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(書評)球体の蛇

著者:道尾秀介

球体の蛇球体の蛇
(2009/11/19)
道尾 秀介

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1992年、秋。隣人の橋塚家の仕事を手伝いながら、そこでお世話になっている友彦。彼は、その橋塚家の長女・サヨの命を奪ったのは自分である、という負い目を持っていた。そんなある日、彼は、営業先の家で、そんなサヨに似た雰囲気を持つ女性・智子と出会う。そして、彼女の情事の声を聞くため、その家へと潜り込む……
道尾さんの作品というと、ミステリという印象なのだが、本作の場合、ミステリとしての形はなく、とにかく、歪んだ人間関係、主人公・友彦の過去への想いと、しかし、歪んだ行動というものを描いていく物語。
自らが殺した、と思っているサヨに似ている女性・智子を、変態的な形で覗く友彦。しかし、事件が起こり、さらには、智子の抱えるものに、やはり、過去の自分と同じような行動を取ってしまう。そして、そんな友彦を見る幼馴染のナオ……。
雰囲気としても、ある意味、常に背徳感としかし、友彦の身勝手さが強調される文体で描かれる。確かに、友彦の行動は身勝手なもの。しかし、その友彦の世話をする乙太郎、さらには友彦の親もまた、決して聖人君子とは言えない。そして、それとは対照に見えるようなナオ……
ただ、ナオも決して、聖女でも何でもない、というのは冷静に見ればわかる。しかし、そこまで、友彦の行動の身勝手さ、けれども、そこに人間の弱さというか、そんなものだよね、というようなものを感じるのも確か。そういう人間の姿を非常に生々しく描いた作品のように思うのだ。
ミステリとしてのひっくり返しとは違い、ストレートに、人間の醜さ、弱さ、しかし、そんな本性を描いた作品。そんなものを感じる。

No.2233

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COMMENT 2

そら  2010, 09. 08 [Wed] 19:49

>人間の醜さ、弱さ、しかし、そんな本性

うん。
それが悪いと糾弾するわけでもなく,
そんなもんだよと開き直るわけでもなく,
…というところが,
よかったんじゃないかなぁと思います(*^_^*)

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たこやき  2010, 09. 16 [Thu] 01:38

そらさんへ

良い悪い、じゃなくて、ただただ淡々と描いている。
その描き方が、逆に印象を強くしたかな、という風に思います。

ミステリではなく、ただ、淡々と描く。
そういう意味では、これまでの作品をより純化させたのかな? というように思います。

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  • 今期のキムタクドラマ, 道尾さんの書き下ろし原作だということで, 2度ほどトライしたのですが, どうにもこうにも見ちゃいられなくなっ...
  • 2010.09.08 (Wed) 19:53 | 日だまりで読書
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  • 2010.12.16 (Thu) 18:30 | 笑う学生の生活
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