著者:貫井徳郎
ヒット作を連発しながら、8年前、突如、絶筆を宣言してしまった女流作家・咲良怜花。新米編集者の渡部敏明は、そんな彼女にもう一度、作品を書いてもらおうと、その自宅を尋ねる。そんな敏明に対し、怜花は、自らの人生を、小説を書き、絶筆するに至った過程を語り始める……
なんか、こう言うと陳腐に聞こえてしまうのだけど、「壮絶」という言葉がしっくりと来る。
物語は、怜花こと和子(こちらが本名)が、転職活動をするところから始まる。面接を受けた際に現れた青年社長の木ノ内。面接の際、一発で彼に気に入られ、採用となる。幼い頃から、容姿にコンプレックスを持っていた和子だが、木ノ内はそれすらも受け入れてくれた。そして、和子は木ノ内と付き合うようになるのだが……。
まず、最初に感じたのが、主人公のはずの和子ではなく、木ノ内という人間の魅力。不誠実な男だけど、離れることが出来ない女性、っていうシチュエーションそのものはよく見かけるものであるけど、結構、読んでいて「なんで、こんな奴にほれるの? 顔か? どうせ顔か?」とか、無茶苦茶な感想を抱いたりするのだが、本作ではそういうのを殆ど感じなかった。はっきり言ってやっていることだけを見れば「不誠実な男」そのもの。けれども、コンプレックスの塊であった和子を理解し、その長所をほめてくれる。そんな彼の姿に、和子はどうしようもなく惹かれてしまう。
プロローグで語られるように、和子と木ノ内は結ばれることはない。ただ、だからこそ、で加速していく様が痛々しく、すさまじい。コンプレックスであった容姿を整形により変えてしまう。小説を読み、それをほめてくれる木ノ内のために小説を書く。容姿を変え、過去を消してしまったが故、それを進めるしかなくなっていく。そして、その結果として待っているのは……
この和子の行動と言うのも、第三者的に見れば不道徳とでも言えるものなのだけど、こちらも、木ノ内の行動と同じように不愉快な感情を覚えることがなかった。むしろ、どんどん追い詰められ、そういう行動に行ってしまう、と言うのが自然に受け入れることが出来た。本当に、そんな人間描写を徹底的に行った作品であり、それに成功しているんじゃないかと思う。
と、同時に、和子の口を通じて語られる小説を書いている際の苦悩とか、はたまた、文学賞の話とか、そういうのは著者の経験とかも大きいのかな、なんてことも思う。作中で、経験が大事、みたいなことを言っている編集者が多いみたいな話があったけど、こういうところは、作家だから、というのも大きいだろうななんていうのを思う。取材とか、そういうので得られるものでもないだろうし。和子・木ノ内の物語とは少し外れたところだけど、個人的にはそこにも面白みを感じた。
物語の、和子の愛の終わりは、アッサリと。すべてが情念であったからこそ、の終着駅は、アッサリとしているからこそ鮮やかに映った。
No.2858

![]() | 新月譚 (2012/04) 貫井 徳郎 商品詳細を見る |
ヒット作を連発しながら、8年前、突如、絶筆を宣言してしまった女流作家・咲良怜花。新米編集者の渡部敏明は、そんな彼女にもう一度、作品を書いてもらおうと、その自宅を尋ねる。そんな敏明に対し、怜花は、自らの人生を、小説を書き、絶筆するに至った過程を語り始める……
なんか、こう言うと陳腐に聞こえてしまうのだけど、「壮絶」という言葉がしっくりと来る。
物語は、怜花こと和子(こちらが本名)が、転職活動をするところから始まる。面接を受けた際に現れた青年社長の木ノ内。面接の際、一発で彼に気に入られ、採用となる。幼い頃から、容姿にコンプレックスを持っていた和子だが、木ノ内はそれすらも受け入れてくれた。そして、和子は木ノ内と付き合うようになるのだが……。
まず、最初に感じたのが、主人公のはずの和子ではなく、木ノ内という人間の魅力。不誠実な男だけど、離れることが出来ない女性、っていうシチュエーションそのものはよく見かけるものであるけど、結構、読んでいて「なんで、こんな奴にほれるの? 顔か? どうせ顔か?」とか、無茶苦茶な感想を抱いたりするのだが、本作ではそういうのを殆ど感じなかった。はっきり言ってやっていることだけを見れば「不誠実な男」そのもの。けれども、コンプレックスの塊であった和子を理解し、その長所をほめてくれる。そんな彼の姿に、和子はどうしようもなく惹かれてしまう。
プロローグで語られるように、和子と木ノ内は結ばれることはない。ただ、だからこそ、で加速していく様が痛々しく、すさまじい。コンプレックスであった容姿を整形により変えてしまう。小説を読み、それをほめてくれる木ノ内のために小説を書く。容姿を変え、過去を消してしまったが故、それを進めるしかなくなっていく。そして、その結果として待っているのは……
この和子の行動と言うのも、第三者的に見れば不道徳とでも言えるものなのだけど、こちらも、木ノ内の行動と同じように不愉快な感情を覚えることがなかった。むしろ、どんどん追い詰められ、そういう行動に行ってしまう、と言うのが自然に受け入れることが出来た。本当に、そんな人間描写を徹底的に行った作品であり、それに成功しているんじゃないかと思う。
と、同時に、和子の口を通じて語られる小説を書いている際の苦悩とか、はたまた、文学賞の話とか、そういうのは著者の経験とかも大きいのかな、なんてことも思う。作中で、経験が大事、みたいなことを言っている編集者が多いみたいな話があったけど、こういうところは、作家だから、というのも大きいだろうななんていうのを思う。取材とか、そういうので得られるものでもないだろうし。和子・木ノ内の物語とは少し外れたところだけど、個人的にはそこにも面白みを感じた。
物語の、和子の愛の終わりは、アッサリと。すべてが情念であったからこそ、の終着駅は、アッサリとしているからこそ鮮やかに映った。
No.2858

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