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(書評)ドラフィル! 竜ヶ坂商店街オーケストラの英雄

著者:美奈川護

ドラフィル!―竜ヶ坂商店街オーケストラの英雄 (メディアワークス文庫)ドラフィル!―竜ヶ坂商店街オーケストラの英雄 (メディアワークス文庫)
(2012/03/24)
美奈川 護

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音大を出たは良いものの、就職は出来ずにいるヴァイオリニスト・響介。叔父の紹介により、アマオケである竜ヶ坂商店街オーケストラのコンマスと、公民館の臨時職員の座を手に入れる。そんなオーケストラを支配するのは、車椅子で男勝りの若き女性・七緒。彼女は、オケの面々が抱える問題を響介に押し付けて……
音楽、それもクラシックを題材にした作品と言って、最初に頭に浮かんだのは中山七里氏の岬先生シリーズ。ドビュッシーとか、ラフマニノフとかって、作曲家の名前は聞いたことがあるのだけど、実際の曲が頭に浮かばなかった。そんなことがあったので、本作も大丈夫かなぁ……という思いを抱きながら読んだ。
結論、そこまで問題はなかった。連作短編方式になっている中で、知らない曲もあったのだけど、ムソルグスキーの『プロムナード』とか、そのあたりはさすがに知っていたので。
で、物語は序盤は、メンバーで商店街の人々の抱えた問題を解決するトラブルシューター的な話で展開し、その中でだんだんとヒロインである七緒自身の問題へと繋がっていく、という構成。1編目の祖父と孫の関係とかは、しょーがいない爺さんだな、みたいな感じで笑いながら読めたし、和菓子店の4代目である母と小学生の息子の話は何とも当初はともかく、読み終われば微笑ましい気持ちになる。そんなエピソードの中で、ちゃんとピースを散りばめていく、というのは上手い。
主人公である響介自身もそこに当てはまるのだけど、音大に行く、というだけで、幼い頃からこれでもかというくらいに投資をされ、音楽漬けの日々を送らねばならない。そして、音大に入れば安泰かと言えば、そんなことはなく、そこからプロになれるのは、僅かなもの。しかも、音楽以外に何もしてこなかったため、つぶしも利かない。その厳しい現実の中で、親は夢を子に託す。その中のすれ違いや絶望、それでも、「音楽を」という七緒らの心情というのが、十分に伝わる。決して、重々しいとか、そういう雰囲気ではないのに、そこをしっかりと描くのが何よりも凄いと思った。
それと同時に感じたのが、叔父が紹介をしたとか、響介の使っているヴァイオリンの出自とか、そういう小道具の使い方の上手さ。ミステリとかで、登場人物らが、実は全員、重要な関係者だった、みたいな話に、「人間関係が人工的過ぎて違和感を感じた」という感想を書くことがあるのだが、本作の場合は、小道具の使い方により、人工的であることをマイナスではなくプラスに転化させているのだ。人工的であることそのものに意味を持たせるという発想に、先に書いた部分と同じように参った、という気分にさせられた。
本作だけで物語が完結、でも十分だと思う。
ただ、既に続編が出ており、本作で語られなかったところというと、響介自身の親子関係などがある。続編では、その辺りが出るのかな? などと期待というか、予想というかをして、この感想を締めたい。

No.3009

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