著者:森谷明子
多くの血が流れ、人々が死んだ都・平安京。その陰に潜む二つの一族。桓武天皇の遷都から、平家滅亡までを綴った一大歴史絵巻。
これは、歴史小説というのもちょっと違う気がするし、また、時代小説というのもちょっと違う気がする。そういう意味で、やっぱり、歴史絵巻、として紹介したいな、という風に思う作品。
物語の形としては、2部構成の連作短編集という形で綴られる。第1部は、桓武、平城、嵯峨天皇時代の長岡京遷都~平安京確定までを、二人の女性を中心に添えて綴る物語。桓武天皇の寵愛を受けた二つの一族と、そこへ都を作るための駆け引き。そして、その確定までの日々。その中での人々の移り変わり。
そして、第2部では、250年以上を経過した時代の物語。平安時代の終わり、武家社会の到来の時代。そこでも、やはり、二つの一族が陰に存在し、そして、丁度、平家の盛衰というのと重なっていることもあるのだけど、「祇園精舎の鐘の声」という『平家物語』の冒頭の一節が頭に浮かぶ。
平安時代を舞台にした作品というと、著者のデビュー作である『千年の黙』とも重なるし、また、作品の雰囲気としてもそういう印象は強い。歴史小説のような、と書いたのだけど、やはり、その中で綴られる人々の姿は、その時代の中で、その男女の機微などを主にして描かれる。桓武天皇の寵愛、そして、どこに都を作るのか、という形の争いとなる第1部冒頭『兄国弟国』、歴史の教科書などでは藤原氏の中での権力争いとして綴られる「薬子の変」を、当時の「怨霊」などへの畏怖と、やはり男女の機微の中で解釈した『宴の松原』などが印象的。そして、それは、当然に第2部へも受け継がれて・・・・・・。私自身は、歴史小説も以前はよく読んでいたのだけど、司馬遼太郎とか、宮城谷昌光とか、男性作家のものが多く、戦乱の世の男たちの、荒々しい面を主にした形の作品が多かったのだけど、こういう視点で解釈した物語、というのも、それとはまた違った、繊細さがあった良いな、という風に感じる。
人々が集まると地霊がつき、そして、都は栄える。
作中で説明されているのだけど、あくまでも、平安京という都はそこにあるだけ。でも、そこに人々が集まり、物事が起こり、そして、人々は盛衰していく。そこにあるだけのものなのに、でも、存在感があるのが都なのだろうな、と思う。そして、そこに呪いとか、地霊とか、そういうものを見出したくなる、という気持ちも読んでいるとわかる気がする。
私自身は、高校時代は世界史メインでやっていて、大まかな出来事はわかるけど、細かいところは・・・・・・というのがあり、時代考証とかについては判断できる自身が無いのだけど、京都、平安時代の始まりと終わりを綴った歴史小説、歴史絵巻として、重厚に、そして、繊細に楽しむことができた。
No.1965

![]() | 葛野盛衰記 (2009/10) 森谷 明子 商品詳細を見る |
多くの血が流れ、人々が死んだ都・平安京。その陰に潜む二つの一族。桓武天皇の遷都から、平家滅亡までを綴った一大歴史絵巻。
これは、歴史小説というのもちょっと違う気がするし、また、時代小説というのもちょっと違う気がする。そういう意味で、やっぱり、歴史絵巻、として紹介したいな、という風に思う作品。
物語の形としては、2部構成の連作短編集という形で綴られる。第1部は、桓武、平城、嵯峨天皇時代の長岡京遷都~平安京確定までを、二人の女性を中心に添えて綴る物語。桓武天皇の寵愛を受けた二つの一族と、そこへ都を作るための駆け引き。そして、その確定までの日々。その中での人々の移り変わり。
そして、第2部では、250年以上を経過した時代の物語。平安時代の終わり、武家社会の到来の時代。そこでも、やはり、二つの一族が陰に存在し、そして、丁度、平家の盛衰というのと重なっていることもあるのだけど、「祇園精舎の鐘の声」という『平家物語』の冒頭の一節が頭に浮かぶ。
平安時代を舞台にした作品というと、著者のデビュー作である『千年の黙』とも重なるし、また、作品の雰囲気としてもそういう印象は強い。歴史小説のような、と書いたのだけど、やはり、その中で綴られる人々の姿は、その時代の中で、その男女の機微などを主にして描かれる。桓武天皇の寵愛、そして、どこに都を作るのか、という形の争いとなる第1部冒頭『兄国弟国』、歴史の教科書などでは藤原氏の中での権力争いとして綴られる「薬子の変」を、当時の「怨霊」などへの畏怖と、やはり男女の機微の中で解釈した『宴の松原』などが印象的。そして、それは、当然に第2部へも受け継がれて・・・・・・。私自身は、歴史小説も以前はよく読んでいたのだけど、司馬遼太郎とか、宮城谷昌光とか、男性作家のものが多く、戦乱の世の男たちの、荒々しい面を主にした形の作品が多かったのだけど、こういう視点で解釈した物語、というのも、それとはまた違った、繊細さがあった良いな、という風に感じる。
人々が集まると地霊がつき、そして、都は栄える。
作中で説明されているのだけど、あくまでも、平安京という都はそこにあるだけ。でも、そこに人々が集まり、物事が起こり、そして、人々は盛衰していく。そこにあるだけのものなのに、でも、存在感があるのが都なのだろうな、と思う。そして、そこに呪いとか、地霊とか、そういうものを見出したくなる、という気持ちも読んでいるとわかる気がする。
私自身は、高校時代は世界史メインでやっていて、大まかな出来事はわかるけど、細かいところは・・・・・・というのがあり、時代考証とかについては判断できる自身が無いのだけど、京都、平安時代の始まりと終わりを綴った歴史小説、歴史絵巻として、重厚に、そして、繊細に楽しむことができた。
No.1965

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