著者:東川篤哉
街のテニスコートで、地元で有名な不動産会社社長が変死した。コートは鍵がかかっており、周囲には4メートルの金網が……。完全なる密室とはいえないが不可解なその状況を、新聞記事を読んだ十川という男は推理して……
という表題作など、5編を収録した短編集。といいつつ、表題作以外は、幹夫&敏という大学生コンビが登場するシリーズとなっている。そして、解説を読むまで知らなかったのだが、著者がデビューする前に雑誌「本格推理」に掲載されたものだという。そう言われてみると、また別の感慨が浮かんでくる作品集といえる。
まず、表題作なのだが、著者の作品に出てくるギャグは控えめで、何か「真面目」な印象を受ける、ということ。喫茶店で、語り部たる片桐と、探偵役である十川が新聞記事を元に推理をする、という形で進められる。冒頭にも書いたけれども、完全な密室とはいいがたい。しかし、そもそも、内側から鍵をかけ、わざわざ金網を上って逃げるということをする意味がわからない。その不合理を、しっかりと解消させる解決案を示して終わる。先にも書いたように、ギャグそのものが少ないこともあり、非常に真面目な本格モノという印象を抱かせる作品だと思う。
そして、2編目『南の島の殺人』。ここから、だんだんと著者の、ギャグが前に出てくるように感じる。
こちらも……というか、全編が安楽椅子モノになっている。ただ、その中で、被害者は全裸の男性という状況。そして、真相への最大のヒントがかなりの脱力モノ。しっかりと着地をしているのだが、それ以上に、「らしさ」が表に出てきたことを感じる。さらに、『竹と死体と』などと編を続けるにしたがって、大学生コンビのやりとりが、その後の著者の作品を彷彿とさせるものへと発展していく。
まぁ、『十年の密室・十分の消失』とか、その後味とか、そういうのは良いにしろ、そのトリックをどうやって実行したんだ? と思うようなものもある。理屈の上ではともかく、そのそれを実際にやることが、無茶苦茶難しいし、大変だろう、という感じがしてしまうから。ただ、先にも書いたし、解説でも書かれているように、著者の作品としては珍しい、ウェットな作品という意味で新鮮だった。
そして、何よりも、著者の原点とか、そういうものを強く感じることが出来た作品集だったな、という風に思う。
No.2872
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