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テロリストの家

著者:中山七里



イスラム国によるテロが激化する中、それに関連していると思しき人物を内偵中の公安刑事・幣原は突如、その任を解かれてしまう。何が? という戸惑う中、間もなく彼を待っていたのは、大学院生の息子がテロリストに志願した、として逮捕されてしまう。幣原は、家族からは息子を売った、と、そして警察組織からは犯罪者を生んだ、として孤立していき……
12か月連続刊行企画の1作。
やっぱり、この企画、無理があるよな……と、何度目かの感想。
物語は粗筋で書いたように、公安刑事である幣原の息子が、イスラム国のテロリストに志願した、として逮捕されて……という形で始まる。家族、そして、警察の双方から幣原は冷たい視線を浴びせかけられ、ニュースなどはこの事件を大々的に報道する。その中で幣原は、自分が家族について何も知らないことを思い知らされる。
という風に書いたわけだけど、まず思ったのが、序盤の展開がちょっと前に読んだ同著者の『夜がどれほど暗くても』とほぼ同じ。警察官か、週刊誌記者か、という違いはあれど、追及する側が追及される側に回り、メディアから激しい糾弾を浴びる。そして、自分は家族のことを何も知らない、という事実を突きつけられる、という部分はまるっきり一緒。コピペかと思ったくらいに。
勿論、そこからは違った展開にはなるんだけど……。そもそも、職業上、仕方がないとはいえ、幣原自身が息子のことを信じておらず、しかも、就職に失敗して大学院へ行ったことも詰る。さらに、どちらかと言えば保身のために、息子に対して本当のことを言えと迫る。この辺りで、幣原に感情移入氏がしづらい。しかも、その息子が事実上、軟禁状態の家から脱出して何者かに殺害されてしまう、という失態まで犯すから余計に……
別にイスラム国を擁護とかするつもりはないけど、実在する組織とかを出している割に、その辺りの掘り下げなどがない。こういう部分、しっかりと取材して、掘り下げれば、それだけでも面白いと思うんだけどなぁ。しかも、なぜか終盤、妻がとんでもない暴走を始めてしまう。息子を殺害した犯人の特定も、かなり強引な気がするし、最後の最後に判明する真相も……。これ、警察の捜査が粗雑なだけやん!
いつも通りのテンポの良さはあるのだけど、色々な要素の掘り下げとか、そういうののがなく、手癖で書いただけのように思える。

No.5665

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ルパンの星

著者:横関大



泥棒一家の娘・三雲華は、刑事である夫・桜庭和馬と共に小学生になった娘・杏の育児に追われる日々。そんな中、目下の悩みは、その娘・杏が祖父母らが泥棒だと気づいてしまったこと。祖父母らが杏を泥棒に、というのを防ぎたいのだが……。一方、相思相愛だったはずの渉と突如、別れを迎えた探偵一家の娘・北条美雲はそれ以来、大スランプ。そんな中、彼女の勤める警察署管内で元警察官が殺害される事件が発生。久々に、和馬とコンビを組むことになるが……
シリーズ第4作。
ほんの少し前に第3作の『ホームズの娘』を読んだばかり、ってこともあるんだけど、そこで相思相愛だったはずの美雲と渉が破局後、っていうスタートにまず驚いた。
で、今回、華は完全に主婦業、娘の育児という部分で話が進み、犯罪などには関わらない。その一方で、犯罪は美雲、和馬という形になり、二つの物語が同時進行で進む形になっている。
で、華のパートは文字通りに子育ての悩み。泥棒一家である華の両親は、運動能力が飛びぬけており手先も器用な杏に「泥棒としての」将来を期待。目の前で盗みをしたりして、自分が泥棒であることをアピール。杏も、何となく、ではあるが、祖父母らが普通ではないことに気づきつつある。しかし、華としてはそれは避けたい事態。じゃあ、和馬の一家である警察なら……というと、そうでもない。警察官を目指すために剣道を教えてはどうか、という桜庭家の提案にも乗り気にはなれない。あくまでも、娘がやりたいことをしてほしい、と願うだけだから……。特異なシチュエーションでの悩み、というのが凝縮されたような話になっている。
一方の和馬、美雲。有能だと評判の上司が赴任し、その下で元警察官殺しの捜査が開始。しかし、どうにも美雲の動きが悪い。そんな中で、さらに元警察官が不可解な死を遂げる。元警察官同士が争い、その結果、加害者が自殺をした、として集結しそうになるが、和馬らは納得が出来ず、独自に捜査を続けて……。謎解きとか、そういう部分での魅力という意味ではこちらがメインかな? ただ、結構、強引なまとめと、その背景に……がお約束であるため、そこまでのサプライズはなかったが。
そういう意味では、物語のメインは、渉と美雲はなぜ破局したのか? ってところだろうか? 前巻で書いたように相思相愛で傍から見てもぴったりの二人。そんな二人がなぜ? しかも、双方、理由については頑なに口を閉ざしている。そこに何があったのか? ……まぁ、そんなことだろう、という気はする真相ではあるのだが……それもお約束、かな?
だんだんと、シリーズの「お約束」が定着してきたな、というのを感じる。謎解きとか、そういうものよりも、華、和馬、美雲辺りを中心にキャラクターたちの魅力、ドタバタという楽しむシリーズができあがってきたような印象を受ける。

No.5664

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畏修羅 よろず建物因縁帳

著者:内藤了



仙龍を救うため、隠温羅流についての本格的な調査に取り組むことを決意した春菜。その一歩として、コーイチと向かうは出雲の地。だが、そんな中、彼女の勤めるアーキテクツでは、不可解な出来事が頻発していた。そして、そのターゲットは役員として就任した手島のようで……
シリーズ第8作。
今回は、実質的に二本立ての物語、という感じ。それは、冒頭に書いた隠温羅流というのが何なのか? という調査・考察と、アーキテクツで起こる怪異への対処。
前者については、文字通りの、民俗学とかそういう感じで楽しい。元々は、岡山にあると言われるそのルーツ。そして、たたら製鉄との関り。しかし、火の関りと、水に関わる龍という存在。その辺りにどのような繋がりがあるのか? そして、鬼、である温羅を「隠す」というのはどういうことなのか? 霊力みたいなものが前提になっているので、ちょっとファンタジー的な要素はあるのだけど、それでも文献とか、そういうものを辿りながらの考察が面白かった。
一方で、アーキテクツで起きている怪異。最初はトイレに。そこからだんだんと、新たに就任した役員の近くへ……。その役員・手島は、過去に女性問題を次々と起こしており……
この手島……本当にロクデナシの極み。職場では、とにかく傲慢で上から目線で気に食わないことがあれば怒鳴り散らす。そして、私生活でも先に書いた通り。そして、手島を狙う怪異は、手島が過去に起こした女性問題の結果……という女性。けれども、決して非を認めず、それどころか気にしない。結果、手島の妻などにもその魔の手が……。だんだんと恐怖を感じる手島だが、しかし、態度は相変わらず。
春菜じゃないけど、もう、ここまで来れば「勝手にすれば?」という感じすらするような奴。ただ、それでも……となるのは、手島のため……ではなく、相手の女性のため。「人を呪わば穴二つ」ではないけれども、そこまで行ってしまったら、その女性こそが救われないことになってしまう。見方を変えれば、と言えばそうなのだけど、このあたりの因果応報という呪いとリンクしている、と言えるのだと思う。この辺りは、隠温羅流の話にも繋がっていくのかな?
シリーズ全体を見渡したとき、これまでは仙龍が……というところから、春菜が具体的に呪いを解除するために……というターニングポイントとなる話でもあり、今後、民俗学的なカラーとかもどんどん強くなっていきそうな予感がある。

No.5663

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処刑少女の生きる道4 赤い悪夢

著者:佐藤真登



「メノウちゃんが死んじゃうくらいなら、世界なんて滅んでもよくない?」 メノウの前から消えたアカリとモモ。信頼する後輩の裏切り。さらに経典から響くサハラの声に悩みつつも、メノウは2人の追跡を開始する。一方、逃亡したアカリとモモは、衝突を繰り返しながらも「メノウ第一主義」で……
2巻、3巻とシリアスな展開が続いたためか、この巻はユルい部分が目立ったかな?
物語は、逃亡を続けるアカリ&モモ、と、2人を追跡するメノウという二つの視点を中心に展開。
アカリ&モモは、とにかくひたすらに衝突。メノウ第一主義、という部分では共通しているのだけど、口を開けば互いをボロクソにこき下ろす、というそんなやりとり。そんな二人が潜伏することにしたのは、山間の温泉の街。人の出入りの激しいそこならば、という風に考えるわけだけど、そんな二人を狙う第四身分の人間の襲撃などもあって……
襲撃は受けるんだけど、見習いとは言え、処刑人であるモモに叶うはずがない。その結果、崇高なる意思をもってことに及ぼうとしているはずの襲撃者が次々と「性犯罪者」として捕まっていくのは悲しすぎて笑う。しかも、目的が目的なので、「性犯罪者ではない」ということが憚られる。というか、「性犯罪者」扱いの方が他の仲間が助かる……っていう悲しすぎる事情が余計に哀愁を誘ってくれる。
一方のメノウは、ただモモらに裏切られた、というだけでなく、金銭まで奪われてしまう。勿論、金を稼ぎながら、という方法もあるわけだけど、それでは追跡に時間がかかりすぎる。そこで、下げたくはないが、アーシュナに頭を下げ金を借りることに。しかし、その条件は、男装執事としてアーシュナの身の回りの世話をする。……そっちの方が面白そうだから、というだけの理由でメノウを振り回すアーシュナも大概ではある……
物語の大半は、そんな感じでの話。ここまで書いたように、話の流れは結構、ユルいのだけど、その中でアカリとモモの、「メノウ大好き」が拗らせすぎている状態である、というのが凄く今後への伏線になっていくのは間違いないところ。二人とも「メノウを死なせない」というのが目的ではあるんだけど、モモに関してはそのために……という凄い計画を立て始めてしまうからなぁ……。多分、この思惑がそのままメノウにバレたら、ますますメノウを、ってことになると思うのだけど、多分、モモはそれでも構わない、ってことなんだろう。ある意味、自己犠牲的な覚悟ではるんだけど、今後を考えるとすごく重要な巻であるのは間違いないと思う。
そんな中でメノウの師匠であるフレアとの対決へ……という形で終わるわけだけど、どう考えても、一筋縄にはならないよな……

No.5662

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またもや片想い探偵 追掛日菜子

著者:辻堂ゆめ



日々、「推しゴト」に忙しい女子高生・日菜子。グッズを集め、SNSで情報収集をし、スケジュールから目撃情報までをこなす。そんな日菜子の「推し」だが、なぜかトラブルに巻き込まれて……
というシリーズ第2作の連作短編集。
前作は、殺人事件とか、重大な刑事事件もあったのだけど、今巻は1、2編目の話くらいで、あとは日常の中(?)でのトラブルという印象。普通に考えて、ただの(?)女子高生が刑事事件などを解決する、というのはちょっと……っていう部分があるわけで、身の丈にあったレベルになったかな、と。
その上で言うと、結構、時事ネタというか、そういう感じの話が多い印象。
例えば、3編目『クイズ王』は、文字通り、テレビのクイズ番組で活躍する現役大学生に片思いをした日菜子。そんな彼の出場するクイズ大会の観覧に出かけるのだが、ネット上では、番組制作スタッフから問題を予め教えてもらっている、という告発が出てきて……。丁度、昨今、テレビでこういうの多いよな、というのをまず思うところ。それと、ネットでの情報リークという問題を上手く組み合わせている。そして、そんなトラブルの解決について、日菜子が行ったのは……
これは、確かに、こういう方法はある! 別に、特別な技術が必要なわけではない。けれども……。真相、それが分かった後に日菜子の熱が冷める瞬間……と、話のまとまり、という意味では一番じゃないかな?
4編目『友達のパパ』は、こだわりのラーメン店の店主に対して、という話。お約束、が多いラーメン店に現れた、それを守らない客。そんな客は、そのトラブルからネットのレビューサイトに低評価をして……。これも、飲食店のレビューやらで……というのが横行しているだけに現代的。その中で、スープにコバエが……というのを解決するだのだけど、謎解きそのものよりも、その犯人の立場っていうのが印象に残った。元々、好きだから始めたレビュー。けれども、利害関係とか、そういうのもある。その中で、自らの良心も少しはあって……。この犯人の行動は褒められたものではないのだけど、でも、だからと言って全くの悪人というわけではない、という部分が印象に残った。
各編、日菜子の「推し」が変わって、トラブルを解決するけれども、最後は冷めてしまって……という流れは前作同様。ただ、その冷め方がちょっとワンパターンだったかな? というのはちょっと残念。

No.5661

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揺籠のアディポクル

著者:市川憂人



外界から処断された無菌室。そこで暮らすタケルの、唯一の同居人は、隻腕義手の美少女・コノハ。医師である柳と、看護師の若林。わずか四人しかいないクレイドルと呼ばれるそこでの平穏な日々。だが、大嵐の夜、貯水槽により通路を破壊され孤立してしまう。そして、不安と焦燥を胸に抱えて眠るタケルとコノハ。しかし、タケルが目覚めると、コノハは胸にメスを突き立てられて死亡しており……
物語のシフトチェンジとでも言うべきものが凄いな。
物語は3章構成で、第1章はタケルとコノハが過ごす無菌室での日々。当初は折り合いの悪かった二人。しかし、だんだんと打ち解け、同じ場所で同じ時を過ごす仲間として時間を過ごす中、タケルはコノハに対しての想いも抱くように。そんな中での嵐と直後の事件……。無菌室で、どのようにして事件が起きたのか? そして、コノハの遺体には……。ここまでは、病棟の部屋の配置がどうとか、そういう形のまさしく本格モノという様相。ところが、タケルがある結論に至って……
で、物語は急展開。それまで、無菌室の中だけで生きてきたタケル(ひいては読者)が考えていたのとは全く違った世界。自分たちは、一体、どこで暮らしていたのか? 自分たちは何なのか? そして、そもそも、この病院の秘密は何なのか? と一気に物語が変化していく。そして、そういった諸々の先にタケルがたどり着いたものは……
本格ミステリか、と思わせる序盤から始まって、全く違う方向へとひた走りだす物語。舞台の秘密が明らかになり、そして、再び、コノハは何故死んだのか? という結論へと収束する。物語の舞台、様相の大胆過ぎるほどの変化に何よりも惹きつけられた。場合によっては、期待していたのはこれじゃない、というケースもあるかも知れないし、強引さというのはある程度は感じる。けれども、徹底的に作りこんだ世界観だからこその物語であることは間違いないと思う。

No.5660

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著者:二月公



「コーコーセーラジオ!」の新コーナーも評判が良く、晴れて穏やかな日々を取り戻した由美子と千佳。しかし、由美子は先の騒動の影響もあり、仕事が入らない状態。さらに、声優活動も4年目に入ろうとしており、勝負の時を迎えていた。そんなとき、神代アニメで千佳の宿敵役に抜擢され……
あ、これガチな奴だ。
……と書くと物凄く語弊のある言い回しになってしまうのだけど、これまでの2巻とはカラーの違うエピソードが入ってきた、という感じ。というのは、これまでの2巻は「声優ラジオ」ということもあり、ラジオ、アイドル活動、そして、ファンとの関係性というのが主軸と言える話。逆に言えば、「声優」としての本来の活動である演技という部分が、これまではあまり描かれてこなかった。それが、この巻で……
そももそ、受かるとすら思っていなかった大役。現場には、ベテランの声優陣が揃う、という状況。役作りはしてきたが、しかし、次々と出されてしまうリテイク。そんな由美子にベテラン声優からかけられる叱責の声。そのような中で、由美子は迷いに迷う。
これまで、自分が演じたことがないような役柄。しかも、周囲を取り囲むのは、演技の世界では自分よりもはるかに経験も実績もあるベテランばかり。当然、要求される演技のレベルもそれに伴ったもの。唯一の知り合いと言えるのは、同級生であり、ラジオでも共演する千佳のみ。しかし、だからこそ、千佳は、由美子にとってのライバルであり、そんな彼女に頭を下げたくない。だとしたら、由美子にできるのは……
別にスポーツではないのだけど、居残りでのリテイクとか、そういうのって、スポ根モノのような感じ。そして、色々と言いつつも、そういう居残りに付き合う千佳というのは、過去2巻での積み重ねがあってのものだろう。そうやって、だんだんと場にも慣れていく。しかし、由美子の最大の見せ場とも言える回の収録で……
ライバルというのをどのような存在として位置づけるのか? 先に、「これまで、声優としての演技などをクローズアップした話がなかった」という風に書いたけど、逆に言うと、この話のために、それまで描かなかったからこそ光ったようにも思う。
溜めに溜めたからこそ、の話じゃないかな? という風に感じる。

No.5659

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ホームズの娘

著者:横関大



探偵一家に生まれ、警視庁の刑事となった北条美雲。新米刑事ながらも、次々と難事件を解決していく彼女の心にあるのは、以前の事件捜査で知り合った一人の男性・ケビン田中。しかし、彼は、泥棒一家である三雲家の長男・渉であって……
シリーズ第3作。
と言っても、過去の『ルパンの娘』、『ルパンの帰還』の主人公は、泥棒一家である三雲家の長女・華と、警察一家である桜庭家の長男・和馬だったわけだけど、今回は探偵一家である北条家の一人娘・美雲が主人公。和馬や華も当然、物語に関わってくるわけだけど、雰囲気としてはスピンオフ的な部分も強いかな? というのを感じた。
物語の中心にあるのは、美雲と渉の話。とにかく、美雲が猪突猛進過ぎてすげぇな、という感じ。
物語は、勿論、刑事である美雲、和馬もその事件に関わってはいる。レストランオーナーの妻の殺害事件とかの解決とかもある。あるのだけど、トリック自体が結構、アッサリとしている感じだし、また、その背景に「モリアーティ」という計画を提供する存在がいる、というのは出てくるのだけど、前作を読んでいれば、「きっと……」っていうのがあるからね。それよりも、という感じになる。
で、その美雲の猪突猛進っぷりときたら……
和馬らをして「恋は盲目」じゃないけれども、ケビン(渉)の仕事とかについて怪しいところがありつつも、関係なし。側近である猿彦が注意をしても気にしないし、当たり前のように親に紹介したりもする。そして、渉の家族である三雲家の人間に反対をされても却って燃え上がる。その部分が印象的。まぁ、渉の方も、ハッカーではあるのだけど、美雲に対しては誠意があるし、彼も彼で美雲のことを心から愛している、っていう状態なので、微笑ましいのは間違いないのだけど。そして、その決着の仕方は……解決になっているのか? まぁ、本人たちが納得しているなら良いのかもしれないけど。
物語は終盤、計画提供者であるモリアーティとの対決へ。その中で、例の人物の過去なども描かれ、さらに渉のハッキングの腕なども描かれる。その辺りで、活躍の場を与えているのは良いのだけど、何か最後が中途半端な感じなのが気になるところ。前作『帰還』でも同様に感じたことなのだけど、続きが前提なのかな?
既に4作目『ルパンの星』も刊行されており、手元にもあるので、そちらも早いうちに読むつもり。

No.5658

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ムシカ 鎮虫譜

著者:井上真偽



スランプに悩む音大生グループが、気分転換のために訪れたのは小さな無人島。そこには、霊験あらたかな音楽の神が祭られているという。だが、上陸した彼らを待っていたのは、巨大で凶暴なムシたち。そして、そんな彼らの前に、ムシを鎮める巫女たちが現れ……
久々に読んだ著者の作品だけど、また、これまでと全く違う印象の作品だった。
物凄くザックリとジャンル分けをすると、パニックホラーというような感じになるのかな?
勝手に忍び込んだ島。そこで、音大生グループを襲う巨大で凶暴なムシ。その中で音大生グループははぐれ、音楽を操る巫女たちによって一命をとりとめる。音楽を聞かせることで、そのムシたちは凶暴さを失い、去っていく。そして、その島には「手足笛」と呼ばれる楽器が存在しており、それこそが虫を鎮めることが出来る法具として存在している。しかし、その手足笛に対しては、様々な恐ろしい伝承がある。その一方、そんな手足笛を盗もうとする存在も島には来ていて……
ムシたちの襲撃。そこから逃げる、という中での攻防。勿論、音大生なので楽器などは使えるが、スランプに陥り、音楽の道を諦めかけている者。ずっとやってきた楽器を捨てたが、しかし、演奏せざるを得ない者。やりたくない。しかし、生きるためには……そんな思いと共に、ひたすらそんな攻防が繰り広げられていく物語と言える。ムシという、感情などを感じさせない生物だからこその不気味さと、島に伝わる伝承、黒い噂。そういうのが重なっての、終始続いていく「嫌な雰囲気」というのはパニックホラーものとして十分な牽引力を持っている、というのを感じる。
そうして、たどり着いた「手足笛」とはいったい何なのか?
一応の一つの回答が示され、そして、物語自体もひと段落をするのだけど、それで終わるものなのかな? というのはちょっと思った。綺麗に終わってはいるけれども、これがトラウマになるケースだってありそうだし。まぁ、ちょっとモヤモヤの残る結末っていうのも、こういう作品の味、と考えれば良いのかな?

No.5657

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著者:中村啓



警視庁の警視正・小比類巻は、電車の中で亡くなったはずの妻と瓜二つの女性と遭遇する。その女性・黛美羽は、他にも自分とそっくりな女性がいる、というのだが、その美羽が何者かに殺害されてしまう。そんな事態に戸惑う中、遺伝子操作の研究をしていた大学教授が、ミイラのような死体で発見され……(『編集される生命』)
からの3編を収録。
という風には書いたのだけど、物語は大分、小比類巻の妻、そして、一種の宗教団体であるボディハッカー・ジャパンとの関わり、というのが強く押し出されてきた、というのを感じる。何しろ、物語のテーマというのが、それぞれ、「生命を作り出す」というような部分が共通しているわけだし。
で、粗筋で書いた『編集される生命』。遺伝子操作の研究者の異常な死。彼は、遺伝子ドライブを研究しており、繁殖できない蚊を作り出していた。そんなとき、ある意味で、ライバルと言える殺虫剤メーカーの研究者が彼に接近しており……。この話は関連してはいるけど、ちょっと独立した話。ただ、その中で遺伝子操作で生物を作り出す、ということの是非。遺伝子操作、というと悪いような印象もあるが、例えば、野菜でも、家畜でも、ペットでも、人間は生命を作り出してきた。それは否定されるべきものなのか? ある意味、ジャブ的な問題提起と言えるかもしれない。
そして、物語はいよいよ人間へと……。2編目『同じ夢を見るクローン』は、親は違うのだが、全く同じ顔をした少年が9人も失踪する、という事件。さらに、3編目『移植される記憶』は、臓器移植によってドナーの記憶が……という話。
それぞれの話は、確かに独立した話ではある。あるのだけど、この巻に至っては、話が進むにつれ、どんどんとテーマが絞り込まれていく印象。動物などの遺伝子操作が……というところから、では、それを人間でやるのは? さらに、それを利用して……というのは? それぞれのエピソードについて、実際にはそれは不可能だろうというレベルではある。あるのだけど、その中で綴られる倫理的な問題提起というのが非常に印象に残る。
そして、その中でボディハッカー・ジャパンという存在もクローズアップされてくるのだけど、それ以上に気になるのは小比類巻の想い。妻の死が受け入れられず、その遺体を冷凍保存し、治療ができるまで……と言うことをしている小比類巻。その立場って、人間のクローンとかを……というのと、方向性としては同じにしている、ともいえる。その時に、彼がどう動くのか?
物語としても、いよいよ煮詰まってきた、というのを感じずにはいられない。

No.5656

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