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(書評)ロマンス

著者:柳広司

ロマンスロマンス
(2011/04)
柳 広司

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昭和8年、春。ロシア人の血を引く子爵・麻倉清彬は、親友である多岐川嘉人にカフェに呼び出される。そこで見たのは、何者かに殺害された男。それがすべての始まりだった。華族社会、共産主義者の逮捕、禁断の恋……
時代の設定が絶妙。何よりもそこだと思う。
北村薫氏のベッキーさんシリーズなどもそうなのだが、昭和初期という時代は、まだ華族制度が残り、華族という特権階級が存在していた時代。一方で、国内では5・15事件などを経て、軍が力を持ち始め、国際的にはヒトラーがドイツ首相に選ばれるなど第二次大戦へ向かって、大きく動き出していた次代でもある。北村氏の作品では、まだ残る華族の優雅さ、優美さを感じたが、本作は時代の変遷の中にある矛盾点とか、制度疲労とか、そういうものを感じる。
冒頭に書いたよう、主人公・麻倉清彬は、ロシア人の血を引く子爵。フランスで育ったが、両親は現地で事故死し、大叔父の力添えで帰国し、爵位を手にしたという存在。日本人離れした容貌と日本にとっては外部の存在という立ち位置。それゆえに、日本社会、華族社会からも孤立する日々。想い人との結婚も、それが原因であきらめてしまう。その論理がデタラメと知りながらも。けれども、一方で、ただ働かずに暮らす、というのは華族の特権があってこそ、ともいえる。
一方で、その親友・嘉人は、華族の家の生まれながら、軍へと入る。「華族も平民も関係ない社会」と信じて。しかし、そこで知るのは、また別の階級社会。そして、嘉人の妹であり、清彬の想い人でもある万里子の危険思想による逮捕……。
最初に、「時代設定が絶妙」と書いたのは、その状況がすべて悪い方向へと転がる材料となっていることだと思う。まだ経済的にも社会的にも余裕があった大正時代などなら、嘉人のような特権に対する疑問というのは浮かばなかったに違いない。また、そういう時代なら、軍への期待は低く、国粋主義も出ていない。そうなれば、清彬も……。しかし、そうはならない。
その一方で、本人は絶望し、嫌悪を抱こうと、清彬にせよ、嘉人にしろ、特権に守られている部分がある。それが周囲からの批判を生むことを知っていながら、そこから離れることが出来ない。『オリンピックの身代金』(奥田英朗著)の主人公・島崎がみたマルクス主義のような、矛盾だからの閉塞感を強く感じてしまう。
正直なところ、冒頭でいきなり始まる殺人が、実は物語全体では取ってつけたような状態とか、もう少し巧く描けば、より魅力的になるのでは、と思うところもある。
ただ、華族社会の末期、その行き詰まり感というのを巧く切り取ったな、というのは強く感じる。

No.2611

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COMMENT 2

ニコ  2011, 07. 15 [Fri] 23:55

柳氏の

スパイものは読みました。
頭脳を書くイメージでした…
これ、ぜひ読んでみます。

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たこやき  2011, 07. 23 [Sat] 18:39

ニコさんへ

こんばんは。
返事が遅くなって、申し訳ありません。

>頭脳を書くイメージでした…

なんか、その表現、巧いですね。確かに、『ジョーカー・ゲーム』などは、そんなイメージありますね。

この作品は、そういう作品とはかなり印象を異にすると思います。
かといって、柳氏のデビュー作などの、歴史上の人物を探偵役にした作品とも違いますし、独特の作品だな、と感じました。

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