著者:玖村まゆみ
行き倒れ、寺に拾われたフリークライマーの水沢浹。その寺に厄介になり、工事現場で働くことになる浹だったがふとしたことで、業者ごとクビになってしまう。そんな浹の元を訪れたのは、工事の発注元の会長。彼は1億円で、皇居にある盆栽を盗むことを依頼する……
第57回江戸川乱歩賞受賞作。
これまでの乱歩賞では、2作同時受賞の場合、片方がストレートに事件が起きて、その謎を解く。もう一方が、変わった雰囲気、変わった趣向の作品というのが一般的だったのだが、この57回の場合も本作が「変わった趣向」作品で、『よろずのことに気をつけよ』がストレートな作品という形になっている。
本作の場合、謎解きというよりも、クライムノベル的なものになっているのだから。
「アイデアは馬鹿馬鹿しく、動機は不条理。」
というのは東野圭吾氏の評なのだけど、これは凄く良いと思う。
ところが、物語が動き出すまでに時間がかかる。主人公である浹、彼を拾った住職の岩代。岩代が養っている少年・斑鳩。斑鳩を探す男・瀬尾。浹の元の恋人・葉月。そして、浹の依頼人である肇と、肇の高尚口となる環の兄弟。それぞれの人間模様が絡み合っていく、と言えば聞こえが良いのだが、すごくバラバラと物語が出てくるのみでとっ散らかっている、という印象がどうしても感じてしまう。正直、どうでも良いんじゃないか? と思われるエピソードが結構あるため。
特にそれを感じたのは住職の岩代と瀬尾の話。
瀬尾は斑鳩の父親であり、斑鳩の母を虐待していた、という存在。岩代は、母親を守るために斑鳩を預かった、ということなのだけど、浹が依頼を受けるための動機としてはかなり弱く、最後に無理矢理に両者をくっつけたような感じがしてならない。しかも、瀬尾は、結局、こいつは何なの? という形で退場してしまうので余計にそれを感じる。
また、物語終盤は肇と環という兄弟の関係が一つのキーワードになるのだが、あまり書き込まれてないため環の思いというのがあまり伝わってこなかった。
そして、そういうことに分量を割いた結果、皇居侵入は駆け足展開になってしまっていたし……。
発想とか、そういうものは良いのだが、完成度とか、そういうものに関してはかなり未熟だな、という風に感じざるを得なかった。
No.2740

![]() | 完盗オンサイト (2011/08/09) 玖村 まゆみ 商品詳細を見る |
行き倒れ、寺に拾われたフリークライマーの水沢浹。その寺に厄介になり、工事現場で働くことになる浹だったがふとしたことで、業者ごとクビになってしまう。そんな浹の元を訪れたのは、工事の発注元の会長。彼は1億円で、皇居にある盆栽を盗むことを依頼する……
第57回江戸川乱歩賞受賞作。
これまでの乱歩賞では、2作同時受賞の場合、片方がストレートに事件が起きて、その謎を解く。もう一方が、変わった雰囲気、変わった趣向の作品というのが一般的だったのだが、この57回の場合も本作が「変わった趣向」作品で、『よろずのことに気をつけよ』がストレートな作品という形になっている。
本作の場合、謎解きというよりも、クライムノベル的なものになっているのだから。
「アイデアは馬鹿馬鹿しく、動機は不条理。」
というのは東野圭吾氏の評なのだけど、これは凄く良いと思う。
ところが、物語が動き出すまでに時間がかかる。主人公である浹、彼を拾った住職の岩代。岩代が養っている少年・斑鳩。斑鳩を探す男・瀬尾。浹の元の恋人・葉月。そして、浹の依頼人である肇と、肇の高尚口となる環の兄弟。それぞれの人間模様が絡み合っていく、と言えば聞こえが良いのだが、すごくバラバラと物語が出てくるのみでとっ散らかっている、という印象がどうしても感じてしまう。正直、どうでも良いんじゃないか? と思われるエピソードが結構あるため。
特にそれを感じたのは住職の岩代と瀬尾の話。
瀬尾は斑鳩の父親であり、斑鳩の母を虐待していた、という存在。岩代は、母親を守るために斑鳩を預かった、ということなのだけど、浹が依頼を受けるための動機としてはかなり弱く、最後に無理矢理に両者をくっつけたような感じがしてならない。しかも、瀬尾は、結局、こいつは何なの? という形で退場してしまうので余計にそれを感じる。
また、物語終盤は肇と環という兄弟の関係が一つのキーワードになるのだが、あまり書き込まれてないため環の思いというのがあまり伝わってこなかった。
そして、そういうことに分量を割いた結果、皇居侵入は駆け足展開になってしまっていたし……。
発想とか、そういうものは良いのだが、完成度とか、そういうものに関してはかなり未熟だな、という風に感じざるを得なかった。
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