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(書評)咸陽の闇

著者:丸山天寿

咸陽の闇 (講談社ノベルス)咸陽の闇 (講談社ノベルス)
(2011/08/04)
丸山 天寿

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不老不死を望む始皇帝。その望みをかなえるべく、始皇帝の都・咸陽を訪れた除福の一行。始皇帝へ研究成果の報告を進める方師らの中、除福らの滞在する里に「人食い女」が現れ……
シリーズ第3作。
ただ、前作まで2作は、琅邪の街を舞台とし、主人公もそこの求盗・希仁が主役だったのに対し、本作では、過去2作でも存在感を示していた除福の護衛・狂生の妻・桃が主人公に代わっている。まぁ、だからといって、作品のカラーが極端に変化したわけではないのだが。
本作も、様々な要素をこれでもかと詰め込んだところが魅力的。
物語の発端となる「人食い女」。若い娘が「失踪する」という事件が続き、始皇帝による工事の現場では、「皮のみが残る」死体が大量に発見される。さらに、「亜人」の作成にまつわる謎に、今度は老人たちの失踪……と次々と事件発生。
それだけではなく、近作の主人公が、男勝りな活発な女性・桃、ということもあり、咸陽の都を舞台に悪漢との戦いがあったり何なりと非常にエンタメ性を追求したつくりになっている。
そんな中で語られるのは、著者の言葉でもある始皇帝の人間性に対する疑問。
つまり、戦乱の世を統一した合理的で、指導力があったはずの始皇帝。しかし、そんな合理性の塊のような人物が、晩年には後継者育成をせず、不老不死を求め、国を省みない大規模な工事を次々と。同じ人間がなぜ、そうなってしまったのか? そこへの解釈をする、ということになっている。
これまでの作品とは違い、ミステリ部分についてはしっかりと合理性を与えつつも、解釈の部分ではファンタジー要素を取り入れるなど、主人公の交代以外にも変化を持ってくるなど意欲を感じる。まさか、前作で「ワンパターンになりかねない」みたいなことを書いたのだが、そこへの返事ではないだろうが(笑)
でも、作品の雰囲気、まだ科学技術とか、そういうものが発展していない時代。そういうのを考えるとあってもおかしくない、というのは確かにある。考えてみれば、始皇帝の時代より、さらに400年近く経過した三国志とかの世界でも、仙人が暴れていたりするわけだし。それを考えれば、(本作の解釈がそのままではないにせよ)何か始皇帝の合理主義に衝撃を与えるものとであったのだろう、と考えるのは自然であるように思う。また、それがあったからこそ、除福のような人物が登場し、本作のような作品が生まれたのだよなぁ……とか、変な形で考えをめぐらせてしまった。
謎解き要素とかはやや弱くなってきたが、相変わらず、読者を楽しませようという意欲が強く感じられ、満足感の高い読後感を得た。

No.2680

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