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(書評)命に三つの鐘がなる Wの悲劇’75

著者:古野まほろ

命に三つの鐘が鳴る Wの悲劇'75命に三つの鐘が鳴る Wの悲劇'75
(2011/05/19)
古野まほろ

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学生時代、左翼革命組織に所属していたキャリア警官・二条。かつて、親友に恋人を奪われた、という過去を持つ彼の前に、その親友・我妻が現われる。恋人である和歌子を自分が殺した、と言って。取調べに当たる二条だったが……
『Yの悲劇』に続いて、光文社から出た作品。一応、シリーズということになるんだろうか? あまり直接的なつながりは感じないのだが(世界観などは、講談社のシリーズなどとも繋がっている) 世界観そのものは、現実のそれと違うのだが、しかし、現実と同様に安保闘争のような戦いの残り香で、先鋭化した学生運動家がひとつの主題となっている。
物語は、冒頭に書いたように、左翼運動家であった警官・二条と、現役の左翼運動家である親友・我妻が取調室で対決する、という構図になっている。ただ、これまでの著者の作品同様、仮説、ストーリーが構築されては、それが崩れて次の仮設が生まれる。それが崩れては、また次の……という形であり、やはり、その辺りにこだわりがあるのだな、と感じずにはいられない。
捜査経験がないままに、親友と取調室で対決することになる二条。我妻は、和歌子を殺したことは認めるものの、動機については沈黙。そして、少しずつ語る事件当日の内容にも、多くのウソが入り混じる。
この設定が巧いな、と思う。捜査経験が少ないうえに、親友であり、しかも、元の恋人を奪った存在という私情が入りまくってしまう二条。ゆえに、次々と繰り出される我妻の策を見破れず、翻弄されてしまう。我妻の語る動機に一度は納得するものの、様子を見ていたベテランの上司は次々と矛盾を発見し、それが崩れる。新証拠を突き出すたび、再び語られる別の動機。一体、それがどこへ向かっていくのか……取調室と控え室というので殆どが語られる物語であるのに、その展開が非常にスリリングに感じられる。
また、これまでの著者の作品と比べ、主人公が年上ということもあるのだろうが、これまでと比べて落ち着いた雰囲気も漂う。上司とのやり取りの中では、「何やってる!」と小突かれたり、(一応)部下の女の子にまでダメだしされたり、とギャグシーンも多いのだが、それでも、亡き恋人への想いであるとかが綴られ、しっとりとした情緒的な雰囲気にまとまっている。
結末も、その雰囲気を大事にした形。ある意味では、出来すぎなくらいの形ではあるのだが、そこまで綴ってきた情緒的な雰囲気を最大限に活かす形で纏め上げられる。多少、ずるい伏線回収も感じるが、それも許容できてしまうくらいに。
これまでの作品を読んできた身として、まさか、著者の作品でここまで切ない思いを抱くとは思ってもみなかった。

No.2612


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