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(書評)キョウダイ

著者:嶋戸悠祐

キョウダイ (講談社ノベルス)キョウダイ (講談社ノベルス)
(2011/08/04)
嶋戸 悠祐

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妻子に恵まれ、順調で幸せな日々を送る私。しかし、その幸せは、妻が持ち出した小学校時代のアルバムによって崩れ去る。なぜならそれは、存在していないはずのもの。過去とともに封印したものだったのだから……
第3回ばらの町福山ミステリー文学新人賞優秀賞受賞作。
とにかく、この作品の中で印象的なのは、物語の多くを占める過去の回想。
父が死に、母と再婚して家に来たのは暴力によって家族を支配する男。しかも、母は病に倒れ、義父と私、そして双子の兄弟は、育った町から離れた貧民街・餓死町へ……。義父となった父の振るう暴力の数々。突如、病に倒れ、全身から膿んだ体液を流してしまうキョウダイ。さらには、通うこととなった小学校での壮絶なイジメ。
まさしく「地獄のような日々」という表現がぴったりな状況が延々と続いていて、その雰囲気の濃密さにどんどん嫌~な気分が強くなってきた。特に、私自身は、病になってしまったキョウダイという描写が、とても嫌だった。
というのも、怪我などをして、その場所が膿んでしまった、ということはあると思う。その場所が破けたとき、自分自身のことなのに、「嫌」な気分になった。それが、いくら自分の双子の兄弟とは言え全身がその状態になり、物凄い臭気を放つ。それを想像しただけで……となった。勿論、現実に何らかの原因で、そういう状態になって苦しんでいる人もいるのだろうから、それが嫌だ、とか、気持ち悪い、というのは失礼だとは思うのだが……それでも生理的にきつかった、というのが素直なところ。
そして、その病を利用して、義父が起こした事件。そもそも、義父は嫌な存在、ということは、そこまでも徹底的に描かれていたのだけど、ただでさえ上に書いたような状況で苦しんでいるキョウダイを利用して……という状況に、義父の狂ったような恐ろしさがこれでもかと詰め込まれたシーンになっていると思う。本当に、最悪な気分になった。
そういう嫌な気分にさせるところは見事だと思う。
が、ミステリーとして、という点はやや拍子抜け。燃やしてしまったはずのアルバムがあった理由、なんていうのはある意味、当たり前すぎる理由だったし、作中に用意された仕掛けも、驚きはしたものの、回想での虐待とか、そういうものほどのインパクトはない。そして、真相がわかって、ただバッドエンドという結末もちょっと納得できなかった。そのバッドエンドの形にしたことも含めて「狂気」を描いたのだ、といえば、そうなるのかもしれないが。
著者の言葉として、「私の考える本格ミステリーとホラーの融合、これの出発点となる作品」とある。しかし、私自身は、ミステリーとしての仕掛けや、ホラー的な怖さ、というのはそれほど感じなかった。感じたのは、ただただ、人間の嫌な部分。どんでん返しとかよりも、人間のいやらしさ、醜さ、弱さ……そういうものを追求した作品としてお勧めしたい、という風に思う。

No.2697

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