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(書評)花物語

著者:西尾維新

花物語 (講談社BOX)花物語 (講談社BOX)
(2011/03/30)
西尾 維新

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暦らが卒業し、自らが最上級生となった神原駿河。直江津高校に、一人、残る形になった彼女の耳に、最近、「悪魔様」なるものの噂が入る。なんでも、それは「何でも願いをかなえてくれる」とのこと。悪魔に願った過去のある駿河は、一人、その噂を確かめにいき……
「物語」シリーズ第9作。
今回は、冒頭にも書いたように、神原駿河の物語。そして、『猫物語・白』に続いて、2度目の、暦以外の視点からつづられる物語。
なんていうか、『猫物語』のときにも感じたことではあるのだが……。暦視点の物語の場合、暦が変態方向で大活躍してしまうことが多く、結果、そっちの印象ばかりが強く残る、ということが何度かあった。その点から言うと、暦視点でない本作って、凄くストレートに「青春」しているなあ、という思いを抱かせる。
本作の場合、物語は「悪魔様」の噂を追い、たどり着いたのは、中学時代、駿河のライバルと目された沼池蝋花。彼女は、中学時代、最後の大会で故障をし、そのままバスケットをやめ、今なお、松葉杖を使って歩くという状況。そして、「悪魔様」というのは、話を聞くだけ。他人の、それもちょっとした悩みを聞くことで、自らを慰め、同時に「承った」という言葉で時間を稼ぐことで相手も幸せにする、という他愛のないもの。本当にそれだけに過ぎないものだった。ところが、その沼池とであったことで、駿河の「悪魔の手」が消えたことで、もうひとつの沼池のしていることを知って……となっていく。
こういうと、何だけど、これまでのエピソードと比べても緊迫感とか、そういうものはない。「悪魔」をコレクションし、自らの肉体に宿らせていっている、という沼池が、それをそろえたら? という危機感は最終的に来るのだけど、それだって昨日今日でどうこう、という話にはならない。沼池が他人を傷つけているわけでもない。そういう意味では淡々としている。
そんな物語でも、先へ先へ、と読ませる原動力になっているのは、共感といったところなのかな、と思う。
駿河と沼池。ある意味で、おかれた状況というのは似ている。バスケットの有力選手だった、という過去。それを諦め、悪魔に取り付かれている、という現状も。駿河にすれば、そして、読者として駿河の苦しみを知っているからこそ、同じ用になってほしくない、という感情があり、どうにかしたいと感じる。勿論、沼地が何かをしているわけでもないのはわかっている、という迷いを感じながら……その感情が本作のテーマであるように感じた。
そして、その迷いだとか、そういうところが募っていく終盤の良いところで暦が出てくるんだわ。本当に憎たらしいくらい良いタイミングで(笑) そのメッセージがやはり良い。
「やりたいからやる」
相手に共感する。そして、迷う。その中で、なぜ暦がやるのか、それは最終的に、この一言に集約される。
「お人よし」の原動力っていうのが強く感じられるのと同時に、今回のエピソードを通じて、駿河自身が(変態的な意味ではない部分で)暦に近づけたんじゃないだろうか? というのを感じた。

No.2775

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  •  西尾維新「花物語」を読んだ
  • “薬になれなきゃ毒になれ。でなきゃあんたはただの水だ”阿良々木暦の卒業後、高校三年生に進級した神原駿河。直江津高校にひとり残された彼女の耳に届いたのは、“願いを必ず叶えてくれる『悪魔様』”の噂だった…。“物語”は、少しずつ深みへと堕ちていく―。(「BOOK」データベースより) 花物語 (講談社BOX)(2011/03/30)西尾 維新商品詳細を見る アニメ化直前ということで、読ん...
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