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著者:内藤了



廃屋で5体もの女性の遺体が発見された。それぞれ、身体の一部を切り取られ、激しい損壊が見受けられた。捜査を担当することとなった藤堂比奈子は、その被害者が若く、色白で、ストーカー被害を訴えていたことを突き止めるのだが……
シリーズ第2作。
第2作にして、かなりグロい!
冒頭に書いた粗筋。裏表紙にある粗筋だと、中盤くらいまでの流れを書いているのだけど、物語の中で大きな比率を占めるのは「被害者は誰なのか?」という点。身体の一部を切り取られ、激しく損壊された遺体。その一方でドレスを着させられ、まるでディスプレイされるかのように置かれている遺体。当然のことながら、遺体の身元を示すようなものはなく、身にまとっているドレスにはそれを作った会社などのタグもついていない。被害者は一体、誰なのか? そんなところから物語が始まる。
その中で、そのドレスなどから、何らかのこだわりがあるように見受けられること。切り取られている部位は何なのか? なんていうところで、色々と推理を広げていく。最大の謎は、最も古いと思われる遺体だけ、殺害方法など方法が異なっている。ようやく……というところで見つかったのが、被害者がストーカー被害を訴えていた、というところ。そんなところで……で、粗筋に続く。
容疑者はおろか、被害者が誰なのか? 共通点は何なのか? というのすらわからない中で一歩一歩、という流れがまず面白い。
その上で、の犯人。上に書いたように、そもそもの遺体の状況とかがかなりグロテスクなのだけど、そこで明らかになった犯人の狙い。これはまさに狂気そのもの。意外性っていうか、普通はそんな発想しない! 見方によっては苦笑いになりかねないのだけど、事件そのものの描写が相当な状況故に、逆にすんなりと入ってきた。
まぁ、その真犯人について、終盤、読者視点で見ると「この人だよな」と思えるのに、それを比奈子が全く警戒していないで……という部分はちょっと、と思ったけど、全体を通して楽しめた。

No.5478

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トリモノート

著者:森川智喜



ときは18世紀後期のお侍さんの国。齢16歳のお星は、藪の中で光円盤を発見。この円盤、なんとひとりでに穴が開き、中には見たことのないものばかりが並んでいる。お星と、幼馴染の舟助は、それが未来から時空を超えてきたものとは知らず、その道具に興味津々。その道具を使い、うだつの上がらない岡っ引きであるお星の父・三六の手伝いをすることになって……
という連作短編集。
なんか、設定そのものを見ると、山本巧次氏の『八丁堀のおゆう』シリーズっぽい。つまり、未来の道具、技術を使って事件を捜査。ただし、江戸時代(だよね?)の技術とか常識とは全く違うものなので、犯人は特定できても、それを周囲に納得させるのに四苦八苦……と言う辺りは同じ。一方で、当然、違い、というのもあって、その最大のものは、お星、舟介はその道具が犯人特定の道具となり得ることはわかっている。ただし、それは感覚的なもので、確証は持っていない、ということ。
例えば2編目『うぐいす茶碗と指おばけ』。要は指紋。茶碗が盗まれてしまった。その犯人は誰なのか? というのを指紋を使って探る、と言うお話。現代人で、ミステリとか、そういうのになれている人ならば、指紋は一人一人、違うパターンを持っていてそれを採取できれば、その指紋の持ち主が、それに触った、ということが確定する。でも、この作品の舞台では、そんな知識は持っていない。お星にしろ、舟介にしろ、身近な人の指紋を取って、一人一人、それが違うようだ、ということは感覚的に理解する。でも、じゃあ、本当に同じ人がいないのか? という点についてはわからない。100人の指紋を採取し、それぞれが違っていたとしても、101人目は前の誰かの指紋と同じ立ったりするかもしれない。盗んだのは、誰なのか? この辺り、論理学とか、そういうのを出しながら話を進めていく様はいかにも著者らしい。
そして、中でお星たちが獲った手段は……。作中で、トリッキーな方法とあるけど、確かにちょっとトリッキー。でも、この時代、この条件ならばベストと言える方法なのだろう。
そんな感じで進んでいく中、この赤子は自分の子だ、と取り合う女二人。どっちが母親なのか? を問う話は、ちょっとイレギュラー。まぁ、ある意味、この設定の限界を示す話なのかもしれない。その辺り、科学技術とか知識とかの変遷を感じるのだけど……その一方で、ちょっと不完全燃焼的な感覚も覚えた。

No.5477

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著者:赤福大和



現実の美少女はビッチばかりだ! そう信じる高校生の耕介は文芸部の部室をオアシスにしてオタク活動にいそしんでいた。しかし、ある朝、生徒会長補佐にして裏表を持つ東雲井吹から、このままでは文芸部は廃部だと告げられる。廃部を回避するためには、生徒会の仕事である「お悩み相談」を手伝いつつ、部員を2人増やすこと。とりあえず、お悩み相談をすることにしたのだが、相談に現れたのは何人もの男と付き合っている、と噂されるクラスメイト・愛沢愛羽で……
なんか、薄味。
そもそも、主人公の偏見というか、被害意識というか、そういうのが強く出ているのは粗筋で書いた通り。だからこそ、オタク活動の拠点である文芸部を守りたい。そういう動機に繋がっていて……というのはわかるのだけど、かなり妄想とかが多くて、ちょっとしんどく感じる部分もある。そして、相談に来た愛沢は、何人もの男と付き合っている、というがそれは嘘。嘘がバレないように、そのシチュエーションを体験させてほしい、ということになって……
ということで、デートやら何やらをする、というのが続いていく。ただし、そこに東雲の監視もついて……
ラッキースケベ的なハプニングやら何やらがあって、と言う中で、なぜか愛沢と良いムードになると東雲が不機嫌になって、というシーンも繰り返される。普段から裏表があって、裏の顔で耕介を奴隷にしたいとかそういっているけど、明らかにツンデレ系暴力ヒロインという感じよね(常に、耕介を踏んでいるし) テンポとか、そういうのは良いのだけど、展開とかやりとりとか、そういうのがどこかで見たような展開、と言う感じ。
勿論、お約束展開、でもそれを上手く料理して、っていう作品も多いのだけど、1巻を読んだ時点ではあまり特色みたいなものを感じなかった。

No.5476

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密偵手嶋眞十郎 幻視ロマネスク

著者:三雲岳斗



第一次大戦後の日本。他者に自らの幻影を見せる、という特異な能力を買われた手嶋は、防諜組織・内閣保安局六課の密偵として活動していた。そんな活動の最中、新聞社に、中堅商社・久慈川貿易と軍が癒着している、という書状が届く。だが、その密告者は謎の死を遂げてしまう。そんな中、未来視の出来る少女・志枝と出会い……
一応、異能力バトルという側面はあるのだけど、中心となるのは、その事件が何なのか? という部分。
陸軍と久慈川貿易の癒着。その内定調査をし、関連のあった陸軍中佐を逮捕。そんなところから開始された物語。しかし、その中佐は殺害され、さらに情報をリークした男も不可解な死。その情報源の妹の警護をすることになる手嶋だが、陸軍の内部に不可解な動きがあることがわかり……
事件の発端となった久慈川貿易がやっていたこと。その影で動く陸軍。その中で見え隠れしてきた陸軍のある計画。それは、未来視の力とも関係してきて……。歴史を見ればわかるように、第一次大戦が終わった直後の日本。一応の平和がもたらされたとはいえ、国際状況はひっ迫した状況にあり、同時に人々の危機意識は薄い。そんな状況に苛立って……という焦り。その中で立案された陸軍の計画。だが、その裏に更なる計画が隠されていて。
異能力バトルの面は確かにあるのだけど、ただの癒着という問題が二転三転していく、という展開が素直に面白かった。
その上での、「未来視」の持つ意味。将来、このような状況になってしまう! それを知ったとき、人が何を思うのか……。事件の黒幕は、ある意味で、状況を回避し、最悪を避けようとしたこと、なのだろう。ただし、では、そのための犠牲を作ることが果たして人々、国のため、と言えるのか?
そして、何よりも歴史というのは積み重ねである、という点。ある時点を切り取って最悪だとしても、しかし……。歴史はそこで終わるわけではないし、常に進んでいくもの、というある意味では当たり前のことだが、それを忘却してしまう、ということも当然に起こる。手嶋と黒幕の戦いにおける両者の考えの違い、というのが印象的だった。

No.5475

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丑三つ時から夜明けまで

著者:大倉崇裕



犯行現場は完全なる密室、容疑者には完璧なアリバイ。こんな事件は、幽霊の仕業に違いない! 霊能力者ばかりを集めた静岡県警捜査五課は、そんな事件を専門に扱う特殊部隊。捜査一課の刑事である私と、上司の米田は、事件の現場でそんな5課とぶつかることになって……
5編を収録した連作短編集。
物語の前提として、人間の霊というのが存在することが証明された、という設定がある。霊感などがない人には、その存在を認識できないし、また、その死んだ状況などによって特殊な力を持つ。さらに、幽霊だから何でも出来る、というわけではなく、幽霊が存在できるのは、死後1年間に限定されるし、また、地縛霊などのように移動が出来ないものも存在する。
裏表紙の粗筋では、「ユーモアミステリー」とあるのだけど、ギャグというよりも、その設定の特殊さ、というのが大きいように思う。
で、そんな物語はある程度、パターンが決まっている。事件が発生。その事件は不可能犯罪で、捜査一課の主人公(私)、米田らが出張るのだが、そこには五課の課長・七種も現れ対立。そして、私は七種とコンビを組むことに。そして、七種は、幽霊関連から捜査を見ていくが、それは失敗。一方、米田は、名(迷)推理を披露するが、それも……。その上で、という形になっていく。その七種と米田のやりとりとかは、ギャグと言えばギャグなんだけど、笑いを取りに来ている感じではないんだよな。
個人的に面白かったのは4編目『幻の夏山』かな? 事件を捜査中、犯人に射撃をし、重賞を追わせてしまった米田。謹慎というか、休暇となった米田は、趣味である山登りへと向かう。私もそこに同行するのだが、天候不順で山小屋へ宿泊することに。ところが、その最中に撃たれた犯人は死亡。そして、山小屋でも殺人が……。米田が射殺した犯人の復讐? 不可解な行動をとる宿泊客に獲り付いた? そう思ったところで……。そこまでのパターンと変えてきて、最後の最後にでっかいオチ。
そして、最終編の『最後の事件』。これにて、物語そのものが完結と言う感じ。それまでの4編の中での違和感とか、ちょっとした設定の部分を上手く説明しての終わり方は上手かった。

No.5474

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著者:旭蓑雄



毎日、終電で買える日々を送るワーカホリックな拓務。そんな彼の家の隣に引っ越してきたシノさんは、何でだか知らないが、拓務の世話を焼こうとしてくる。温かくて美味しいご飯に、汚れ一つ見落とさない掃除。あまつさえ、膝枕に添い寝まで……。しかし、仕事がしたい拓務にとって、厄介者でしかないのだが……
まぁ、ネタバレになるけど、シノは怠惰の悪魔。そんな関係で、とにかく拓務を怠惰に、というのが彼女の狙い。
正直なところ、設定としては『世話やきキツネの仙狐さん』に通じるものを感じるのだけど、この作品の特徴としては、拓務がシノを厄介者扱いをしているところ。そして、シノの行動について色々と奇妙な言動をする、っていうところだろう。
色々と甘やかしてくるシノに対して、「シノさんだって、自分のために働いているじゃないか!」的な発言を平気でしてくる。まぁ、自分が働いているのに、「お前は働くな!」と言う言動しているシノさんの言動っておかしいんじゃないの? というのは、ある意味、五分五分の関係性である、と仮定した場合にわからんではない。わからんではないけど、素でそういうことを言える拓務。しかも、毎日、朝一で出ていって、終電で帰宅する、という生活について何の違和感も感じていない、とか、そういう部分を加えると……という風にはなる。
その一方で、シノさんは、というと……前作の夜美同様、結構なチョロインっぷりが楽しい。「自分の世話をしてくれるのは、僕を好きだから?」と尋ねられてしどろもどろになったり(もっとも、真顔でそれを尋ねることが出来る拓務も拓務、とは思う)とか、かなりもの。続けて読むと、著者は、こういうヒロインを書くのが得意なのだろう、とは思う。
そんな中で、シノを慕うアイドル『怠坂46』のマナがちょっかいを出してきたりとか、ラブコメとしての要素も色々と見え隠れしていて……。後輩の宮本さんも何かありそうだし……
まだ、シノが拓務をなぜ選んだのか? とか、その辺りとかは見えていないし、そういう意味で2巻目に期待、かな?

No.5473

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還りの会で言ってやる

著者:八重野統摩



いじめをする奴は悪い奴だ。しかし、それを見過ごす奴だって最悪だ。そんなことは理解しつつも、おれは、幼馴染の柚舞がいじめを受けているのを知っていながら、そのことから目をそらし続けていた。そんな日常に終止符を打とうとしたそのとき、おれたちの前に現れたのは宇佐部という男。そいつは、柚舞をダメ人間と口にした後、そんな柚舞を社会復帰させるためのサークル『還りの会』設立を宣言し……
個人的に、2018年に読んだ本の中でベスト級作品だった『ペンギンは空を見上げる』。その作者のデビュー作ということで手に取った。もう8年前か……
物語の導入は冒頭に書いた通り。いじめを受けている幼馴染の柚舞を助けよう。そう思ったところで現れた宇佐部。その宇佐部と同じ大学に通うハル。そんな4人で、柚舞の問題を解決するためのチームを作る。そして、いじめの中心にいるのは、クラスの女王として君臨する三瀬野。そんな状況の中で、いじめを辞めさせるため、情報を集め、その証拠を握っていく。そして、その試みは……
いわゆるスクールカーストの変動。その中で、上に立つ者の器、とでもいうべきもの。その取り巻き。勝手な理屈で、取り巻きになり、そこから脱落すれば、それを容赦なく叩く。そんな学校の中での空気管みたいなものが強く感じられた。
まぁ、元々、電撃小説大賞の応募作ということで、キャラクター設定とかはかなり尖った感じで、そのやり取りもライトノベルのそれ。そして、終盤に起こる事件については、ちょっと犯人が(一応の伏線があったにせよ)こいつ誰? みたいに感じるところがあったのは確か。その辺りはちょっとマイナスかな? と。

No.5472

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著者:平鳥コウ



異世界へと転生したハルたちの生活は続いている。その世界の面々のエピソードを綴った短編集。
本編と言える前作は、異世界の中での差別とか、女性たちの生きづらさ、とか、そういうものがかなり強く描かれていたように思うのだけど、本作の場合、シンプルにそこに出てきた面々の話という印象。ちなみに、本作の場合、ハル以外の視点で綴られている。
ハルと共に異世界へと転生した千葉の前日譚やらを描いた『いつかヒーローみたいに君のことを救いたかった』。千葉が、現実世界で抱えた鬱屈とか、そういうものが描かれている話。まぁ、ある意味、現実世界の中でスクールカーストとでもいうべきものが低いオタクと呼ばれる存在。その鬱屈した想いと、ひそかに憧れるヒーロー願望。そういうものはわかる……気がする。ただ、全3作に渡って、この1冊の中で何度も同じシーンを繰り返す形で綴られるので、ちょっと冗長さも感じられるかな? と言う風に思う。
そんな千葉が……という『夜想の青猫亭殺人事件』。これは……、1編目でちょっと共感した千葉に絶望したよ!(笑) お前、何しとんねん!
キャラクターの中で、一番好きだったスモーブ視点の『ジェイソウルブラザーズキッチン』。ハルのことが好きで、そして、料理人としてのスキルは確かな人物であるスモーブ。そんなスモーブが、料理人としての日常を送る。そんな店には、ハルだけでなく、その同僚たちもやってくる。対人関係、特に、女性と話すのが苦手なスモーブは、キヨリのある意味、ストレート過ぎる物言いにドギマギする。他意はない、とわかっていても……。やっぱり、スモーブ、可愛いんだよな。同様のところで、『ラーメンは青春だ!』については、全く情報がないところで、でラーメンを作っていく、というある意味、無茶ぶりも良いところでの話に笑った。でも、その中で、それなりのものを作るスモーブ、やっぱり料理人としてのスキル凄いわ。
まぁ、各エピソード、それぞれ、キャラクターのちょっとしたエピソード集ということもあり、テーマ性とか、そういうのはそれほどあるわけではない。そういう意味では、ファンブックみたいな、そういう側面が強いのかな? とも思う。

No.5471

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きのうの春で、君を待つ

著者:八目迷



父と住む、東京の家を家出し、かつて住んでいた離島・袖島へと戻ってきた船見カナエ。幼馴染のあかりと再会を果たすのだが、そんな中、意識がとび、気づくと4日後へ。しかも、その間に、あかりの兄であり、カナエにとってのヒーローでもあった彰人が不可解な死を遂げていて……。彰人を救うため、時間移動の中で動くカナエだったが、そのなかであかりの秘密が明らかになっていって……
著者の前作『夏へのトンネル、さよならの出口』同様、本作もタイムリープが題材の物語。
ただし、本作の場合、その時系列の変化がちょっと特殊で、1日進んで2日戻る、という変則的な設定に。すなわち、いきなり4日後に意識が飛ぶわけだけど、そこから24時間が経過したところ(最初から数えれば5日後)から、2日前に戻って、という形になる。当然、その前に何が起きていたのか、などは自分はわかっていないが、しかし、自分の意識の感覚でいえば24時間後に行うことと続いている、という状況。そんなカナエの事情を知っているのは、幼馴染のあかりだけ。説明口調で書くと、却ってややこしくなった気がする(笑)
そんな物語は、カナエがあかりの兄・彰人を救う、という目的になるのだけど、その中で、島を離れていた年月の移り変わりとか、そういうものが残酷であり、同時に美しい、と言う感じがする。
なぜ、カナエが彰人を救おうとするのか? それは、カナエにとって彰人はヒーローであるから。島の弱小校であった高校を甲子園へと導いた島にとってのヒーロー。さらに、幼いころ、イジメにあっていたカナエの、心の支えにもなっていた存在。現在は悪評もあるが、しかし……。その一方で、カナエが島を離れていた数年間の間に、彰人は……。
彰人をヒーローとして救いたいカナエ。一方、変わってしまった兄、貧しい家庭。その中で、幼いころから思っているカナエと同じ大学へ行きたい、というのが願いになっていたあかり。しかし、彼女の想いはまた、兄によって……。そのすれ違いが切なく、その中でカナエが取ろうとする行動もまた変化していく。そして迎えた彰人が死ぬ運命の日……
2年間という空白の時間の中で変わってしまった人間関係。そして、タイムリープをする中で変化していく人間関係。結末もまた、そのテーマに沿った形のものだった、というのがよくわかる。結構、ヘビーな物語ではあるが、しかし、希望のある終わり方。読後感も凄くよかった。

No.5470

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引き抜き屋2 鹿子小穂の帰還

著者:雫井脩介



新米ヘッドハンターとして働く小穂は、様々な依頼に悪戦苦闘しながらも、その仕事に対しやりがいを見出していく。そんな中、父の会社が経営危機に陥っていることを知り……
昨日更新した『引き抜き屋』の第2巻。
1巻のときは、ある意味、ビギナーズラック的な部分も含めて、小穂が手掛けた事案が成功する話だったのだけど、今回はむしろ、苦戦する、という話が多くなっている。
1編目『苦心』。小穂が受けたのは、従業員30人余りのカバンメーカーの後継社長を探してほしい、というもの。長年、老齢の社長が経営を一手に担い、役員という立場の人間も、あくまでも現場で作成を担うだけ。自分には無理だと述べる。会社の技術、何より社員たちのためにも、と考える。しかし、小さな会社ということで、引き受けるプロ経営者の将来を考えると依頼がしづらい。その一方で、家族経営にも近い会社だけに、その空気を理解する者が望ましい。そんな中で、浮かび上がるのは……
それなりの規模がある会社とは異なった、ワンマン社長の会社。それ故の難しさ。小穂の一生懸命さと、社長の、個人的な人間関係が影響してしまった結末は、ほろ苦くもあり、でも収まるべきところに収まったように感じる。
異例の形なのは2編目『報復』。同僚である左右田と共に挑むのは、拡大を目論むカフェチェーンの戦略担当をチーム丸ごと連れてきてほしい、というもの。そんな中で、左右田は、メガネチェーンの部長に目をつける。勿論、その部長は有能な存在ではある。しかし、左右田が彼に執着するのは、そのメガネチェーン社長に対する遺恨があるが故。一方、そのメガネチェーンでは、派閥人事などの争いがあり……
そもそも、引き抜き劇の中心が左右田、というだけでも異例だけど、左右田がアイドルオタクで、そのコンサートに行ってみたり、とか結構、遊んでいる感じの話。そして、その結末も……だし。ただ、本来、客観的な視点で、ということになるはずのヘッドハンティングだけど、ハンターの個人的感情とかが絡んでくる、という部分などは興味深く読めた。
そして、3編目の『帰還』。海外資本の化粧品会社の日本法人社長を、という依頼が入る小穂。それ自体は順調に進むものの、その中で耳にする父の会社の危機。その会社の危機の中、怪しげな動きを見せる大槻。しかも、父の会社で事故も発生して……。極力考えないようにしていた父の会社のこと。しかし、いざ、危機が訪れる中で思う「何とかせねば」という想い。ある意味では、このエピソードの小穂は、帰還ではあるのだけど、同時に報復とも取れて……という感じがした。正直、その結末は上手くいきすぎじゃないか? とも思うのだけど、それは野暮かな?
自分としては、あまりこの手の作品は読まないのだけど、会社、人事と言ったものを巡っての駆け引きとか、そういうものを楽しむことが出来た作品だった。

No.5469

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