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(書評)化身

著者:宮ノ川顕

化身化身
(2009/10/22)
宮ノ川 顕

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一週間の休暇を手に入れ、南の島へとやってきたぼく。だが、昆虫採集をしようと密林に迷い込んだ挙げ句、脱出不能な池へとはまり込んでしまう。行き先を告げずにやってきたぼくは、そこで暮らすしかなくなり……(『化身』)
第16回日本ホラー小説大賞受賞作の表題作ほか、全3編を収録。
やっぱり、この表題作のインパクトが圧倒的。
冒頭に書いたように、脱出不能な池にはまり込んでしまった主人公の姿を描いた作品。池、とは言え、島となっている部分があり、常に水中にいるわけではない。飲み水も確保されており、また生物も存在しているので、生き延びるのが不可能というわけでもない。ただ、当然のことながら、何もせず、ただそこで暮らす、というわけにも行かない。
閉鎖空間の設定、というのも特徴ではあるものの、ただ、それだけであれば完全にあり得ない、ということはない。
しかし、その空間で暮らす中で、どんどん「進化」を続けていく主人公。それは、完全に人間としてのそれとは異なったところまで進んでいく。それは、何が何でも生き延びる、という生命としての意思なのかも、と感じさせるものがある。そして、その池という空間の食物連鎖の頂点へと上り詰めていく……
そして、そんな食物連鎖の頂点が、その空間からついに脱出しての結末。ここでも、生命としての意思を感じさせ、しかし……と……。このまとめ方も非常に上手いと思う。70頁あまりという分量ながら、不可思議な世界と、自然というものを見事に描ききったように思う。
それと比較すると、他の2編は悪くはないが、普通、という印象。
ノスタルジックな雰囲気で展開する『雷魚』、不景気の中、家にやってきたインコがやがて狂気の引き金になっていく『幸せという名のインコ』。共に、しっかりとまとめられた佳作ではあると思う。ただ、突飛さとか、そういうものはあまりなく、表題作のインパクトと比べるとどうしても弱く感じるのだ。これは、表題作のインパクトが絶大、というのもあると思うのだが。
怖い、というより、不可思議。そんな表題作の世界観に酔いしれた1冊。

No.2241

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