fc2ブログ

(書評)戯史三国志 我が槍は覇道の翼

著者:吉川永青

戯史三國志 我が槍は覇道の翼戯史三國志 我が槍は覇道の翼
(2011/09/07)
吉川 永青

商品詳細を見る


光和7年8月。荊州南陽郡・宛。黄布賊軍を率いる将・程普は、新たに派遣されてきた官軍の将・孫堅を迎え撃つ。漢帝国に絶望し、黄布にその身を投じた程普にとって、それこそが運命の出会いとなる……
『戯史三国志』シリーズ第2作。
物語としては、『我が糸は誰を操る』とは別個なので、こちらから読んでも特に問題はないが、同じシーンを別の視点から描く部分があるなど、リンクした形になっている。
で、とりあえず、作品を読む前に思ったことは、「これ、どういう風に描くのだろう?」ということ。
前作の主人公・陳宮は、渋いところを付いてきたな、とは思いつつも、『三国志』を読んでいれば、何をして、どう散った人なのか、ということははっきりしている。一方、程普というのは、旗揚げした頃から孫堅に従い、軍事・政務どちらにも力を発揮、その軍の長老的な存在として活躍した。それはわかっているのだが、名だたる豪傑、知将のような華々しい活躍というのはなく、どちらかというと「縁の下の力持ち」的なイメージなのである。野球選手に例えると、曹操や劉備、はたまた、孫家でも周瑜なんかは、圧倒的な存在感のある4番打者だけど、程普はそれを支える6番打者くらいのイメージ。そういう選手がチームにとって大事なのと一緒で、軍にとって必要不可欠な存在なのはわかるのだが、主役にするのは難しそうだと感じたのである。ぶっちゃけ、長年、孫家に仕えた将、という以外の程普のイメージは、若き世代の代表格であり、軍の中心へと抜擢された周瑜と確執があったが、後に解消したというエピソードくらい。
と、長々と前置きをしたのだが、まさしくそれをメインに添えてきたことに「なるほど」と感じた。
冒頭に書いたように、敵として孫堅に出会い、孫堅に惚れこんだ程普。韓当、黄蓋、祖茂といった年齢も、境遇も似た者たちとともに、孫堅に従って戦場をかける。しかし、その孫堅は志半ばにして、命を落とす。そして、その跡目を継いだ孫策の時代……
孫策も、周瑜も優れたところがある。だから、文句は言わない。けれども、自分に対する態度など、どうも気に入らない。中盤辺りから何度となく描かれるこの、程普の苛立ちって、時代を超えたものだと思う。この自分が惚れこんだ孫堅。その意思を継ぎ、覇道の翼になるのだ、という決意はまさしく「忠臣」という感じであるし、その「忠臣」としてまだまだ未熟な孫策を育てなければならない、支えねばならない、というような気持ちになるのは自然なこと。でも、そういう風に考えてしまうことが、ひとつの落とし穴、傲慢さでもある。この作品に限らず、世代間の確執、みたいなものはありがちなテーマではあるのだけど、頑迷な上の世代に対する若者、という視点ではなく、上の世代の視点で、思わず頑迷になってしまう、というのを上手く描いているな、という風に感じた。
で、この程普の年齢設定というのも、それを考えると上手く考えられていると思う。程普自身は、具体的な生没年は不詳のようだが、本作では孫堅よりも9歳年上という設定になっている。手元にあった、コーエーのゲーム『三国志5』では孫堅より2歳年上という設定。孫堅と同世代でも、孫策らは自分の子供世代になるだろうが、孫堅よりさらに10歳近く上、という設定ならばさもありなん、と思うのだ。物凄く細かいところなのだが、年長者で、ずっと孫家の屋台骨を支えていたのだ、という思いが一つのキーワードとなるにあたり、これが上手く効果を挙げていると感じた。
一級の策士として活躍した前作の主役・陳宮と比べると派手さはないかもしれない。しかし、そのような4番打者のような存在ではないからこそ、程普の心情というのが身近に感じられ共感することが出来た。好みの問題はあるだろうが、私は、凄くこの作品、好きだ。

No.2691

にほんブログ村 本ブログへ





スポンサーサイト



COMMENT 2

吉川永青  2011, 10. 25 [Tue] 12:37

今回も

毎度素晴らしい評、ありがとうございます。細かいところまで読み取っていただいて幸甚、著者としてはこういう時が一番嬉しいものです。次回作も初稿完成間近、来年三月刊行お目標に進行していますので、お楽しみに。手前味噌ですが、第三作は前二作をだいぶ超えたものに仕上がりそうですよ。

Edit | Reply | 

たこやき  2011, 10. 31 [Mon] 20:51

吉川さんへ

こちらこそ、著者の方にそう言って頂けるのは、うれしいような、恥ずかしいような……という気持ちです。
でも、程普という、長きに渡って孫家を支えた人物だからこそ陥ってしまう落とし穴、というのがすんなりと感じられました。

第3作目も、楽しみに待ちたいと思います。

Edit | Reply |