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(書評)月と詐欺師

著者:赤井三尋

月と詐欺師月と詐欺師
(2010/10/22)
赤井 三尋

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財閥を率いる男・灘尾儀一郎により、家は破産。父母は自殺。そして、灘尾の妾となった姉までもが……。復讐を誓う青年・瀬戸俊介は、ひょんなことで詐欺師の春日と出会う。そして、父の遺産で俊介は、春日に依頼をする。その内容は、灘尾財閥の破産……
戦前を舞台としたコンゲーム作品。時代とすると、二.二六事件の後、特高による取り締まり、軍部の力が増大してきた、というような時代。紹介文では(なぜか戦後を舞台にした)社会派長編と書かれているけど、道具とか、そういうところにその時代のものを用いている、ということで、純粋な娯楽作品だと思う。
まず、キャラクターがわかりやすい。リーダー格の春日、声帯模写の専門家・ミミック、情報収集の専門家・インテリ、女性を落とすのが得意なジゴロ。紅一点の智恵。それぞれが、様々な形で灘尾の周囲を探り、罠にはめるための策を練っていく。ある意味、凄く極端なキャラクターの描き方ではあるものの、それだけにそれぞれの姿が思い浮かべやすい、とも言える。
とにかく、この作品の魅力は、その仕掛けの壮大さ、だと思う。
何せ、目指すのは財閥を破産させること。それを狙うわけだから、とにかく大がかり。ジゴロが電話機の交換手の女性を抱き込む、とか、そういう辺りから始まって、偽の検事をでっち上げる。実在する大学教授となる。などなど、流石に、と思わせる仕掛けを作っていくのが楽しい。序盤で「常識で考えるから騙される」という言葉があるのだが、まさしく、それ。
勿論、大がかりで緻密な作戦は、ちょっとしたところでミスにも繋がる。順調だった作戦が、いざ最終段階になって次々と予想もしないトラブルに見舞われて、ドタバタ劇のような形で何とか成功といった結末も一つの味となっているように思う。
多少、上手くいきすぎ、と言うのはあるものの、全体を通して楽しく読むことが出来た。

No.2352

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