著者:中山七里
埼玉県の河川敷で発見された遺体。警察は、すぐさま、その被害者がトラブルとなっていた工場へと辿り着く。その工場では、前社長が死亡し、その妻が夫殺しの容疑で係争中であった。さらに、その妻の裁判を担当することとなった弁護士・御子柴にはとんでもない過去があって……
読者モニターとして実は11月に読んでいた作品。商品版が手に入ったので改めて読み直しての感想。
上の紹介文を見ると、主人公は警察のように思えるが、警察と弁護士の御子柴、双方を中心に物語が動いていく。そして、物語は、河川敷で発見された死体に関する捜査と、御子柴が担当することとなった裁判が両輪のように存在している。
読んでいて何よりも興味を惹かれるのは「御子柴って何者なのか?」ということだと思う。
弁護士としての腕は超一流。彼が担当をした刑事事件では、検察の求刑よりも下回り、多くの無罪、執行猶予判決を導き出している。しかし、その一方で、暴力団などのような裏社会の組織との結びつきも強く、その依頼料も法外と言われるものを要求することで有名な存在。そして、彼は、少年時代、世間を騒がせた少年事件の加害者でもあった……。
実は、冒頭で書いた殺人事件の死体を処理したのが御子柴であることは1頁目から開かされるし、先に書いた黒い噂の耐えない存在でもある。そういう状況なので、警察ではないけど、心象は真っ黒。でも、本当に殺したのか? また、殺したとしたら何が理由で? というところにひきつけられた。
そして、その結果として考えたのが、「贖罪」とは何だろう? ということ。
以前に読んだ『悪党』(薬丸岳著)の中に、前科を持つ者が「どうしたら許されるんだ?」というシーンがある。つまり、マジメに働いて成功をすれば被害者から「あんな奴が」と思われる。相変わらず悪事をすれば当然のように「やっぱり」。どちらにしても被害者の怒りを買ってしまう。そういう中で御子柴は……。小説ではなくて、現実の刑務所の問題を扱った浜井浩一氏や山本譲司氏の書なども含めて考えたときに、仮に悪徳といわれようとまず、自らの力で生き、そして、そこにプラスアルファのある御子柴というのは一つの贖罪の形を示しているのではないか、というのを思わざるを得なかった。
それはそれとして、その御子柴が担当をする裁判のシーンもかなり面白い。過去の裁判を引き継いで、という形で既に出ていた証言などの矛盾をついていく御子柴。そんな御子柴の揺さぶりを最小限のダメージで食い止める検察官の額田の対決。まさしく頭脳戦という印象で素直にわくわくした。
と、ここまでは褒めたのだけど気になる箇所もいくつか。
裁判の中の事件の真相なのだけど……これ、無理がないか? 密室状態の集中治療室で、とあるんだけどカメラで監視がされていた、というのであれば、犯人はばっちり映っていると思う。また、あとで調べたら犯人の持ち物に情報が、みたいな部分についても、裁判に入る前に家宅捜索とかでそういうのって押収されないのだろうか? と思えてならない。裁判のシーンなどは面白いのだけど、作中の前日譚に当たる場面に色々と穴があるような気がしてどうにも引っかかった。
それでも、全体を通せば概ね満足な作品だった。
あ、音楽の演奏シーンもあるよ(笑)
No.2741

![]() | 贖罪の奏鳴曲 (2011/12/22) 中山 七里 商品詳細を見る |
埼玉県の河川敷で発見された遺体。警察は、すぐさま、その被害者がトラブルとなっていた工場へと辿り着く。その工場では、前社長が死亡し、その妻が夫殺しの容疑で係争中であった。さらに、その妻の裁判を担当することとなった弁護士・御子柴にはとんでもない過去があって……
読者モニターとして実は11月に読んでいた作品。商品版が手に入ったので改めて読み直しての感想。
上の紹介文を見ると、主人公は警察のように思えるが、警察と弁護士の御子柴、双方を中心に物語が動いていく。そして、物語は、河川敷で発見された死体に関する捜査と、御子柴が担当することとなった裁判が両輪のように存在している。
読んでいて何よりも興味を惹かれるのは「御子柴って何者なのか?」ということだと思う。
弁護士としての腕は超一流。彼が担当をした刑事事件では、検察の求刑よりも下回り、多くの無罪、執行猶予判決を導き出している。しかし、その一方で、暴力団などのような裏社会の組織との結びつきも強く、その依頼料も法外と言われるものを要求することで有名な存在。そして、彼は、少年時代、世間を騒がせた少年事件の加害者でもあった……。
実は、冒頭で書いた殺人事件の死体を処理したのが御子柴であることは1頁目から開かされるし、先に書いた黒い噂の耐えない存在でもある。そういう状況なので、警察ではないけど、心象は真っ黒。でも、本当に殺したのか? また、殺したとしたら何が理由で? というところにひきつけられた。
そして、その結果として考えたのが、「贖罪」とは何だろう? ということ。
以前に読んだ『悪党』(薬丸岳著)の中に、前科を持つ者が「どうしたら許されるんだ?」というシーンがある。つまり、マジメに働いて成功をすれば被害者から「あんな奴が」と思われる。相変わらず悪事をすれば当然のように「やっぱり」。どちらにしても被害者の怒りを買ってしまう。そういう中で御子柴は……。小説ではなくて、現実の刑務所の問題を扱った浜井浩一氏や山本譲司氏の書なども含めて考えたときに、仮に悪徳といわれようとまず、自らの力で生き、そして、そこにプラスアルファのある御子柴というのは一つの贖罪の形を示しているのではないか、というのを思わざるを得なかった。
それはそれとして、その御子柴が担当をする裁判のシーンもかなり面白い。過去の裁判を引き継いで、という形で既に出ていた証言などの矛盾をついていく御子柴。そんな御子柴の揺さぶりを最小限のダメージで食い止める検察官の額田の対決。まさしく頭脳戦という印象で素直にわくわくした。
と、ここまでは褒めたのだけど気になる箇所もいくつか。
裁判の中の事件の真相なのだけど……これ、無理がないか? 密室状態の集中治療室で、とあるんだけどカメラで監視がされていた、というのであれば、犯人はばっちり映っていると思う。また、あとで調べたら犯人の持ち物に情報が、みたいな部分についても、裁判に入る前に家宅捜索とかでそういうのって押収されないのだろうか? と思えてならない。裁判のシーンなどは面白いのだけど、作中の前日譚に当たる場面に色々と穴があるような気がしてどうにも引っかかった。
それでも、全体を通せば概ね満足な作品だった。
あ、音楽の演奏シーンもあるよ(笑)
No.2741

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- どんでん返しな展開で
- 小説「贖罪の奏鳴曲」を読みました。 著者は 中山 七里 これは、面白い ミステリとしても、最後まで二転三転と予想のつかない展開! 主人公の弁護士の秘密、ただの善人ではない・・・ キャラの魅力もあり 社会派なテーマ、裁判モノとしての良さもありつつ 読みやすく...
- 2014.07.15 (Tue) 20:43 | 笑う社会人の生活