著者:大門剛明
姫路でどろ焼き店を営む鳴川。かつての職場でもある近くの製鎖工場の面々も頻繁に訪れ、繁盛する日々。そんなとき、その工場が連帯保障債務を背負い、倒産の危機にあることを知る。恩人である先代社長のため、その娘で、片思いの女社長・翔子のため奔走する中、債権者の遺体を工場で発見し、鳴川はその遺体を移動させる……。
正直、全体的に散漫な印象を受けた。
これまで、司法に関わる社会問題をテーマにした作品を一貫してきた著者。本作も、「共同正犯」という刑法において重要な概念をタイトルに掲げているので、当然、そこを期待していた。
ところが、本作のテーマとなるのは、連帯保証人制度。債権者にとっては、債務者が破産しようが、夜逃げしようが、連帯保証人から直接、弁済を受けることができる便利な制度。しかし、保証人はといえば、メリットがなく、リスクだけを背負うということに。物語の中心となる工場、翔子が危機に陥ったのは、まさしく連対保証債務を背負ったことに由来するし、周囲にもその問題に関わる人物が登場する。また、リスクだけを背負って、メリットがない、という点を考えると、工場を守ろうとして犯罪行為などをする鳴川の行動もそれに近いのだ、というのを描きたいのだろうとも感じた。
ただ、物語として、その部分だけなのかと思いきや、事件を追う刑事・池内の兄と工場の因縁が出てきたり、鳴川に対し、真犯人を名乗るものから連絡が来たりで複雑というか、どこが中心なのかわからなくなっていく。また、視点の方も、鳴川、池内の双方になるので、どうも落ち着かないし、皆が守ろうとする翔子の魅力というのも伝わりにくくなってしまったような気がする。同じ題材であっても、鳴川だけの視点で綴るとか、警察だけの視点で綴る、という風にしたほうが良かったような気がする。
作品の方向性を転換させようとか、そういう狙いが著者にはあったのかもしれないが、正直、それに失敗してしまったのではないかと思う。
No.2692

![]() | 共同正犯 (2011/07/30) 大門 剛明 商品詳細を見る |
姫路でどろ焼き店を営む鳴川。かつての職場でもある近くの製鎖工場の面々も頻繁に訪れ、繁盛する日々。そんなとき、その工場が連帯保障債務を背負い、倒産の危機にあることを知る。恩人である先代社長のため、その娘で、片思いの女社長・翔子のため奔走する中、債権者の遺体を工場で発見し、鳴川はその遺体を移動させる……。
正直、全体的に散漫な印象を受けた。
これまで、司法に関わる社会問題をテーマにした作品を一貫してきた著者。本作も、「共同正犯」という刑法において重要な概念をタイトルに掲げているので、当然、そこを期待していた。
ところが、本作のテーマとなるのは、連帯保証人制度。債権者にとっては、債務者が破産しようが、夜逃げしようが、連帯保証人から直接、弁済を受けることができる便利な制度。しかし、保証人はといえば、メリットがなく、リスクだけを背負うということに。物語の中心となる工場、翔子が危機に陥ったのは、まさしく連対保証債務を背負ったことに由来するし、周囲にもその問題に関わる人物が登場する。また、リスクだけを背負って、メリットがない、という点を考えると、工場を守ろうとして犯罪行為などをする鳴川の行動もそれに近いのだ、というのを描きたいのだろうとも感じた。
ただ、物語として、その部分だけなのかと思いきや、事件を追う刑事・池内の兄と工場の因縁が出てきたり、鳴川に対し、真犯人を名乗るものから連絡が来たりで複雑というか、どこが中心なのかわからなくなっていく。また、視点の方も、鳴川、池内の双方になるので、どうも落ち着かないし、皆が守ろうとする翔子の魅力というのも伝わりにくくなってしまったような気がする。同じ題材であっても、鳴川だけの視点で綴るとか、警察だけの視点で綴る、という風にしたほうが良かったような気がする。
作品の方向性を転換させようとか、そういう狙いが著者にはあったのかもしれないが、正直、それに失敗してしまったのではないかと思う。
No.2692

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