著者:永嶋恵美
廃工場、廃線、廃校、廃園……。人生に行き詰った人々が、そんな廃墟へと赴き、出会い、再生する、という様を描いた短編集。
一応、それぞれ、廃墟と再生というテーマで綴られているので、「連作短編」で良いのかな? と思う(タイトルのパターンも「廃○○の××」「廃○○××」と必ず「廃~」という言葉で関連付けられているし。
凄く優しい話だな、というのが第一。
著者の作品というと、個人的には『災厄』とか、『転落』とか、どちらかというと心理的に追い詰められていって……という嫌な方向へ、嫌な方向へ、という話が多いのだが、本作についてはそれぞれが再生していく、というテーマになっており優しい感じ。普段、立ち入らない場所。どちらかというと、危険な場所というようなネガティヴな評価を受ける場所だからこそ、大胆になって、ということなのだろうか……。
個人的に好きなエピソードとしては、家出をした少年が、かつて通っていた廃校となった小学校で、警備をしていた青年と出会う『廃校ラビリンス』。
転校を繰り返した中で身につけた処世術。それによって上手くやってきた……はずだった。けれども、周囲に裏切られ、いつの間にやらイジメの主犯に仕立て上げられる。教師もハナから自分が犯人だと決め付ける。居場所が無い。そういう思いから逃げ出して……
主人公である拓人って、ある意味、少年らしく視野が狭い。自分は出来るんだ、という自意識過剰なところもあるし、そういいつつ、居場所が無いといいながら、学校の中の常識に縛られる。それが凄く幼いのだけど、でも、その気持ちが良くわかる。そのあたりの心理描写が凄く良い。そして、そんな拓人を発見したヤマダがとても魅力的。
はっきり言って、喋り方とか、拓人じゃないけど「何なの?」というような状態。でも、飾らずに、物凄く率直に耳を傾け、思ったことをはっきりと言ってくれる。それも、とても優しさに満ちている。それが凄く心地よい。こういう人に出会えたら、拓人じゃないけど、全てを語って聞いて欲しい、と思うのはわかる気がすると思う。このエピソードは何がある、というわけではないのだけど、なんか、凄く心地よかった。
他にも、えさを与えていた野良猫が行方不明になり、その直後に大事な人が消えてしまった、というトラウマに囚われている美野里のエピソードである『廃線跡と眠る猫』なども、「偶然」と頭では理解していながらも……というのがわかるだけに、感情移入が出来た。
多少、上手くいきすぎじゃないか? と思うところはあるけど、でも、それで良い。疲れているときとかに読むとほっとできる。そんな作品集じゃないかと思う。
No.2978
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