著者:高野裕美子
安さを売りにし、航空業界に新風を巻き起こすワールドインター航空。そのジャンボ機から、爆弾が発見される。日頃からワールド社の杜撰な整備を知る整備士の古畑は、社長の鶴見に詰め寄る。一方、新宿では暴力団員が爆弾で殺される、という事件が発生。古畑の友人でもある刑事・角田は、その組と鶴見の関係を拾い出して……
第3回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
物語の中心にいるのは、時代の寵児とまで言われる男・鶴見雅彦。格安航空によって業界に嵐を巻き起こし、メディア露出も多い。しかし、そこに何か感じさせる胡散臭さ。そして、調べれば調べるほどに現れる暗部。その鶴見に対する脅迫状と、周囲で起こる事件。そこにうごめく「ウツボ」なる存在……。
著者は、本作がデビュー作とのことだが、その前に、海外ミステリの翻訳などを多数手がけている人物らしく、文章力はあるし、登場人物などもしっかりと描けていて読ませる力が十分にある。
特に、事件を追う刑事・角田と、彼に従う秀才だけどまっすぐな速水のコンビ。かつて息子を喪い、今、再び病で妻を失おうとしている整備士の古畑。精力的だが、何か胡散臭い鶴見と言った面々の姿が、それぞれはっきりと頭に思い浮かんで来た。物語にあまり関係のないような描写もあるものの、それが活きているな、と感じる。
……のであるが、何か、あと一歩、物足りないと感じてしまうものがあるのも事実。読みながら何がそう感じさせるのか? というのを考えていたのだが、私の結論としては、山場とそうでないところのメリハリがあまり感じられない、というのが大きいように思う。
序盤の爆弾発見、暴力団員の爆死事件から、次々と物語が展開していき、映像にすれば派手になるだろうシーンも多い。多いのだが、そういうシーンもアッサリと流されてしまう。そういう部分をもっとドラマティックに書けば、かなり印象が異なったと思うのだが。
先に書いたように、良いところは沢山ある。にも関わらず、メリハリの少ない描写によって打ち消されてしまい、勿体ない、という感じが強く残った。
No.2340

![]() | サイレント・ナイト (光文社文庫) (2002/06) 高野 裕美子 商品詳細を見る |
安さを売りにし、航空業界に新風を巻き起こすワールドインター航空。そのジャンボ機から、爆弾が発見される。日頃からワールド社の杜撰な整備を知る整備士の古畑は、社長の鶴見に詰め寄る。一方、新宿では暴力団員が爆弾で殺される、という事件が発生。古畑の友人でもある刑事・角田は、その組と鶴見の関係を拾い出して……
第3回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。
物語の中心にいるのは、時代の寵児とまで言われる男・鶴見雅彦。格安航空によって業界に嵐を巻き起こし、メディア露出も多い。しかし、そこに何か感じさせる胡散臭さ。そして、調べれば調べるほどに現れる暗部。その鶴見に対する脅迫状と、周囲で起こる事件。そこにうごめく「ウツボ」なる存在……。
著者は、本作がデビュー作とのことだが、その前に、海外ミステリの翻訳などを多数手がけている人物らしく、文章力はあるし、登場人物などもしっかりと描けていて読ませる力が十分にある。
特に、事件を追う刑事・角田と、彼に従う秀才だけどまっすぐな速水のコンビ。かつて息子を喪い、今、再び病で妻を失おうとしている整備士の古畑。精力的だが、何か胡散臭い鶴見と言った面々の姿が、それぞれはっきりと頭に思い浮かんで来た。物語にあまり関係のないような描写もあるものの、それが活きているな、と感じる。
……のであるが、何か、あと一歩、物足りないと感じてしまうものがあるのも事実。読みながら何がそう感じさせるのか? というのを考えていたのだが、私の結論としては、山場とそうでないところのメリハリがあまり感じられない、というのが大きいように思う。
序盤の爆弾発見、暴力団員の爆死事件から、次々と物語が展開していき、映像にすれば派手になるだろうシーンも多い。多いのだが、そういうシーンもアッサリと流されてしまう。そういう部分をもっとドラマティックに書けば、かなり印象が異なったと思うのだが。
先に書いたように、良いところは沢山ある。にも関わらず、メリハリの少ない描写によって打ち消されてしまい、勿体ない、という感じが強く残った。
No.2340

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