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(書評)レイジ

著者:誉田哲也

レイジレイジ
(2011/07/13)
誉田 哲也

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幼い頃から、音楽を聴いて育ったワタル。才能は「普通」な彼は、中学に入りバンドを組む。そこで、才能溢れる礼二と出会いライブは成功するが、それきりになってしまって……
なんか、著者の得意なものを組み合わせてきたな、というのを読みながら感じた。
まず、物語の構成から言うと、物語はワタルと礼二、二人の視点で描かれる。飛びぬけた才能があるわけではないが、人当たりがよく、多くの仲間に恵まれるワタル。一方、天才肌で、ストイックな礼二。しかし、礼二はその妥協のなさゆえに、なかなか仲間に恵まれず、また、どうしてもバンドが上手くいかない。男女の違いがある、とは言え、二人の対照的な主人公が少しの接点の中で互いを意識しあう様を描く、というのは『ジウ』『武士道』シリーズの描き方と共通する。
という、描き方が一つ目。
もう一つが、音楽、バンドという題材を持ってきたこと。
聞くところによると、著者自身が学生時代からバンド活動などをしていた、ということでそのあたりの影響を強く感じる。実際、著者の年齢とワタルらの年齢は数年間のズレがあるものの、80年代、90年代くらいのミュージシャンや音楽番組などの名前も出てきて、著者の経験というのがかなり反映されているのではないかと感じた(ついでに言えば、ワタルらが通う中学~大学も、「白秀院」で、著者の出身校である学習院をモデルにしていると思われる)
そんなわけで、比較的、王道な物語の展開ではあるものの、物語そのものと同時に、著者のかつての思いとか、そういうものを頭に浮かべながら読んだ。
正直、私自身は、バンド活動とか、そういうものに興味がないのだが、それでもそれぞれのところに「うん、うん」と感じるところが多かった。例えば、「成功」と「質」が必ずしも一致しない、というところ。
技術もクオリティも超一流。しかも、ストイックに音楽に挑む礼二。聞けば、「凄い」と感じるだけのものがあっても、人間関係では常に躓いてしまい、しかも、客に緊張を強いてしまうために人気が出ない。私自身、才能とかはともかく、どちらかというと、人間関係とかは苦手な方なので、拘ったもののが上手くいかない、というような悩みが身近に感じられた。また、身近な存在が近い世界で成功しているのを見て「あいつとは、そもそも違うんだ」と強がってみるところとかも(笑) そんな感じで、どちらかというと、礼二サイドに感情移入をしながら読んだ。
先にも書いたように、物語の展開そのものは成功の芽が出て、挫折して、そして……というもので、それほど意外性はない。終盤の展開はちょっと上手くいきすぎとも感じる。
ただ、テンポの良さなどは流石だし、二人の主人公に(どちらかでも)感情移入したり、また、音楽などの時代性などをリアルに感じることが出来るなら十分に楽しむことが出来るんじゃないかと思う。

No.2749

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  •  「レイジ」誉田哲也
  • 音楽の才能は普通だが、世渡り上手なワタル、高みを目指すゆえ周囲と妥協できない礼二。 中学で出逢った二人は、文化祭でバンドを結成するが、その後、それぞれ違う道を歩み続ける。 女子の青春小説でも定評のある著者が、今度は、二人のロック少年の苦悩と成長を描く。 ほろ苦く切ない、青春ロック小説。 ワタル、礼二、友哉、キンちゃん。少年4人がバンドを組んだ1度きりのステージ。 そこから始まる...
  • 2015.05.15 (Fri) 14:04 | 粋な提案