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(書評)脳科学の真実 脳研究者は何を考えているのか

著者:坂井克之

脳科学の真実--脳研究者は何を考えているか (河出ブックス)脳科学の真実--脳研究者は何を考えているか (河出ブックス)
(2009/10/09)
坂井 克之

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2000年~04年にかけて、イギリスで暮らしていた著者は、帰国して、日本での「脳」ブームに驚いた。自分の専門分野も脚光を浴びた、と思う一方で、その中に危ういものを感じざるを得ない。脳ブームについて、批判的に検証すると共に、その背景なども含めて考察した書。
というような内容と言えば良いのだろうか。
あとがきまで含めて216頁あまりの書であるが、前半の130頁あまりを使って「脳トレ」「ゲーム脳」「読脳術」といった具体的な説、技術などについて批判的に検証し、それを可能とした「脳機能イメージング」というものがどういうもので、どういう機能なのか、ということについて説明する。そして、その後、脳について語られる際のレトリック、さらに脳(に限った話ではないが)研究というものがそのように成りかねない研究現場の状況、背景などを説明する。
前半の、具体的なものの批判などについては、『脳科学の壁』(榊原洋一著)などとも重なる部分があったりするのだが、本書の内容については、終盤の部分なのかな、と思う。
前半で語られているとおり、極めて複雑である脳というもの研究は難しい。そんな中で、社会はそれを日常生活に対する還元を求める。また、インパクトファクターが大きく評価に影響される研究者の環境に、研究費獲得などのためにも「成果」を求める状況。また、脳機能イメージングの開発により、ある種の、見た目のインパクトが出来る状況…これらが、脳ブームを作り出したことと、しかし、同時に誤解や誇張など、危うい状況を作り出す背景にもなっている、というのが紹介されている。
著者はあとがきで「私自身は自己批判を繰り返しつつ、それでも前に進むような研究者でありたい」と述べており、実際、研究者としての自省を込めて本書を記しているのだと思うが、私のような門外漢としては、同時に、我々、受け取る側の態度も重要なのではないか、という気持ちにさせられた。メディアなどとの関係に綴られる「わかりやすさ」の追求というのは、最終的には我々の側の問題とも取れるし、また、前半で批判される脳トレやゲーム脳を受け入れたのも我々なのだから。どちらか一方の問題だ、というのも、また、問題なのだろうな、と思う。そういうのをどうしても考えてしまう。
ただ、そうはいっても、私自身がそうであり、また、多分、著者もそうなのではないかと思うのだが、「脳」というものについて、社会的な還元とか、そういうのを抜きにして「興味深いもの」という感情が出て来る。
「脳ブーム」について、現状、色々と問題はあるが、でも、脳というものが非常に魅力的な研究対象なのだ、というのを同時に感じることが出来た。

No.1893

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