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2008/07/06 (Sun) 22:17
(書評)家日和

著者:奥田英朗

家日和家日和
(2007/04)
奥田 英朗

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「家」を舞台とした作品6編を収録した短編集。
「前向きになれる」 こんなフレーズを私は良く使う。そして、本作の作品はそれぞれ、登場人物が物凄く前向き。読んでいて、まず、それを感じる。
勤めていた会社が倒産した裕輔。妻は働きに出て、自分に対しては様々な慰めの、励ましの言葉を受ける。けれども、妻も本人も、その新しい生活が楽しい。目下の目標は、息子が全部食べてくれる弁当を作ること…と言う『ここが青山』。
妻が家を出てしまい、家具も持っていってしまった。それを機に、自分好みの家具を集め、自分にとって居心地の良い空間を作る正春。同僚にも羨ましがられ、たまり場になっていく『家においでよ』も、状況を全く悲観していない、実にポジティヴな物語。
また、思いつきで職を転々とする夫に苦労しながら、何故か、その転機になると自らも成長できているイラストレーター春代を描いた『夫とカーテン』。
それぞれ、一般的な、日本的な価値観から考えれば「どうしようもない」と言う状況なのに、それぞれ実に前向き。ネットオークションに嵌っていく主婦・紀子を描いた『サニーディ』の気持ちの良い終わり方から始まって、実に温かい気分になる作品になる。
こういう風になると、「ちょっと毒のある作品もほしいな」などと思えてくる。そうすると、最後の1編『妻と玄米御飯』が活きる。文学賞を受賞したことで売れっ子になった作家・大塚の妻が嵌ったのはロハス、オーガニックの活動。大塚自身はそれに懐疑的であるし、不満もある。けれども、それがいえない。「ロハス」「オーガニック」などに対する皮肉と共に、それが言い出せない大塚に対する皮肉という二重の毒が効いている。けれども、そんな状況でもラストシーンは、何か「ほっ」とする。
前向きになれる、というか、ほっとできる。そんな作品のように思う。

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2008/07/03 (Thu) 14:06
(書評)蛇行する川のほとり

著者:恩田陸

蛇行する川のほとり (中公文庫 お 70-1)蛇行する川のほとり (中公文庫 お 70-1)
(2007/06/25)
恩田 陸

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夏の終わりの演劇祭。その背景の絵を仕上げるために合宿が組まれた。学園でも目立つ演劇部の先輩、香澄と芳野、毬子、そして、周囲に集まる暁臣、月彦…。そして、その合宿の場となった周囲では迷宮入りした事件…。
元々は、02年から03年にかけて文庫本で3冊が発売されたものをまとめ、終章を加えたもの。
構成は、第1部が毬子、第2部が芳野、第3部が真魚子という語り部によって語られる。そして、物語の中心に横たわるのは、迷宮入りした事件。最後にはちゃんと、その真相も語られる。
…が、それ以上に印象的なのは、その過程で語られるそれぞれの心境、人間関係。学園の中でも極めて目立つ女性である二人に誘われたことで舞い上がり、けれども、忘れたこともある毬子。香澄との特別な関係、絆に縛られる芳野。そして、「見届ける者」としての真魚子。ただ、どろどろしているわけではなくて、どこから儚げ、どこか幻想的なその心の移ろい、迷いが印象的。
私の場合、まとまった形での作品を読んだのであるが、これ、1部ずつ読んだ場合、また、全く違った印象を抱くことになったのではないか? と言うのは感じる。それぞれの部のラストシーンの強烈なインパクトのある終わり方などは、それをまた強く感じさせる。

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2008/06/25 (Wed) 20:18
(書評)二枚舌は極楽へ行く

著者:蒼井上鷹

二枚舌は極楽へ行く (FUTABA・NOVELS)二枚舌は極楽へ行く (FUTABA・NOVELS)
(2006/10)
蒼井 上鷹

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表題作を含めた12作を収めた短編集。
作品の構成そのものは、『九杯目には早すぎる』同様、一般的な短編と、文字通りのショートショートが交じって構成されている。そして、今作は、それぞれの話の間にちょっとした繋がりが施されている。
『九杯目には早すぎる』のときもそうなのだけれども、そnショートショートのブラックな笑いが何とも魅力的。誘拐された少年の想いを綴った『値段は五千万円』の「あ…」と言うラスト。何ともいえない後味の残る『私のお気に入り』、プライドっていうものの恐ろしさを感じさせる『冷たい水が背筋に』など、極めて短いながらも、強烈なインパクトを残してくれる。
物語としての捻りとしては、『野菜ジュースにソースを二滴』、『天職』辺りが好き。特に、『天職』などは、ずっと一人語りで、オチで取ったとわかる行動と同じような気分になるのではないかと思う。その辺りに上手さを感じた。
蒼井氏の作品を読むのはこれで3作目だが、やはり、この3作を読む限り、短編の名手ではないか、というように思う。

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2008/06/20 (Fri) 19:18
(書評)三度目ならばABC

著者:岡嶋二人

三度目ならばABC三度目ならばABC
(1987/10)
岡嶋 二人

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テレビ製作プロダクションに勤める緒方貞夫と土佐美郷。通称「山本山コンビ」。二人が担当するのは、ワイドショーでの事件再現ドラマの製作。しかし、事件の取材をするうちに…
なんか、「山本山コンビ」っていうのに時代を感じるなぁ(笑) このネタがわかるのって、一体、何歳くらいまでなんだろう? 作中でも、何度となく連呼されるし。ある意味、良い宣伝?
そんなところではあるんだけど、なるほど、岡嶋氏が気に入る、っていうのもわかる。小柄ながらも、ミステリが大好きで、好奇心旺盛な美郷と、それに振り回される貞夫。「ユーモアミステリ」と言っても、ギャグと言うよりも、二人の軽妙なやりとりが良いのだと思う。
物語そのものも面白い。再現ドラマを作るために事件の取材をする中で浮かび上がってくる疑問点。そして、そこから導き出されるトリックと犯人。短編ではあるものの、きっちりと「本格ミステリ」として機能していて、なるほど、と思わされる。20年以上前ながら、古いと感じるものも殆どないし(『電話だけが知っている』辺りは、ちょっと違うかも。ただ、個人的に、この作品のトリックはかなり気に入った)
著者自身が「楽しみながら書いた」とのことなのだが、読者もそれに劣らず、十分に楽しんで読むことの出来る作品じゃないかと思う。

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2008/06/15 (Sun) 16:15
(書評)阪急電車

著者:有川浩

阪急電車阪急電車
(2008/01)
有川 浩

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宝塚駅〜西宮北口駅を結ぶ阪急今津線。片道僅か15分、駅数8駅。けれども、その列車では様々なドラマがある…。
「こういう内容だ!」と言うのは結構、難しい作品だなぁ…これ。前半は宝塚駅から西宮北口駅へと向かう電車内での出来事を連作短編の形で描き、後半は反対方向に向かう電車での出来事を描く。そして、後半は、前半の約1年後、と言う時間の経過を挟んでいる。
私自身は東京在住で、関東でしか暮らしたことのない人間なので、この作品で描かれている地域に関しては殆ど知識がない。ただ、ちょっと調べてみると、仁川の阪神競馬場、甲東園の関西学院大学…などなど、名前を知っているものもちらほらとあって、「ああ、そういうものがある地域なのか」と言う感じがするのである。
話の内容は、極めて日常的な出来事。『図書館』シリーズのような突飛な世界でもないし、『空の中』などのような事件が起こるわけでもない。ただ、電車に乗り合わせた人々の物語。それぞれがちょっとずつリンクしていて、ちょっとずつおせっかいで、ちょっとずつ影響を与え合っている。そして、そんなところで、それぞれがちょっと前へ脚を踏み出す。そんな作品。事情そのものは、根深いものを持っている人もいるのだが、(良い意味で)アッサリとした描写などもあって、実にスッキリと、カラッと描かれ、爽やかな後味になる。そういう点でも、前向きになれる作品だな、と思う。
でも、こういうのを見ると、地元の路線版もあったら面白いな…とか思ってしまう。…いや、今、私が住んでいる場所、結構、小説の舞台になっていたりはするんだけどね(ああ、あの道で、あの人物がひき逃げされたんだよなぁ…とか(笑))

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2008/06/13 (Fri) 20:10
(書評)とある飛空士への追憶

著者:犬村小六

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫 い) (ガガガ文庫 い 2-4)とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫 い) (ガガガ文庫 い 2-4)
(2008/02/20)
犬村 小六

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西のレヴァーム、東の天ツ上。果て無き大瀑布を挟んでの両国の戦争。「未来の皇妃を守って、敵中翔破」 天ツ上に突きつけられたレヴァーム自治領で働く傭兵・シャルルに下った指令。最下層出身のシャルルと、未来の皇妃、二人の旅が始まる…。
お世話になっているサイトで、「素晴らしい」と言う評価を目にして手にとってみたのだけれども、なるほど、確かに素晴らしい。読み終わって、素直に「面白かった」と言う感想が出てきた。
冒頭の、あらすじというか、導入部でわかる通りに、物語は至ってシンプル。(ちょっとした過去の因縁はあるけど)地位も立場も全く異なる二人の、二人だけの敵中突破作戦。幼い頃から、しきたりの中で生き、「自分はモノ」として感情を殺してきたファナ。混血ということで、蔑まれてきたシャルル。最初はぎこちないものの、戦い、飛行を通して、次第に打ち解けていく。そんなやり取りの中で芽生える両者の感情…。そして、別れ…。「お約束の流れ」と言えば、全くその通りの展開ではある。けれども、それが凄く良いんだ。
レーベルとしては、ラノベレーベルだし、カラーページとかに、「ソレっぽい」イラストとかもあるにはあるんだけど、物語の中に「いかにも」な描写とかは少ないし、また、全体的に淡々とした語り口で通されていたり…なんていう辺りで、「ラノベっぽくないな」なんていうことを思った。他のレーベルとかで出ていても全く違和感がないのではなかろうか?
物語の終わり方も印象的。素直なハッピーエンド、というわけではないけれども、透明感のあるラストシーンに、余韻…と私としては文句なし。
ラノベとかをあまり読まない人にも、是非、お勧めしたい作品だな、と思う。

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2008/06/10 (Tue) 02:41
(書評)トラジマ!2 ルイと栄太の災難

著者:阿智太郎

トラジマ! 2 (2) (電撃文庫 あ 7-41)トラジマ! 2 (2) (電撃文庫 あ 7-41)
(2008/04)
阿智 太郎

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屋台を引き、ドネルサンドを売るルイと栄太。勿論、アルバイト…ではなく、虎柄に関わると思われる「肉泥棒」事件の調査のため。犯人が逃げ込んだ家の少女・杉並愛香を監視する栄太だったが…(『ボーイ・ミート・ガール』)他3編。
今回も、身に着けると鬼の力が手に入る、と言う虎柄の服を借りて、栄太とルイが事件に…っていうことになるんだけど…前巻と比べても結構面白かったかな。今回も、虎柄の何かをつけた者による犯行を…っていうだけでなく、その服を探しに来、弱点も知っている坊主との対決、さらには二人の関係の進展…なんていうのもあったし。
前巻は…作品の世界観とかを出すだけで終わった、と言う感じが強かったんだけど、今回はその世界観でキャラクターが動き出したな、というのを感じる。展開そのものはベタではあるんだけど、それぞれがちゃんと役割をしっかりと作っていて楽しめた。つーか、マトモな人はいないのか、この作品(笑) 特に坊主、酷すぎる(褒め言葉)
今回、この3話目のラストで一区切り、と言えば、そういえるような形で終わっているんだが…これは、ここで完結? それとも、まだ続く? 個人的に、面白く感じられてきたところだし、続きを期待したいのだけれども…。

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2008/06/07 (Sat) 19:45
(書評)塔の町、あたしたちの街2

著者:扇智史

塔の町、あたしたちの街2 (ファミ通文庫 お 4-4-2)塔の町、あたしたちの街2 (ファミ通文庫 お 4-4-2)
(2008/04/28)
扇 智史

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街の根幹ともいえる歪気を祓う力・潔斎の発現したなごみ。しかし、不安を抱えながらも平穏な日々を送っていた。そんなとき、一匹の子犬を見つけたことで…
前巻から、1年近くの時間が経っていたもので、結構、忘れている部分があって、序盤、こういう設定だったよなぁ…というのがまずあったり…。読みながら、その辺りは大分思い出したけれども。
以前の事件の影響もあって、距離感が微妙に変化したなごみと華多那。そこに入った一匹の子犬。展開としてはね…冒頭、プロローグからの描写で、この子犬が…ってのは想像されるものだったわけだけど、そこから終盤が怒涛の展開になるとはね…。さすがにここまでいくとは思わなかった。
子犬の存在によって向き合わされる血の因縁。そして、それによって起こる悲劇と、暴走…。終盤、ちょっとキャラクターを使い捨てじゃないか? と思うくらいに凄いキャラクターの使い方が凄かった。さすがにここまで来ると、多少、引いてしまうところはあるんだけど。
「それでもあたしたちの街」と言うなごみの台詞は響くものがあったんだけど。最後は、ちょっと終盤に圧倒されすぎたかな?

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2008/06/04 (Wed) 20:49
(書評)死してなお君を

著者:赤井三尋

死してなお君を死してなお君を
(2005/12)
赤井 三尋

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昭和32年夏。造船疑獄事件の影響で検察をやめた元検事・敷島は、大阪の海運業者・北江から娘を探して欲しい、と言う依頼を受ける。依頼に不可解さを感じつつも捜索を開始した敷島は、娼婦・夕子と出会い、惹かれていく…。一方、その周囲では、売春汚職、検察の権力争いの派閥争いが激化していた…。
著者の乱歩賞受賞後第1作に当たる作品で、著作権上の問題などから、現在は回収されている作品。
「ミステリー」とは言え、謎そのものは、北江の依頼の不可解さくらいのもの。ただ、それ自体も前半で明かされ、読者にとっては謎というものはあまりない。そんな中、売春汚職、その背景の検察の権力争い、によって全てを失っていく敷島の転落、そして、そのたどり着いたもの…というのが物語のメインへとなっていく。
著作権上の問題というのが、どの程度のものなのか、と言うのは私に判断できないのだが、実在の人物、事件を配し、昭和30年代前半という時代の中を描く物語はかなり読み応えがある。単行本で2段組400頁と、ボリュームは多いのだが、リーダビリティのある文章とその空気の中で展開する物語で、全く長さは感じなかった。
「一目惚れだった」と言ってしまえば、それで説明は可能なのだが、敷島と夕子が出会い、惹かれあうまでがちょっと説明不足ではないか、と感じ、また、そこからの二人の行動もちょっと稚拙すぎないか? というようなところはあった。また、終盤、ところにもご都合主義的と感じるところは少しあった。
ただ、それを差し引いたとしても、十分に面白い作品だった。

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2008/05/19 (Mon) 17:45
(書評)木洩れ日に泳ぐ魚

著者:恩田陸

木洩れ日に泳ぐ魚木洩れ日に泳ぐ魚
(2007/07)
恩田 陸

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引越し、新たな生活を前に最後の夜を迎えるヒロとアキ。最後にどうしても決着をつけておかなければならないことがある。一年前に死んだ、ある男、そして…
非常にコメントに困る作品だな。何を書いてもネタバレになってしまいそうで怖い。
直接的に物語に登場するのは2人。冒頭にも書いたヒロとアキと言う男女。そして、物語の舞台も、二人が暮らすマンションの一室。そこで行われる二人の会話、そして、回想が全て。
一言で言うと、二人の関係、ということになるのかな、この作品は。二人が男女であり、そして、一年前、旅先である男の死に関わった、ということはわかる。けれども、それしかわからない。二人がそもそもどういう関係なのか、についても、当初は何もわからずに進んでいく。序盤である程度はわかるのだけれども、それすらもが、会話のなかでどんどん変化していってしまう。
人間は立場によって云々…なんていう社会学か何かの言葉があるけど、本作の場合、そもそもわからなかった二人の関係が、会話の中でどんどん変化していってしまう。非常に不安定。でも、その不安定さ、それによる不安…そんなものが本作の作風を端的に示しているように思う。また、何気ない日常の描写が、余計にそれを感じさせた。
本作で出される結論部分もまた、一つの仮説に過ぎない。けれども、その仮説が本人たちにとっては真実。彼らは、それで「安定した」のだろう。それ以上は必要ない、と言うのも。
何か、恩田さんだからこそ書けた作品ではないかと思う。

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