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(書評)戯史三国志 我が糸は誰を操る

著者:吉川永青

戯史三國志 我が糸は誰を操る戯史三國志 我が糸は誰を操る
(2011/05/11)
吉川 永青

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郷挙里選により、都に来たものの、そこで待っていたのは小役人としての冴えない日々。倦んだ陳宮にとって、唯一の楽しみは、馴染みの酒家の看板娘・張鈴とのひととき。しかし、その張鈴は、都で猛威を振るう相国・董卓の元へ。苦しむ陳宮の前に現れたのは、曹操だった……
講談社の読者モニターとして、半分くらい読んで感想を送り、その後、著者のサイン本をいただく、という経緯で手元に来た作品。ちなみに、帯にモニターからの感想がいくつか載っているのだけど……私の感想はボツでした(笑)
そんなわけで、タイトルと、冒頭の話からもわかるように、物語は『三國志』を舞台としたもの。主人公は、名将・曹操の最初の軍師として、大きな信頼を得ながら、突如、謎の反旗を翻して、呂布の元へと走った男・陳宮。曹操が残虐すぎたから、とか、色々と言われる理由について、新たな解釈をした作品ということになると思う。
先に書いたモニターとしての感想でも書いたのだけど、この作品の陳宮は、非常に純粋な男だったのだな、ということ。
黄布の乱で、乱れに乱れた時代であるにも関わらず、郷挙里選で都に来れば……という期待を抱いていた。この時点で、かなり純粋と言える。そして、酒家の娘・張鈴への想い、というのはやっぱり純粋。知謀の将として、裏切り者と並ぶと、凄く冷酷な印象を感じるのだが、この作品の陳宮はむしろ、生真面目で、純粋な男という感じなのである。そして、そんな彼が、曹操の元に行くこと、曹操を離れること。それも、やはり、張鈴への一途な思いから……。終始一貫して、「生真面目で、純粋な男」として彼を描くことに成功していると思う。
てなわけで、すでに、ちょっと書いてしまったのだけど、陳宮を動かす者。それは、張鈴への想い。何も出来なかった自分に憤り、張鈴のために、「自分の手で」漢王朝を滅ぼす、というのが彼の野望。
曹操は素晴らしい将。そう、有能過ぎる。故に、自分で動いてしまう。それでは、陳宮の思いを達することが出来ない。だから……。一方、その自ら動かせると思った呂布は……。
物語の最後に、「主君を選び損なった愚者と言われる。しかし、本当にそうだろうか」という言葉があるのだけど、本作の物語においても、ある意味、それは当たっているのではないかと思う。「目的を達せられなかった」という一点に置いては。しかし、それすらを含めて、一人の魅力的な存在として描いているところが本作の良いところだとも思う。
ちょっと前に読んだ、『天地明察』(冲方丁著)の感想として、「歴史小説としては、かなり軽い」というようなものを書いたのだが、本作も、同じような軽さは感じる。若く、理想に燃える曹操辺りはともかく、極端に臆病であるが故に、狂気と化して戦う呂布とか、武侠としての劉備(何せ、しゃべり方がべらんめえ口調だ)とかが、ちょっと極端過ぎるかな? という感じはした。好みの問題なのだけど。
出版社、著者は、若い世代にも『三國志』が好きな人を増やしたい、という意図を持っているようなのだが、それが成功するかどうかはわからない(『三國志』について、ほとんど知らない人が、いきなりマイナーな存在である陳宮を主役とする物語を手に取るのか? という気がするので)。でも、『三國志』が好きな人が、「こういう解釈もあるのね」なんて思いながら楽しめる作品であるのは確かだと思う。

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COMMENT 2

吉川永青  2011, 05. 20 [Fri] 00:54

 はじめまして。拙著への書評、ありがとうございます。新人作家のつたない文章ですが、まずは、お楽しみいただけたようで何よりです。
 的確な評、大いに参考になります。小説を書き始めて日も浅く(「糸」は四作目)、自分にはまだたっぷり伸びしろがあると信じて、より良いものを書けるように努力して参ります。今後とも、応援よろしくお願いいたします。

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たこやき  2011, 05. 23 [Mon] 19:28

吉川さんへ

こちらこそ、サイン本をいただいた身で、偉そうなことを書いて申し訳ありません。
でも、どちらかというと地味な存在である陳宮の物語、面白かったです。

シリーズ化し、2作目は『我が槍は~』というのを見て、そうすると、あの人かな? それとも……なんて、色々と想像しています。
次回作も期待しています!

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