(書評)刑事のまなざし
- 17, 2011 12:08
- や行、ら行、わ行の著者
- 0
- 1
著者:薬丸岳
少年院の法務技官から、ある事件を元に転職した刑事・夏目。過去と戦い、冷静に事件を見る夏目を主役とする連作短編集。
これまで読んだ著者の作品というのは、罪と償い、なんていう部分をメインテーマに添え、そちらに力を入れている、という印象が強かった。無論、ミステリとしての仕掛けがダメというわけではないのだが。
それと比べると、本作は、それぞれのエピソードにおいてひっくり返しだとか、予想外の犯人といった部分を多めに示し、エンタメ性を高くしているように感じる。
その中でも、1編目の『オムライス』の印象が強い。
夫が死に、高校生になる息子と内縁の夫という3人で暮らす一家。その内縁の夫が、放火によって死亡した。その夫は、働かず、DVを繰り返すということが判明する中、息子が放火を告白。しかし、夏目は真相を見抜いて……という話。
登場人物の人数が限られているので、犯人が誰かは消去法でわかるのだけど、それでも40頁あまりの分量の中で、次々と事件が動き、最後に判明する全く救いのない真相には度肝を抜かされた。ある意味では、本作の中では最も、償いなどのメッセージ性は少ない話だと感じたのだが、完成度の高さは他のエピソードと比べても群を抜いて高いものになっていると思う。
メッセージ性が高く、しかも、事件の意外性も、というのは、2編目の『黒い履歴』が印象的。
父を殺害したとして少年院に入った過去を持つ伸一。そのことによって、仕事をクビになったその日、一緒に暮らす姪の友達の父が殺害される。
こちらでも、意外な真相があるわけだが、それ以上に、罪、償い、というものが何なのか、を考えさせられる。よく、捕まって刑務所に言っても反省なんかしない、みたいな話もあるのだけど、しかし、教育とかがなかったとしても、逮捕される。犯人となる。それらが本人にとってのきっかけになることがあるのだろう。もし、その機会を失ったら、その反省は暴走するのではないか? そんなことを考えさせられる。本当に、冒頭の2編のインパクトが物凄い。
また、刑事の夏目も良い。元々は、少年院の法務技官であった、という人物なのだが、それらしく、関係者からじっくりと話を聞き、そして、丹念に調べ上げることによって真相を見抜く、というのは、東野圭吾氏の「加賀恭一郎」刑事のような印象があり、その捜査をもっと読みたいという気持ちにさせる。それだけに、後半に行くにつれ、事件の捜査ではなく、夏目の過去などに焦点が移っていくのは、個人的にはちょっと残念だった。物語をまとめる上で必要なのはわかるのだが、夏目の過去とかは(ミステリの読者的には)ありきたりに感じられたため。
個人的に、過去の事件に縛られることなく、純粋に現在の事件を冷静に捉える刑事・夏目の活躍を描いた続編が出て欲しいと期待する。
No.2731

![]() | 刑事のまなざし (2011/07/01) 薬丸 岳 商品詳細を見る |
少年院の法務技官から、ある事件を元に転職した刑事・夏目。過去と戦い、冷静に事件を見る夏目を主役とする連作短編集。
これまで読んだ著者の作品というのは、罪と償い、なんていう部分をメインテーマに添え、そちらに力を入れている、という印象が強かった。無論、ミステリとしての仕掛けがダメというわけではないのだが。
それと比べると、本作は、それぞれのエピソードにおいてひっくり返しだとか、予想外の犯人といった部分を多めに示し、エンタメ性を高くしているように感じる。
その中でも、1編目の『オムライス』の印象が強い。
夫が死に、高校生になる息子と内縁の夫という3人で暮らす一家。その内縁の夫が、放火によって死亡した。その夫は、働かず、DVを繰り返すということが判明する中、息子が放火を告白。しかし、夏目は真相を見抜いて……という話。
登場人物の人数が限られているので、犯人が誰かは消去法でわかるのだけど、それでも40頁あまりの分量の中で、次々と事件が動き、最後に判明する全く救いのない真相には度肝を抜かされた。ある意味では、本作の中では最も、償いなどのメッセージ性は少ない話だと感じたのだが、完成度の高さは他のエピソードと比べても群を抜いて高いものになっていると思う。
メッセージ性が高く、しかも、事件の意外性も、というのは、2編目の『黒い履歴』が印象的。
父を殺害したとして少年院に入った過去を持つ伸一。そのことによって、仕事をクビになったその日、一緒に暮らす姪の友達の父が殺害される。
こちらでも、意外な真相があるわけだが、それ以上に、罪、償い、というものが何なのか、を考えさせられる。よく、捕まって刑務所に言っても反省なんかしない、みたいな話もあるのだけど、しかし、教育とかがなかったとしても、逮捕される。犯人となる。それらが本人にとってのきっかけになることがあるのだろう。もし、その機会を失ったら、その反省は暴走するのではないか? そんなことを考えさせられる。本当に、冒頭の2編のインパクトが物凄い。
また、刑事の夏目も良い。元々は、少年院の法務技官であった、という人物なのだが、それらしく、関係者からじっくりと話を聞き、そして、丹念に調べ上げることによって真相を見抜く、というのは、東野圭吾氏の「加賀恭一郎」刑事のような印象があり、その捜査をもっと読みたいという気持ちにさせる。それだけに、後半に行くにつれ、事件の捜査ではなく、夏目の過去などに焦点が移っていくのは、個人的にはちょっと残念だった。物語をまとめる上で必要なのはわかるのだが、夏目の過去とかは(ミステリの読者的には)ありきたりに感じられたため。
個人的に、過去の事件に縛られることなく、純粋に現在の事件を冷静に捉える刑事・夏目の活躍を描いた続編が出て欲しいと期待する。
No.2731

http://1iki.blog19.fc2.com/blog-entry-2208.html
スポンサーサイト
TRACKBACK 1
- この記事へのトラックバック
-
- 「刑事のまなざし」薬丸岳
- 娘の笑顔を奪われた男は刑事の道を選んだ。そのまなざしは何を見つめているのか―。思わず涙があふれ出す連作短編集、 ぼくにとっては捜査はいつも苦しいものです―通り魔によって
- 2013.06.18 (Tue) 14:12 | 粋な提案