著者:海堂尊
宗教団体による、子供の虐待死事件が世間を騒がせる中、東城大病院の講師・田口は、院長である高階から呼び出しを受けていた。その理由は、厚労省官僚である白鳥からの手紙。そして、その手紙により、田口は厚労省での講演を行うことになってしまう。しかも、さらに、そこから先の思惑まであって……
こんな言い方をすると何だけど……『チーム・バチスタの栄光』と『ジェネラル・ルージュの凱旋』を足して2で割ったような印象。いや、かなり大雑把な書き方であることは自覚しているのだけど。
なぜ、そういう風に言うのか、といえば、「AI導入を求める」(それが、そもそも小説を書き始めた理由と著者は公言していたはず)という『バチスタの栄光』のテーマを、『ルージュの凱旋』と同じく会議室でのやりとりで一気に描いた作品である、という風に感じたから。
本作についても、これまでの作品と同じく、業界の実情暴露、という面はある。医療と司法というものの間にある繋がり。しかし、そこがつながっているが故の矛盾点や、問題点。『バチスタの栄光』でもつづられていた、日本の解剖率の低さ(=死因解明の遅れ)なんていうものを示しながら、さらに、医療費削減を実行していかなければならない厚労省の立場に、同じく「解剖」を扱いながらも、互いに縄張り争いを展開する学術の世界……と様々な要素を含む。
そして、それらが、文字通り、「魑魅魍魎」のごとく争う会議室でのやりとりと、それを一気に一刀両断してしまう彦根の豪腕っぷりは、『ルージュの凱旋』と同じような面白さがある。本作の場合、白鳥の動きによって田口が巻き込まれる形ではあるものの、田口・白鳥よりも、田口の後輩であり、問題児として名を馳せた彦根のキャラクターのインパクトが目立つように思う。そのうち、白鳥VS彦根、とかを主題に置いた作品も出来るのだろうか? とか、考えてしまう。
ただ、キャラクターがはっきりしている、というのは悪いことではないのだけど、本作の場合、問題提起以上のところまで踏み込んでいる上に、かつ、厚労省や従来の学会などを悪役として描く描き方になっているため、ちょっと極端な方向になっているかな? というのは感じた。確かに、官僚による愚作とか、アリバイ作りのための委員会とか(医療じゃないけど、先日の東京都の表現規制条例の会議とか見ているだけに余計に)、そういうのがあるからシンパシーを感じる部分はあるのだけど……
話としては面白かった。ただ、上に書いたような部分が、ちょっと引っかかる、というのも確か。そんなところが、本作の私の感想。
No.2048&No.2049
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