著者:笹本稜平
都内に住む資産家の老人が失踪した。捜査対象となる「特異家出人」かどうかを調べる警視庁捜査一課特殊班の堂園晶彦は、老人と交流のあった少女らから聞き込みを続ける。そして、その老人の家から、有価証券などが消え、暴力団員の指紋などが発見される……
うーん……なんていうか、悪くはないのだけど……という、物凄く歯切れの悪い感想が出る。
はっきり言って、事件そのものはすごく地味。
いや、途中で犯人の籠城があったりとか、そういう意味では、派手な部分もあるのだが、あくまでもそこは主題ではないし、また、主人公が自ら言うように、特殊班は犯人との折衝などを担当する、という意味でもそういうところを淡々と描いた感がある。そして、被害者の周囲などを洗って、黒幕を探す、などその「地味な」仕事をクローズアップしているのだな、というのが感じられた。
また、物語のひとつの鍵となる被害者老人の過去も綴られる。主人公の祖父との関係もある、そこで、第二次大戦の最中の若者の苦悩、そして、戦時、戦後の混乱。そういうものも読ませる。
そういったものを組み込んで、常に次の展開を作り出して読ませる、というあたりに、著者の巧さというのが色々と現われているのではないかと思う。
ただ……そのように言いつつ、どうしても、「物凄いご都合主義」という感覚も同時に覚える。
事件関係者が、物凄く近しい場所にいる人間ばかりだったり、はたまた、「偶然」の出来事で、事件が大きく動いてしまったり、というのが多いため。ある程度のご都合主義はともかく、ここまで続くと、という感はどうしてもある。ついでに言うと、鹿児島に来た堂園たちが、地元料理を食べたりとか、地元の酒蔵の話が出たり、なんていうのもあり、それを加えると……
思いっきり2時間ドラマ的な物語
という感覚がしてくるのである。それが悪い、という意味ではないが、プラスとして評価できる部分ではないだろう。
ここのところ読んだ、著者の作品は、良くも悪くも2時間ドラマ的というものが多かったが、本作についても、そういう感じをどうしても受ける。たまには、『太平洋の薔薇』のような、大掛かりな冒険小説も読みたい、と期待してしまうのだが。
No.2585

![]() | 特異家出人 (2010/08/23) 笹本 稜平 商品詳細を見る |
都内に住む資産家の老人が失踪した。捜査対象となる「特異家出人」かどうかを調べる警視庁捜査一課特殊班の堂園晶彦は、老人と交流のあった少女らから聞き込みを続ける。そして、その老人の家から、有価証券などが消え、暴力団員の指紋などが発見される……
うーん……なんていうか、悪くはないのだけど……という、物凄く歯切れの悪い感想が出る。
はっきり言って、事件そのものはすごく地味。
いや、途中で犯人の籠城があったりとか、そういう意味では、派手な部分もあるのだが、あくまでもそこは主題ではないし、また、主人公が自ら言うように、特殊班は犯人との折衝などを担当する、という意味でもそういうところを淡々と描いた感がある。そして、被害者の周囲などを洗って、黒幕を探す、などその「地味な」仕事をクローズアップしているのだな、というのが感じられた。
また、物語のひとつの鍵となる被害者老人の過去も綴られる。主人公の祖父との関係もある、そこで、第二次大戦の最中の若者の苦悩、そして、戦時、戦後の混乱。そういうものも読ませる。
そういったものを組み込んで、常に次の展開を作り出して読ませる、というあたりに、著者の巧さというのが色々と現われているのではないかと思う。
ただ……そのように言いつつ、どうしても、「物凄いご都合主義」という感覚も同時に覚える。
事件関係者が、物凄く近しい場所にいる人間ばかりだったり、はたまた、「偶然」の出来事で、事件が大きく動いてしまったり、というのが多いため。ある程度のご都合主義はともかく、ここまで続くと、という感はどうしてもある。ついでに言うと、鹿児島に来た堂園たちが、地元料理を食べたりとか、地元の酒蔵の話が出たり、なんていうのもあり、それを加えると……
思いっきり2時間ドラマ的な物語
という感覚がしてくるのである。それが悪い、という意味ではないが、プラスとして評価できる部分ではないだろう。
ここのところ読んだ、著者の作品は、良くも悪くも2時間ドラマ的というものが多かったが、本作についても、そういう感じをどうしても受ける。たまには、『太平洋の薔薇』のような、大掛かりな冒険小説も読みたい、と期待してしまうのだが。
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