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(書評)月は怒らない

著者:垣根涼介

月は怒らない月は怒らない
(2011/06/03)
垣根 涼介

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多重債務者の債務整理で食べる男・梶原。大学生の弘樹。妻と上手くいっていない警察官・和田。それぞれが、それぞれの形で一人の女に惹かれている。その相手は、市役所の戸籍係を勤める恭子。美人ではあるが派手さは無く、何も求めない。そんな彼女に……
恭子という人間が、何とも不思議な存在だな。何よりも、読んでいてそれを感じる。
冒頭に書いたように、恭子という女性は、市役所に勤め、美人ではあるが化粧っけはなく、派手な遊びなどもいらない、という女性。食事は自分で作ったもののみで、身体の関係となっても、どこか常に一線を画し踏み込ませない。その存在が、とても印象的。そして、それがすべて、とも思う。
著者の作品というと、『ワイルド・ソウル』とか、『ヒートアイランド』とか、アングラで、派手なイメージがあるものの、本作の物語はただ、その女性を3人の男が想う、というもの。
私自身も、イマイチ、恭子という存在が掴みきれなかったように、その3人もそれぞれ、恭子に惹かれながらも、しかし、彼女について掴みきれずに思いを募らせる。そして、恭子が、自分以外ともあっている、ということに余計に。
恭子、という存在は、ある意味では罪作りな存在だと思う。
自立した一人の人間でいたい。誰かに頼るのは嫌。
それ自体を言葉として、理屈として理解することは出来る。けれども、その言葉で常に一線を画されているもどかしさ。自分だけを見てほしい、という独占欲。それらが募るのは当然だし、また、そういう気持ちを募らせるほど、自分自身が相手に頼りきりだ、と言う気持ちにさせられる。読者である自分自身が、作中の3人の主人公ほど恭子にのめり込むことは不可能だが(それぞれとの関係も知っているわけだから余計に)、その中での各主人公たちの気持ち、というのはすごく伝わってきた。
ただ、これまでの著者の作品なら、そこまで思いを募らせた面々が、その思い故に大きな行動に出て……ということになりそうなものだが、本作はそこも含めて静かに結末を迎える。爆発する兆しはありつつも、やはり恭子という女性の引力によって静かに収めてしまう。
何か、上手くまとまらないのだけど、情熱に突き動かされる男たちと、淡々と自分の人生観を貫く恭子。男たちと恭子というのが、燃える太陽と、そこにあり、ただその光を返す月。そんな関係のように感じられた。それでも、最後は……ということで、その熱も届いていた……のだろうか?

No.2628

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  • 2013.01.29 (Tue) 11:50 | 粋な提案
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  •  月は怒らない/垣根 涼介
  • 垣根涼介さんの「月は怒らない」を読み終えました。 物語は主として3人の男の視点から語られます。1人は多重債務者の取り立て人。ヤクザではないものの、限りなく裏に近いところで生きている男。1人は居酒屋で知り合った大学生。もう1人は既婚の警察官。この3人は、なんと同じ1人の女性と付き合っているのでした。その女性の名は、三谷恭子。なぜこんな不思議な人間関係ができあがったのか、それが語られていき...
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