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著者:界達かたる



高校入学を機に、豪奢な屋敷・姫裏家にて住み込みのアルバイトを始めた僕・イサミ。メイド長を名乗るイグルミさんによれば、屋敷には三姉妹が住んでいるらしい。だが、長女は不在で、次女は放浪中。そして、三女のねむは部屋から出ることのできないという。そんなねむに引っ掻き回されるのだが、入学したばかりの高校では、姫裏家での暗い噂が広まっていて……
第7回講談社ラノベチャレンジカップ「優秀賞」受賞作。
これは自分の好みの問題かもしれないけど、イグルミとボケとそれに対するイサミのツッコミというのがちょっと長ったらしかったな、と感じた部分があったりする。
物語とすれば、屋敷での住み込みバイトを始めたイサミ。しかし、その屋敷では、三姉妹の両親が死亡しており、疑惑はその娘たちに。確かに、三女のねむは、部屋から出ると、周囲が真っ赤になって何も見えなくなってしまう、という心理的な視覚障害を背負っており、次女の五和もまた失語症を抱えている。さらに、イサミの元へ届く「近づくな」という警告のメッセージ。
最初に書いた、イグルミとイサミのやりとりを含めて、当初は日常的な、ほのぼのとした雰囲気だった物語がだんだんと血なまぐさい感じになっていく、というカラーの変化に惹きつけられる。そして、その中では、一人しかいないのに「メイド長」を名乗るイグルミとかにも疑念が向かっていって……
隠された真相については、「あれ、そっちなの?」という風に思った部分がなかったわけではない。ただ、考えてみれば、色々な真実の部分は明かされていたわけだし、考えさせ過ぎる、というようなところで上手くミスリードしている、という意味ではしっかりと策にハマった、という風にも言えるんだろうな。
まだ、色々と広げられそうな感じはするけど、話としてはまとまっているし、終わってみると、なかなか満足感も高かった。

No.4959

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著者:堀内公太郎



高校時代、クラスのトップに立ち、同級生を笑いながら殺した過去もなかったかのように平穏な日々を過ごしていた7人。そんな彼らの元に届いた同窓会の案内には、彼らが殺した者が主催者とあった……。誰が秘密をバラしたのか? 疑心暗鬼の中、始まった同窓会。しかし、そこで事件が起きて……
同じようなタイトルの『スクールカースト殺人教室』では、文字通り、「スクールカースト」というような説明とか、そういうものがメインに来ていたのだけど、本作の場合、その要素はあまりないかな? という感じ。どちらかというと、誰にも言えない秘密を抱えたかつての悪ガキどもと、そこに対する諸々……とでもいうか……
物語は、その高校時代の悪ガキ集団と、そんな彼らにイジメを受けていた女性刑事・南の視点を中心に綴られる。
文庫裏表紙の粗筋で、「登場人物全員クズ」とあるように、確かに、登場人物たちに好感を持ちづらい。その、高校時代のイジメ首謀者たち、の気持ち。学校内で上位だった、というけど、しかし、その中での人間関係は複雑。当時から、相手へ対する感情は色々とあり、その一方で、学校を卒業した後での人生でのすれ違いアリ。そのような中で、いざ、殺人が起きて……
どっちかというと、イジメ被害者であった南と、加害者であった面々の温度差とか、そういうところの方が印象的かな?
加害者側は、「やんちゃだった」とか、そういうことは言う。しかし、事実上の警報犯罪をしていた彼らとのやりとりにどうしても隠せない嫌悪感。しかし、それでも……と、平静を装いながら、事件に挑んて行く南……。それをある意味、からかう雑誌記者の環奈……。特に、イジメ被害者側であった南が、加害者たちの言い分にへきえきとしながら、一方で、その状況に怯えている様子に暗い快感を感じてしまうとか、その辺りに感情移入できるところが多くあった。
まぁ、終盤に入って、『スクールカースト殺人教室』の人物が登場して……とか、ちょっとアレ? と思うところもあったし、入れ替わり(?)トリックとかはちょっと無理がないか? と思うところもあったりはする。
ただ、B級路線の物語らしい感じで、雰囲気を楽しむことが出来た。

No.4958

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著者:犬村小六



「何百万人死傷しようとも構わない。俺はファニアのために、世界を焼く」 史上最大の軍を率い、革命の英雄となったルカは、事実上の独裁者として世界そのものを敵に回す。人びとから圧倒的な支持を得ながら、その中身は、というルカに対し、理想を追い求める第2執政のカミーユは悩み……
前巻の感想で、フランス革命の前夜みたい、というようなことを書いたのだけど、そこから言えば、今度は革命後のナポレオンという感じだろうか。
そもそも、ルカにとって反乱軍をまとめた理由はファニアと再会するため。彼自身に理想があったわけではない。そのファニアをジェミニに奪われ、それを奪還するのが目的となっている。世の人びとを、という理想に燃えていたカミーユにとって、その在り方は大きく目的とはずれたもの。しかし、一方で、有象無象の塊となっている共和国をまとめるには、ルカの存在が必要なのも確か。その狭間で悩むことになった中、ルカは世界中を敵に回しての統一を目指す。だが、そこにもジェミニの間諜が紛れ込み……
ナポレオン軍がそうであったように、確かに、戦いに行けば連戦連勝の強さを誇っている。しかし、その足元にある破滅の予感。その脆さは、ジェミニとの決戦を前に明らかになっていって……
そんな感じなのだけど、同時にその終盤に向けての話が、『三国志』とかにおける、三国鼎立がなったあと、当初からいた名将たちがだんだんと消えていく寂寥感。こちらも、ルカの右腕ともいえるメルヴィンであるとか、はたまた、当初から「結末」が見えていたはずのアステルの時間が残り僅かという雰囲気が共通しているような……。そして、そんな両者の話が組み合わさった結末は当然に……
というところで話としては、1つ区切りがついて、新章へ、という形で続いていくわけだけど……
ようやくタイトルでもある「ヴィヴィ・レイン」を巡る話がクローズアップされ、さらに、三層に分かれている世界観そのものが表出。ここまでの、戦の連続、という形での局地戦から、どういう風に変化していくのか気になるところ。

No.4957

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(書評)走馬灯症候群

著者:嶺里俊介



平成2年12月。通信会社NJTTの社員として、始発から終電まで、というような日々を送る咲元。そんな彼は、自分ですら覚えていないような過去の夢を見るようになる。そして、時を同じくして、彼の周囲で不可解な出来事が起こるように。そんなときに再会した中学時代の先輩で、民俗学者の牧野は、そのことについて調べていて……
著者のデビュー作である『星宿る虫』と同じく、奇妙な病(?)を題材とした作品。ただ、前作が物凄くグロテスクだっただけに、本作は抑えめに感じられた。
物語の中心となるのは、咲元が見る「夢」。自分ですら覚えていないような幼いころからの出来事から始まり、少しずつ夢の中の年齢は高くなっていく。そして、自分の実年齢に追いついたとき……
ランダムに過去のことを夢で、ということはある。しかし、時系列に沿って、というのは明らかにおかしい。しかも、過去、同じような夢を見て死んだ者は、その前にも共通点があり、咲元にもそれと同じことが起きている。このままでは……。状況証拠としては、咲元が死ぬのは確実。しかし、あくまでも状況証拠であり、病原菌が出るわけでも何でもない。それを止めるにはどうすれば良いのか? そもそも、感染症であるのなら、もっと多くの人に広がっていなければならないはず。それは何なのか? 読みながら、鈴木光司氏の『リング』とか、そういうのも頭に浮かんできた。
その上で印象的なのは、職場の様子。バブル絶頂期の日本。そして、電電公社が民営化されて、という状況。著者自身がNTTの社員であった、というところから考えても、ちょうど、著者の経験に裏打ちされた描写になるんじゃないかな、と思えてならなかった。……というか、牧野が教鞭をとっている大学も、学術院大学で目白駅前で、ピラミッド校舎があって、って……著者の出身大学そのままだよなぁ、と(笑) ただ、その奇妙な病の謎を追う、というのではなくて、それはそれで心配なのだけど、日常の、それも多忙すぎるくらいに多忙な日々というのが挿入されることで、リアリティのある形に持ってきている、というのは素直に上手い。
物語が咲元、牧野という二つの視点で綴られる関係上、メタ視点で読む読者としては「これが怪しい」というのを感じつつも、なかなかそこに触れられないもどかしさがあったり、解決の方法がちょっと「そんなので良いの?」と思う部分はあった。あったけど、でも、投げっぱなしのようにも感じられたデビュー作と違い、しっかりと風呂敷も畳まれていて、ほっとした読後感があったのも確か。しっかりと完成された作品になったな、というのを感じた。

No.4956

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(書評)TAS 特別師弟捜査員

著者:中山七里



「ねえ。慎也くん、放課後ヒマだったりする?」 クラスのアイドルで、接点が何もなかった楓に声をかけられた僕は舞い上がっていた。その日、楓が校舎から転落死するまでは。自殺? 事故? それとも? クラスメイトの死に動揺が昼がる中、楓が麻薬をやっていたなんていう噂も。そんな時、捜査のために現れた従兄弟の公彦は、楓の学校での様子を聞くため、僕に捜査を手伝うよう要請してきて……
真面目な話をすると設定にはかなり無理がある。ただの高校生である主人公・慎也が捜査の手伝いを、っていう時点で何だし、しかも、その公彦も教育実習生という設定で潜入捜査を開始。色々と無理があるだろう! という感じではある。
ただ、そういうのをフィクションとして割り切って、純粋な学園ミステリと言うことで考えれば充分に面白い。
物語は冒頭に書いたような形で開始。楓のことを調べるために、深夜は、彼女が部長をしていた演劇部に入部。興味本位だろうと反発をする部員たち。その中での人間関係。そして、そもそも楓という柱を喪ったことで余儀なくされる演目の変更。そのような中、慎也は脚本・演出を任されることになるが、新たな事件が起きて……
半ば、強引に引き受けることになった脚本・演出という役割。しかし、試しに書いたものが評価されたことによる高揚感。そして、仲間たちと試行錯誤する中でのアレコレ。勿論、仲間内での対立などもあるが、しかし、そもそもの捜査ということを忘れてしまうくらいに乗り込んでいく様は素直に楽しい。
そして、そんな中で見えてくる楓という人物。成績優秀で、容姿端麗。非の打ち所がない、と思っていた彼女だが、しかし、それ故の悩みも抱えていた。そして、裏、というほどではないが、しかし持っていた裏の顔。その中で……。その上で、それぞれの事件について、アリバイがどうか? と言った本格ミステリとしての考察なども入っており、ちょっとビターな学園ミステリとしてしっかりと完成されていると思う。
しかし、「特別師弟捜査員」ってタイトルはちょっとよくわからなかった。

No.4955

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(書評)凍てつく太陽

著者:葉真中顕



昭和20年。終戦間際の室蘭で、軍の将校と朝鮮人棒頭が殺害された。そこには、「カンナカムイ」の文字が……。その棒頭の組織に、潜入捜査をしていたこともある特高刑事・日崎八尋は、同僚である「拷問王」三影らと、捜査に値するが、その三影にぬれぎぬを着せられ、網走刑務所に収監されてしまう……
『ロスト・ケア』『絶叫』と言った作品は、社会問題などを題材に取ったわけだけど、本作もまた、エンタメ部分に主眼を置いた作品になっている。とはいえ、当時の歪んだ国家主義というのも感じられる。
日本人、だけでなく、併合をした朝鮮、さらにはアイヌと言った人びとも皇国民として一丸となり、戦いをしよう、という日本。しかし、実態としての差別は明らかに存在している。賃金、身分の格差。何よりも特高は、朝鮮人を危険視している。しかし、そんな八尋自身もアイヌの血を引くことから、三影からは「土人」と侮られる。そんな中での国民とは何か? という問いかけは確かに存在する。
で、物語は八尋、そして、三影、二つの視点で展開する。三影によって犯罪者として投獄されることとなった八尋。そこで待っていたのは、八尋自身が陥れた朝鮮人のヨンチョン。刑務所で待っていたのは、復讐される日々。しかし、自らの使命は、と考え、脱獄を決意する。ヨンチョンと共に……。こちらのパートは、とにかく、どう脱獄をするのか? そしてどう生き残るか? そんな冒険小説へとしての印象が強い。
一方、八尋を陥れた三影。しかし、八尋が感じた違和感は、彼自身も感じていたこと。軍は何かを隠していることは明白。そして、軍需工場関係者が次々と殺害されていく。そのキーワードは「カンナカムイ」と言うもの……。八尋に対するもの言いなどは何だけど、しかし、彼なりの正義感はしっかりとあり、家族は大切にしている。そんな彼もまた、魅力的な主人公としてしっかりと存在感を示しているのは流石。こちらは、ミステリとしての骨格を強く感じた。
そして、その物語の鍵となる「カンナカムイ」の実態。ひっくり返し。この辺りも含めて、最後まで引っ張った物語が面白かったのは確か。ただ……
一方で気になった部分があったのも確か。というのは、当初あった、皇国民と言いつつも、というメッセージとかが弱くなった感じ。なんか、途中で作品のカラーが変わった、とでもいうか……。それ自体は悪いことではないのだけど、何か腑に落ちない、という部分もあったりなかったり。

No.4954

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著者:和ヶ原聡司



マグロナルドのバイトをやめ、受験勉強に専念することした千穂。そんなところにかかってきたのは、鈴乃からの電話。そこで告げられたのは、教会のトップたる大神官に出世してしまった、ということ。このままでは、魔王軍を率いる芦屋と激突になってしまう。意気消沈する鈴乃を慰める千穂と恵美だったが……
ちーちゃん大活躍の巻! というか、魔王が全く活躍できない巻、というか……
天界への進出を前に思わぬ形で訪れた計算違い。それは、鈴乃が出世してしまった、というもの。それは魔王たちにとって一番厄介なこと。なぜならば、それは、人間側の代表として、魔王軍との対決の矢面に立つ、とういうことに他ならないから。しかも、異例のことであり、魔王軍の準備期間にも影響を与えることに。そんな状況の中……
なぜか一番、頼られるのが千穂って……(笑)
その状況で、受験勉強どころではなくなってしまう千穂。そんな中、迷いに迷うこととなるのは、鈴乃。勿論、魔王軍と、という部分があるのも事実。その一方で、出世をすることで見えてしまったのは、教会の腐敗とでも言うべきもの。信仰への揺らぎ。そして自覚せざるを得ない魔王に対する想い。
一方で起こるのは、アシエスの異変。体調不良から、とにかく食い続けないと周囲を破壊してしまう、という状況まで起きる中、千穂の提案によって集められた新旧でのマグロナルドスタッフ……
まぁ、魔王の煮え切らない態度に対する嫌味とか、そういうところもありつつも、こう見るとやっぱり肝が据わっているんはちーちゃんであり、それをこれでもかと示したエピソードではある。勿論、鈴乃の想い、っていうのも痛切に伝わってくるのは確かなのだけど。そして、文字通り、話としては決戦前夜、というところまで来たのかな? という感じはある。
最近読んだ、アニメのおまけエピソードと比べると、スピード感に欠ける感はあるのだけど、ようやく物語は完結に向けて、ってところまで来たんだな、というのは感じるところ。

No.4953

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(書評)異世界Cマート繁盛記7

著者:新木伸



今日もCマートは賑々しく営業中。子どもたちの間で「ドッジボール」が流行ったり、エナが「いじわる」をねだったり……???
相変わらずの雰囲気ゆえに安心して読める第7巻。
まず、印象に残ったのは『ドッジボール無双』。仕入れてはみたものの売れ行きのよくないクッションをエルフの尻に向かって投げてみた。そこから、クッションを投げ合うことを「ドッジボール」と言ってみたらウケた、っていうだけの話。ただ、これ、作中でも言われるように、どっちかというと枕投げみたいなもの……なのだけど、なぜか「尻」を狙うもの、として定着したとか、変な形での定着に。これは明らかに言いすぎなのだけど、日本でしか流通していないのに、「西洋の食事」的なニュアンスで語られる「洋食」とか、そういうものに通じるものがあるのかな? と思ったり思わなかったり。
『いじわる』は、純粋にエナが可愛い話。エルフに対しては、意地悪をする一方、エナに対しては優しい主人公。……が、なぜか、エナはエルフが特別扱いとして嫉妬し、自分にも「いじわる」しろ、と……。この要求自体が可愛いし、それに対して、戸惑いながらも……という主人公と、結局、褒められる方が良いと戻ったエナ。うん、変な性癖に目覚めなくて良かった。でも、そんなエナ、可愛い。
意外な展開を見せたのは『精霊さん』。よくよく考えてみると当初と比べて、扱う商品も増えているのに、「これを削ろう」とか、そういうものがないCマート。どう考えても後付けなのだけど(笑)、精霊さんのおかげだったとは!!(笑) 便利だな、この世界(笑)
そんな中、終盤の話を彩るのはエルフ。普段、駄エルフとか、散々な扱いをしている彼女が家出。そんなとき、エルフを探しに来た者たちがいて、実は……。エルフ自身の出自にも驚いたのだけど、いざ、別れ? となったときに感じる寂寥感。そして、主人公の行動……
結末は、この作品らしいものではあるんだけど、ハーレム状態とか、そういうの関係なしに、やっぱり、この面々でわいわいやって、というのがこの作品だよね、という安心感のある結末でよかった。

No.4952

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(書評)犯罪乱歩幻想

著者:三津田信三



江戸川乱歩の作品をモチーフとした短編集。全7編を収録。ただし、終盤の2編は、無関係らしい。
まぁ、最初に書いておくと、私は実は、江戸川乱歩の作品についてはほとんど知らない人間であり、モチーフとなった作品との関連性については殆ど語れないことを最初に断っておく。
1編目『屋根裏の同居者』。昔から、飽きっぽい「私」が住むこととなった古アパート。空き室も多く、不気味な雰囲気もあり、逆に気に入ったそこでの生活。ところが、ふと部屋などから出ると、奇妙な出来事が起こるようになって……
なぜかめくられている日めくりカレンダー。移動している書籍。そして、「私」とならず者の従兄弟との関係。不気味であり、怪奇現象のようにも思えつつも、合理的に説明できた……と思いきや……。著者の持ち味と言えば、ホラー作品と、合理的な解決がされるミステリ作品の融合だけど、ある意味で、その作風を逆手に取った形での決着と言えるのかな? と。
逆に、内容的にもミステリそのものと言えるのが、『G坂の殺人事件』。湖畔亭という喫茶店があるG坂で、その湖畔亭の目の前に住む作家が殺害された。作家を憎む私。作家に酷評された少年。作家と複雑な関係にある喫茶店の店主夫妻。私は、客である老人と、事件について語るのだが……
確かに、このエピソードは最後に1つ、謎が残るのであるがこれは一つの味、だと思う。アリバイトリック、物理トリックなどが駆使されてのもので、ホラー要素がない作品。逆に、こういう作品を著者が書いたのが新鮮だった。
これは偏見という部分もあるのかも知れないが、ホラー作品って、結末がはっきりしない、というか、「で、結局?」というような話が多い印象がある。本作の話のついても、そういう印象を残す。具体的な内容を書いた1編目もそうだし、4編目『夢遊病者の手』にしても、合理的な解決が見えたと思わせて、何か曖昧な形のオチをつけているわけで……
ただ、考えてみると、著者の作品でも、特にある種のメタネタを含めた怪談蒐集の中で……という話はこういう話が多いように思える。その意味では、著者の作風の中に、江戸川乱歩の作品を上手く取り入れた作品集、というような評価をしても良いのかもしれない、という気がしてくる。

No.4951

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(書評)グラスバードは還らない

著者:市川憂人



大規模な希少動物の密輸事件を追っていたマリアと蓮は、その事件に不動産王のヒュー・サンドフォードが関わっていることを発見する。上司から捜査中止の命令を無視して、彼が住居を構えるサンドフォードタワーへ向かうマリアだったが、そこでタワーを狙った爆破テロが勃発。そのころ、ヒューの所有するガラス製造会社の関係者は、窓のない迷宮へ閉じ込められてしまう。そして、次々とその関係者が殺害され……
シリーズ第3作。
なんか、反転の鮮やかさは見事。でも、殺人そのもののトリックは……そんなのアリ!? という感じも……
物語は、基本的に2つのパートで構成。不動産王、ヒューの所有する建物へ潜入したマリア。下層階はオフィス、上層階は高級住宅……とされているその建物だが、実はヒュー以外に住人はいないもぬけの殻。しかも、非常階段などには断絶があり、一方的に進むことは出来ない構造。そして、マリアは爆破テロによって、孤立状態にさせられてしまう。
一方、出口のない迷宮に閉じ込められた面々。主人公として描かれるのは、女性研究者であるセシリア。天才的な研究者であるイアンを恋人に持ちつつ、ある秘密を抱いた彼女。それを隠したいと思いながらも、次々と死んでいく閉じ込められた人々。しかも、明らかに見えない状況で……
物語的には、どちらかというとセシリア視点の話が主で綴られていく。その中での「見えない」敵は何なのか? そして、ヒューが飼っているという「硝子鳥」というものは何なのか? そのような謎で引っ張って……
本当、「硝子鳥」の正体は何なのか? というものの衝撃はすさまじい。そこで、「あ、やられた」と思ったもの。そして、それを中心に反転していくそこまでの話。その部分ではお見事の一言。
ただ、その一方で、セシリア視点での、殺人トリックは……。だって、それが出来たら、ある意味、何でもアリ、じゃないか、と思えて仕方がないから。
言い方を変えると、本格ミステリのトリックを期待していたら、実は、そこじゃない部分がメインだった、という感じ。
面白いかどうか、でいえば、間違いなく面白い。ただ、肩透かしとかも感じた、という意味で。

No.4950

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