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(書評)探偵・日暮旅人の失くし物

著者:山口幸三郎

探偵・日暮旅人の失くし物 (メディアワークス文庫)探偵・日暮旅人の失くし物 (メディアワークス文庫)
(2011/01/25)
山口 幸三郎

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視覚以外の感覚がなく、代わりにそれらを「視る」ことができる探偵・日暮旅人。探し物を専門にする彼のところへ、看板メニューの「隠し味」は何なのか探してほしい、という依頼が入り……(『老舗の味』)
など、全4編を収録した連作短編集。
前作では、ずっと、どちらかというと人情モノ作品のテイストを続け、最後の最後に「え?」と思われるようなブラックなシーンで混乱した。そして、シリーズ第2作の本作……
物語のテイストで言うと、今回は、完全に二つに分かれていると思う。それこそ、「日暮旅人って、二人居るとかじゃないよね?」と思うくらい。
冒頭にもちょっと書いた『老舗の味』。叔父の店に受け継がれた味を何としても継ぎたいと考える青年。一方、その叔父は、店を閉めようと決意していた、というもの。どちらも、互いのことをずっと考えて……というすれ違いが、日暮の調査によって温かくまとめられる。
また、未婚の母が、自分の娘に手を上げてしまって……という『母の顔』も同様。どん底の中でのスタートなど、嫌な雰囲気は漂っているのだけど、5歳にしては物凄く大人びた日暮の娘・灯衣の活躍などもあって光が見える結末の読後感は素晴らしい。
が、その一方で、強盗団の仲間割れを描いた『死体の行方』では、無理やり手伝わされる、という形を取りながらも、どんどんその面々を誘導して最悪の結末へと追いやってしまう。黒幕の「噂以上に聡明で腹黒い」という評価が、これほどぴたりとくる話もないと思う。上に書いた2編の、お人よしな人物像と全く重ならない。
そして、最後に収録された『罪の匂い』。疾走した陽子の知人を探す、というもので、そこに麻薬だとか、そういうものも出てくるのだけど、基本的には、普段の日暮のような姿が続く。しかし、雪路が言うように、その結末部分で、やはり尋常じゃないものを感じさせる姿を見せている。日暮の過去に関する示唆があったり、とか、そういうことを考えても、今後、そういう方面が多くなるであろう事は容易に想像できるわけで……このエピソードは、そこへの助走といったところだろうか。
日暮の二つの顔が、どういう形で存在しているのか? 今回、示された日暮の過去にまつわる人物とどうかかわるのか? そして、日暮の体質の秘密は? 今回も気になる終わり方であるといえよう。

No.2599

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COMMENT 2

苗坊  2011, 07. 31 [Sun] 02:50

こちらにも。
最後の作品は本当にブラックでしたね。日暮旅人は2人いるのか二重人格なのかと思うくらいに。
「老舗の味」と「母の顔」は最終的には温かな気持ちになれる作品でしたがあと2作品は驚くくらいブラックでした。
微妙に旅人の過去が垣間見えましたがまだまだ分からない部分はありますね。
最近第3弾が出たようなので早く読みたいです。

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たこやき  2011, 08. 12 [Fri] 17:01

苗坊さんへ

こちらも、コメント、ありがとうございます。
本当に、この巻の旅人は、二人いるのか、二重人格か、という感じですよね。そして、ますます深まる謎……

3作目も出たんですね。
これも楽しみにしたいと思います。

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