(書評)水の柩

著者:道尾秀介

水の柩水の柩
(2011/10/27)
道尾 秀介

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田舎の老舗旅館の長男・逸夫。普通で退屈な日々を嘆く彼は、クラスメイトの敦子から、ある提案を受ける、小学校の卒業記念のタイムカプセルを掘り返し、そこに入れた天子を交換したい。敦子の秘めた思い、逸夫の祖母が隠してきた秘密。その中で逸夫は……
「嘘も何十年もつき続けると、それが本当になってしまう」
こんなことを逸夫の祖母・いくが言っていたけど、凄くそれが感じられる。勿論、それは本当のこと、というよりも、ただ自分をごまかしているだけ、ではあるのだけど……。
個人的に、この作品の主人公は逸夫ではなくて、敦子といく、という二人の女性のように思う。あくまでも、逸夫はそんな二人を見つめる語り部という印象で。
学校で、激しいイジメにあっている敦子。その中から自殺を考える彼女だが、小学校のときに残した残したのでは、イジメをした者たちに「殺された」ということになってしまう。自分が死を選ぶのは、そんなことのためではない、とするために交換を思いつく。
考えることは凄く未熟ではあるのだけど、そんなことをしていなければ自分を支えられないという状況。さらに、自分は死ぬのだ、と言い聞かせてする危うい行動の裏には、もうひとつの本心が隠されている。助けてほしい、という……。
その一方で、自分は村で一番のお嬢様だった、といういくの隠していたもの。こちらは、敦子以上に自己肯定を続け成功してしまった例。周囲の人々も、その言説を疑わないし、自分でもそれとして振舞っている。けれども、それはあくまでも薄氷の上の存在であり自己矛盾も抱えてしまう。ラストシーンで、彼女がああなってしまった(一応、ネタバレしないためにぼかしておきます)というのは、敦子といくが同じようなことをし、その矛盾が突き進んでいった結果なのだろうか……なんていうことを考えた。
そして、それを読んだ後で、ここまで「主人公じゃなくて語り部」と書いた逸夫を見ると、そこにも一種の自己詐称があったのかな、というのを感じる。それは、「普通」「退屈」という思い込みをしていた、ということ。実際には、クラスメイトである敦子に対する激しいイジメがあり、敦子と近くにいながらもそれに気づけなかった。いつも近くにいた祖母は重大な秘密を抱えていた。それにも気づかなかった。「普通」という思いで周囲が見えていなかったから、ということになるのだろう。
作品のモチーフとなっている蓑虫。蓑虫の本体は、蓑の中に暮らす醜い幼虫に過ぎない。けれども人々はそうではなく、その外見である蓑の方を見て、これが蓑虫だと判断をする。それと同じく、人間は、自らの思い込み、感情という蓑をまとい、それによって世の中を判断する。そして、蓑に閉じこもるように、自分の感情に閉じこもる。
そんなことがずっと頭に浮かんだ。

No.2813

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  • 2013.08.28 (Wed) 18:24 | 笑う社会人の生活
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