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(書評)誘拐

著者:五十嵐貴久

誘拐誘拐
(2008/07)
五十嵐 貴久

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歴史的な日韓交渉が目前に迫る中、首相の孫娘が誘拐される。北朝鮮工作員を匂わせる犯行だが、仕掛けたのは、旅行代理店を退社したばかり男・秋月孝介。彼は、なぜ、事件を起こすのか。そして、その目的は…
うーん…すごく「惜しい」という印象。
まず、物語の導入部のインパクトはすさまじい。人事部の、リストラを進める仕事をする孝介が受け取った一本の電話。尋常ならざる事態がが起きている、という状況はわかっても、それが何なのかわからない。そして、その結果として新たに生まれる悲劇。この導入部の、そのインパクトは、これまで読んだ作品の中でも、トップクラスに上手いものではないか、と思う。
そして、その孝介が、会社を退職して起こす事件。その犯行も面白い。
日韓の交渉、条約締結という厳戒態勢。故に、人員を配置できない警察。その間隙を縫っての誘拐事件に、交渉を一切せず、ひたすらに安全策で警察を誘導する孝介。北朝鮮関係者と警察を欺いて、事件を進める孝介の思惑は何か? この辺りの展開は、非常にスリリングで、また優れたアイデアだと思う(実際問題として、細かく見れば、そこにも穴はありそうだ、とは思いつつも) その辺りは、非常に優れていると思う。
それだけに、欠点と、終盤の展開が目立っているように思う。
まず、欠点の方なのだが、被害者側である首相が、あまりに魅力がないこと。金で買えないものはない」と言い放ち、傲岸不遜で、周囲にやたらと当たり散らし…って、流石にそれじゃ、誰もついてこないと思うのだが…(苦笑) 経済政策とか、そういうところはともかく、ちょっと極端過ぎて苦笑してしまった。また、孝介の協力者の存在についても、結局、この人は何なの? というくらいに書き込みが足りなくて不満が残る。
さらに、終盤の展開。上にも書き、作中でも触れられるように徹底的にローリスクを貫く孝介が、なぜか、極めて稚拙な、あり得ないようなミスを連発してしまう。「完璧な犯罪が、ちょっとしたミスで」 これは、わかる。でも、この作品の場合、それまでのところが完璧なのに、ここだけもの凄く稚拙なのだ。流石にこれはないだろう、とどうしても感じてしまう。ある意味では、意図的にやったこと、とも言えるのかも知れないが、それでもちょっと納得しづらい。
全体を通して見れば、十分に佳作と言える。ただ、中盤まではもっと突き抜けた出来になりそう、という風に期待させるだけに、勿体ない、という感想がどうしても出てしまう。

No.1755

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