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(書評)世代論のワナ

著者:山本直人

世代論のワナ (新朝新書)世代論のワナ (新朝新書)
(2012/01/17)
山本 直人

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「○○世代は××だ」 世の中には様々な世代論が溢れている。しかし、そこには様々なワナが入っている。それにより、職場などでは世代間「冷戦」が起こされ、互いの不信が募り、溝は深まってしまう。そんな世代論のワナについて綴った書。
言っていることについて、基本的には賛成。ただし、具体的なデータとか、そういうものは殆ど提示されず、著者の個人的な経験などを中心に語られる形になっている。だから、全くダメ、ということはないが、もうちょっとデータなどが示されていれば、より良かったかもしれない。
と言いつつ、読みながら面白いと感じたところは多い。特に前半の内容。
『太陽族』から始まっての戦後の若者を語る言葉。世代を表す言葉の変遷や、その中で起こった経済状況、社会状況の中で、世代論の扱いについても変遷が起こっている、というのが感じられる。また、世代論というのは、実は、上の世代が、社会にはいてくる若者を見る若者論なのである、という指摘にも納得した。しかも、その扱いと言うのは、全く同じ世代を扱いながら、報じる側の意思によって持ち上げられも、叩き落されもする、というのは全くその通りだと思う。
さらに、情報化が進展、労働などの流動化が進む中で、人々がその情報に振り回され、「自分たちは○○世代だから~」と自らをラベリングしてしまう、というような問題が起きているというのもわかる気がする。その結果、上の世代、下の世代、双方がラベリングによって引き起こされる偏見と言うフィルターを通してしまい、正面から向き合えなくなる、というのも十分に説得力を持っている。そういう意味で読んでいて納得できる部分が沢山あった。ただし、先に書いたように、著者の個人的体験が主なので、もう少し、客観的な資料などを用いていただけると、より良かったな、と思うのだが。
それともうひとつ、本書の中で危うさを感じたのは、終盤に著者が若者について「○○系」と述べているところ。著者は分類を試みているわけではない、とは言うものの、「○○系はこういう傾向がある」と続けられるとラベリングに近いものとなってしまっている。前半の方で、著者は「フリーター」とか、「ニート」とかと言った言葉が、メディアなどを通すことによって本来の意味を離れ、ラベリングの道具になってしまったことを述べているだけに、著者のやっていることも同じ危険性をはらんでいるように思えてならないのだ。そこに危うさを感じた。
とは言え、主張そのものはその通りだと思う。ただ、ここまで指摘した部分により、紹介文などで記されている「不毛な世代間の対立をいま解消するための強力な解毒剤」とまでは行かないような気がする……とも感じた。

No.2866


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