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(書評)物の怪

著者:鳥飼否宇

物の怪 (講談社ノベルス)物の怪 (講談社ノベルス)
(2011/09/07)
鳥飼 否宇

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植物写真家の猫田と「観察者」を自称する鳶山を主人公とするシリーズの作品3作を収録した短編集。
久しぶりに読んだこのシリーズ。最初に感じたのは、あれ、こういう雰囲気の作品だったっけ? ということ。何か、京極夏彦作品を読んでいるような気分になった。
『物の怪』というタイトルの通り、収録された3編はそれぞれ、河童、天狗、鬼というものを一つのテーマにしている。それぞれに関した話題、事件が現れ、鳶山がその正体、その発端についての説を開陳していく。民俗学的な考察などは、それぞれ読み応えがあり、それだけでも楽しめた。
収録された話の中で、やはりもっともインパクトがあるのは、もっとも分量を取っている『洞の鬼』。
かつて、鉱山で栄えた島。そこで行われる秘祭の取材に訪れた猫田たちの前で、神事に備えていた女性と、島で活動をしていたアーティストが宝剣によって惨殺されていた。島に伝わる「鬼の腕」に、崩落し、密室状態となっていた洞窟で起きた事件の真相は……というもの。
先に書いたように、ここでも、鬼についての薀蓄などが色々と出てくるし、また、著者の作品でよく題材として綴られる現代アートなんていうようなものが出てきて、ああ、鳥飼さんの作品を読んでいるんだな、という気分になった。
そして、何よりも真相の救いのなさが印象に残る。
かなり凄惨な事件ではあるのだが、明るいキャラクターなどが出ることで、そういう暗さをほとんど感じられずに進むストーリー。その雰囲気が、すべて悪い方向に出てしまう。トリックとか、そういう部分ではなく、雰囲気のひっくり返しが見事の一言。
ある意味では、無知が招いたこと、ではあるのだろう。
でも、場を盛り上げるために言った一言が、何気ない一言がすべての引き金になってしまう、というのは悔いても悔いきれないはず。引き金を引いてしまったこの人物は立ち直れるのだろうか? ラストシーンの「おそろしい物の怪の顔」以上に、この人物のことが気に掛かった。

No.2699

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