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(書評)見えない復讐

著者:石持浅海

見えない復讐見えない復讐
(2010/09)
石持 浅海

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ある事件をきっかけに、大学への復讐を誓った大学院生たち。そのための資金作りのため、ベンチャー企業を立ち上げることにするが、その投資家・小池は、ふとしたきっかけで彼らの目的を見抜いて……
読んでいて、頭の中に常に同著者の『攪乱者』が浮かんでいた。
というのは、「復讐」の迂遠さ、が共通しているから。学部生時代の出来事がきっかけで、彼らは大学に復讐を誓う大学院生たち。ただし、相手が「大学」であるが故、殺すなどではなく、あくまでも潰す。そして、実行のための資金を稼ぐ間、小規模な「嫌がらせ」を行う。
ということで、序盤は、その大学院生たちの行う嫌がらせが描かれる。キャンパスで蝉の死骸を集める目的は? 男3人でベビー服などを買う目的は? など、一見、何が何だかわからないものを復讐の道具として使用して(一応の)論理的な回答へと繋げていく展開が、『攪乱者』そっくりだと感じた。ある意味、動機の弱さとか、あまりにも迂遠なやり方、推論する根拠の弱さとかも含めて、「らしい」と感じた。
もっとも『攪乱者』と異なり、本作の主人公たちは、目的のために死者が出ることを厭わない、という違いがあるが。そういう意味で、やはり「似て非なる物語」ということなのかも知れない。
もっとも、本作の見所は、それ以上に、終盤の展開なのかも知れない。
復讐のための企業立ち上げ……のはずが、やがて、その成功によって、復讐に対して臆病になってしまう院生たち。対して、それを良しとしない出資者。その思惑の衝突と、その結果。極めて皮肉な結末、というのは避けられないものなのだと思う。
この辺りもまた、『攪乱者』との共通点を感じずにはいられなかった。
もっとも、先に書いたように、各謎解きの根拠、動機の弱さなどはどうしても感じてしまうし、また、「無駄なことはしない」という風に言い表されている投資家・小池の終盤の行動も説得力に欠けるように思う。
登場人物に感情移入できない、というのは、ある意味、著者の作品の特徴だと思っているので(苦笑)、あまり気にしていないが、それだけにやや後半の非合理性が気になった。

No.2435

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