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(書評)子盗り

著者:海月ルイ

子盗り (文春文庫)子盗り (文春文庫)
(2005/05)
海月 ルイ

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京都の旧家・榊原家へと嫁いだ美津子。不妊治療などをしても、子供に恵まれず、十年以上の月日が経過していた。そして、その間に、姑、一族からは本家の跡継ぎのため養子を、と責められる日々。そんな中、彼女は、「妊娠した」と宣言してしまう……
とだけ書くと、物語は美津子だけの物語のように思われるのだけど、物語は三人のヒロインの視点を通して描かれる。冒頭に書いた、子供が出来ないことにより、追い詰められていく美津子。その美津子が通っていた病院の看護師で、離婚問題で、自らの娘を奪われてしまった潤子。さらに、肥満体で、何も長続きしないスナックのホステス・ひとみ。「子供」というキーワードを通しての三者を組み合わせて物語を綴る。
サントリーミステリー大賞の受賞作とは言え、ミステリとしてのサプライズとかはあまりない。ただ、その分、人間の負の感情を凝縮したかのような雰囲気が印象に残る。
とにかく、最初から嫌な雰囲気だらけ。子供が出来ない、ということで、責められる美津子。これだけで嫌になるでしょ?(笑) しかも、自ら退路を断ってしまう形では余計に。さらに、潤子、ひとみと現れ、それぞれが峰岸という、これまた嫌な男の手によって、どんどん絡められてしまう。中盤までは、それぞれバラバラに展開するのだが、後半、それらが絡み合ってどんどん落ちていく辺りでどんどん次が気になった。
物語の構成としても、最初に、それほどのサプライズはない、と書いたものの、一度は「こうだろうか?」と予想させて、しかし、そこからちょっと外して……とか、そういうちょっと仕掛けを入れることで読者を飽きさせないようなところも好感触。
ミステリといっても、サプライズを主にした作品や、驚くようなトリックを用いた作品、ではなくて、それぞれの感情、行動の行き着く先に切り込んだ心理サスペンスといったところだと思う。これだけあって、最終的に、随分と綺麗に収まってしまったような印象も残るのだが、しかし、完成度は高い作品だと思う。

No.2147

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