fc2ブログ

(書評)月と蟹

著者:道尾秀介

月と蟹月と蟹
(2010/09/14)
道尾 秀介

商品詳細を見る


慎一、春也、鳴海。やり場の無い思いを抱えた少年たちは、ヤドカリを神様に見立てた儀式「ヤドカミ様」に夢中になる。その歪んだ祈りはやがて……
暗い(笑) 読みながら、まず思ったのはそんなこと。ただ、この作品は、二つの意味で、残酷だ、と感じる。
一つは、主人公・慎一らが持つ、幼いからこその残酷さ。
物語の核となる「ヤドカミ様」という遊びそのものが、まず、それを際立たせる。何せ、ヤドカリを神様に見立て、ライターの火で炙り殺すことで、願いをかなえてもらう、というものなのだから。本人らだってそれが「遊び」であることは理解している。しかし、理解した上で、それを当たり前のようにこなしてしまう残酷さ。恐らく、これが中学生、高校生……と年齢が高い世代となれば、「残酷だ」という倫理観だとか、そういうものが勝って出来ないことだと思う。理性で考えつつも、残酷なことが出来る。小学生5年生という、慎一らの年齢設定が、そのギリギリのバランス上にあるのだと感じた。
そして、もう一つの残酷さが、彼らを取り巻く環境。
父は亡くなり、母と脚を失った祖父の三人で暮らす慎一。大阪からの転校生で、親から虐待を受けている春也。慎一の祖父が足を失った事故で母を喪った鳴海。それぞれ、普通とは少し異なった家庭に育ち、それぞれの間にもただの友達とは違った関係がはびこっている。しかも、慎一にとって、最大の保護者であるはずの母は、鳴海の父と関係を持っているらしいと判明する。
春也については、純粋に、保護者による暴力という逃れようの無い状況がまっているわけだし、慎一と鳴海の両者にとっては、両親のしていることは決して悪いことではないが、心から納得できない、裏切り行為としてみてしまう。まだ、自分の力だけで生きることの出来ない年齢ゆえの無力感と、先に書いた幼いが故の残酷さが全編に漂っているように感じる。
そして、その思いを抱いているがゆえに、ますます「ヤドカミ様」にのめり込んでしまう、というのも必然なのだろう。
「お前、あんまし腹ん中で、妙なもん育てんなよ」
終盤、慎一が祖父に、そう忠告されるシーンがあるが、子供ゆえの残酷さと無力感に支配された彼にとって、もうそれは届かなくなっていたのだろう……。
このラストシーンは、それでも不幸中の幸いなのだろうか? ほぐれた糸を解くには、これ以外になかったのだろうが、これはこれでまた哀しい。

No.2640

にほんブログ村 本ブログへ





http://xxxsoraxxx.blog11.fc2.com/blog-entry-951.html
http://red.ap.teacup.com/jyublog/4317.html
スポンサーサイト



COMMENT 2

そら  2011, 09. 02 [Fri] 19:27

暗かったですね~,この作品(^^;)

虐待って,それだけで暗くなるものだから,
当たり前って言ったら当たり前で,
なんかちょっとずるい気がしましたv-8

Edit | Reply | 

たこやき  2011, 09. 05 [Mon] 20:30

そらさんへ

> 暗かったですね~,この作品(^^;)

本当に、暗いですよね。

> 虐待って,それだけで暗くなるものだから,
> 当たり前って言ったら当たり前で,
> なんかちょっとずるい気がしましたv-8

まぁ、それはそうなんですが(^^;)
ただ、記事の方で仰っているように、どんな家庭にもゆがみがあるのなら……というのも納得です。設定の過酷さ、というのが先に出ている部分というのはあると思います。

……そうやって考えてみると、難しいですね。
その言葉を聞いてから読むと、また違って感じるかもしれません。

Edit | Reply | 

TRACKBACK 3

この記事へのトラックバック
  •  「月と蟹」 道尾秀介
  • 読んだ後,とっても気分が重たくなりました。 うーーん。今読む本じゃなかったかも。 ★★★☆☆ 「ヤドカミ様に、お願いしてみようか」「叶えてくれると思うで。何でも」やり場のない心を抱えた子供たちが...
  • 2011.09.02 (Fri) 19:29 | 日だまりで読書
この記事へのトラックバック
  •  子どものこころ
  • 小説「月と蟹」を読みました。 著者は 道尾 秀介 今作で直木賞を受賞しました やはり 最近の道尾さんの作風で ミステリというよりは文学としてドラマが強い そして、怖さもある 最近で言うと、 光媒は好きでしたが球体はダメだった僕ですが・・・ 今作は長編という...
  • 2011.10.16 (Sun) 20:14 | 笑う学生の生活
この記事へのトラックバック
  •  『月と蟹』 道尾秀介
  • 「道尾秀介」の長篇作品『月と蟹』を読みました。 [月と蟹] 『鬼の跫音』、『龍神の雨』、『球体の蛇』、『光媒の花』、『月の恋人―Moon Lovers』に続き「道尾秀介」作品です。 -----story------------- あの夏、海辺の町で少年は大人になる涙を知った 孤独な子ども達が始めた願い事遊びはやがて切実な思いを帯びた儀式めいたものに――深い余韻が残る少年小説の傑作。 海...
  • 2017.02.21 (Tue) 21:32 | じゅうのblog