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(書評)チヨ子

著者:宮部みゆき

チヨ子 (光文社文庫)チヨ子 (光文社文庫)
(2011/07/12)
宮部 みゆき

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5年前に使われたきり、倉庫に入ったままだったうさぎの着ぐるみ。売り出しの宣伝のため、それを着ることになったわたしだが、それを着た途端、周囲の人々はロボットやら、ぬいぐるみやらに見えてしまって……
という表題作など、全5編を収録した短編集。
著者の作品は、基本的に「現代モノ」ばかりを読んでいる私(別に、時代モノが嫌い、とか、そういうことはないのだが何となく手にとっていないだけなのだが) その中で、著者の作品というのは『模倣犯』以降、ものすごいボリュームの作品ばかりになっていたので、本当に久々に著者の「短い」作品を読んだように思う。
本書に収録されている作品は、それぞれ何らかの形で「怪異」とか、「超常現象」を扱っている。それがただの錯覚なのか、それとも……みたいな違いがあるとはいえ。
冒頭にも導入部を書いた表題作の『チヨ子』。収録作の中でももっとも短い一作だが、なかなか暖かい気持ちにさせてくれる。
冒頭に書いたように、着ぐるみを着たら、人々が人形やら、ぬいぐるみやらになってしまった。そのぬいぐるみなどはいったい何なのか? そして、ただ一人、ぬいぐるみなどにならず、人間そのままに見えた少年……
人間が人間を愛するように、人間はモノなどにも愛着を持つ。いや、むしろ、そういうモノに愛着を持つことが、やがては人間に対しても……へ……。読み終わって、自分にとって、それって何だっけ? とか、そういうことを思った。
直木賞受賞後第1作だというのが、『いしまくら』。
近くの公園で殺害された女子高生。その女子高生が、幽霊として公園に出るらしい。しかも、その噂とともに、彼女についての様々な悪い噂まで……。その状況を打ち消すために、噂について調べる娘・麻子の手伝いをすることになった石崎なったのだが……
悪いことをしたから殺された、という一種の因果応報的な考えは、確かにある。実際、殺人事件とかを見ると、そういうケースは少なくない。しかし、そうでないにも関わらず……というのは、人々が安心したいから。自分とは違うのだ、と納得したいから。主人公である父・石崎が言うように、娘である麻子の調べは穴もあるのだけど、しばしば「面白い」と感じる。石崎に対して「うん、うん」と思いながら読んでいた。そして、その結果……
収録された話の中で、もっともひねりが効いていて「なるほど」と思わされた1作。
『聖痕』とか、読み終わって「?」という部分があった話しもあるが、分量も手ごろでバラエティに富んでおり、手に取りやすい一作じゃないかと思う。

No.2776

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