強烈。そして、そんなエリスの元には、小学生の少女・メープルが働いている。こちらも、小学生なのに、一人前の秘書のような口調。そんな二人のやり取りと、その復讐の様のバージョンが多様で楽しめる。
粗筋で書いた1編目は、そのそのオーソドックスな方法論。合法的な復讐……それは、罪に問われない範囲内で相手に嫌がらせを行い、破滅させる。エリスが女性の姿で誘惑をして、会社内での評判を下げる。二股をかけていたもう一方と別れさせる。そして……
そんなところから始まって、今度は、携帯ショップの副店長の、何とでもいいわけができるような裏の仕事を、副店長視点とエリス視点を使って暴いていく2編目の『副業』。女児に対して、わいせつ事件を起こしながら逃げおおせている男を追う3編目『潜入』。周囲に色々と波紋を引き起こしている暴露系インフルエンサーの正体を探る『同類』と話が続いていくのだけど、それぞれ、物語のアプローチの形が全く異なっており、様々な角度からエリスの活躍を楽しめるというのが見事。時には、犯人側の視点でエリスに追い詰められていく恐怖だったり、はたまた、エリス自身も思惑に乗って騙されていた、というエピソードだったりという感じで。
よくよく考えると、1編目の「合法」と言う部分がだんだんと薄れていっている気がしないではないのだけど、それは些細な事。エリスとメープルの強烈なキャラクターで惹きつけ、常に新しいアプローチで物語を紡ぎだす。エンタメ性にとことん優れた作品だと感じた。

No.6768

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Tag:小説感想『このミス』大賞三日市零

アガタ

著者:首藤瓜於



夜の住宅街で、女子大生が背中から刃物でめった刺しにされて殺害された。しかし、指紋はおろか、足跡もなく、防犯カメラの映像すら残っていなかった。そんな事件捜査の中、警視庁捜査一課に移動したばかりの新人刑事・青木一は、班長から、町を歩き、人々の噂に耳を傾けよ、という命を受ける。噂を探る青木は、殺害された女子大生に地元の有力者の息子が付きまとっていた、という話を聞いて接触を図るが……
久々の著者の作品……と思ったのだけど、前に読んだ『ブックキーパー 脳男』を読んだのが2021年7月だったので2年ちょっとぶりだった。2年ぶりで、そんなに時間が経っていない、という感覚になることがおかしい、というのもまた事実のように思えるのだけれども。
で、粗筋では、主人公が新米刑事の青木のように書いたのだけど、物語はどちらかと言うと、この事件を巡っての警察関係者の群像劇と言った印象。青木は、勿論、主人公の一人なのだけど、それ以外にもそれぞれの捜査員視点での物語が綴られており、それぞれで膠着した形で事件捜査が綴られていく。そんな中で、怪しげな動きをする女性・鵜飼縣も出てきて……(ちなみに、鵜飼縣は『ブックキーパー 脳男』にも登場している)
正直なところ、本作は結構、感想が書きづらい話だと思う。というのも、事件の大半は、捜査の過程に費やされるのだけど、全体を通して「雲をつかむ話」という感じなので。冒頭の粗筋に書いたように事件現場には指紋やら足跡やらと言った物証は残っていない状態。殺害状況から考えて、被害者の周辺に犯人がいるだろう、という読みがされるのだが、噂で聞いた有力者の息子に接近した青木は、そのことで有力者から抗議を受け上司から大目玉を喰らう。その他に、被害者に想いを寄せていたと思われる同級生とかも容疑者に浮上はするがこれまた、決め手に欠ける。そんな中で……
これ、前作を覚えているかどうかで、大分、印象が違うんじゃないかな? という気がする。前作を覚えているなら、縣がどういう存在で、っていうのもわかるから結構、冷静に事件を見れると思うのだけど、そうでないとちょっと唐突感が出ると思うし(ちなみに、私は、前作は忘れていました)
物語は、自らの失態で大目玉を喰らった青木が、縣の助言で……となるし、そこは示唆に富んでいると思う。人間が捜査方針を決める、となるとそこには必ずバイアスが生じるわけだから。その点は確かに、という風に。
ただ、その一方で、の終盤の話はビックリというよりも「え?」という感じ。一応、変なところは出ていたけど、ちょっと納得できないな、と言う思いを抱いた。

No.6767

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Tag:小説感想首藤瓜於

著者:鈴木大輔



俺のクラスに転入してきたギャル・一ノ瀬涼風。転入早々、クラスの人気者となった彼女が父親の再婚によって俺・嵐山新太の義妹に!? しかも、その正体は、俺が敬愛している神絵師!? 宝くじの大当たりを引いた! と思ったのもつかの間、彼女は一人ではなーんにもできないポンコツで……
新太、メッチャ、飼いならされて(?)いますがな……
最初に書いた通り、父親の再婚によってできたのは、転入早々、クラスの人気者となったギャル・涼風。いきなり始まった同居生活。しかも、両親は新婚旅行に行ってしまい、二人だけの生活。ところが、文字通りにポンコツな涼風の世話をすることになってしまい……と言う話。ただし、涼風は、新太が一押しの神絵師であるため、その新作をプレゼントする、という餌を与えられて、一生懸命、彼女の世話をすることになる。
「あんたホントに何もできねえな!」
作中で、一体、何度、この言葉が飛び出ただろう? 料理が壊滅的とか、片付けができない、とか、そのくらいならば可愛いもの。それどころか、髪のセットやら、メイクやら、服の着替えですら一人で出来ない。眠るときだって、添い寝してくれないとダメ! 勿論、そういう相手なので、何かにつけてラッキースケベ的な展開も次々と。新太視点での物語なので、当然、そんな涼風の恰好などから性的な興奮を覚えたりもするけど、それでも自制する。……ある意味、新太、お前はえらいよ……という気分に。
そんな自重をしつつ、しかも、文句は言いつつもお世話をする理由。それは、涼風が自分のために新作を描いてくれるから。……一押しの絵師の、新作がもらえるなら、と言うのはわからんでもないが、読み終えて、こういう風に感想を書きながら考えると、これはこれで、結構、特殊な人間だな、という気がしてきた。その辺りの、涼風さのポンコツさ、ツッコミを入れつつも世話をする新太の、別のベクトルでのおかしさ。そういうところは十分に楽しめた。
ただ、この作品……1巻を読んだ段階では、ちょっと不満の残る終わり方ではあるんだよな。
物語の最後に続巻への引きを残して終わる。これ自体は別に何も悪いことではないのだけど、この作品の場合、中盤くらいから「これが後々の事件に繋がる」とか、そういう匂わせを沢山入れている。入れているのに、そこについては全く触れられることなく終わる。終わるどころか、最後にネタバレと称して「この人はこうで」的な解説がされることに。既に2巻も手元にあるので、それほど時間をかけずに読むつもりで入るのだけど、リアルタイムで1巻を購入して読んでいたら「おい!」って気分になったんじゃないかと思う。

No.6766

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Tag:小説感想角川スニーカー文庫鈴木大輔

コメンテーター

著者:奥田英朗



伊良部シリーズ第4作。全5編を収録。
って、前作『町長選挙』を読んだのが、08年。刊行されたのが06年なので、実に15年ぶりに読んだシリーズ新刊ということになる。ただ、今回はあまり奇妙な治療(?)はしていない印象。
1編目の表題作。コロナ禍の時期、ワイドショー番組スタッフの圭介は、上司から視聴率を取れるコメンテーターを呼んで来い、という無茶ぶりをされる。画面映えする美人医師を、ということだったが、出身大学の伝手で呼ぶことになってしまったのは、伊良部で……
これって、完全に治療、ではない。別に伊良部を呼んだわけではないのに、一人、乗り気になってしまった伊良部は出演を信じて疑わない。いざ、出演をしてみれば、自粛などが騒がれる中で、元も子もないようなぶっちゃけトークを展開してしまう。さらには、リモート出演だったのに、看護師が映ってしまう事故まで……。でも、なぜか視聴率は上がっていて……
「自粛、自粛と言うけど、外に行くやつは、外に遊びに行くよね」とか、確かにその通りではあるんだよな。決して褒められた話ではないけど、そこからスタートして考えた方が良いとかって受け取れば、他の方策とかも出てくるのかな? なんてこともふと思った。その中で、視聴率が上がった理由は、インディーズバンドのメンバーとして人気のあるマユミだったとか、その辺りは面白かった。
2編目『ラジオ体操第2』。不満があっても気が弱く言い返せない。そんなストレスからか、パニック障害になってしまった克己。治療のために訪れた病院で、伊良部に勧められた治療は……。不満などをはっきりと言う練習をする。これ、言うは易し、行うは難し、だよな。問題行動を起こしている相手に注意する、とか、確かに言われて本当に殴ってくるような奴はほとんどいない、ってのは事実だと思う。思うけど、でもねぇ……。そんなことをけしかけられた末、問題行動をしている相手に克己が取ったのは……。明らかに変な行動になってしまっているのだけど、なんかすっきりとした気分になるのはなぜだろう? ヘンテコな治療方法と、決してそれ自体が上手くいったわけではないのだけど、ちょっと気持ちが軽くなる。このシリーズっぽさを一番、感じた話。
4編目『ピアノ・レッスン』。ピアニストとして全国を駆け回る友香。絶対に遅刻しないように、とか、そういう気負いからか、閉所恐怖症になってしまい、伊良部の元へ向かうのだが……。こちらも「真面目過ぎ」「芸術家なんて、わがままでもいいじゃないか」とか、言われながらわざと閉所に入って……なんていう治療(?)をされるのだが……。1編目もそうなのだけど、このエピソードでも実は大活躍なマユミ。過去のシリーズではなんかよくわからなかったマユミだったけど、今作は結構、その掘り下げがされたように感じる。
久々のシリーズ。流石に、過去のシリーズは大分忘れていたけど、「ちょっとカラーが違うような」と、「こんな感じだった」というのを思い出しながらの読書になった。

No.6765

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Tag:小説感想奥田英朗

小説家と夜の境界

著者:山白朝子



小説家である「私」が知っている小説家に纏わる話を語る……という形式で綴られる短編集。全7編を収録。
ホラー(?)作品の雑誌である『怪と幽』に掲載されていたもの、ということでジャンルとしてはホラー作品ということにしても良いのだとは思うけど、怪異とか、そういうものよりも、比較的現実的な世界観の中での奇妙な話、嫌な話を集めた作品集という印象。
1編目『墓場の小説家』。学園ミステリでデビューした作家・O氏。ミステリーのトリックなどは平凡だが、実感を伴った描写が人気で、根強いファンを獲得している作家。しかし、彼はその描写を描くためには実際に経験をしなければ……という人物だった。そんな彼が、恋愛小説、そして、ホラー小説を描くことになって……
小説を描くにあたってリアリティというのは、当然、必要になること。だからこそ、その作家の経歴などが武器になる、というのは往々にしてあること。医療を題材にした作品だと医師が、とか、法廷ミステリだと弁護士などが……なんていうのは普通。でも、それを突き詰めたら? 恋愛小説を描くため、妻を……とか、やっていることは異常。勿論、その結果、生活は破綻していって……。O氏が最期に何を見たのか? それは不明な形で終わるのだけど、そんな形で執筆をしていたら……と思わされる話ではある。
非現実的なことはなく、むしろ、社会問題などを反映しているようにも思えるのが『 キ 』。高校生ながら凄まじいほどにキツい残虐描写を描いた小説でデビューをしたK氏。パーティーで顔を合わせた実際のK氏は礼儀正しい好青年。文武両道で、家族は勿論、教員、生徒たちにも慕われている彼だったが……
普段の人間性と、描く作品は別物。仮に、そういうジャンルの作品が好きだったとしても、だからと言って問題になるわけでもない。しかし、そんな当たり前のことを忘れ、K氏に対して「そんなものを描くな」と迫る周囲の面々。さらには、出版社などが悪い、などと言いだし……。なんか、青少年健全育成とか、ああいう活動をしている人々の姿勢とか、そういうのを頭に浮かべずにはいられなかった。自由で、健康的な、などとお題目を掲げながら、しかし、気に入らないことをすると徹底的にたたく。周囲の環境が悪い、とか、そういう形を取った「正義」として……。そんな周囲の空気に振り回された「現在の」K氏が辛すぎる……
物語に登場する作家たちは、ちょっと極端な設定になっている人物が多いと思う。ただ、そんな中にも、それぞれの作品作りの方法論とか、その中の困難とかは色々とあるのだろうというのは感じられた。極端な設定、キャラクターによって、そういうところをオブラートに包んだのかな? という風に感じられた。

No.6764

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Tag:小説感想山白朝子

著者:亜逸



入試に失敗し、不良たちが跋扈する学校に入ってしまった史季。不良たちに虐げられる日々が続いている彼だったが、クラスメイトの不良に絡まれている後輩・春乃を助けようとしたことで、学校でケンカ最強のギャル・夏凛に気に入られる。史季は、夏凛たちに勉強を教える代わりに、ケンカの仕方を教わる、という関係になっていって……
なんか、性別とか、そういう部分ではいかにも現在の作品という感じではあるのだけど、そのイベントを除くと、どちらかと言うと昔の(筋の通ったタイプの)ヤンキー漫画と言った印象。
冒頭に書いたような流れで、夏凛からケンカの仕方を教わることになった史季。不良たちが集まる学校において、ケンカ最強で「女帝」と恐れられる夏凛。しかし、夏凛自身は、別に学校を支配したいとか、そういう思いを持っているわけではなく、ただ、筋の通らないことをする存在、即ち気に入らない相手を叩き潰してきただけ。「女帝」と言われること自体が嫌で仕方がない。そんな彼女なので、不良たちに絡まれている後輩・春乃を助けようとした彼を気に入ることに。そして、夏凛と仲の良い千秋、冬華と言ったギャルたちも加わっての日々を送ることに……
毎日、放課後になると一緒の過ごし、ケンカの練習をする日々。ただし、史季自身、不良たちのパシリなどをさせられる中で、脚力などが鍛えられており、コツを教わることで、技術とかはメキメキと上昇。一方で、勉強はからっきしな夏凛たちに勉強を教えることにも。そんな日々の中で、ケンカは最強だけど、初心でしかも。幽霊とか、そういうものが大嫌いで怖がるという夏凛の意外な一面が見えたりもしてくる。「喧嘩の練習」ということで身体に触れたり、なんてこともあるのだけど、そのたびに顔を真っ赤にする夏凛のギャップは素直に可愛い。ちなみに、清楚そうに見えて、保健体育だけは知識がある春乃と、エロ方面全振りな冬華についてはノーコメントで。
しかし、そんな平和なときは続かず、夏凛に対して一矢報いてやろう、という不良グループの策略が始まって……
体調不良の夏凛。そんな夏凛の危機を知り、駆け付ける史季。だが、そこに立ちはだかるは、学校の不良グループを束ねる派閥のリーダー。史季にはかないそうにない相手。しかし……。ちゃんと、そこまでの訓練の成果とか、それまでの史季の日常とか、そういうのがしっかりと活きている感じで、このまとめ方も納得ができた。
なんか、イラスト(特にカラーイラスト)を見ると、エロ押しに見えるのだけど、昔の筋の通ったタイプのヤンキーを主人公にした作品っぽい物語を楽しむことができたな、という印象。

No.6763

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Tag:小説感想富士見ファンタジア文庫亜逸

ヨモツイクサ

著者:知念実希人



北海道旭川近隣の森で、リゾート開発中の作業員たちが失踪した。現場となった宿泊所には、巨大な何かによって荒らされた形跡が……。巨大なヒグマによる事件とい見方をされるのだが、その森はアイヌの人々によって「黄泉の森」と呼ばれる場所であった。その頃、その森の近く出身で、家族が突如、失踪してしまった過去を持つ、大学病院に勤務医・佐原茜は自分の家族の失踪と、今回の事件に関わりがあるのではないかと感じ……
「戦慄のバイオホラー」という風に帯に記されており、確かに、ホラー、というカテゴリわけでも違和感はないのだけど、個人的には冒険小説なんじゃないか、という気もする。
冒頭に書いたように、リゾート開発の作業員たちが失踪したところから。現場には血の跡などがあり、巨大なヒグマに襲われたものと思われる。そんな中、熊討ち専門の猟師・鍛冶は、12年前に人を喰ったヒグマによるものだと直感する。だが、その一方で、現場に残された遺体には、奇妙な生物がついていたことが判明する。蜘蛛のような生物には青白く光る遺伝子を持っていた。
巨大なクマによる惨劇。その惨劇を追って……という流れから、奇妙な生物の存在へ。そして、その標的であったクマをも凌駕する謎の存在へ。そこには、不可解な生物の存在が見え隠れ。しかも、その生物の生態と、茜の家族の失踪と言ったものとの繋がりなども感じられるようになってきて……
クマによって引き起こされた惨劇とか、人が無残に殺される描写なども多く、そういうグロ描写なども多いのだけど、「黄泉の森」を巡っての謎。そこに住まう未知の生物は一体何なのか? そういった謎と、そんな危険が潜む森へと挑む茜たち……というのは、例えば、未開の地とか、そういうところに挑む冒険小説と言った作品のそれと共通しているんじゃないか、と思える。勿論、そんな中にひっくり返しというのもあるのだけど。
ただ、そのひっくり返しに至る部分については、その前段階がちょっと強引な感じだっただけに、予想通り、と言う風に思ったところがあったりする。「この人が……」という推理はあまりにも強引すぎたし、それ以外の人物は、というと、この段階で生き残っているのが、っていう状態だし。それが分かった上での部分がホラーだ、と言えばそうなのかもしれないけど。
これまでの著者の作品とはちょっとカラーが違う感じだったけど、でも、しっかりと完成された物語を作ってくるのは流石!

No.6762

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Tag:小説感想知念実希人

著者:和ヶ原聡司



「メシトピア」 それは突如施行されたヘルスケア政策。食料自給率の向上や、健康寿命の改善を目的に行われたそれの実態は、不健康な食事や、それを接種する「不健康な人間(アディクター)」を社会から隔離・抹消する命の選択だった。そんなアディクターを取り締まる食防隊の隊員・矢坂弥登は、極限状態の中、アディクターであるニッシンの提供した禁制品・カップラーメンを口にしてしまう。その禁忌の味を知ってしまった弥登は……
物語は、冒頭、救助すら来ない場所に取り残されたニッシンと弥登のシーンから始まる。カップ麺などは禁忌の品、とされているが、食べるものがないというその状況の中でニッシンの勧めに従って、弥登はカップ麺を口にしてしまう。そして、それから半年後、追う者・追われる者という立場で再会した二人。そんな中、弥登は、カップ麺をもう一度食べたい、と隊を離脱してニッシンについていってしまう、という形で始まる。
いや、何と言うか……うーん……という感じ。
序盤の流れとかを書くと、コメディ作品のように感じるのだけど、設定としては結構、シリアスなSFという感じ。ただ、SFとしては……という感じがしてしまう。
この世界の舞台は2075年の日本。健康促進のために添加物不可、化学調味料不可、農薬不可なんていうようなものが定められた世界。それに反した食品を食べることは禁忌で、そういうものを食する者は犯罪者扱い。正直なところ、この時点で、色々と無理があると思うんだよな。だって、どう考えたって食料自給率が上がると思えないし、その結果……なんていうのも予測がつく。そんな法律を遵守させるべく活動していた弥登が、アディクター側の土地に入り、その実態を知ってショックを受ける、というシーンがあるのだけど、「いやいや……」という風に思えてしまった。
と、なんか、否定的な言葉を並べたのだけど、一方で、やりとりとかについては楽しかった。
禁忌の食を口にし、もう一度、食べたいと思った弥登。その結果、ニッシンについてアディクター側についていくわけだけど、その時の言葉が、色々と言葉足らずになって、エロ要素タップになってしまうとか、ベタだけど笑わせてもらった。
ただ、全体を考えると、設定の甘さとか、そういうところが感じられ、ちょっと物語に集中できなかったな、というのが正直な感想になる。

No.6761

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Tag:小説感想電撃文庫和ヶ原聡司

今夜も愉快なナイトメア

著者:烏丸尚奇



不眠のきっかけとなる事件の真相は暴いたものの、不眠症クリニックの仕事を続けている元外科医の錦。自分をモデルにした小説が刊行されたこともあって、ますます、クリニックを訪れる患者は、奇妙な症状を訴えてきて……
というシリーズ第2作。今作も、連作短編の形式をとりつつも、最終的に繋がっていく、という形になっているのだけど、本作の方が話のまとまりはよかったんじゃないかな、という風に感じた。
まずは、毎晩のように夫から殺される、という夢を見るために不眠症になってしまった、という主婦(兼、有名ブロガー)からの依頼。その夢を見る前に、夫の兄が事故死し、その直後から夫の様子がおかしい。それまでとは違った趣味などをはじめるなど不審な行動をとり始めた。夫の兄の霊に身体を乗っ取られた? そんなはずがない、と思いつつも患者の夫を尾行し始めることにして……
作中でも言われているけど、相変わらず医者(と、看護師)の仕事じゃない! ないのだけど、患者の夫の不可解な行動を調べ、その上で、なぜそういう鼓動を取っていたのかを解き明かす。そこには、ちゃんと合理的な意味があって……という形になり、すっきりとまとめられており、好印象。
続いては、ギャラリーのオーナーからの依頼。ギャラリーに届いたのは、そこにある一枚の絵を盗むという予告状。予告状を送ってきたのは、偽物の絵画を盗んでいるという怪盗から。警察に届ければ、自分のところの絵が偽物という評判が広まってしまう。しかも、なぜかその予告は実行されないままでいて……。こちらは、真相がわかれば、あっけないものではある。あるのだけど、関係者のアリバイ捜査とかをして、お約束ともいえる「犯人はあなただ!」的なことをせざるを得ない錦の行動が楽しかった。
そして、今作で楽しいのは、前作で登場した患者が書いた、錦をモデルとした小説が妙な広がり方をしていること。決して売れている、というわけではないのだけど、看護師の水城や、錦の妹とかが周囲にどんどん布教しており、患者やら、錦の家族やらが皆読んでいる。錦じゃないけど、「まるでゴキブリ」という表現がぴったりと来て笑わせてもらった。そして、そんな中、錦が元々務めていた大学病院から、復帰しないか? という連絡が。一方で、ブラック企業勤めて心身を壊し退職したが、復職しないか? という連絡をもらった患者が現れて……
ある意味で、錦と状況が似た患者の登場。さらに、その患者の勤めていた会社が、本作で描かれた他の事件とも関わっていることが判明して、全ての謎がしっかりと回収されていく。1つ1つのエピソードだけでなく、それぞれの繋がりなどもあり、1つの物語としても完成。個人的に、モヤモヤする部分が残った1作目よりも完成度が高いと感じられた。

No.6760

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Tag:小説感想烏丸尚奇

死亡遊戯で飯を食う。4

著者:鵜飼有志



「クラウディアビーチ」を乗り越えた幽鬼の元へ入った一報。それは同時期に行われたゲームの参加者の大半が殺された、というもの。「殺人鬼」の再来。そんな中、「表」での学校生活の中、幽鬼の周辺を何者かが探っている様子があって……
今回は日常会(?)と言った趣のエピソードかな? 実際、今回のゲームのタイトルは「47.5回目」「44.5回目」という形だったし。
で、粗筋の導入から入る47.5回『スクールメイト』。ゲームの合間、定時制学校へと通っている幽鬼。しかし、最近、その学校で何者かにさぐられている様子が見える。学校には、視られて拙いものは持ってきていない。しかし、もし、その捜索が自分の家まで及んでならば……。一方、その幽鬼を追っている人物・仁美は、ただの好奇心で幽鬼を探るのだが、そんな中で、自分がなぜか、そのような行動を得意としているのかに疑念を抱く。
これは完全に、幽鬼のようなプレイヤーの、ゲーム外での日常という印象のエピソード。そもそも、肉体改造を受けているので、普通の治療とかは受けられないし、ゲームを通しての報酬などもあって見せられないものが沢山。そういう意味で、表でも綱渡りの日常と言える。そして、仁美側の事情からも、より、それを感じさせる話に。
そして、少し、時を戻した44.5回『シティシナリオ』。戦いの中で傷ついた右眼の治療をすべく義体職人の元を訪れた幽鬼。そこで、「殺人鬼」についての情報を持っている刺青の彫り師の元を訪れる。かつては、幽鬼と同じくプレイヤーだったというその人物だったが、幽鬼が訪れたそのとき、何者かに殺害されていた。犯人は腕に刺青を施された少女。彫し師の従者たちは、その殺人者を追って……
先に47.5回の方で、プレイヤーは「表」でも、色々と危機がある、という話をしたばかりなのだけど、47.5回のときは、ゲームと関係のないトラブル。しかし、こちらはゲームの中での人間関係などが……というパターン。ゲームのルール上、仕方がない、とはいえ人を殺める存在であるプレイヤー。当然、その時の思いは……。それを受けての45回『ハロウィンナイト』というゲームのエピソードにも繋がっていくのだけど、それも含めて今回は「表」での生活が強調された話になっていたように感じる。そして、その45回目のゲームにおいて、いわばなし崩し的に幽鬼にも……
ここまでも、師弟関係とか、派閥とか、そういうものは出ていたのだけど、今後、そういった人間関係がより強く出ていくようになっていくのかな? というのを感じさせるエピソードになっていると思えてならない。こうなると、だんだんとこのゲームを取り仕切る組織とか、そういうところへも話が派生していきそうな気がするのだけど、どこへと転がっていくのか意識せざるを得ない感じになってきたな、というのが何よりもの感想。

No.6759

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Tag:小説感想MF文庫J鵜飼有志