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(書評)オリンピックの身代金

著者:奥田英朗

オリンピックの身代金オリンピックの身代金
(2008/11/28)
奥田 英朗

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昭和39年8月の末。五輪に向け、盛り上がりを見せ始める東京で、立て続けにダイナマイトが炸裂する。五輪を人質に取った脅迫。国の威信を賭けた捜査線上に浮かんだのは、一人の大学院生…
うん…面白かった。
物語は、国を相手取って脅迫を行う大学院生・島崎国男と、その事件の捜査を行う警察官、島崎の周囲の人間という形の視点で綴られる・冒頭、警察幹部の邸宅が爆破される、という事件から始まるのだが、それと時系列を異にして島崎の物語という形になる。序盤から犯人は判明しており、サスペンスであり、また、ホワイダニット型のミステリとしての展開といえる。
とにかく圧巻なのは、描かれる、昭和39年の時代の雰囲気。高度経済成長のまっただ中にあり、その象徴としての五輪開催。作中、島崎を追う刑事の言葉として、「島崎からは、虚無感のようなものを感じる」というのがあるのだが、まさにそんな印象。国のエリート中のエリートとなることを期待される一方で、自分の故郷は貧しいままで、そこに対する罪悪感をぬぐえない。その一方で、学んできたマルクス経済学の階級闘争は全く起こる気配がなく、それを叫ぶ学生たちは、ただの「流行」に過ぎない状況。そういう中でどんどんと虚無感に支配されていき、そして…という過程が何とも迫力がある。
個人的に、この作品を読んでいて思ったのは2つ。1つは、昨年の北京五輪の際に、自分の父親が言っていた「東京五輪のときのよう」という言葉。中国でも、経済成長が進む一方で、内陸の地方と、沿海部の年の格差は広がるばかり。そんな状況と、この作品で描かれた時代性の一致。もう1つが、物語の時代の周囲の時代とへ対する想い。例えば、歴史の話としては知っていた田中角栄の『日本列島改造論』。現代ではイマイチ、ピンとこない、この主張だが、これを読んでいると、そこへ期待する人々が多く存在する理由もリアリティを持って感じられる。その時代性、というのが、この作品の主人公ではないか、と思うくらいである。
島崎視点のクライムノベルとして考えた場合、あまりにも偶然に頼りすぎ、上手く行きすぎ、という部分が目に付かないではない。そこが欠点と言えば欠点かもしれない。
ただ、作中を流れる時代の空気、パワーに圧倒されっぱなしだった。

No.1671

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COMMENT 4

m5  2009, 10. 15 [Thu] 22:00

島崎を「島田」と誤記した箇所が悲しかった・・・
角川文庫、しっかり!

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たこやき  2009, 10. 15 [Thu] 22:04

m5さんへ

確かに、誤植とかあると、盛り下がることありますよね。
校正さんには、頑張って欲しいですね。

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そら  2010, 01. 10 [Sun] 21:27

奥田さんだもの。
ついつい,クライムノベルとしてのハラハラドキドキを期待してしまった私(^^;)

確かに,この時代の雰囲気をここまで活き活きと描ききったその手腕は,お見事だったなぁと,
改めて思いましたです(*^_^*)

Edit | Reply | 

たこやき  2010, 01. 12 [Tue] 21:17

そらさんへ

どうしても、奥田さんのクライムノベル、というと、『最悪』『邪魔』といったものを想定してしまいますよね。
それを想定すると、ちょっと物足りないかも。

ただ、私自身が大学時代に学んだこと、とか、そういうのを含めて、この時代の歴史的な状況とか、そういうものを生々しく感じることが出来た作品として、強い感銘を受けました。

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