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(書評)聴き屋の芸術学部祭

著者:市井豊

聴き屋の芸術学部祭 (ミステリ・フロンティア)聴き屋の芸術学部祭 (ミステリ・フロンティア)
(2012/01/27)
市井 豊

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生まれついての「聴き屋」体質の柏木君。芸術学部祭の最中にスプリンクラーが作動し、そこで黒こげ遺体が発見される。その両者のつながりは? そして、謎は? という表題作など、全4作を収録した連作短編集。
あとがきの中で、趣向が違う異なるもので、バラエティ豊かといえば聞こえが良いが、困惑した方もいるかも、とある。実際、多少、そういう風に感じたところがある。表題作と、4編目の『泥棒たちの挽歌』は殺人が起こり、『からくりツィスカの余命』は未完成の脚本の謎を解くもので、『濡れ衣トワイライト』はまさしく模型を壊した犯人を捜す「日常の謎」ミステリ。と、本当に、バラバラの内容になっている。
で、作品のカラーで考えると、私は殺人を取り扱っていないものが好み。というのは、どちらかと言うと、大学生の日常的な様子を描いているだけに、あまり突飛なところにいくよりは……と思うのである。不幸体質の先輩とか、そういうキャラがいるのもより、そんな印象を強くさせる。
ということで、殺人の描写がない2作が好きなのだけど、まず、『からくりツィスカの余命』が印象的。日常的な日々の描写の中に、学生劇団がすることになった演劇の脚本が挟まれる。その結果、両者のコントラストの違いが鮮明で印象的だった。ただ、作中で綴られたトリックって結構、無理があるんじゃないかとは思うが。
一方で、『濡れ衣トワイライト』は、模型を壊した犯人捜しで、内容も思いっきり日常的。ちゃんと論理的に謎が解明されるし、安心して読める内容。
と、全体的にバラバラな内容のカラーだった、というところを強調し、その中で、どれが気に入ったのか、というを書いてきたのだけど、個人的には、もうちょっと主人公・柏木くんの「聴き屋体質」を強調しても良かったんじゃないかと思う。人が何かを話したくなり、それを聴く。そういう体質なので、もっと話を聴かされる、というのがあっても良いと思う。しかも、推理マニアの川瀬くんとかがいるのに、柏木くんが、そのまま事件の謎を解くように巻き込まれる、というのが多くて、「聴き屋」と「探偵」の違いが良くわからない、と感じてしまった。柏木くんの体質が面白いだけに、より「聴き屋」の存在が良く出れば、もっと面白かったと思う。
とは言え、論理性とか、そういうのはしっかりとしており、次走も期待したい、と思わせる作品集であった。

No.2856


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