fc2ブログ

(書評)いじめとは何か 教室の問題、社会の問題

著者:森田洋司

いじめとは何か―教室の問題、社会の問題 (中公新書)いじめとは何か―教室の問題、社会の問題 (中公新書)
(2010/07)
森田 洋司

商品詳細を見る


1980年代にいじめが社会問題として「発見」されて以降、日本では3度にわたる「いじめの波」が襲っている。その「いじめ」研究の歴史、日本と海外の比較、そして、その中でいじめによる悲劇を繰り返さない、少しでも減らすための方策を考察する。
ということで、綴られるのは、序盤でまず、(主に)欧州でのいじめ研究というものの歴史と、日本での展開。その中で、1980年代半ば、90年代半ば、00年代半ばに起こった「いじめ事件ブーム」において、日本でどのような対策が行われたのか、などを記し、その上で、いじめというものをどのように定義をするか、を考察する。そして、後半では、その比較などを元に、海外の取組などを元にした方策を提案している。
まず、読んでいてなるほど、と思ったのは、書のタイトルでもある「いじめとは何か」を巡る論議。
いじめ、を巡って「こうするべき」とか、色々と言われるわけだけど、そもそも、どう定義をするのか? が大きな問題になる。しかし、それ故に、それぞれの視点で考えたときに、それぞれにギャップが存在してしまい、故に、被害を受けている存在を苦しめてしまう。また、被害者の声が届きづらい状態になってしまう。そういう指摘は、非常にすんなりと納得が出来た。
また、本書で記される各種の調査などでの、欧州との比較なども興味深く読むことが出来た。
ただ、その辺りと比べると、後半の対策については、ちょっと弱い印象。
本書における対策が、長期的に、いじめが起こりづらい、歯止めが利きやすい環境を作る、というのものなので、即効性がない、というのは別に良い。ただ、それ以外の部分で……。
著者の主張というのは、学校への意味づけ、ソーシャルボンドを強め、傍観者とならず、仲裁者になるようにする、というもの。そして、欧州での、市民性教育などを紹介し、「私」から「公」の意識を高める、というようなものを述べる。ただ、早い段階で書かれているように、日本と海外での文化的風土の違いなどがそういうところに影響を与えるのではないか? という疑問は残る。また、「いじめ」が問題として認識されたのが最近であることを鑑みて、未成年者の自殺者が決して増加しているわけではない(一方で、私事の比重が増えてる)などを考えたときに、研究の積み重ねの弱さが多少、露呈しているのではないか、というのを思う。無論、そういう試行錯誤をして、積み重ねていくしかない、というのは間違いないのだろうが。
と、後半については、やや気になるところはあったものの、簡単に「いじめ」という前に、まず「いじめとは何か」を考える必要性、その難しさの指摘などは非常に意味があり、一読の価値のある書だと思う。

No.2227

にほんブログ村 本ブログへ



スポンサーサイト



COMMENT 0