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(書評)天使の報酬

著者:真保裕一

天使の報酬天使の報酬
(2010/12/21)
真保 裕一

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サンフランシスコで現地の大学に通う霜村瑠衣が失踪した。外務省邦人保護担当領事である黒田は、父親とともに捜査に立ち会うが、父親は何かを隠している様子が伺える。さらに、現地の警察は、彼女にテロ準備罪の疑いがあるという。偽造パスポートで日本へ入った瑠衣を追う中、様々な疑惑があらわれ……?
『アマルフィ』の続編となる黒田シリーズ第2作で、ドラマ化されたものの原作とのこと(私は、ドラマも、前作の映画『アマルフィ』も未視聴) ただ、調べてみると、ドラマとは一部、登場人物の名が重なるものの全く違うストーリーになっているようだ。
個人的には、前作、『アマルフィ』よりも本作のほうが好き。
前作の場合、映画のプロットを基にし、イタリアを舞台に、ということもあって映像栄えするであろうシーンだとかを多く盛り込んだ分、緻密さとか、そういうのにかけたような印象をどうしても否めなかった。
本作の場合、舞台が東京になって、ということもあるのだが、比較的、地味な展開が続く。
何かを隠している印象がある瑠衣の父・元信。直接、元信に問いただしたいところであるが、元厚労省のエリート官僚であった彼は、未だに太いパイプが存在している。そして、瑠衣とともに行動をしていたボリビア人から、瑠衣を誘拐した、という宣言がなされることで、警察と外務省という形での軋轢まで発生する。
これだけ見ると、誘拐とか、派手な部分もあるのだけど、実際のところは行政組織の壁の中でどううまく立ち回って真相へ向かうのか、という部分に焦点が置かれている。黒田自身、かなり無茶はしているのだけど、それでも、僅かな隙間をこじ開けるのみ。元信自身に直接聞けばすぐわかるのに……と、何とももどかしい想いをした。でも、それがこの作品の見所なのだと思う。
実際、そのもどかしい想いを強調させる道具立て、というのも上手い。
元信の長男は、奇妙な行動の末、南米で事故死をしているのに、それについては一切、口を閉ざしている。瑠衣と連絡を取っていた日本人ジャーナリストは死体で発見され、さらに、数年前にも日本人ジャーナリストが一人、行方を絶っている。最初から何かを隠しているのが明らかな元信の周辺に、次から次へと疑惑を積み重ねていくものだから、ますますもどかしくなっていった。この感想を書くに当たって、感想サイトとかを見ると、「話が進まない」とかあったけど、私は、この進まないっぷりが好きだ。
まぁ、真相については、黒幕の動機がちょっと壮大すぎて理解できない、というのが一つ。元信の隠していた秘密というのが、現実的に考えればありえなくとも、フィクションとしてはかなりありがちなものだった、というのが一つ。この二つで、ちょっと物足りなく感じた。
でも、地味だけど、結構、読み応えがあったな、と感じる。

No.2737

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