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2008/06/26 (Thu) 19:13
(書評)神様が用意してくれた場所3 いつかの少年

著者:矢崎存美

神様が用意してくれた場所 3 いつかの少年 (GA文庫 や 1-3)神様が用意してくれた場所 3 いつかの少年 (GA文庫 や 1-3)
(2008/06/14)
矢崎 存美

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「学校での息子の様子を調べて欲しい」 日比野探偵事務所に持ち込まれた依頼はこんなもの。だが、その息子は既になくなっていた。なぜ、母親は、そこにこだわるのか? そして、香絵には確かに、その「成長した」息子の存在に気づき…
シリーズ3作目で初の長編、ということになるのかな? 相変わらずグミの最終兵器にして、便利屋っぷりは気になるものの、読み応えはたっぷり。
死んだはずの息子の調査を依頼する母親。そして、何故か存在する息子・涼佑。涼佑が香絵を引っ張ってあわせた友人・海斗。海斗と、その父・南治のぎこちない関係。依頼人である涼佑親子の関係と、南治家の親子の関係。その二つが車輪になって、進んでいく辺りは長編だからこそ描けたのだろう、と言う風に思う。
「不器用なんだから」
結局、その一言に尽きるんだろうな…これは。南治親子のぎこちなさも、涼佑と海斗の関係にしても、はたまた、涼佑の母が依頼をしてきた、ということにしてもその不器用さのため。そして、それが微妙にすれ違うことで、複雑にしてしまった。それを香絵、そして、グミの力によって橋渡しされ、解きほぐされる。そういう部分の優しさっていうのはやっぱりこのシリーズの良さだと思う。ついでに言えば、全てを承知してくれる社長の凄まじい勘の良さ、察知の良さ、も地味に光っているわけだけど。
うん、面白かった。

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2008/06/02 (Mon) 15:23
(書評)「気づき」の力 生き方を変え、国を変える

著者:柳田邦男

「気づき」の力―生き方を変え、国を変える「気づき」の力―生き方を変え、国を変える
(2008/04)
柳田 邦男

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雑誌、『新潮45』に連載されているコラムをまとめたシリーズ第4弾。今回は、タイトルにもあるように「気づき」がテーマになっている、と言える。
このシリーズ、私は一貫して批判的な文章を書いてきている。で、本書であるが、書いてあることの一つ一つに関して言えば、「なるほど」と思える部分は少なくない。ただし、著者の言動そのものがそこからかけ離れていたり、はたまた、無理矢理、「IT批判」「ネット批判」に結び付けて「おいおい…」と思うところも多くある。
書いてあることはその通りなのだが…という部分で言うと、『専門家の偽装数値に気づけ』と題された部分などがそれに当たる。『あるある大辞典』の事件から、韓国でのクローン技術の捏造事件などを題材にして、その捏造の問題点、そして、その背景にあるものを考察する…というもの。組織全体、国全体からの期待を一身に受け、自らも野心などがあり、かつ、失敗が許されない…そういう状況の中では、捏造に手を染めるように囁かれてしまう。しかも、そのようなものをチェックする体制にも問題があり、見逃される形になりやすい…などと言う。この内容は実にその通りだ、と感じる。
ところが、著者は、自らが絶賛している「ゲーム脳」であるとか、「脳内汚染」に対して、そういう部分を働かせようとはしない。それどころか、検証すべきだ、と言う意見に対して「人体実験に等しいから、とにかく禁止すればよい」とすら言ってしまう。これらは、専門家どころか、素人から見ても問題点がわかるようなものなのにも関わらず、である。故に、どうしても「ちぐはぐさ」を感じてしまう。
また、無理矢理ネット批判、なんていうのは、最初の章である『心を成長させる「気づき」の瞬間』などが典型例だろう。
著者は、「最近の若者は…」と言うものについて、「IT依存や加害者の心理分析などで愕然とすることがある」が、「スポーツ選手や芸術家の活躍を見るとすてたものではないと思う」といい、「一部の事例で、今の若者は…と判断すべきではない」と述べる。そして、著者が審査を行った看護学生のエッセイの紹介を始める。そこでは、実際に現場に立ち、そこで感じたこと、気づいたことが率直に綴られ、そういう体験の重要さが描かれる。
ここまでであれば、実に良い内容だった、と思う。ところが、本章のまとめは、「ネットを用いた教育ではこうはいかない。ネット教育はダメだ」と言う形になってしまう。何故、そこで、ネット批判にする必要があるのか理解に苦しむ。ネット教育が万能でないのは当然。その欠点を取り上げてネットはダメだ、と言うのは揚げ足取りのようなものである。
ついでに言うのならば、著者が言うように、一部の少年犯罪などを取り上げて「今の若者は…」と一般化するのはダメであるが、反対にスポーツ選手や芸術家を出して「今の若者も悪くない」と一般化するのもこれもまたダメだろう。どちらも、極端なものを一般化している、と言う意味では同じなのだから。ついでに言うと、他の章では「ITなどで若者の精神が偏っている」などと連呼し、結局、「今の若者は…」と著者が連呼しているだけ、ということは指摘しておきたい。
他にも、組織事故が起こる理由と、その原因究明が進まない理由についての考察だとか、納得できる部分は多い。それだけに、より、著者のIT嫌い、IT批判の部分でのおかしさ、ちぐはぐさを感じずにはいられない。そういう部分を早く、著者に「気づいて」欲しいものである。

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2008/04/19 (Sat) 19:40
(書評)獄窓記

著者:山本譲司

獄窓記 (新潮文庫 や 60-1)獄窓記 (新潮文庫 や 60-1)
(2008/01/29)
山本 譲司

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01年、秘書給与を不正に受給したということで逮捕、懲役1年6ヶ月の刑に処された元衆院議員の著者。その生い立ちから、逮捕、裁判での有罪確定、出獄に至るまでの刑務所での日々を綴った書。
『獄窓記』とのタイトルの通り、その日々の様子、著者の思い、出来事を綴った「日記」のような形式となっており、いささかまとまりにかけるきらいはある。ただ、その分、様々な部分について考えさせられる内容となっている。
逮捕に至る経緯からはじまり、新米受刑者としてシステムに戸惑い、配属の決定を待つ日々。寮内工場で指導補助に配属され、そこでの労働と状況。そして、著者が逮捕されることになった秘書給与問題の再燃と、一日千秋で仮釈放の日を待つ日々…そういうものが著者の心情などを交えて生々しく描かれる。
中でも、インパクトの強いのは、著者がついた寮内工場で指導補助としての日々だろう。高齢や障害などによって、日常生活もままならない寮内工場の人々。著者の仕事は彼らに作業をさせる、というよりも、文字通り、彼らの介護をするような状況。そして、そんな状況に、官僚などは目を向けず、また、刑務所も隠そうとする。そんな状況…。
この状況の存在やシステムそのものについては、以前読んだ『刑務所の風景』(浜井浩一著)などにも記されていて、知識としては持っていた。だが、実際にその現場で働いた人間の言葉の迫力は凄まじい。受刑者である著者と、刑務所の職員であった浜井氏では、その立場による視線の違いがあり、著者の意見が正しいとは言い切れない(無論、逆もまたしかり) ただ、その中でも共通する問題認識は多く、刑務所の抱えている状況の厳しさを強く認識させられる。
ちょっと読むタイミングを逃してしまい、結局、文庫化まで待つことになってしまったのだが、なるほど、話題になる理由は良くわかった。

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2008/02/13 (Wed) 16:32
(書評)掘割で笑う女 浪人左門あやかし指南

著者:輪渡颯介

掘割で笑う女 浪人左門あやかし指南 (講談社ノベルス ワE- 1)掘割で笑う女 浪人左門あやかし指南 (講談社ノベルス ワE- 1)
(2008/01/11)
輪渡 颯介

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掘割に女の幽霊が現れる。その女を見た者は間もなく死ぬ。城下に広がる女の噂。それは、私腹を肥やす次席家老を討つ為に広めた嘘だった。だが、実際に広めた本人であり、闇討ちの参加者でもある源蔵は、討たれた家老の家士が女がいた、と遺したことを知る…。
第38回メフィスト賞受賞作。
時代小説、そして、怪異を扱うもの…という意味では、メフィスト賞で初。そういう意味で、また、変わった作品が選ばれた、と言う印象。
実のところ、序盤、ちょっと混乱する部分がある。冒頭で書いた源蔵、剣の腕は立つが怪談が苦手な甚十郎、甚十郎の師・左門、さらには、町人の間での噂話だとかも含めた多視点で物語が展開する。しかも、序盤は、バラバラな上に、いきなり数年後に話が飛んだりするため、混乱しやすい。ただ、中盤からはそういうのは全く気にならなくなったが。
家老を討つための策略として広められた噂。しかし、本当にその女が現れた。そのことに恐怖する源蔵。そして、10年後、再びの闇討ち。そこでも…。次々と殺害されていくその仲間。さらには方々での怪談話…。頁数にして220頁ほど。歴代のメフィスト賞の受賞作の中でも、かなり短い作品。ただ、その中でしっかりと物語を展開していくのには好感が持てる。
序盤、ちょっと混乱した部分はマイナスかも知れないけど、全体を通して考えれば十分に面白かった。次回作にも期待したい。

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2008/02/05 (Tue) 17:18
(書評)遠まわりする雛

著者:米澤穂信

遠まわりする雛遠まわりする雛
(2007/10)
米澤 穂信

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「省エネ」をモットーとする折木奉太郎。そんな彼が姉の言葉もあって神山高校古典部に入ってからの1年を綴った連作短編集。
一応、物語としては、それまでのシリーズ『氷菓』『愚者のエンドロール』『クドリャフカの順番』の間のちょっとした出来事、そして、『クドリャフカの順番』より後の出来事を描いた格好。
これまでのシリーズ、というか、米澤氏の作品全てに共通するものとして、「ちょっとほろ苦い後味」と言うものがあるのだけれども、本作に関して言うと、抑え目という印象。放課後の呼び出し放送の意味を問う『心あたりのある者は』とか、納屋に閉じ込められてしまい、脱出方法を考える『あきましておめでとう』などは、全くと言って良いほど後味の悪さはない。非常に安心して読める「日常の謎」と言う印象が強い。
そして、もう一つの点が、奉太郎の態度の変化。千反田との距離感の変化とともに「省エネ」をモットーとする奉太郎の態度にも変化の兆しが見えてくる辺りが見て取れる。そこには、里志の態度であるとかも影響しているのだろうが、そこも、こういう連作短編だからこそ、より強く感じられる部分じゃなかろうかと思う。
最後の『遠まわりする雛』の結末。これは、シリーズの1つの区切り、とも考えられるし、また、新たな段階への第一歩とも考えられる。(これまでの後味の悪いラストとは違った形で)シリーズが続くのか、という部分も含めて凄く気になる終わり方ではある。

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2008/01/29 (Tue) 21:42
(書評)つきこい

著者:山科千晶

つきこい (電撃文庫 や 5-4)つきこい (電撃文庫 や 5-4)
(2007/11)
山科 千晶

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霧の朝の渋谷、少女は一人の少年に出会う。一風変わったその少年に、少女は語りかける。月を見上げた女性に纏わる話、『月待ち伝説』を…。
うーん…悪くはないんだけれども…。
別々の時期に出た作品2編を書き下ろしの文章でつなげた…という辺りの構成のためか、ちょっと全体的に違和感が…。それぞれ、別の短編としてみれば悪くないのだけど、1本の話としてはちょっとチグハグ。
1編目は、「月の出る日に、別れた恋人を待っている」という女性・イズミと出会った青年の物語。そして、2編目は、そのイズミと、別れた恋人・トキの物語。…なんだけど、イズミの性格とかが(時間による変化が有るとは言え)かなり違う感じだし…。また、つなぎ方そのものもちょっと強引で、ぶった切られている感じ。つなげるなら、もっと丁寧につなげて欲しかったし(それこそ、1編の物語として書き直すとか)、そうでなければ、バラバラでよかったんじゃないだろうか? なんか、1つの物語にしてしまったが故に、微妙な印象を受ける。
なんか、微妙なところ…。

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